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五十四話 フェイク

「っつ! クレア、てめぇもかっ!!」


 ハナビス様は完全に不意打ちだったクレアのライトバレットを寸での所で回避する。

 どーゆー反射神経してるのか……。


 夏休みに私とクレア、ハナビス様は一度試合をしている。

 その時に私はバレットを使ってハナビス様に勝利をしたから、バレットという魔法は強く印象に残っていたのだろう。

 だからこそクレアがライトバレットと叫んだことで、反射的に避けれたのかもしれない。

 それに、私の風属性のバレットと違って光属性で視認しやすいのも原因の一つかも。



 魔物討伐の後、クレアはみんなに頼るだけでなく、自分も戦う力がほしいと私に言った。

 私はクレアに危険なことをしてほしくないし、後衛も立派な役割なのだからと一度は断ったんだけど、何度も真剣に頼みこまれ、私が折れる形でバレット発動の特訓をすることになった。


 けど、光の盾や耳栓をすぐに使えるようになったクレアは、夏休み中についにバレットを発動させることはなかった。

 多分だけど、銃という概念を知らない、理解できないからだと思う。

 何度も私が手本を見せたり、絵を書いたりしてもダメだった。


 クレアは天才だ。

 私が半年以上かかった無詠唱魔法の発動を、極短い時間で発動できるようになったんだから。


 それでも、知らない物を、理解できない物を実現させることは難しいのだ。

 クレアだけでなく、きっと人間という生き物全体が苦手なことなのだろうけど。


 それを、この土壇場で成功させたのかっ!

 やっぱりクレアは天才だぜっ! ひゃっほーい!


 心の中で小躍りをする私を尻目に、三人の緊張感は否が応にも高まっていく。


 クレアは手を銃の形にしながら、指先をハナビス様に向けて。

 サラは飛び回った代償か、構えをとかずに息を整えて。

 ハナビス様はクレアの魔法も警戒して。



「フロストみてぇに連発はできねぇみてぇだなぁ?」


「さぁ、どうでしょう? そう思うなら警戒せずとも良いのでは?」


「ちっ、お前も食えない奴になったなぁ」


 睨み合いが続いていた。

 ハナビス様が(ケン)に回るのは珍しい。

 出鼻をライトバレットで挫かれるのを嫌がっているのだろうか。


 一方でクレアはライトバレットのイメージを固めるのには苦戦するみたいで、私みたいに気軽に発動することができないっぽい。

 サラは誰よりも運動量が多いので、この小康状態は歓迎なはず。


「クレア。お嬢様の手前、このまま無様な姿は見せられません。あなたのタイミングでバレットを撃ちなさい」


「はい! 必ず勝ちましょう!」


 歓迎、の……はず?


 私の見込みは大ハズレだったらしい。

 サラは態勢を低くすると、それこそ弾丸のように飛び出した。


 クレアは銃の形にした手をハナビス様に向け、ライトバレットの発動準備をしているようだ。

 光属性の詠唱魔法は相手を攻撃するような物が滅多にないから、バレットしか有効な攻撃方法はないのだ。


 詠唱魔法と無詠唱魔法は同時に発動準備をできるけど、詠唱魔法を二つ同時、無詠唱魔法を二つ同時に発動準備することはできない。


 詠唱魔法は詠唱を唱えなければいけないから当然のことだし、無詠唱魔法は自分で発動したい事象をイメージして魔力を込める必要があるから、これも二つ同時には発動できない。


 ……。

 あ、不可能ではないんじゃない?

 いや、少なくとも今の私やクレアにはできないのだから、考えるのは止めよう。


 何にしろ、いくらハナビス様でもサラを相手しながら、何をしてくるかわからないクレアに意識を割かれるのはかなり厳しい状況だろう。


 いやぁ、間近でこんなレベルの高い試合が見られるなんて審判席も悪くないね!



「ライトバレット!!」


 サラがハナビス様と接触するほんの一瞬前、クレアが無詠唱魔法の発動を告げる。

 クレアが叫んだことで、私でも光の弾丸を観察することができた。


 弾丸の大きさは直径五センチくらい?

 スピードは私のバレットよりも遅い。

 何より、せっかくの無詠唱魔法のメリットである発動タイミングを明かしてしまっているのが致命的だ。

 土壇場で使えるようになったばかりだから、イメージを固めるのに叫ぶ必要があるのかしれないけど。


 光属性だからか視認性が高い分、ハナビス様としては発動タイミングさえわかってしまえば余裕を持って避けられるレベルだった。


 けど、サラが相手ではそれすら一撃を貰うには十分な隙でもあった。


「ちっ! やりずれぇえ!!」


「サラさん!」


「私の左へ回って!」


「わかりました!」


 サラの指示に従って、二人の左側へと回りこむクレア。

 ハナビス様がシミターを持っている右側への牽制だろうか。


 ハナビス様はそうはさせまいと位置取りを変える。

 しかし、サラもそうはさせじとお互いに牽制をし合いながら位置取り争いを起こす。


「くはは。こうも思い通りに戦えねぇとはなぁ!?」


「もう諦めては如何ですか?」


「こんな楽しいこと! 止められるわけがねぇよなぁ!?」


 気合いの叫びと共に、位置取り争いは、腕力で勝るハナビス様が小競り合いの中で強引に勝ち取った。

 バレットの射線をサラの体で完全に切ったハナビス様はチャンスとばかりに一気にサラに向かって踏み込む。


「クレアーっ!」


 サラは自分の体で隠れてしまった射線を戻すためか、叫びながら回転して屈みこむ。


「おせぇ! もらったぁ!!」


 ハナビス様のシミターがサラの肩口目掛けて振り下ろされる!


 カンッ!!


 乾いた音が響き、ハナビス様の攻撃がはじき返されていた。


 光の盾だっ!

 手を銃の形にしてずっと狙っていたはフェイクだった!?

 本命は光の盾によるサポート!?


「盾かよっ! だがな、想定してなかったわけじゃねぇんだぜぇ!」


 ハナビス様は素早くバックステップで距離を取る。

 が、サラは射線を開けるために屈んだだけではなく、相打ち覚悟だったのかすぐに攻撃に移っている。

 回転の勢いそのままにサラのレイピアはハナビス様に命中する。


 勝負あったかと思ったけど、ハナビス様は体を捩りながら直撃を避けたらしい。

 それでもあと一撃でも食らってしまえばホーリーシールドの効果は失われてしまうはずだ。


 サラは追い打ちをかけるが、ハナビス様は光の盾が来る可能性を考えていたためか、距離を十分に離すことに成功していて、落ち着いて防御に専念していた。


 それでもサラは千載一遇のチャンスと見て。

 ハナビス様はここを耐えればまだ勝機は十分にあると考えて。

 一進一退の攻防が続く。


 そして、決着の時が訪れる。


 サラが勝負を賭けに出たのだ。

 左右のレイピアとダガーを目にもとまらぬスピードで連撃を繰り出す。

 必死に受けていたハナビス様だが、このままではいずれ被弾してしまうと考えたのか、腕力差に任せて思いっきりサラを吹き飛ばす。


 そこに。


「ライトォォオバレットォォォ!!」


 クレアの渾身の気合いを込めたライトバレットが放たれる。

 先程より一回り大きいそれは、食らえば確実にハナビス様の負けとなるだろう。

 スピードも先程より早く、サラを吹き飛ばすために腕を振り切った状態では避けることは難しい。

 それでも、ハナビス様は振り切った腕の勢いをそのままに回転してライトバレットを迎え撃ち。


「んだとぉぉお!?」


 確かに光の弾丸を捉え、斬るかあるいは跳ね返すつもりだったハナビス様の剣は、何の手ごたえも得ることはできず空を斬った。


「隙あり、でございます」


 サラがその隙を見逃すはずもなく、レイピアをハナビス様に直撃させて試合終了となった。



 ぽかーん。

 え? いやいや、いったいどういうこと?

 私は置いてけぼりにされたまま、サラとハナビス様が話し始める。



「あぁ、くそ。負けたぜ。でも、めちゃくちゃ楽しかったぜ。お前、名前は?」


「フローレンシア様のメイド、サラでございます」


「サラか。また試合やろうぜ。つーかよ、俺んとここねぇかぁ? フロストんとこの三倍は給金を出すぜぇ?」


「それは難しいかと」


「そんなに貰ってんのかぁ? いくらだぁ?」


「明日を、退屈させないから、と」


「くっくっくっ。そいつぁ無理だぁ。あいつ程周りを退屈させねー奴はいねぇからなぁ。ま、気が向いたら俺んとこ来いよぉ」


「そうですね、来世にでも」


「あぁ、そんときゃど派手な毎日を送らせてやらぁ」


 ハナビス様はすっごく、とっても、え? まじ? ってくらい負けず嫌いだけど、ちゃんと負けを認めることができるし、その後はさっぱりとしている爽やかマンでもある。

 サラを引き抜こうとしたのは頂けないけども。

 うちのサラは安くないんですからねっ!!


 っと、それどころじゃない。


「ククク、クレア!? あれ、どういうことなの!?」


「あははは。実は私、この試合で一度もバレットを使っていないんです」


 は?

ク)いったい私は何をしたのでしょうか?

サ)前話のタイトルである悪知恵って実は……

フ)ナーイスバトォール! 何をしたのか気になる!

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