五十六話 ビックリした時に出る言葉
「おはようございます。お嬢様」
「うん、おはよぉ」
いつも通りに朝の支度をして部屋を出る。
既にクレアは待ってくれていて、クレアとサラと一緒に三人で学院へと向かう。
「お姉様、二学期も一緒にバディ組めますね!」
はっ! そうだった! ジョルジオ様とバディを組む計画がサラに阻まれたのだったっ!
でも、う~ん。
サラにもクレアにも勿論悪気はないんだろうし、どうしたいか伝えていなかった私が悪いかもしれない。
私のために頑張って勝とうとしてくれていたのなら、むしろその頑張りを褒めないと主として失格なのではないだろうか……。
でも、でもさぁ……。
いや、うん、誰も悪くないじゃん。
むしろジョルジオ様があの試合に参加していたってことは、私とバディを組みたかったってことなんじゃないの? それなら悪いどころか良いことだ。
まだまだチャンスはある!
バディはダメでも部隊を組めれば仲を深められるだろうし、個人的に色々とお近づきになれるならばそれもいい。
ハンカチの件もあるし。
サラには悪いことしちゃったし、元気も少しなかったみたいだから、ちゃんとフォローを入れないと。
「そ、そうね。それにしても昨日のサラは凄かったわね。さすがだわ」
「お嬢様のメイドですから」
「メイドとは一体……!?」
「お嬢様を守り、望みを叶える存在です」
「それじゃぁサラは失格だわ」
「なん……ですって……!?確かにお嬢様のダイエットを叶えて差し上げることができていませんね……。申し訳ありません。今日から一週間デザートは控えさせて頂きます」
「ちょーまてぇーい! それとこれとは話が別っ! 二日だけにして!」
「承知しました、お嬢様」
「うふふ。やっぱりこうして三人で過ごせるのは楽しいですね! お姉様!」
「そ、そうね。でも、二学期も始まって二年生との交流もあるし、色々な人と過ごすのもいいんじゃないかしら? 部隊もまったく新しい方達と組むのもいいかもしれないわね」
これは布石! ジョルジオ様と部隊を組むための布石! 一学期ご一緒した部隊のみんなには悪いけれど、私は二学期はまったく別の部隊を組むわ!
二年生と顔合わせをしてから四日目となる今日から、本格的に一年生と二年生が組んでの訓練が始まることになる。この三日間で私とクレアは二年生とほとんど交流を持てていない。
なぜなら、エド先輩とリズ先輩が初日に先約を宣言していたから。
二年生と合同で部隊を組むに当たって、お二人であれば問題ない所かこちらからお願いしたいくらいだ。
あとは残るもう一組のバディにジョルジオ様を誘うこと。
とはいえ、私一人の感情だけで勝手に決めてしまうのも気まずい。
「エド先輩とリズ先輩はもう一組のバディでお声がけしたい方はいらっしゃるんですか?」
「あたいはハナビスかジョルジオと組めると面白いと思ってるよ」
おぉ! ジョルジオ様の名前が上がるとは!
なんというか、リズ先輩なら選びそうなお二人だね。
「オレは、そうだな……。強いて言うならスイフトが気になるな。リズに入れ知恵する商人だ。目端が利きそうだからな」
おっと、エド先輩は意外だ。
なんというかまぁ攻略対象のお二人はやっぱりどこにいても人の目を引くのかな。
「なるほど。わたくしは以前にハナビス様、スイフト様とは部隊を組んでいましたからお声がけできると思います。ですが、わたくしはせっかくですから色々な方と部隊を組んでみたいのです。ですので、ジョルジオ様にお声がけさせて頂くというのはどうでしょうか」
「あたいはそれでいいぜ」
「オレも絶対スイフトがいいってわけじゃない。お前らがそれでいいならいい」
いよっし! 根回しオーケー!!
あとはジョルジオ様にお声がけして良いお返事を貰えればっ!
って、私から誘うのははしたない女って思われないかなぁ……。
う~ん……、そうかっ! ハンカチ! それをきっかけになんとかお願いできれば……。
「もう一組は今日中に決めなくちゃいけないってわけじゃないだろ? あたいと連携の訓練しようぜ、二人とも!」
具体的にどうジョルジオ様にお声がけするか悩んでいた所にリズ先輩から声がかかる。
何も考えずに体を動かして気分転換したほうがいいアイデア浮かぶかもしれないな、と思い頷く。
私とクレアの仕える詠唱魔法、無詠唱魔法をリズ先輩とエド先輩に伝え、魔法の発動タイミングを合わせる訓練を二時間程行い、その日は解散となった。
まぁ結局、いい案など思いつかなかったのだが。
週末はいつも通り、クレアと魔法の訓練、サラと武術の訓練である。
クレアは相変わらずバレットは発動できないんだけど、諦めるつもりはないらしい。
光属性と相性が悪いのでは? と思う。
一度、ホーリーシールドをベースにアレンジした弾丸を撃ちだすことに成功しているんだけど、なんか気持ちよかったんだよね。
勢いよく飛んできたはずなのに、全然威力がなくて、私に撃ってもらったらふにょんって感触がしたのだよ。
今クレアが物質化というか、触れるようになる魔法は全てホーリーシールドをベースにアレンジを重ねてきたものだから、衝撃を吸収しちゃう性質のものだったんだと思う。
そんなわけで前途多難である。
一方で私の方は着実にアクセルを発動できるようになってきている。
アクセルが身体のどこからも発動できるようになれば、本格的に空を飛ぶ魔法を試したいと思う。
週が明けて。
ジョルジオ様をどのようにお誘いするかを考えていた所に、スイフト様からお声がかかる。
午後の訓練がが終わったら、クレアと一緒に以前にお伺いした個室のあるお店に来てほしいとのことだった。
詳細は来てのお楽しみということで何も教えてくれなかったけど。
一体なんぞ? 初めてスイフト様とご一緒しためっちゃ高いお店よね? まさかアニー様の恋愛相談とか? それはちょっと心抉られるなぁ。
エド先輩、リズ先輩との訓練が終わると、私はクレアの他にサラも連れてパイソン商会のお店を訪れる。
お見せの豪華な扉に近づくと、ドアマンが中の店員さんに声を掛けてくれ、その店員さんに連れられて以前に入った部屋へと向かう。
店員さんが扉をノックすると、「どうぞ」と声がかかる。
明らかに女性の声なので、スイフト様ではない?
お連れの方はこちらでお待ち下さいという店員さんに従い、サラには扉の前で待機してもらう。
クレアは問題ないようだった。
私とクレアは恐る恐る部屋に入ると、そこにはなんとマリアンヌ様がいらっしゃった。
ちょちょいちょいちょい! 心の準備が必要な案件です!
マリアンヌ様を見るや、ビクッと体が一直線に伸びる私。
「楽にしていいわ。ここには私達しかいないのだから」
「なんばゆうとよ!? 男爵令嬢が公爵令嬢を前にしてそげんこつしきらん!」
あまりの衝撃に何故か、似非方言が口に出てしまう。
「え?」
「え?」
「え? あ、失礼いたしましたわ」
まてまてまてまて。
落ち着くのよ、フロスト。
ここにはマリアンヌ様しかいない。
学院ではなく、わざわざパイソン商会の個室を取っているのだから、大っぴらにできない話か、極個人的な話なんじゃないだろうか。
それすらまてまてまてまて。
そもそも公爵令嬢が男爵令嬢と平民の三人で話をするということ自体が異例なのだ。
それくらい、同じ貴族であっても公爵と男爵という地位には開きがあるし、平民なんて言わずもがな。
学院のサロンで話をしていたら必ず他の人に見られてしまう。
そうなると男爵令嬢である私やクレアは同じクラスというだけで、必死に公爵令嬢に取り入ろうと見られる可能性が高い。
何か私的なことでマリアンヌ様は用があって、私達に迷惑が掛からないように気を使ってくれた?
一応、すぐにアクセルで逃げ出せる準備はしておこう……。
「ご、御機嫌よう。マリアンヌ様」
「ふふ。御機嫌よう、フローレンシア。びっくりさせてしまったわね」
あ、可愛い。
いつものザ・貴族ですみたいな雰囲気がなくて、有体に言えば険が取れて、悪戯っぽい笑顔はとても魅力的だった。




