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六十五話 弱いから、向き合うんだ:クレア視点

 お姉様とジョルジオさんが時間を稼ぐために残ることになって、私、ルビーさん、エリーゼ先輩は三人ですぐに通路を走って戻っていた。


 逃げてきた部隊の人を治療する場所と周囲の安全を確認するためだ。

 数分程走った所で、少し開けた場所があったのでそこで立ち止まる。

 エリーゼ先輩がすぐに周囲の索敵を行って、魔物がいないことを確認してくれた。


 その間に私はずっと走って逃げてきているだろう部隊の人達のためコップを用意し、そこにルビーさんが魔法で水を満たして飲み水を用意する。


 こんな作業ですら、お姉様と離れてから感じている焦燥感が時間を長く感じさせる。



 逃げている部隊の人達を来るのが遅いと責めたくなる。

 なんでトレインなんて発生させたのか、なんで私達を巻き込むのかと責めたくなる。

 お姉様と一緒にいられない自分が、部隊が不甲斐ないと責めたくなる。


 お姉様とサラさんと三人でご飯を食べる光景、魔法の特訓をする光景が次々と頭に浮かぶ。


 とても大切な人が危険にさらされているのに、自分が何もできないことがこれほど辛いなんて知らなかった。

 キングロックホーンが現れた時、私が一人で飛び出した時のお姉様はこんな気持ちだったんだろうか。


 お姉様は、いつも笑っている。


 お姉様はいつもそうだ。

 人のことばかり考えて、自分が危険に飛び込むことを厭わない。

 そのせいで、みんなに心配かけちゃうことに気づいていない。


 でも、全部ひっくるめて、心のどこかで私はお姉様を信じてる。



 思考が千々(ちぢ)に乱れていると、ようやく逃げていた部隊がエリック先輩と共に合流する。


「ぜぇぜぇ、す、すまない……」


 このままじゃダメだ。

 今は私にできることを、お姉様に任されたことをしなければ。


「怪我をしている方はいませんか? 私が治療しますので、こちらに。

 怪我をしていない方は水を用意してますから、飲んで一息ついて下さい」


 全員が大小にかかわらず怪我をしていたけど、私の所にやってきたのは三人だった。

 三人の怪我の具合を確認すると、致命傷を負うような傷はなさそうだけど、ネイルバットに刺されている箇所が多い。

 出血が多く、薄暗い洞窟の中ですら、顔が少し白く見える。

 それを確認した私はヒールの詠唱して、三人の傷を治療して休ませる。


 一撃一撃は強力でなくとも、出血が続けば人は死ぬ。

 魔物の、トレインの恐ろしさを身を持って実感した。


 同時に、そんな状況に立ち向かうお姉様が心配で心配で仕方がなくなる。



「エリック! これで良かったきゅるりん!?」


「良いわけっねーだろっ!! 僕だってこんなことしたくない!! でも、僕達は足手まといなんだよ! これが一番……全員助かる確率が、高いんだよ……。ちく、しょぉ……」


「エリック……」


「自分が弱いことがこんなに悔しかったことなんかねぇよっ……。あいつら、恰好つけすぎだろうが……」


 不甲斐ないと、力不足だと自分を嘆くのは私だけじゃなかった。

 自分を責めるエリックさんが私自身と重なる。


 ただ嘆いているだけじゃダメなんだ。


 前を、向かなきゃ。


 お姉様の隣に立てる自分であるように。

 お姉様が誇れる私であるように。



「強く、なりましょう。

 自分を不甲斐ないって思える私達なら、強くなりたいって思える私達なら、きっといい部隊になれるはずです!

 私は二人に置いて行かれたりなんかしない!


 絶対! 絶対に!!」


「あぁ……。弱いことを言い訳にするのはもう止めだ。弱くたって、何度負けたって、強くなることを諦めたりしない! 逃げたりしない! 僕は、僕はあの二人に負けたくない!!」


 私とエリック先輩が決意を新たにしている間も、時間は過ぎていった。




 体感だけど、もう一○分は立ったんじゃないだろうか。

 お姉様達が走ってくるような気配はない。


「遅いな……」


 エリック先輩がそう呟く。


「お姉様たちに何かあったんでしょうか……」


 胸の中にあったもやもやを言葉にすると、途端に焦燥感がこみ上げてくる。


「わからない。けど、そう考えて行動した方がいい」


「それなら、助けに、行きたいです」


「そうだね。……。クレアちゃん、もうみんなの治療は終わっているね?」


「はい」


「よし。姉貴、ルビーちゃん。みんなを連れて洞窟を脱出してくれ」


「エリックはどうするきゅるりん?」


「僕とクレアちゃんは二人を助けに行く」


「足手まといなんじゃなかったきゅるりん?」


「悔しいけど、その通りだよ。だから、他の部隊を探す。

 ここに来るまでに分かれ道が一つあった。そこで他の部隊がいないか探してみる。

 こんな奥まで来る部隊なら、トレインを起こすようなことさえしなければ戦力としては十分なはずだ」


「見つからなかったらぁ、どうするんですかぁ?」


「どうするんだろうね。今は考えてない。でも、誰かを見捨てるような真似をしたら、きっとあの二人に笑われるだろう?」


「違いないきゅるりん。こっちはウチにまかせるきゅるりん! 二人のこと、頼んだきゅるりん!」


「あぁ、まかせてくれ!」




 すぐに行動を開始する。

 エリーゼ先輩とルビーさんは逃げてきた部隊を連れて脱出を。

 私とエリック先輩はさっき走ってきた道を逆走する。


 正直に言えば、他の部隊が見つかる可能性はそう高くないと思う。

 二度程途中で他の部隊の人達とすれ違ったけど、分かれ道を進んでいる時にすれ違うことはなく既に帰還した部隊の方が多いはずだから。


 もうこの洞窟に残っている部隊は一つ、良くて二つくらいじゃないだろうか。

 そして、その人達が助けてくれるとも限らない。


 もし、見つからなかったら。

 もし、一緒に助けに行ってくれなかったら。



 たとえ一人だったとしても、

 私が任されたことじゃなくても、

 私じゃできなかったとしても、

 私は、私がやりたいことをやる。


 不安しかなかった学院生活を明るく照らしてくれたお姉様と一緒にいるために、

 私はお姉様の所へ行く。




 分かれ道へと辿り着く。

 道は三又になっており、一つはお姉様達がいる場所へと繋がっている。


「時間がおしい。二手に分かれて探そう。

 魔物がいたら気づかれないようにここまで逃げるんだ。

 魔物がいるということはその先に部隊はいないだろうから。

 もし魔物に見つかって、この道まで追ってくるようなら迷わず入り口まで逃げること。

 攻撃手段を持たないクレアちゃんじゃどうしようもないからね」


「はい」


 魔物を連れてお姉様の所へ行くわけには行かない。

 慎重に進まないと……。



 私とエリック先輩に念のためホーリーシールドを掛けて、準備をする。

 すると、奥から足音が聞こえてきた。


「お姉様!?」


 つい反射的にお姉様を呼んでしまうが、足音はお姉様達がいた通路とは別の所から聞こえていた。


「ん? クレアか。何かあったか?」


 奥から現れたのはエド先輩とリズ先輩だった。


「お姉様がっ、お姉様とジョルジオさんがっ!」


「話は走りながら聞く。 どっちに行けばいい?」


 何も聞かずにエド先輩がそう言ってくれた。

 私はお姉様達がいた方の通路を指さす。


「リズ、先頭を頼む。エリック、お前も来るのか?」


「あぁ、行くよ。役に立たないのは百も承知だ。だけど、その場で僕は僕の役割を作る」


「へぇ、おもしれぇ。

 お前らは先に洞窟から脱出しろ。


 リズ、行くぞ!」


 エド先輩は一緒にいた部隊の人達に指示を出し、リズ先輩と共に駆け出す。

 私とエリック先輩も二人についていく。


 走りながらエド先輩達に他の部隊がトレインを発生させたこと。

 彼らを逃がすためにお姉様とジョルジオさんが時間稼ぎをしていること。

 しばらく待っても戻ってくる気配がなく、私達が探しに来たことを告げる。


「わかった。オレとリズは先に行く。お前らも全力で来い」


 そういうと、二人の走る速度がグンと早くなる。

 私とエリック先輩も必死で走ったけど、結局置き去りにしてしまった。


「くそっ!」


 エリック先輩がそう吐き捨てる。

 あの二人なら任せて大丈夫だ。


 けれど、本当は私が、私達が二人を救いたいのだ。

 それなのに、一緒に行くことも叶わない。


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