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八十話 仲間を守るためなら

「っつ!」


 軍隊サソリのハサミをダガーで受けると、体が少し浮いた。

 早さは十分に対応できるけど、一撃が想像以上に重かった。

 尻尾の攻撃はダガーじゃ受けられないから、しっかりと避けるために上下に意識を割かなければいけないことが、正直しんどい。


 一方、エリック様はターゲットが分散した分、少し余裕が出てきている。

 隙を見て攻撃を仕掛けているけど、頑強なハサミや尻尾は傷つけることができない。


 この状況、想像していたのと違って、結構詰んでるかも。

 いずれ私が攻撃に耐えられなくなって、瓦解する可能性が出てきた。


 こっちの攻撃で、せめて足だけでも切断できれば状況は好転するけど、二人ともそこまでの余裕も技量もない。

 それほど、尻尾の攻撃が脅威だった。

 なにせ、尻尾の攻撃を一度でも食らえばホーリーシールドの効果は失われてしまい、そのまま怪我をしてしまいそうだから。


 部隊のみんなが来るまで、あとどれくらいの時間がかかるんだろう。

 村にいた僧兵さんが合流してくれれば随分と楽になるはずだけど、それまで私が持つかどうか……。


「くはっ!」


 考え事する余裕なんてなかった!

 尻尾を避けた所に、ハサミの振り回しが私のお腹に直撃する。

 ホーリーシールドを掛けてもらっていたおかげで衝撃は吸収されたけど、ダメージがないわけじゃない。

 当たり所が悪かったのか、肺から空気を強制的に絞りだされ、一瞬フラつき、膝をついてうずくまる。


 そんな隙を、軍隊サソリは見逃してくれない。

 尻尾の攻撃は避けたばかりで、連続して攻撃されないのがほんの少しだけ幸運だったけど、さっき振り回したのとは逆のハサミが私を襲う。


「フローレンシアちゃん!!」


 そのハサミを主に防いでいたエリック様が異常に気付き、私と軍隊サソリの間に盾を割り込ませる。


「くっ、っそう!!」


 構えを取れず、盾ごと腕を流されてしまうエリック様だけど、足腰はなんとかその場に踏みとどまらせる。


「フローレンシアちゃんにはこれから先、かすり傷一つだってつけさせない!!」


 そう言って、うずくまる私をその背中に隠す。

 エリック様……。


 ダンジョンアタックの前までは、訓練でも自分から正面に立つような戦い方をしていなかった。

 それが、ダンジョンアタックからは見違えるような戦い方をされている。

 部隊のリーダーとしてとても頼りになる方になった。

 部隊のメンバーを守ろうと、これほど必死に戦って下さっている。


 でも、実力がそれほど伸びたわけじゃないのは、みんな知っていることだ。

 このままじゃ、全滅してしまう……。


「くっ! うぉぉおお!」


 エリック様が尻尾の攻撃を避け、ハサミを盾で受け流し、剣で斬りつける。

 しかし、その攻撃はハサミで防がれ、傷つけることができない。

 そこにカウンターで攻撃を食らってしまう。


 このまま全滅するくらいなら、いっそ……。


 覚悟を決めよう。

 エド先輩に怒られちゃうかなぁ。


 でも、仕方ないよね。

 村のたくさんの人を守れた。

 二人を、仲間を守れるんだ。


 ジョルジオ様は、褒めて下さるかな。



「……。エリック様、次の攻撃を防いで頂いたら、わたくしが前へ出ます」


「つぅ……! フローレンシアちゃん、策が、あるのかい?」


 攻撃を食らった痛みに顔を顰めるエリック様。


「先ほどの必殺技ではありませんが、切札を使います」


「倒せる、のかい?」


「おそらく」


「わかった。タイミングは任せるよ」


 そういえば今の合同部隊でエアーズガーデンを見せたことあるのは、クレアとジョルジオ様くらいだ。

 エアーズガーデンの概要は説明したことはあるけれど、威力や規模は正確には把握されていないだろう。


 エリック様が盾でハサミの攻撃を流したのを確認して、私は前に出る。


「クレア、後のことは頼むわね」


「お姉様!?」

「フローレンシアちゃん!?」


 なけなしの魔力、全部あんたにくれてやる!!

 右手を軍隊サソリの眼前にかざし、魔力を解き放つ。


「くらえぇぇえええ!! これが私の全力だぁぁああああああ!!」


 ――エアーズガーデン!!


 少ない魔力を絞りだすように声を上げる!!

 二人が助かるなら、私が気を失って、どうなってもいい。

 たくさんの人を、仲間を守れるんだ。


 最後の最後まで攻撃の手を緩めないよう、軍隊サソリが倒れるまで風の檻を維持して風の刃を叩きつける。

 軍隊サソリの強固なハサミや尻尾そのものはやはり、破壊することはできない。


 けれど、それを繋ぐ関節は別だ。

 ハサミの、尻尾の付け根に確実に傷をつけ、やがてハサミ一本と尻尾を切断する。

 足の関節にも風の刃は次々と襲い掛かり、その関節を切断していく。

 もはや満身創痍。

 けれども、軍隊サソリは倒れない。

 ここからは先は我慢比べ。

 そう思って、必死で歯を食いしばって耐えるが。


 軍隊サソリの動きが完全止まる前に、私の視界は暗くなった。






「お姉様、気がつきましたか?」


 ぼんやりとした視界とだるい体。

 頭にあるのは柔らかい何か。


 あぁ、このシチュエーションは前にもあったなぁ。

 男子垂涎の美少女膝枕って奴じゃぁないか。


「んんん……。クレア、どうなったの?」


「もう全部終わりました。安心して休んで下さい」


 そう言って、クレアは私の頭を優しく撫でた。

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