七十八話 焦っていると意外に気がつかない
アクセルを十数回使って、ようやくテルト村に辿り着いたんだけど、直前で使ったアクセルの勢いがあまりまくっていた。
気を付けよう 人は急には止まれない。
なんて標語みたいな言葉が頭に浮かんでいた時、クレアの声が耳に入った。
その言葉と指さす先を把握して、私はその止まれない勢いそのままに一気にジャンプした。
確かに勢いのままジャンプした。
ジャンプしたけれども!
これはないんじゃないかなぁぁあああ!?
私は勢い余りすぎて、クルクルと回転してしまったのだ!
あまりの回転に目が回る!!
でもあの人を、助けないと!
詠唱魔法はこの錐揉み回転の中で正しく発動できる気がしない。
バレットも狙いを定められるわけがなし!
なので、どこでもウィンドカッターをいつでも発動できるようにして、サソリが目に入った瞬間に発動してやる!
――どこでもウィンドカッター!
いよっし!
なんとか発動に成功し、サソリは真っ二つだ!
安心した次の瞬間には地面が迫っていた。
やばぁぁああ!?
どどどどどうすれば!?
でんぐり返し! でんぐり返しで受け身だっ!
咄嗟に風魔で勢いを殺して、でんぐり返し!
「ぎょぇぇえええ!?!?」
でんぐり返し受け身は成功したものの、転がるのが止まらないぃぃぃいい!!
「きゅぅぅうう」
何回転したかわからないほど転がり、ようやく止まった私は擦り傷をたくさん作り、何より目を回して立ち上がることもできなかった。
「お姉様!? 今、行きます!」
「ちょ、クレアちゃん!?」
クレアとエリック様の声が聞こえた気がする。
けど、そんなことどうでもいいくらい気持ち悪い……。
「今、ヒールを使います。もう少し我慢して下さいね」
私はクレアに抱きかかえられ、ヒールを発動してもらう。
あぁ、癒されるぅぅう。
傷は癒え、まだ目は回っているけど、大分楽になった。
「はぁはぁ……。ありがと、クレア。じょ、状況は……?」
「エリック先輩の所に軍隊サソリと軍隊ベビーが三体います。今のサソリみたいに先に何体か軍隊ベビーが降りていたので、他にもいると思うんですけど確認できてません」
クレアの報告を聞いて、さてどうするかと思った矢先。
「助かっただ! 村に逃げ遅れた子供がいて、サソリが村にまで入ってきただ! 教会の人が戦ってくれてるんだども、数が多いからおらが助けさ呼びに来ただ。すまねが、村を守ってくれねが!」
教会の人? あ、エド先輩が僧兵さんに村を守るように指示していた?
「わかりましたわ。わたくしにお任せ下さい。
クレア、村の中は私に任せて、エリック様と軍隊サソリの方を頼むわね」
「私も、お姉様と一緒に!」
「村の人たちを守るのはとても大事な事だわ。でも、仲間の命も大事なの。あなたには大事な仲間を、エリック様を任せる。だからこっちは任せて。それとも私じゃ心配かしら?」
「そんな言い方、ずるいです。……わかりました。村の人のことをお願いします!」
そう言ってクレアはエリック様の所へ戻っていく。
遠目からだけど、光の壁がちょうど破られる所だったみたいだ。
クレアが軍隊サソリを光の壁で閉じ込め、三体のサソリと戦闘が始まろうとしていた。
あっちは二人に任せて、私も急いで村の中に行かないと。
とはいえ正直に言うと、魔力は既に三分の一を切っている。
何より身体がもうクッタクタである。
テルテ荒野からテルト村に来るまでにアクセルを何度も使ってきた。
両足に効果を三回付与し、斜めに高くジャンプすることで飛距離を伸ばすという荒業で。
これを六回ワンセット繰り返し、次のアクセル発動までを自力で走るというのを繰り返していたのだけど、とてもとても大変だったのだ。
というのも、トップスピードになると顔にものっそい風圧がかかって、自然と変顔になるのだ。
さらにさらに六回分進んだ慣性によって、着地した後に足がもつれてコケそうにもなった。
いや本当に何回死ぬかと思ったことか……。
所々で風魔を使ってなんとか凌いで走り、テルト村まで辿り着いたものの、魔力と体力を相当使ってしまったというわけだ。
ここまでで一つラッキーだったことは、ミーアラッシュと軍隊サソリ討伐で、私があまり魔法を使わずに済んで、魔力を温存できていたことかな。
アクセルを何度も使用したからか、アクセルの発動時間は随分と短くなってきたし、魔力消費量も慣れて少なくなってきた。
そんなアクセルを効果を弱めにして右足に一回分を付与し、ジャンプで村を囲む柵を越える。
意識を集中すると、すぐに戦闘音が耳に入ってきた。
駆け足で救援に向かうと、棍でサソリを食い止めて戦っている人がいた。
その人はすでに一体のサソリを倒していて、二体のサソリを足止めしている。
さすが一人っきりで教会から村を守る役目を任されているだけあって、戦闘慣れしている男性だ。
「アデザール学院の生徒です! 加勢しますわ!」
「助かる! エルドレウス司祭達は!?」
「まだテルテ荒野から向かっている所です。わたくしだけ特殊な魔法で一足先に来ました」
「くっ! なら、あっちの出入り口の方へ行ってくれ! 少し前に二体、ここを通してしまったんだ!」
「子供がいると聞きましたが!?」
「拙僧がこいつらを足止めしている間に逃がしたのだが、それをサソリが追いかけていってしまったのだ……」
「わかりましたわ。そちらはわたくしにお任せ下さい!」
大きな村ではないけど、サソリの姿は見えない。
既に町の外に出て、子供を追いかけているのかもしれない。
私はアクセルを発動させ、急ぎ村の外へと向かう。
村の出入り口を抜けると、すぐに子供とそれを守るようにしている母親を見つける。
それに加え、今まさに二人に襲い掛かろうとしているサソリも。
サソリの注意を引かなきゃ! そう思った時には無意識のうちに手を銃の形にしていた。
そして、バレットを左右のサソリに三発ずつ連射する。
全長が五〇センチくらいまで成長しているだけあって、的はそれほど小さくない。
溝や堀りを掘ったおかげか、水に濡れて動きが緩慢なのも幸運だった。
私が放ったバレットは全て命中し、その内の一発は足に当たり、その足を砕くことに成功していた。
怒り狂った二体のサソリがこちらに向き直る。
よし、ひとまず注意を引けた。
私はダガーを抜き、構えると母親に向かって叫ぶ。
「今の内に早く逃げて!!」
「あ、ありがとうございます!」
母親が子供を抱えて逃げ出すのに合わせ、私はダガーを持った反対側の手でバレットを二体に二発ずつ撃ち、注意を引き続ける。
さて、二体か。
一番発動が早く、今も牽制をしているバレットでは一撃で倒すのは難しい。
だって、威力はともかくサソリの急所が全然わからん! 一撃は無理だ!
さっきは威力強めのどこでもウィンドカッターで真っ二つにできたから、詠唱魔法でも無詠唱魔法でも一撃で倒せそうだ。
でも、二体の攻撃を捌きながら詠唱はきついから、魔力消費はちょっと多いけど無詠唱魔法で止めを刺そう。
どう攻めるか決めた所で、サソリ達が私に向かって襲い掛かってくる。
このサイズのサソリなら尻尾の麻痺毒は即効性は低いけど、数発食らったらおしまいかな。
今はクレアのサポートもないから、二体の攻撃を自力で凌ぎきらないといけない。
ま、一撃も食らうつもりなんてないんですし、二体一で戦うつもりなんてないんですけど!
こちらに走ってくる一体を見据え、風魔で強烈な風を頭部の下から持ち上げるようにぶち当て、強引にひっくり返す!
さぁさ、フェアに一対一で戦いましょうね!
一体になったサソリとは正面から戦わなければならない。
ハサミはダガーではじき、尻尾の攻撃は振り上げるタイミングを見極めて躱す。
無詠唱魔法の準備ができた所で、どこでもウィンドカッターを発動して左右真っ二つに切断する。
もう一体のひっくり返ったサソリもようやく起き上がり、私へ向かってくるけどさっきと同じ流れで倒す。
ミッションコンプリート!!
親子も無事逃げれたみたいで、他の人たちを合流できたのを確認できた。
さあ、僧兵さんの所へ戻ろう。
「戻りましたわ。子供も無事でしたわ」
「拙僧もちょうど終わった所だ。助力、感謝致す。追加で悪いのだが、他のサソリが家や物陰に潜んでいないか一緒に確認してもらえぬか?」
「えぇ。もちろんお手伝い致しますわ」
クレアの所に戻りたい気持ちもあるけど、守るすべをもたない村人達の安全が優先だろう。
手分けをして探そうとしたところで、村の外から救援要請が打ちあがる。
「申し訳ありません。仲間からです。わたくしはあちらに向かわせてもらいます」
「仕方あるまい。拙僧も村の安全を確認したら助力しよう」
何が、あった?
クレアとエリック先輩の二人でも、救援要請を出す程危険な状況とは思えなかった。
ほとんどの軍隊ベビーは倒しているはずだし……。
って、ちょっと待って!!
テルテ荒野で逃げ出した軍隊サソリは軍隊ベビーを囮にして逃げていた!!
すぐに追いかけた二人は知らなくても、私達は軍隊ベビーの討伐に時間を取られていたのだから、軍隊ベビーは討伐しきったはずでは!?
ということは、ここにいた軍隊サソリは別個体!?
何体も見逃してたとは思わないし、思いたくない。
だとすると、テルテ荒野で逃げていた無傷の軍隊サソリがテルト村を襲いに来たのかも……。
急いでクレアの所に戻らなくちゃ!!




