七十三話 普段は陽の光を浴びるために立ち上がるそうです
「軍隊サソリは脅威にはならなんな。全く手応えがない」
尻尾もハサミも十分脅威だと思うのです、ジョルジオ様。
「そうだね。たった一撃で尻尾がぶった切れるなんて根性が足りないね」
根性の問題ではありません、リズ先輩。
親の尻尾とハサミは素材としてお小遣い程度で売れるそうなんだけど、サイズが大きいしまだまだ討伐対象は残っているので泣く泣く諦めて私達は進むことになった。
索敵を続けていると、今度はミーアラッシュと軍隊サソリが争っている所に出くわす。
ミーアラッシュは四体いて、軍隊サソリを二体で囲み、残りの二体は親の背中から逃げる軍隊ベビーを捕まえては食べていた。
「エリック、エドどうする?」
「ちっ、数が多いな……。軍隊サソリがミーアラッシュにやられるまで待つか?」
「その方がいいかもね。念のため、軍隊サソリが逃げないように進路を予想して二手に分かれて待機しよう」
「わかった。部隊単位でいいな? オレ達は右手に移動する。反対側はまかせたぜ」
「了解だ。よし、みんな行こう」
私達の部隊とエド先輩の部隊で左右に展開して、岩陰に隠れて待機する。
クレアには連れてきている馬を後方の安全な場所に繋いでから合流してもらう。
ミーアラッシュは確実に軍隊サソリを追い詰めていて、このまま軍隊サソリが倒れるかと思った所で、なんと軍隊サソリはその体をブルブルと動かし、全ての軍隊ベビーを振るい落として逃げ出したのだ!
振るい落とされた軍隊ベビー達も逃げ出し始めるが、四体のミーアラッシュはすぐ食べれるからか、仕留めやすいからか軍隊ベビーを優先して襲いだす。
そして、軍隊サソリは私達の方へ逃げてきた。
「俺が軍隊サソリを止める!」
そういうと身を潜めていたジョルジオ様が勢い良く飛び出し軍隊サソリの前へと躍り出て、先制攻撃とばかりに大楯で軍隊サソリを弾き飛ばす。
このまま軍隊サソリだけでも先に倒しておきたかったのだが……。
ジョルジオ様に気づいたミーアラッシュが軍隊ベビーを捕食することをやめてこちらに向かってきたのだ!
食欲より、人間を襲う本能の方が強いらしい。
こちらの様子を察知したエド先輩やリズ先輩が動き出すのが見えた。
ミーアラッシュ四体と軍隊サソリ、一遍に相手取るのは大変だけど、挟み撃ちできればどうにかなるか、そう考えていると。
ミーアラッシュがこちらに向かってくることに気づいた軍隊サソリは、なんと逃げ出したのだ!
魔物は本能的に必ず人間を襲うとされている。
にも拘わらず、生存本能が人間を襲うという本能を上回ったのだ。
誰も逃げ出すとは考えていなかったので、全員の反応が遅れてしまう。
そこに、馬を繋いで合流しようとしてクレアが反対側からやってきた。
「クレア! 光の壁で軍隊サソリの動きを封じて!」
「え? え? 光の、壁!? あ、わかりました! お姉様!」
私の素晴らしいネーミングに一瞬戸惑ってしまったようだね、ふふふ。
って、そんな場合じゃない!
私は風魔を使って軍隊サソリの動きを阻害し、クレアのアシストをする。
クレアの光の壁が発動し、軍隊サソリを封じ込めることに成功した。
「クレアちゃん、フローレンシアちゃん、ナイスだ! ジョルジオ様、姉貴! 先にミーアラッシュを!」
「おう!」
「きゅーるりん!」
ジョルジオ様がミーアラッシュ二体を請け負い、エリーゼ様、エリック様がそれぞれ一体の正面に立つ。
っていうか、ミーアラッシュでかっ!!
尻尾長っ!
そんでもって早っ!!
四つ足で尻尾が上に向いてる時も、攻撃態勢である足と尻尾を使って立った状態も、私やクレアよりほんの少し低いくらいの高さになってる!!
四つ足の時の移動速度がめっちゃ早い!
そんなミーアラッシュと対峙する前衛のみんなの状況は。
エリック様はかなり慎重に戦っている。
多分、時間稼ぎに徹して他の人が来るのを待つ作戦だと思う。
ミーアラッシュが四つの足を地面につけている時だけ剣で斬り付けて、立ち上がるそぶりを見せるとすぐに下がって詠唱魔法を発動していた。
エリーゼ様は積極的に攻撃をされている。
徒手空拳で戦うだけあって、動きが機敏で判断も早い。
ミーアラッシュが立ち上がった状態でも完全に下がることはしてないけど、確実に攻撃を避けてヒットアンドアウェイで立ち回り、四つ足の時に一気に攻勢を仕掛けている。
ただ、四つ足の時は相手の態勢が低いためか、うまく致命傷を与えられていないみたいだ。
とはいえ、時間があればいずれ倒して下さるだろう。
ジョルジオ様は一対二の状況のためか防戦に徹している。
後衛はジョルジオ様に加勢するのがいいか。
ミーアラッシュは餌について調べた時に知った情報として、水を浴びたり、周囲の冷気などによる温度変化に弱いことが分かっている。
なので、ルビー様の水魔法主体で一体倒せればジョルジオ様は随分と楽になるはずだ。
「ルビー様。ジョルジオ様に加勢致しましょう。四つ足の時に隙ができたらわたくしが無詠唱魔法を叩きつけて動きを止めますので、止めをお願いします」
「ん~やってみるよぉ」
私は風魔を叩きつけるイメージを練る。
ルビー様は詠唱魔法だけれど、クイックキャストがあるのでタイミングはある程度合わせてくれると信じている。
ジョルジオ様はさすがに二体一では攻撃する隙が無いのか、チャンスはなかなか訪れなかったが。
「右側を私が次の攻撃を防いでみせます!」
「まかせた!」
合流したクレアは右側にいるミーアラッシュが足と尻尾で立ち上がろうとした所に上から光の盾を発動させ、強引に押さえつける。
それを見た私はチャンスと判断する。
「ルビー様! 右側をさらに私が地面に叩きつけます!」
コクリとルビー様が頷いたのを確認し、光の盾が破られる瞬間を見極める。
ジタバトと暴れるミーアラッシュの動き合わせて光の盾が壊れるのを確認し、私は無詠唱魔法を発動する。
――風魔!!
身体を押さえつけていた光の盾が壊れたと思った矢先に強風によって地面に叩きつけられるミーアラッシュ。
先ほどと違って、強烈な圧力に身動きがとれない所にルビー様の中位魔法が発動する。
「フリーズコフィン!!」
ミーアラッシュの周囲が強烈な冷気に覆われ、やがてミーアラッシュを中心とした氷の棺が出来上がる。
なるほど! 以前訓練で見せたアクアストリームではジョルジオ様を巻き込んでしまう可能性があるから、弱点であり対象の周囲だけを凍らせるフリーズコフィンにしたのか!
でも、かなり魔力を消費してしまう魔法だったような?
「もう魔力少ないよぉ~」
やはり消費した魔力量が多かったらしく、元々魔力量が多くないルビー様はその場にペタンと座りこんでしまう。
そこに仲間がやられて激怒したミーアラッシュがジョルジオ様からターゲットをルビー様に変えて一直線に襲い掛かる。
ルビー様は接近戦は全くできない。
魔法の発動補助のための杖しかお持ちでなはないはずだ。
迫りくるミーアラッシュに恐怖に顔を歪ませるルビー様。
私は咄嗟に風魔を放つが、四つ足で走るミーアラッシュは姿勢が低いため風を受ける面積が小さく、風魔も勢いを完全に殺すほどの威力は出せていなかった。
それを見た私はダガーを抜きながらルビー様の所に駆け寄るも、絶望的に速度差があった。
「ルビー様ぁああ!!」
ミーアラッシュが素早くルビー様の元に辿り着き、立ち上がる。
一連の動きがスローモーションに見える。
立ち上がった状態で手が引かれ、しなやかにパンチが放たれる。
ルビー様に当たってしまう直前で、それは半透明な何かに阻まれる。
「長くは持ちません! 早く!」
「うっ、あっ……」
間一髪でクレアが光の盾を発動したけれど、ミーアラッシュの連打によってすでに破壊されそうだった。
でも、ルビー様は腰が抜けてしまったのか動けない。
光の盾がやがてその効果を失う。
そして、次の攻撃がルビー様に向かって放たれ。
「ルビィィイイイイイイ!!」
その攻撃とルビー様の間に大きな影が入り込んだ。
それがジョルジオ様だと気づくのに、私は少しだけ、時間がかかった。




