七十一話 魔法の実験でいつも痛い目を見ている気がする
「おぉ~クレアちゃん。さっき来たばかりなのに、どうしたんだい?
おや、そちらの方は?」
クレアを先頭に村長の家へ入ると、四十代と思しきおじさんがデレデレとした顔で出迎えてくれた。
その顔は一○秒と持たなかったが。
私とジョルジオ様に気付いて、顔がこわばったのだ。
「こんばんは、村長さん。
こちらは王立騎士団のジョルジオ・キットールさんとフローレンシア・ベルガモットさんです。
私達は明日、ミーアラッシュという魔物の討伐に向かうんですけど、他の魔物がここを襲う可能性が出てきたんです。
なので、村長さんにご相談をしにきました」
「おぉ、ご家名があるということはき、貴族様ですか。失礼しました。
わしはこのテルト村の村長をしておるマットと申します」
自己紹介をしながらこわばった顔から、猜疑の顔へ。
え? お前が? みたいな。
太ってるからか!? 太っているから疑っているのか!?
これでも魔物討伐までにかなり痩せたんだぞ!?
っていうか、この村テルトっていうのか。
ゲームを通しても初めて知った。
「こちらの領地とは関係ありませんし、畏まらなくて良いですわ。
それより早速ですが、魔物についてのご相談をさせて頂きたいのです」
「魔物、ですか。わしが村長になってから一度もテルト村が直接襲われることはありませんで。
何かの間違いではありませんかな?」
うんまぁ、こう返されるのは想像通りかな。
「間違い、とは違いますわね。可能性が高い、と言う他ありません。
学院からも通達があったと思いますが、この村の南南西にあるテルテ荒野で魔物討伐を行うために来ています。その中で――」
村長にさっきみんなで話し合った内容をかいつまんで説明する。
許可が必要なことに対しては明確に返事をもらう必要がある。
それは、村の周りに溝を掘ること。
そのための道具を借りること。
大量の油を村から購入すること。
溝を掘ることと道具を借りることは私達が作業すると言うと、あっさり許可を貰えた。
ただ、ある程度の場所は村長が指定することになった。
そりゃ、村の出入り口やよく通る場所に勝手掘られるのは困るよね。
油の購入は一部なら売っても構わないと言ってくれたけど、全部は生活が困るからと断られた。
これも仕方ない。
油を購入したとしても直前まで使用しないで、何もなければ村に返した方がいいかな。
次に、できれば協力してほしいことだ。
溝を一緒に掘ってくれる人を探してほしいこと。
軍隊サソリの見張りをする人、溝に入れる油に火を放つ人を探してほしいこと。
溝を一緒に掘る人だけど、村長自身が手伝ってくれると申し出てくれた。
大まかな場所は指定するけど、細かい位置はこちらで決めるので、場所や深さ、奥行きを把握したいという意図があるのかも。
見張りと火を放つ人を探すことは断られた。
今は農作物の収穫期なのだそうだ。
なので、余計な人を回している余裕はないみたい。
ただ、ずっと見張りをするのは無理だけど、定期的に確認に行かせるくらいならなんとかしてくれるそうだ。
「ふ~む、しかしそこまでする必要があるのですかな?
先程も言いましたが、ここ十数年は魔物に襲われることはありませなんだ」
話はまとまったはずなのに、蒸し返される。
貴族と騎士が言うからしぶしぶ従っているけど、やっぱり余計なことはしたくないって思っているんだろうか。
すると、ギギィという音を伴って玄関の戸が開く。
「魔物に襲われてからじゃ遅せぇ。
人が死んでからじゃ遅せぇ。
村が滅んでからじゃ遅せぇ。
予防ってのは悪いことが起こっちまう確率を下げるか、起こっちまった時にそれを軽くするためのもんだ。
村が無事なんだったら、多少の労力が無駄になっちまったっていいだろ?」
「そ、そのローブの刺繍は、司祭、様?」
「あぁ。オレはエルドレウス。教国では司祭の役職を貰ってる」
教国のローブを身にまとったエド先輩が村長の家に入ってきた。
私はローブの刺繍なんて見たって地位まではわからないんだけど、領地の中心から離れた村なんかでは領主の兵士より教会の関係者の方が見慣れているからわかるものなのかな。
「わかりました。司祭様がそうおっしゃるのなら。わしの他に息子にも何かと手伝いをさせましょう」
教国に対する村人の信頼すげー!
エド先輩のおかげ(?)で話しは付いたので、スコップなどの道具を借りてみんなの所へ戻る。
既にみんなは村の外に出ているようで、私達も外へと向かう。
村は簡易な柵で囲われているのみで、正直心もとない。
魔物が襲ってこようものなら簡単に村への侵入を許してしまいそうだ。
村長とお話しした内容を共有して、いざ穴掘りである。
村長からは村の柵から一定距離を取れば問題がないことを確認して、どういう風に掘るか相談だ。
「油の量を考えると、複数個所にバラまくより、一か所でなるべく多くのサソリが入った時に使うのが効果的になるね」
「ふむ。そうすると、どうやってそこに追い込む形に溝を掘るかが問題だな」
「あたいが教会の資料を調べてきた結果なんだけど、軍隊サソリは乾燥地帯に強い分、水を嫌がるし、濡れたり周囲の温度が下がると動きが鈍る性質があるらしいことがわかったよ」
「それでしたら中央にU字型の溝を掘ってそこに油を入れ、油の代わりに水を張った溝を周囲に作って中央へ誘導するというのはどうでしょうか」
「U字に入った軍隊サソリを蒸し焼くのだな。いいのではないか? そうであれば騎士団のように隙間を開ける方法より、水を入れる溝で隙間なく中央に誘導できる形がいい」
「そうだね。さらに村への防衛を考えて、柵と平行に水を張れる長い溝を作りたい。最終防衛ラインになるから、溝より深い掘りにした方がいいかな」
「水はルビーが魔法を使いますけどぉ、全部は魔力が持たなそうですねぇ。それにただ穴を掘っただけじゃ、水が土に吸われちゃうと思いますぅ」
「石を敷き詰めるしかないな。俺が魔法で試してみよう」
そう、ジョルジオ様は私達と一緒に魔法の勉強と訓練をしていたのだ!
ふふふ、やっぱりジョルジオ様は頼りになるね!
「水は運ぶしかないねぇ。ま、力仕事はあたいとジョルジオが担当するよ」
「あぁ、そっちもまかせておけ」
「溝を掘る場所と担当はどうしますか?」
「あ、わたくし少し試したいことがありますわ。村に近い掘りを担当させて頂けますか?」
「わかった。けど、深さと長さが必要だけど、フローレンシアちゃん一人で大丈夫かい?」
「無理そうならまたご相談させて下さいませ。魔法で効率よく出来ないか試してみたいのです」
「了解。結果次第で担当は変えよう。溝の配置と担当を考えておくから、先にフローレンシアちゃんはその試したいことをやってきてくれるかい?」
「わかりました。早速試してみますね」
「あ、私も行きます、お姉様!」
私とクレアは先にみんなの元を離れ、村長と掘りを作る距離を確認する。
その最中、ラグ様が地面を蹴って不貞腐れながらボブ様と会話していたので、つい無詠唱魔法で盗み聞きをしてしまう。
音の振動を耳元で再現する無詠唱魔法だ。
――チッ! なんでこの俺がこんなことしなくちゃなんねぇんだ。
――まぁまぁラグ様。畑仕事みたいで楽しいですよ?
――俺は貴族だぞ? 楽しいわけあるか。ったく、あのデブが余計なこと言わなければ……。
確かにこんなこと普通貴族ならやらないよね、ごめんねラグ様。
でも、デブって言ったこと絶対忘れないからね!?
「お姉様、何をなされるんですか?」
「ふっふっふ~。まぁまずは見ててよ」
気を取り直して、作業開始である。
私は村を守る柵と平行になるように、地面に伏せる。
そして、詠唱魔法を発動する。
「ストームアロー!!」
そう、私が試そうと思ったことは、威力の高いストームアローを地中で発動させ、一気に土を吹き飛ばしてやろうというものだ!
ただ、発動位置を地面の下にするのがうまくいきそうもなかったので、なら自分が低い位置にいればいいのでは? という逆転の発想だ!
そして、ストームアローが発動し……。
「ぶぶぶぶぶ、ぶぶべばぁ!!」
土、土がっ!
土が跳ね上がって、顔にぃぃぃいい!!
「いだぁぁああああ」
途中で大変なことになっている私にクレアが光の盾を顔の前に発動してくれたおかげで大怪我はせずにすんだけど、土は結構な勢いで顔に跳ねてきたため、私は涙目になっていた。
「お姉様、大丈夫ですか!? 今、ヒールを発動しますから、少し我慢してて下さい!」
「ありが、どう。うぅ、ぐすんぐすん」
「お、お姉様! でもでも、ちゃんと掘れていますよ! ほら元気だして下さい!」
クレアの言葉通り、地面には一直線に穴が掘れていた。
長さはかなりの物で、一回の発動で二十メートルは掘れていそうだ。
対して、幅と深さはそれほどでもなく、両方とも五○センチ程度だ。
時間効率は素晴らしいの一言。
ただ、長さは後二回も発動すれば十分だけど、幅と深さはここからさらに掘り進める必要があるかもしれない。
とりあえずエリック様に結果を報告しよう。




