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七十話 この会議でしゃべってない人がいる

 クレアの美少女力によって、宿屋のご主人と村長さんに話を聞いた結果、この村には現れたことはないものの、この地方にある別の村近くで二十年程前に軍隊サソリが討伐されていたことがわかった。


 この村が軍隊サソリに襲われる未来が、現実味を帯びてきてしまった。


 魔物の生息地域が大きく変わることは滅多にない。

 逆に言えば、多少の移動であればそれなりに起こるので、この村付近に軍隊サソリが現れてもおかしくない。

 ミーアラッシュが活発に活動し、広範囲で目撃されている事実がその可能性を後押しする。


 天敵であるミーアラッシュがいなくなってしまったり、追い立てられたりしたらこの辺り一帯に現れることがある可能性がより高まるんじゃないだろうか。


 もちろん、この村が襲われるという根拠にはならないし、他の村が襲われる可能性も十分に高い。

 明日は先行して現地にいるはずの教師と合流し次第、軍隊サソリがいるかもしれないことを共有しておくべきだろう。


 実際どうなるかなんてわからないけど、念のために予防策は打っておきたい。

 そうすれば村の被害を少しでも抑えられるかもしれないし、襲われてしまった後も時間稼ぎさえできれば私達部隊が駆けつけることもできるかもしれない。

 他の村へは教師に向かって貰えば、全体的なリスクを最小限に抑えられるのではないだろうか。



 次の問題は、どんな対策をするべきかということと、村人達の説得だ。


 人間って、楽観的な生き物なのだ。

 いや、心理学的には心を守るため~とかもっとちゃんとした理由があったはずだけど、今まで大丈夫だったからそんなことは起こらない、ありえない、って考えちゃうものなんだよね。

 前世でたまに聞いたことがある、確か、正常性バイアスだったかな?

 いやまったく自信ないんだけど。

 漫画知識だし。


 まぁともかく、私が軍隊サソリに襲われるかもしれません! 逃げて下さい! と村中に伝えたとしても、きっと何も行動を起こしてはくれない。

 実際にこの村は魔物に襲われたことがないらしいし、私みたいな学生が危険を訴えても村人にしてみたら全然説得力がないのだ。


 いや、これでも魔物討伐に来ているし、ベルガモット領ではそれなりに実績もあるんだけどね。

 この村ではそんな実績などないから、学生が何か言っている程度で終わってしまう。



 ん~。

 やっぱりまずはみんなに相談しないと、かな。

 情報収集もクレアがいたら一発だったし。


 私はクレアにもお願いして、私達の部隊とエド先輩の部隊の全員を集めることにした。

 自由時間だったため、みんな思い思いの所にいて、少し時間が掛かってしまった。



「皆様のお知恵をお借しくださいませ。

 この村か近隣の村が軍隊サソリに襲われて、壊滅してしまうかもしれないのです」


 全員集まったのを確認して、私はすぐに切り出す。

 正直、対策する時間があまりないから。


「フローレンシアちゃんいきなりそんなこと言われても理解できないよ。順を追って説明してくれるかい?」


 エリック様の至極当然な質問だ。

 私自身、あえてインパクトを与えようとしてそんな言い方をしたので、これからなぜこの考えに行き着いたか、さっきまで考えていた内容を説明する。

 もちろん、乙女ゲームのことは言わないけど。




「う~ん、なるほど。可能性は否定できないって所だね」


「リズ、この辺りで軍隊サソリが出たって話は聞いたことあるか?」


「無いね。二十年近く前の話なんて知るわけないさ。でも、この辺りの気候を考えれば生息条件は合ってるね」


「そうか……。この村にも小さな教会はある。後で確認しておく」


「ありがとうございます。お願い致しますわ」


「それで何か策はあるのか? 騎士としては人々を守るのに否やはないが」


「申し訳ありません。わたくしにはいい案が思いつかず、皆様にお知恵をお借りしたいのです。

 ミーアラッシュの討伐もありますし、周辺の村へは教師に駆けつけてもらい、わたくし達が駆けつけるまでこの村で時間稼ぎができる方法が何かないかと、考えてはいるのですが」


「う~ん。サソリの天敵を近くに放っておくか、村の周囲に火を付けて近づけなくさせるか、くらいしか思いつかないかな。」


「サソリの天敵ってそれこそミーアラッシュとかきゅるりん?」


「そうそう。他にも肉食系の哺乳類とか鳥類とかも一部はサソリを食べるみたいだし。まぁそんな生き物を飼いならしていることはないだろうから、村の周囲に火を付けるしかないかな」


 クランベル姉弟が案を出して下さる。

 火、火か。

 確かに一番確実かもしれない。

 私達が居なくても、軍隊サソリを見かけたら火を付ければいいだけにすれば、村人たちだけでも時間稼ぎはできるかも。


「いいんじゃない? 実際、火は多くの魔物に有効だし。あたいも沢山いる魔物から村を守る時は火が有効ってのは教わったよ」


「それでは、問題はどうやって火を付けるか、でしょうか」



 少しの沈黙が走り、みんなが真剣に考えてくれる。



「まず、地面に火を付けないと意味がないね。焚火台を使ってしまったら軍隊サソリは地面を素通りできてしまう」


「穴を掘るというのはどうだ? 騎士団の訓練でも落とし穴はよく掘る。落ちた所に火を掛けるのだ」


「小さな魔物だと思うのでぇ、落とし穴より浅く広い溝にしたらどうでしょうかぁ。油を引いておけば、中程まで進んだサソリを一遍に燃やせると思うんですよぉ」


 ルビー様がふんわりとなかなかエグイことを言う。


「うん。良い案だと思う。そうなると、どの辺りに溝を掘るかが問題になるね。村の周囲一帯に溝を作る時間はさすがにないし」


「村人のみなさんに協力をお願いすることは難しいのでしょうか」


「ケツに火がつかねぇと動かねぇよ、民衆ってのはな。教国の名前を出してこっちがやる分には文句は言ってこねぇと思うが」


「話しは戻るけど、ミーアラッシュの討伐地域はこの村から南南西きゅるりん。ウチ達だけやるなら、南南西だけ掘ればいいんじゃないきゅるりん?」


「姉貴にしては的確な意見じゃん。って、いだだだだぁ!」


 エリック様の余計な一言に、エリーゼ様がエリック様の顔を掴む!

 あれ本当に痛そうなんだよなぁ、なんまんだぶ。


「ふむ。それなら南南西を中心に少し隙間を開けて南西と南の方角にも溝を掘ればいいだろう」


「なぜ隙間を少しあけるのでしょう?」


 ジョルジオ様の意見に私が疑問を挟む。


「騎士団でもよく行うことなのだが、あえて魔物の進路に逃げ道を作ることで、進路を限定するのだ。そうすればこちらも対応が取りやすくなるからな」


「なるほど~」


「もちろん村長に確認を取る必要はある。何より魔物を燃やし、寄せ付けないだけの油があるかどうかだが」


「私の村、というか小さな村にとって大量の油は貴重です。溝をどれくらい掘るかによりますけど、村から全て調達するのは難しいんじゃないかと思います」


「ん~クレアの言うことももっともね。これについても村長と交渉が必要ですわね」


「教会の備蓄はオレが確認してくる。リズは軍隊サソリについて書物を確認してくれ。確認が済み次第、村長の方に合流する」


 エド先輩はフードで顔を隠すためか、学院の外では教国のローブを着ていることが多い。

 ベルモで見た物より、刺繍が豪華になっているのは司祭になったからだろうか。

 ローブの刺繍で役職がわかるなら、いきなり来られると村長も教会の人もびっくりしちゃいそう。


「対策の方針は火を付けるでいいとして、軍隊サソリの見張りと実際に火をつける人が必要ですよね?」


「そうね。村から誰か見張りをできる人を探して貰うようにお願いしたいわね。それに溝を掘るための道具も必要かしら」


「よし、それじゃ早速行動開始するぞ。オレとリズは先に教会に行くが、村長の所へは誰が行く?」


「さっきクレアが村長さんとお話ししていましたので、クレアがいれば話がスムーズに進むと思いますわ」


「はい!」


「騎士が居れば説得力も増すだろう。俺も行く」


「僕も、と言いたい所だけど、男が多いと威圧的になっちゃうかもしれない。今回の件の発案者でもあるし、フローレンシアちゃんも行ってくれるかい?」


「え? わたくし、ですか? もちろん構いませんが……」


「お姉様が居れば安心ですね!」

「ふむ。フロストなら異論はない」

「オレも教会で確認したら行くが、その前にまとめておけ」


 え!? 何!? なんか信頼が重たい!!

 私、そんなポジションじゃなくない!?


「残りの奴は溝を掘る前に方角や掘る場所を確認しておいてくれ。


 行くぞ!」


 エド先輩が力強く締めて、各々がそれぞれの役割を果たしに行く。

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