六十四話 わがまま
「それで、何か策はあるか?」
「そうですね。初手でわたくしが一気に数を減らします。
その後は正面からネイルバットを迎え撃ちましょう。わたくしがジョルジオ様の援護に徹して時間を稼いだ後、風魔で足止めをしてから退却で如何でしょうか」
「わかった。背中をまかせるのがお前なら、何も心配はない」
「ふふふ。わたくしもジョルジオ様の後ろにいられるなら、これ以上安心できる場所もありませんわ」
「やる気にさせるのが上手いじゃないか。さて、行くぞ」
「はい!」
ジョルジオ様の横に並んだ位置から前へ出る。
最初に使う魔法は決めている。
ここまで魔物に出会わなかったのは魔力を使わなくてラッキーだったね。
無詠唱魔法のイメージはエリック様が走り去ってから練り始めている。
既にイメージは固まっていて、後は発動するだけだ。
私は目の前に迫っているネイルバットの群れに対して、魔法を発動する。
――エアーズガーデン!!
風の檻を上から下へ発生させ、飛んでいたネイルバットは次々と地面へと落下していく。
そのまま押し潰すか、風の刃が襲いかかり、次々とネイルバットに止めを刺していく。
ネイルバットの後続を一部巻き込むことに成功したけど、半分以上は異常に気づいたのか止まるか戻るかしていた。
地面へと落下したネイルバットを確認すると、全てに止めを刺しきれていなかった。
ネイルバットの数が多すぎて、風の刃が足りなかったのだ。
それでもエアーズガーデンの効果範囲に入った半分以上は倒せたはずだ。
後続を巻き込んだのも含めて、動かなくなったネイルバットは少なく見積もっても三十匹。
元々エアーズガーデンは対大物を想定していた魔法だから、ある程度倒せないのは仕方ない。
とはいえ、風を上から下にもろに受けているからすぐには動けないだろうし、無力化はできたかな?
エアーズガーデンを脅威に感じたのか、それとも超音波に影響が出たのかはわからないが、ネイルバットはすぐには襲ってこなかった。
ただ、三十匹以上を倒してもパッと見ではわからないくらい、ネイルバットが通路を満たしていた。
「ジョルジオ様、かなりの数に止めをさせませんでしたが、恐らく無力化はできたかと」
「十分だ。今の内に止めをさす」
そう言って、次々と地面に向かって剣を突き刺すジョルジオ様。
あらかた止めを刺した所で、残っていたネイルバット達がこちらに向かって襲い掛かってきた。
ジョルジオ様が止めを刺したのを合わせると、優に五十匹は倒しただろう。
それでも、パッと見数が減ったようには見えない。
百匹以上とは言ってたけどさ、全部で二百匹以上はいたよね、これ……。
「よし、ここからは俺の出番だな。来い、ネイルバット共!
うおぉぉぉおおお!!」
ジョルジオ様の叫び声に反応し、次々にネイルバットがジョルジオ様を標的とみなす。
ゲームのジョルジオは特性を二つ持っていた。
一つは、挑発という敵のターゲットを集める特性。
もう一つは、守護という後ろにキャラがいる場合、大幅に防御力がアップする特性。
先の叫び声は、一つ目の挑発とよく似た効果を発揮していた。
無数のネイルバットがジョルジオ様を襲う。
ジョルジオ様はそれを迎え撃ち、数多のネイルバットを斬り伏せ、大楯によってその爪を寄せ付けない。
私は援護のため、両手をそれぞれ銃の形にし、バレットでジョルジオ様の前方に向かって連射する。
的は沢山あるから、特に狙いはつけなくても問題なく当たる。
ただ、一撃では倒しきれない個体が多かった。
頭に当たれば倒せているけど、胴や羽の部分にあたる皮膜に当たった程度では倒せなかったのだ。
連射速度を遅くしても威力を上げた方がいいと判断して威力重視に切り替える。
それでも数が多く、詠唱魔法を同時に発動させて手数を補う。
詠唱魔法は使い慣れた詠唱句を変えないウィンドカッターを発動し、ネイルバット達を貫通して切り裂いていった。
着実に数を減らしていく私達だけど、その物量に徐々に押されていってしまう。
ついにはジョルジオ様の左右へ回り込む個体も出てきた。
壁を背にして攻撃される範囲を絞りたいけど、そうしたら私も前面に晒されるか、ジョルジオ様の真後ろで動きが取れなくなるし……。
少し考えた後。
「左右のネイルバットを狙います! ジョルジオ様は前方に集中なさって下さい」
「おう! まかせたぞ!」
左右から来るネイルバットは確実に落として囲まれないようにするしかない!
先程よりも連射速度を下げて、しっかりとバレットで狙撃する。
的が小さいから頭や胴に百発百中とはいかないものの、皮膜にさえ当たれば穴を開けることができ、飛ばせないことで無力化できた。
もちろん、ウィンドカッターも同時に発動して、バレットの撃ち漏らしを確実に対処する。
私はジョルジオ様の動きを先読みしてフォローする。
連携はかつてない程上手くいっていて、不謹慎かもしれないけど、正直楽しいとすら感じている。
戦闘を開始してからどれくらい時間が立ったんだろう。
多勢に無勢の状況は、濃密な時間を感じさせた。
濃密な時間は集中力と体力を加速度的に消耗させる。
そして、魔力も。
「ジョルジオ様、そろそろ魔力が少なくなってきました」
接敵時にエアーズガーデンを発動し、その後はバレットとウィンドカッターを間断なく使用している。
バレットは無詠唱魔法にしてはかなり魔力消費が少ないんだけど、威力を高めて何発も使っていればその消費量はバカにならない。
残りの魔力量を意識していたつもりだけど、左右からくるネイルバットの数が多く、使わざるを得ない状況だった。
「わかった。十分に時間は稼いだし、数もかなり減らした。俺達も逃げるぞ」
接敵時には通路を埋め尽くしていたネイルバットの群れは、今ではその数を激減させている。
最初は通路を埋め尽くして通路の奥は見えない状態だったけど、今では隙間が伺え、一目で密度が下がっていることがわかる。
それでもまだ五十匹以上はいると思う。
「わかりましたわ。タイミングはおまかせしても?」
「まかせろ」
私はバレットの使用を止め、最大出力の風魔の準備をする。
その間はウィンドカッターの詠唱とダガーを手に取って、私に近づくネイルバットを追い払う。
まぁ、ジョルジオ様にターゲットが集中しているので、私の方には滅多に来ないのだけれど。
ジョルジオ様はじりじりと私の方へ下がりつつ、ネイルバットを斬り伏せる。
そして、私の目の前に来たところで。
「ぐあっ!
っ、おぉぉおお!!」
ジョルジオ様は急に地面に膝を着き、足元に向かって剣を突き立てた。
何事!?
私が剣を突き立てた場所に目をやると、そこには息絶えたドリルモグーラの姿と、ジョルジオ様の足の甲が貫かれているのが目に入った。
ネイルバットの大群を相手にしていたため、上空に視線が固定され、近づいていたドリルモグーラに気付くことができなかったのだ。
ジョルジオ様の足からはかなりの血が流れ、一目で全力で走ることができない状態であることがわかる。
「くっ、足を掬われるとはこのことだな……」
「ジョルジオ様!」
私はジョルジオ様の元へ駆けつけて、風魔を前方に放ってネイルバットの動きを乱した後、ダガーを構えて前へ出る。
「下がれフロスト! 騎士がこの程度で折れると思うなっ!」
「まずは止血だけでもお済ませください!」
「くっ、そう、だな……。悪いが、少しの間頼む」
絶対にここは通さない!
迫ってくるネイルバットは風魔で動きを止めるか乱し、ダガーとウィンドカッターで止めを刺す。
「よし、終わったぞ。下がれ、フロスト」
「ですが!!」
「言っただろう? お前は俺が守ると」
「……。はい。ですが、わたくしもジョルジオ様の背中を任されているのです」
「はっはっはっ! お前は本当に……」
「来ます! ジョルジオ様!」
何かを言いかけたジョルジオ様だが、ネイルバット達が次々と襲い掛かってくる。
ジョルジオ様は明らかに踏ん張りが効かなくなり、ネイルバットを斬り損ね、左右へ回り込んでくる数が多くなっていく。
私はジョルジオ様の真後ろで背中合わせになり、左右背後を迎撃する。
魔法で確実に数は減らしていけている。
ジョルジオ様の守りは以前固く、足以外は大きな怪我をしている様子もない。
このまま行けば、逃げずとも殲滅することもできるかもしれない。
私の魔力が持てば。
もう、底が見えてきているけれど。
「ジョルジオ様、申し訳ありません。そろそろ魔力が尽きそうです」
「そうか……。お前だけでも逃げろ。ここは俺がなんとかする」
「いやです!!」
思いの外、大きな声が出た。
「いいから行け! 魔力のないお前など足手まといだっ!」
「それでも、それでも!! わたくしはここにいる! あなたと一緒に戦うんだっ!!」
「問答している時間はない! 行けっ!!」
ジョルジオ様の言う通り、私達が問答を続けている間もネイルバットは襲い掛かってきて、必死でダガーで追い払う。
残りの魔力量を考えると、無駄撃ちは一切できない。
「いやだぁあ!! わたくしを守ってくださるって言った! だったら最後まで守って下さい! わたくしがあなたの背中を守るからっ!」
「子供のように聞き分けの無い奴め……。
……。
あるいはお前と一緒なら……。
問答をしている時間はない、か。
全く、仕方の無い奴だ。背中は、任せたぞ!」




