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六十二話 世界は不思議で満ちている!?

 ようやく私達の部隊がダンジョンに突入する番となった。


 長い時間待った、とは思わない。

 ふわふわとした気持ちの私は、いつのまにか出番が来ていたといった感覚だ。


 あれからずっと握っていたハンカチはもう手汗でデロデロだ。

 中に大切に挟んでいるブローチまで汚してはいけないと、今はポケットに大事にしまっている。


 そんなはずはないのに、ポケットだけがとても暖かい、そんな気がしてしまう。


「お姉様、なんだかご機嫌ですね。がんばりましょう!」


 あの後、クレアが戻ってくるとジョルジオ様はまた後でな、と言ってどこかへ行かれてしまった。

 クレアは生クリームがついていない私の顔見てよかったと笑ってくれたけど、その後の私は上の空だったので少し申し訳ない気持ちだ。


 それでもこんな笑顔でいてくれるのだ。

 うん、こんないい子を危険な目に合わせたくない。


 いつまでも浮ついた気持ちでいたら、魔物がいるダンジョンでどんな目に合うかわからないんだ。

 私は頬をパシっと叩いて気合いを入れなおす。


「よぉし、がんばるぞー」


 と気合いを入れた所で、エリック様がみんなに話しかけ始めた。


「去年最後にダンジョンアタックしたクラスメイトに聞いたんだけど、最後にダンジョンに入るととても面倒なことが一つあるみたいだ。

 それは、他の部隊が近い所のシールダイトをあらかた取ってしまっているってこと」


「つまりぃ、ルビー達は奥の方まで行かなくちゃいけないってことですねぇ?」


「その通り。レディ達を沢山歩かせてしまうことになって心苦しいけど、後で僕がしっかりとマッサージをするから心配しないでほしい」


「ルビーは結構ですぅ」


「お姉様の分は私がっ!」


「ウチの全身やらせてあげるきゅるりん」


「いだだだだだぁあ!」


 エリーゼ様がエリック様の頭を鷲掴みにしていた! めっちゃ痛そう!


「じょ、冗談はこれくらいにして行こうか!」


 なんとかエリーゼ様の手を振り払って、エリック様はキメ顔でそう言った。




 ダンジョン突入前から色々ありすぎたけど、ついに初めてのダンジョンアタックである。

 緊張とワクワクが半分ずつって感じだ。


 入り口を見ると山の中にぽっかりと穴が空いていて、下へと続いている様は洞窟のようだ。

 入り口の縁はレンガでしっかりと整備されていて、想像よりもずっとしっかりとしている。


 去年に突入経験のあるエリーゼ様とエリック様が先頭になって入り口をくぐる。

 松明などは持たなくていいとあらかじめ教師やエリーゼ様、エリック様から聞いているけど少し不安だ。


 入ってみると地面は平たんで躓くこともなく、何故か奥から明かりが入ってきているので特に困ることもなく進むことができた。


 というか、何故こんな明かりがあるのだろう?


 そんなことを疑問に思いながらも、洞窟の中を下っていく。

 二十メートルくらいは進んで薄暗い洞窟を抜けると一気に明るさが増した。


 暗い所から出たばかりなので目を細める。

 光に慣れてきた所で周囲を見渡すと。


「ここは……?」


「すごいですぅ」


「お姉様、大変です!」




 そこには、草原が広がっていた。



 ん?



 そこには、草原が広がっていた。



 ん?



 いや、うんわかった。

 草原ね、草原。



 なぜぇええぇえ!?



 山にぽっかりと空いた洞窟を進んでいたはずですけどぉ!?

 しかもさっきから見てた明かりは太陽光ですし!?


 ゲーム、ゲームはどうだった?

 正直、素材集めか熟練度上げしかしない場所だからあんま覚えてないんだよなぁ。

 でもさすがに草原なんてフィールドではなかったような……。



「これが、ダンジョンきゅるりん。ダンジョンはさっきいた山とは全く別の場所きゅるりん。

 どこまでも続いているように見えるけど、急に壁見たいのにぶつかることがあるから、逃げる時は気を付けなきゃいけないきゅるりん」


「レディ達が初めてで戸惑うことは無理ないよ。

 さっき通った道は時空が歪んでいて、まったく別の場所に飛ばされるんじゃないかって言われているんだ。

 わからないことだらけだけど、入り口からダンジョンまでに人が死んだり、行方不明になったことはないらしいし、何より僕が一緒にいるから心配いらないさ」


 エリーゼ様とエリック様が説明して下さる。

 これがダンジョンに入ってみてからのお楽しみという奴なんだろう。

 理解できないけど、そういう物として受け入れるしかないみたい。


 改めて周囲を見渡す。

 背の高い草木はなく二、三キロ程草原が広がっていて、周囲は山で完全に囲まれている。

 ちょっと不自然だけど、盆地のような景色だ。


 ピクニックに来たかのようなのどかな光景に見えるけど、よく見れば緑の中に赤い物も見える。

 魔物の血だと思う。

 死体はダンジョンによって吸収されているのか、見当たらない。


 私達の部隊が最後の突入だからか、先に入った部隊があらかた魔物を倒して、周囲に魔物の姿は見えない。

 ダンジョンでは時間が立てば魔物が生まれるけど、非活性ダンジョンでは魔物が生まれるサイクルに時間がかかるため、しばらくは新たな魔物が現れることはないだろう。



「魔物はいないようですけれど、わたくし達はどちらへ迎えばよろしいのでしょう?」


 今回のダンジョンアタックの目的はシールダイトを取ってくることだけど、草原にあるとは思えない。

 周囲は山に囲まれているから、坑道みたいなのがあるんだと思うけど、場所がさっぱりわからない。


「去年と同じならここから真っすぐいった所に洞窟の入り口がある。魔物は先に入った部隊が倒しているみたいだから、周囲を軽く警戒しながら速度重視で進もう」


「「「了解」」」




「ひぃーはひぃー」


 ただただ早歩きって辛い。

 晩夏といえど空に太陽が輝いていて、私はダラダラと汗をかく

 訓練続きで少し痩せたと言えど、まだまだわがままボディから脱却できていないということか……。

 もぅマヂ無理。。。ダイエットしよ。。。


 せめてもの救いは割と歩きやすい草原を進んでいることと一切魔物と遭遇しないこと。

 これで山とかだったら私はぶっ倒れていたかもしれない。


 三○分程歩いた所で洞窟のような穴が空いた場所に辿り着いた。

 ダンジョンの入り口のように整備されたものではなく、岩肌が剥き出しになっている場所だ。



「洞窟に入る前に一度休憩きゅるりん。洞窟の中での隊列はどうするきゅるりん?」


 洞窟の中を覗くと、横幅はかなり広く見える。

 奥に進むとどうなるかわからないけど、入り口付近は少なくとも大人が四人くらいは横に並んでも入れるくらいはありそう。

 縦幅は三メートルないくらいで、人が通るには十分すぎる高さだ。


 剣だったら上段に構えるような動きでなければ、十分に魔物と戦えそう。

 隊列もある程度は自由が効きそうだ。


「縦一列の縦列陣形で進もう。先頭から、姉貴、ジョルジオ様、僕、ルビーちゃん、フローレンシアちゃん、クレアちゃんの順番だ」


「洞窟は広いようですし、縦列では連携が取りにくいと思うのですが、何か意図があるのでしょうか。先頭もジョルジオ様ではなく、エリーゼ様にした理由を教えて下さいませ」


 縦列陣形とその順番を聞いて、私は疑問を投げかける。


「入り口は広いけど、奥に進めば道はどんどんせまくなる。二人なら余裕で並ぶことはできるけど、武器を振り回すには少し狭い。

 姉貴を先頭にしたのは、陣形を乱す可能性が高いから。それなら最初から飛び出すことを想定した並びにした方がいいと思って、だね」


「それではエリーゼ様が危険ではありませんか?」


「始まりのダンジョンで出る魔物くらいなら姉貴がタイマンで負けることはないし、三体程度だったらなんとでもなるって思ってる」


「まぁ! エリーゼ様を信じていらっしゃるのですね!」


 美しき姉弟愛よ!


「エリックはウチのこと信頼してくれるきゅるりん?」


「僕はいつも姉貴の暴力を味わってるから、力だけは信じてるよ」


「素直じゃないきゅるりん♪」


「いだだだだだぁあ! そういうとこだよ!」


 エリック様がお尻を思いっきりつねられて、みんなはつられて笑う。

 初めてのダンジョンに緊張していたけど、いい感じに緊張はほぐれていた。

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