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七十七話 お姉様 飛ぶ:クレア視点

 私の位置からでも軍隊サソリが視認できる距離まで迫ってきた。

 距離は二キロ以上は離れていると思うけど、軍隊サソリの走る速さとスタミナを考えると、確実に一〇分も立たたない内にこの場所まで来るはずだ。


 村長さんは油を撒いた後、一足先に逃げてもらったけど、狩人さんには火矢を放つための準備をしてもらう。

 私とエリック先輩は火を付けた後のことを話し合う。


「僕たち二人だけじゃ討伐することはできない。クレアちゃんの魔法で時間を稼ぐことを第一に考えよう。

 基本的には軍隊サソリを光の壁だっけ? あの魔法で閉じ込めて、軍隊ベビーは僕が倒す。

 軍隊ベビーがクレアちゃんの方に行ってしまったら、どうにか光の壁で閉じ込めてくれ」


「わかりました。状況によっては試したい魔法があるので時間稼ぎをお願いしたいです」


「いいけど、どんな魔法?」


「光で魔物を焼く魔法です。実践で使うのは初めてですけど」


 ダンジョンアタック後、私はエド先輩にお願いして、休日を使って度々教会に足を運んでいた。

 教会が管理している光属性の魔法について調べるためだ。

 その中の一つに、中位魔法に属する攻撃魔法があったのだ。




 軍隊サソリが溝の近くまで迫ってくる。

 溝に辿り着く前に、ホーリーシールドを詠唱しておく。


 軍隊サソリはエリック先輩を認識していたようで、真っすぐ進んでくる。

 あと数十秒でU字の溝まで入ってくるだろう。

 軍隊ベビーは軍隊サソリの背中から降りてきていない。


「火矢、用意!」


 エリック先輩が手を頭上へと振り上げる。


 小さいからはっきりとはわからなかったけど、溝の内側に入った所で数体の軍隊ベビーが地面に降りた。

 そして、配置していた肉を貪って成長していく。

 それ以外はまだ軍隊サソリに乗ったまま、U字の溝に入り……。


「放て!!」


 エリック先輩は掛け声に合わせて手を振り下ろし、狩人さん二人が火矢を放つ。

 火矢は狙い通りにU字の溝に撒いた油へと直撃して、軍隊サソリを火の壁が取り囲む。

 私は火が付くのを確認して入口を光の壁で塞いだ。



 火の勢いが収まるまでは動きがないだろうとエリック先輩と話していたけど、予想は裏切られた。

 火がが付いてから二分くらいたったところで、軍隊サソリが火の壁を突破してきたのだ。


「僕が前に出る! 隙を見てこいつを閉じ込めて!」


 不意を突かれたけど、光の盾は何度も使ってきた無詠唱魔法だから通常より大きい光の壁も準備にそれほど時間はかからない。


「いつでもいけます!」


「三、二、一、今だ!」


 エリック先輩が後ろに大きく飛ぶのに合わせて、光の壁を発動する。


 ふぅ……。

 これで少しは時間が稼げそう。

 その間に火をつけた溝の様子と、軍隊サソリや背中の軍隊ベビーがどうなっているか確認しないと!


 軍隊サソリは体中の至る所が焼かれ、プスプスと煙が出て、動きが鈍っているみたいだ。

 まだ燃えている溝の中を全て確認することはできないけど、動いているサソリの姿はなく、焦げた死骸が転がっているだけ。

 軍隊サソリの背中にはほとんど軍隊ベビーは残っていなかった。

 けど、何体かは他のサソリの死骸に隠れて無事なのもいたようだ。

 そして、それらは周囲の死骸を食べて大きくなっていく。


「これは、結構ヤバイかもね……」


 エリック先輩の呟き通り、予想よりも状況は悪い。

 背中で生き残った軍隊ベビーがどんどん大きくなり、光の壁を攻撃し始めたのだ。

 その数は八体。

 しかも、その八体は全長が五〇センチ近くまで成長をしていて、光の壁が破られるのも時間の問題に思えた。


「中位の攻撃魔法を使います。魔力消費はかなり大きいですけど、やる価値はあると思います」


「了解。壁が破られたらなんとしてでも僕が時間を稼ぐ」


「お願いします」


 詠唱を開始すると、グングンと魔力が消費されていくのがわかる。

 詠唱している間も軍隊サソリが光の壁を攻撃をしていて、ギリギリ破られた直後に詠唱が間に合う。


「ナイン テイル レイ!!」


 魔法を発動すると、九本の光の尾が私の後ろに現れる。

 それはおとぎ話の九尾の狐のように、ゆらゆらと揺れる。


「行って!」


 一本の光の尾が、指先で示した位置に向かって放たれる。

 軍隊ベビーに向かって放たれたそれは一直線に伸び、ジュウッと音を立てて一体を貫き絶命させる。


「ヒュー! やるね、クレアちゃん!」


「後八回攻撃できます! エリック先輩、指示を!」


「軍隊サソリを牽制して動きを止めた後、尻尾を狙って! 尻尾の麻痺毒さえなくなれば脅威度は格段に下がる!

 その後は軍隊ベビーの数を減らすんだ!」


「了解、です!」


 続けざまに軍隊サソリに向かって二本の光を放つ。

 一本は正面の頭部に向かって放ち動きを止め、もう一本は尻尾の付け根に向かって放つ。

 が、尻尾に命中したものの、一撃で切断することはできなかった。


「ふっ、ふぅぅう」


 発動と射出が別工程になっているからか、一本放つ毎に魔力が消費されていく。

 もう一度狙おうとした所で、軍隊ベビーが私達に向かって襲い掛かってくる。


「こいつらは僕が押さえる!」


 エリック先輩が私の前に立ち、軍隊ベビーをけん制する。

 私の方には通さないようにしてくれているけど、七体いる軍隊ベビーを防ぐので精一杯だ。


 魔力と集中力を消費しながら、軍隊サソリの尻尾を切断するため、次の機会を狙う。


 エリック先輩と軍隊ベビーの小競り合いが続き、エリック先輩は何度か攻撃を受けていた。

 ホーリーシールドを掛けてあるとはいえ、あの数の攻撃を受ければすぐに効果は切れてしまう。

 急いで、軍隊サソリの尻尾を斬らないと。


 火傷と二度の攻撃を食らって怯んでいた軍隊サソリが痛みから立ち直り、こちらに向かって尻尾とハサミを持ち上げて威嚇してくる。

 でも、これって逆にチャンス!


「いっけぇ!」


 光の尾を尻尾に向けて放ち、尻尾の切断に成功した!

 尻尾を斬られてその場で暴れまわっている軍隊サソリは無視し、軍隊ベビーに狙いを定める。


「エリック先輩、左側、射線を通して下さい!」

「了解!」


 エリック先輩は一番左にいた軍隊ベビーを、盾を使って弾き飛ばす。

 けれど、その隙をついて軍隊ベビー達が一斉にエリック先輩を攻撃し、ホーリーシールドの効果がついに切れる。

 さらに、尻尾による攻撃がエリック先輩に突き刺さる。


「エリック先輩!」

「僕のことはいい! 左の奴を!」


 軍隊ベビーの麻痺毒は弱い。

 キュアという魔法で治療すれば大丈夫、自分にそう言い聞かせて左の軍隊ベビーに向けて光の尾を放ち、絶命させる。

 残る軍隊ベビーは六体。


「確実に左側から仕留めて行こう!」

「わかりました!」


 状況は厳しく、確実に軍隊ベビーを減らしていかないといずれエリック先輩が麻痺毒で動けなり、私達二人がやられてしまうのは間違いない。

 再度エリック先輩が軍隊ベビーを弾き飛ばし、私が光の尾で確実に仕留める。

 残り、五体。

 光の尾は三本。


「軍隊サソリが動きだすよ! 光の壁で閉じ込めて!」


「ナインテイルレイと無詠唱魔法の同時発動はできないんです!」


 ナインテイルレイは、詠唱後も光の尾を維持、射出するために魔力を使い続けているのだ。

 だから、今の私の実力じゃ魔力を自分で練る必要がある無詠唱魔法と同時に使おうとすると、お互いが干渉してしまって失敗してしまう。


「くっ! ならもう一度軍隊サソリを攻撃して動きを止めよう!

 できるだけ早く軍隊ベビーを倒さないと!」


 再度光の尾を軍隊サソリの頭部に放ち、動きを止める。

 その間に射線が通った軍隊ベビーをまた一体仕留める。


 軍隊ベビーとエリックの先輩の攻防は続き、もう一体の軍隊ベビーを仕留め、光の尾がなくなったタイミングでエリック先輩が限界を訴える。


「クレアちゃん、そろそろヤバイかも……」


 エリック先輩に麻痺毒が回り始めたのだ。

 軍隊ベビーは五体を倒し、残りは三体。

 軍隊サソリもまた動きだそうとしていた。


「光の壁で全部閉じ込めます!」




「これでしばらくは持ちそうだね……」


 数が減ったサソリ達がガンガンと壁を叩いているのを見て、エリック先輩がつぶやく。

 私はその間にエリック先輩にヒールとキュアを使い、傷と麻痺毒を癒す。


 軍隊サソリの尻尾を切断できていたのがせめてもの救いだった。

 もし尻尾がまだ健在だったなら、今よりずっと早い段階で壁は壊されてしまうだろうから。


「光の壁は回復とサポートを考えると、あと二回が限界です」


 かなりの魔力を消費してしまった。

 足に段々力が入らなくなってくる。


「ん……。なら、今の壁が破られたら軍隊サソリだけ閉じ込めて、なんとか軍隊ベビーを一体ずつ倒す他ないね。

 三体まで減ったから、僕でもサポートがあればなんとか倒せるはずさ。

 軍隊サソリだけになれば光の壁も長時間持つと思うから、部隊のみんなが来るまでにもう一回使えば耐えれるはずだ」


 この戦闘に終わりが見えた、そう思った矢先に悲鳴が上がる。


「う、うわぁぁああああ!! た、助けてくれぇえええ!!」


 逃げていたはずの狩人さんだった。

 溝の入り口で肉を求めて降りていたサソリがそちらに向かっていたのだ!


 サソリは溝と堀に張られた水の中を進んだのか、水によって本来の速さは失っている。

 けど、狩人さんは恐怖のためか動けていなかった。


 この村を守るって、誰も傷つけさせないって決めてたのにっ!

 ここからじゃ、間に合わない!!




「あぁぁぁあああああ!? とーまーらーなーいー!!」


 大好きな声が、聞こえた。

 お姉様が、ものすごいスピードで走って、というより地面を飛んでいるようだった!!


「お姉様!! あっちです!!」


 私は思わず、狩人さんがいる方角を指さす。


「ちょちょちょ!? わ、わかったー!!」


 次の瞬間、お姉様は飛んでいた。

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