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六十一話 不器用なりに

 私、クレア、ジョルジオ様、ルビー様、エリーゼ様、エリック様。

 この六人で部隊を組んで一週間がたった。

 九月も終わりが差し迫り、週末はついに初めてのダンジョンアタックである。



 今回挑むのは王都にほど近くにある始まりのダンジョンと呼ばれる所だ。

 正式名称はわからないが、学院の生徒が初めて挑むダンジョンだからかその呼び名があたかもダンジョンの正式名称であるかのように浸透していったらしい。

 ゲームでも始まりのダンジョンと名付けられていた。


 学院が生徒を送り出すだけあって、さほど危険度の高くないダンジョンではあるけど、魔物が住み着く場所だから油断は禁物だ。

 住み着くというより、生まれると言ったほうが正しいかもしれないけど。


 ダンジョンは魔物を生み、時に魔物はダンジョンの外を目指す。

 だからこそ定期的なダンジョンアタックが各地でも学院でも行われている。



 もう少しダンジョンについて私の知識を整理しよう。

 ダンジョンは大きく分けて二種類に分類される。

 活性ダンジョンと非活性ダンジョンである。


 ゲームではそんな分類はなかったけど、この世界では大雑把にいうと活きがいいダンジョンと活きが悪いダンジョンが存在するとでも言うべきだろうか。

 いや、私は何を言っているのだろう。

 まぁいいや。


 ダンジョンは新たな魔物と様々な資源を生み出すらしいのだけど、活性ダンジョンと非活性ダンジョンではそのスピードが全然違うんだとか。

 他にも活性ダンジョンはその領域を拡張し続けるという特徴も持っているらしい。


 そんな物理法則を無視したような場所だが、そのエネルギー源は判明している。

 ダンジョンで死んだ生物である。

 人間も魔物も区別なく、死んだ生物は数時間もするとダンジョンに吸収されてしまうらしい。

 これについは色々と研究がなされたらしく文献を読んだことがあるんだけど、ここでは割愛しよう。



 さらに活性ダンジョンは最深部にボスと呼ばれる凶悪な魔物が存在する。

 ゲームでも一部ダンジョンにはボスが存在しており、倒せば武器や防具、素材がドロップするメリットがあったけど、この世界ではいきなり武器や防具、素材がドロップするなんてことはない。

 それでも、ボスを倒したらその体から貴重な素材を剥ぎ取ることができるし、最深部にある希少な資源を手に入れらるからゲーム同様にメリットは大きい。


 けれど、凶悪なボスの前に倒れてしまった人は過去かなりの数に上っているそうだ。

 今では活性ダンジョンの攻略には騎士団が動くこともしばしばあるとか。



 そんなダンジョンだけど、その名前とは裏腹に実態は洞窟や迷宮とは全く違う、らしい。

 らしいというのは、当然私はまだダンジョンに入ったことがないから。

 そして、入門的な本を読んでも、人に聞いても入ってからのお楽しみというのだ。

 ちゃんと調べれば色々な情報は出てくるのだろうけど、入ってからのお楽しみと本も人も言っているのだから、下調べはせずにダンジョンに入るのが粋ってものかと思っている。



 色々と頭の中を整理したけど、始まりのダンジョンはそれほど危険度は高くない。

 あまり気負いせず、入ってからのお楽しみ、という奴を素直に楽しめば良いだろう。

 去年実際にダンジョンに入っているエリーゼ様やエリック様もそう言って下さったし。


 ただまぁ楽観視しすぎるのも危険だ。

 何を隠そう部隊の連携がいまいち上手く行っていないのだ。


 部隊長はエリック様に担ってもらうことになったんだけど、エリーゼ様が指示通りに動いてくれないのだ。

 曰く、エリックは消極的すぎるきゅるりん、だそうだ。


 部隊同士の模擬試合を何度か行っているんだけど、実際その通りであると思う。

 少なくともスイフト様だったら一気に決着を付けるであろう場面でも引いてしまうので、勝ちはするものの試合が長引く傾向にある。


 一気に勝負を決めたい時に決めきれず、それに業を煮やしたエリーゼ様が突進。

 ジョルジオ様がフォローに入るけど、エリック様は全然前にでないし、隊列が縦に伸びすぎて後衛のサポートが遅くなるといった感じ。


 ちなみにルビー様はとてもマイペースで、自分の仕事をきっちりとこなすタイプだった。


 ダンジョンで隊列が縦に伸び過ぎちゃうのは怖いんだよなぁ。

 クレアを最後尾にして前衛との距離が空き過ぎちゃうと危険だし。

 ダンジョンでの隊列についてはみんなに相談したいな。





 部隊にいくつかの問題を抱えて不安と緊張感を感じていたダンジョンアタックの前日、夕食後にサラとクレアとお茶を飲んでいるとサラから嬉しい一言が。


「お嬢様、また少しお痩せになりましたね」


「そ、そう!? 最近部隊の訓練で走り回ってばっかりだったせいかしらね~。うふふ」


 最近は部隊訓練で前衛と後衛の間をフォローに走り回ることが多かったから痩せたのかも!

 う~ん、上手くいかないことがいい結果に結び着くというのはなんだか複雑な気分ではあるけど。


「ダンジョンに入る前に少しお痩せになられてよかったですね。一安心です」


「そうね。ダンジョンで体力無くなって立ち往生とか大変だものね」


「いえ、入り口が狭くて入れない問題が解決しそうで良かったなと、お嬢様」


「んなわけあるかーい! ってまた最後にお嬢様付ければいいって思ってるんでしょうけど変だからね、その言い回し!」


 ギャーギャー騒いだ私は緊張して眠れないということもなく、ぐっすりと眠ってダンジョンアタック当日を迎える。



 当日。


 学院から始まりのダンジョンまでは徒歩で一時間かからなかった。

 王都からダンジョンまでの道のりは整備されていて、特に苦労することもなく到着する。

 近くにやや大きめの村があり、そこで全部隊が集結し、一定の間隔を開けて突入する。


 今回のダンジョンアタックの目的は、ダンジョンで取れるというとシールダイトという鉱石を取ってくることだ。

 シールダイトは加工することで、特殊な効果を持ったアイテムに生まれ変わるんだって。

 一度だけ、その身を守ってくれるという護石というものに。


 人数分取ってきて、教師に渡せばクリアとなる。

 ちなみにこの護石は武闘会で使うため、それまでは学院側で保管するんだとか。


 で、ダンジョンに突入する順番なんだけど……。

 私達の部隊の順番は十部隊中の十番目、ラストである……。


 各部隊の突入は十五分間隔らしく、単純に二時間以上待ちぼうけである。

 つらい。


 待ち時間は各々が好きに過ごすことになり、突入の十五分前までに再集合となった。

 私達の他にも突入が後半の部隊は思い思いに過ごしているようだ。


 装備類は部隊で一か所に置いて、クレアと二人ブラブラと村の様子を眺めて歩く。

 軽食を売っている出店があったり、装備品や、探索に有用そうな雑貨を売っているお店もある。


 まぁほとんどの人が事前に準備をしているから買う人はほとんどいないけど、冷やかしに覗いたり、掘り出し物でもあるのか稀に買っている人もいる。


 もちろん、私は軽食を買う。

 王都に程近く、ダンジョンアタックで生徒が集まることがわかっているのだ。

 生徒目当てで色々な種類の出店が出店している。


 クレアと吟味した結果、ビッグフットラビットのもも肉をふんだんに使ったサンドイッチとクレープの二種類をシェアすることに。


 まずはサンドイッチをがぶりと。


 ん~~! 美味しい!!


 もも肉がぎっしり入っていて、すっごくジューシー!

 野菜もシャキシャキした歯ごたえに、少し酸味の効いたソースがすごく合う!

 ちょっとお高かったけど、これは是非リピートしたい!

 このお店なんて名前……、パイソンズ、キッチン? はてどこかで聞いたことがあるような……。


 さてお次はクレープ!

 巻いた生地の上に溢れんばかりに盛られているの生クリームを上手に食べていたクレアからクレープを受け取り、サンドイッチを渡す。


 中身はクレアの要望で梨と生クリームがたっぷりの奴。

 ベルガモット領で食べた梨を気に入ってくれたみたいでなんだか嬉しい。

 あ、ちなみに生クリームましましを頼みました。


 ん~~! これも美味しい!


 クレープ生地のもちもちっとした触感とほんのりとした甘さ。

 その上から生クリームの暴力が襲ってきて、梨の瑞々しさがさっぱりとさせてくれる!


 至福~。


「あ、お姉様。生クリームがほっぺについてますよ。ハンカチを……。あれ、集合場所に置いて来てしまいました。とってきますから待ってて下さいね!」


 一瞬手でゴシゴシしそうになったけど、貴族令嬢としての教養がギリギリで手を止めた。

 でもこのまま生クリーム付けたまま待ちぼうけって、ちょっと間抜けだし、令嬢としても如何なものか……。



「先日は助かった。返すぞ」


 そんなことを考えていると、ふいに私の後ろから手が伸びてきた。

 その手には見覚えのあるハンカチが握られている。


 ジョルジオ様と以前にお貸ししたハンカチだ。


「ありがとうございます、ジョルジオ様。ちょうど困っていた所なので、とても助かりますわ」


 私はハンカチを受け取り、生クリームを拭く。

 拭いた感触に違和感を感じた私はハンカチをまじまじと見つめ、丁寧に折られていた折り目を開く。


 そこには、四葉のクローバーをモチーフにしたブローチ入っていた。


「ジョルジオ様、これは?」


「お守りだ。ど、どんな礼をしたらいいか、わからなくて、な。せめてお前を守ってくれる物をと……」


 ぁぅ。

 胸が苦しくなって、暖かくなる。


 いっぱい考えて、迷って決めてくれたのかな。

 すっごく、嬉しい。

 なんだか泣いちゃいそう。


「大事に、いたしますわ」


 言葉通り、大事に、大事に、私はブローチをハンカチと一緒に胸に抱く。


「あぁ」


 途切れた言葉は続かず、ただゆっくりとした時間だけが続いていた。


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