六十九話 そりゃぁかわいい方がいい
魔物討伐へ向かう道中の二日目。
移動は順調に進み、宿泊予定の村へは夕方に到着した。
目的地まではここから馬車で三時間程なので、今日はここで宿泊をして明日の早朝に出発する予定になる。
さて、この村を通るようにお願いしたのは梨のため、というのも本当なんだけど実はもう一つ目的がある。
それはゲームであった隠しイベントのため、である。
ゲームで何が起こるのかを整理しておこう。
ミーアラッシュ討伐後、プレイヤーが学院に戻る最中に村が魔物に襲撃され、半壊状態になっていることに気付くのだ。
村を襲撃するのは軍隊サソリという魔物。
軍隊サソリはボスユニットが一体と、そのボスユニットから計十ターン十体の小型サソリが毎ターン排出され、村人に犠牲がでないよう防衛戦を行い、最終的に軍隊サソリを全滅させるステージになっていた。
イベント発生条件はエルドレウスとバディを組み、且つこのルートを選ぶこと。
ちなみにこれはエルドレウスルートへのフラグにもなっている。
他の攻略対象とバディを組んだ場合、このルートを選んでも選ばなくてもイベントは発生しない。
その場合、この村か別ルートにある村が壊滅したとだけ、学院に戻ってから知らされることになる。
クレアは私とバディを組んでいるのでゲームの条件は満たしていない。
けれど、二部隊連携のためエド先輩と行動を同じくしているし、条件なんて所詮ゲームでの話で、実際この世界ではどうなるかわからない。
ただ、村が一つ壊滅してしまう可能性があるのなら、防ぎたい。
そう思って私はこのルートを選択してもらうようにお願いした。
お願いした以上、私は事前にできる限りミーアラッシュや軍隊サソリについて調べた。
まず、ミーアラッシュの生態というか餌について。
ミーアラッシュの主食の一つが軍隊サソリであるらしいのだ。
続いて軍隊サソリの生態について。
軍隊サソリは成長力が異常発達した魔物のようだ。
産まれてすぐに一定の大きさまで成長し、親から離れると周囲の餌を食べ尽くしながら急激に成長する。
もちろん、近くに人間がいて認識すれば襲いかかって、食べてしまう。
気を付けるべきなのはサソリといえばやはり尻尾の攻撃で、麻痺毒を持っている。
子供の方は大した毒性は持っていないようだけど、親の方は体が大きい分麻痺の即効性は高い。
子供を産むサイクルは十数年に一度という長期サイクルみたいで、頻繁に討伐が起こるわけじゃない。
一度に軍隊サソリの母体が子供を産む数は一○○から二○○程度とされていて、普通のサソリの倍近い数を産み、対応が遅れると被害は大きくなる。
ちなみにサソリは卵を産み落とさず、体内で孵化させ、子供は生まれると親の背中に張り付いて過ごすらしい。
これが、ボスユニットから毎ターン排出される原因なのかと気づき、想像してちょっとウェッってなった。
親の体は大きく、全長は一メートル五○センチから二メートルのものまで確認されている。
子供は親の背中にいる時三センチから五センチ程らしいけど、そんなんが二○○体も背中に乗っていられるのだろうか?
軍隊サソリからこの村を守るとして、いくつかの問題と疑問が浮かび上がる。
一つ目、そもそも軍隊サソリがこの村を襲うのかどうか。
ゲームの条件を完璧に満たしているわけではないけれど、この世界とゲームは似て非なる物だ。
そもそも軍隊サソリがこのあたりに生息しているかどうかすらわからない。
二つ目、軍隊サソリがこの村を襲うとして、なぜ私がそんなことを知っていて、村人を守ろうとするのか。
前世でゲームのイベントなので知っていましたなんて言えばもう奇人変人扱いである。
そもそも前世と乙女ゲームのことを説明するのが難しいし。
未来予知的にこの話をしたら、そんな貴重で危ない人を国が放置しておくことはない。
恐らく一生どこかに監禁されて、他に未来で起こる情報を得ようとするに違いない。
三つ目、軍隊サソリは私の杞憂と片付けて、ミーアラッシュを討伐をした後のことだ。
ミーラッシュと軍隊サソリの生態を調べていて、考えついたたことがある。
今回の魔物討伐はミーアラッシュの目撃報告が広範囲から行われたことで発生している。
一つ目の疑問にも繋がるんだけど、この目撃報告、軍隊サソリが繁殖しているからミーアラッシュが食料である軍隊サソリを求めて活発に活動した結果なんじゃないかって思う。
何が問題かというと、ミーアラッシュを討伐することで軍隊サソリの天敵がいなくなってしまうってこと。
天敵がいなくなった軍隊サソリはどんどんと増えていって、結果村を襲うんじゃないだろうか。
ん~どうすればいいのかわからなくなってきたなぁ……。
こんな時、前世ではなるべく問題をシンプルに考えていたっけ。
今回の問題の中心ってなんだろう?
あ、単純だ。
軍隊サソリがこの辺りにいるかどうか、じゃないかな。
一体でも見つかればミーアラッシュの目撃情報とも一応繋がる。
その繁殖力から周辺の村が襲われるかもしれない可能性を提示できる。
ミーアラッシュを討伐した後の懸念も説明できる。
これだ! これしかない!
今日中に軍隊サソリを見つけられればいいんだ!
ん~いや待て待て。
どうやって?
一人で村の周りを見回った所で見つかるとは限らないし、そもそも村のすぐ近くにいるとは思えない。
近くにいるんだったら既に襲われていてもおかしくないし。
軍隊サソリの居そうな場所……。
生態、生息地……。
生息地!
ベルモに現れたワオーンドッグみたいな例外はあるけど、多少の移動はあっても基本的に魔物の生息地は変わらない!
今までこの地方全体で軍隊サソリが出現したかどうかを村の人から聞ければ、みんなに相談してより良い案を考えられるかもっ!
よぉーし! 早速聞き込み調査だぜ!
……。
どこで何を聞けば効率的なの?
情報集といえば酒場! と思ったたけどこんな小さな村じゃ無いよ?
宿屋に併設されている食堂はあるけど、村の人はほとんどいないし。
村長さんに聞くのが一番無難か。
あとは宿屋のご主人や女将さんにも聞いてみよう。
宿屋併設の食堂には私達以外の人はおらず、ゆっくりと夕ご飯を食べ、その後は自由時間となった。
私は早速行動を開始する。
まずは今さっきまで給仕をしてくれていた女将さんだ。
女将さんは丁寧に話しを聞いてくれたが、魔物が過去出たという話は聞いたことがあるけれど、詳細なことは何も覚えていないそうだ。
ごめんね、と一言残してお仕事に戻っていった。
次は、ご主人に聞いてみる。
そうしたら忙しそうにシッシと手を振られてしまい、話を聞くことができなかった。
世の中世知辛い……。
「お姉様、どうかしましたか?」
そう思っていると救いの女神が現れる。
我らがクレアである。
詳細に事情を話すわけには行かないので、ミーアラッシュ討伐時の有事に備え、この地方で過去出現した魔物について調べていると説明することにした。
あ、最初からこれでみんなに相談すればよかったじゃん……。
時既に遅しなので、個人的な興味の範疇で調べていると補足しておいた。
クレアが我が調査班に加わったことで早速変化が起こる。
先程シッシと私を追いやったご主人が、クレアの質問にはとても丁寧に答えてくれたのである。
それも、緩んだ顔をしながら。
ガッデム!
男はみんな顔が可愛らしくて、スタイルは細いけど出る所は出てて、優しそうな雰囲気の女が好きなのね!
ってそれ、ある意味一つの理想形じゃん!
それってクレアじゃん!
完敗だわ……。
もぅマヂ無理。。。ダイエットしよ。。。




