五十三話 悪知恵
第三試合はエド先輩とリズ先輩だ。
二人は長いことコンビを組んでいるだろうから、お互いの手の内は分かっていると思う。
そんな二人の試合が一体どんな展開になるのか楽しみだ。
「よ~エド。さすがに王都じゃ位階三位以上はいなかったみてぇだな。あたいと同じ四位で簡単に勝てると思ってんの?」
位階とは教国所属の僧兵に与えられるランクみたいな物だ。
位階一位は五位まであって、人々を守ったその功績によって位階が上がっていく。
通常、人々を守れる強さを確かめるという試練を合格すると僧兵として位階五位を与えられ、数年かけて位階を一つずつ上げていくのだが。
リズ先輩はまだ十六歳であるにも関わらず、位階四位である。
対してリズ先輩の言葉から相手の僧兵さんは四位であることが想像できるけど、その風貌は二十代半ばか後半といった所だろうか。
僧兵さんの年齢で四位が平均的なのかはわからないが、リズ先輩が若くして実力を現しているのは想像に難くない。
実際に大剣を使ってワオーンドッグをいとも簡単に倒しているのも見ているし。
「あ? リズの相手するのに位階三位なんて必要あるかよ。オレとこいつで十分だ」
「はは。言ってくれるねぇ? ま、吠え面かかしてやるからかかってこいよ」
リズ先輩が手を出してクイクイと手招きをする。
な、なんてベタな挑発なんだっ!
「リズてめぇ……。ぶっ潰してやるぜっ!!」
き、綺麗に挑発されているぅぅう!?
一色触発の中、クレアがホーリーシールドを三人に掛け、私が試合開始の合図をする。
開始と同時にリズ先輩が大剣を上段に構えて斬りこんでいく。
いくら木製とはいえ、大剣の一撃をまともに食らったらホーリーシールドの効果は簡単に吹き飛んでしまうだろう。
が、そこは同じ位階四位である僧兵さんがしっかりと防ぐ。
僧兵さんもエド先輩と同じく棒術を使うようだ。
綺麗に挑発にかかったと思ったエド先輩だけど、さすがに試合となれば冷静だ。
アニー様、クレアの時と同じように後ろに下がり、詠唱を開始している。
おそらく、ワオーンドッグの時にも使った素早さを奪うシャドーグラビティというデバフ系魔法だと思う。
僧兵さんは詠唱魔法が発動するまでは防御に専念し、エド先輩の魔法が発動する。
エド先輩から黒い塊が放たれ、リズ先輩へと向かって行く。
リズ先輩も発動を確認して、一気に後ろに下がるが躱しきれずに黒い塊はリズ先輩の影へと吸い込まれた。
「くっ!」
「はっはっはっ! リズ、お前がオレに勝とうなんて十年早えぇんだよ!」
リズ先輩は苦々しい表情をして、大剣を構えなおす。
対してエド先輩は喜々として僧兵さんの横へと並び、棍を構える。
二人で一気に攻撃して、勝負を決めるつもりだろう。
やや僧兵さんが先行する形で二人がリズ先輩へと襲い掛かる。
質量のある影によって動きを制限されたリズ先輩ではきっと、二人を同時に捌くことはできないはず、と私が思っていると。
素早く、力強い剣閃が横一文字に放たれた。
来るはずのない素早い攻撃をとっさに防御をした僧兵さんだが、大剣の勢いを殺しきれず吹き飛ばされる。
エド先輩は僧兵さんが死角になってしまって大剣の動きを捉え切れず、僧兵さんごとふきとばされ、勝負は決してしまった。
「はっはっ! あたいがエドの魔法に対して何も対策をしないと思った? これだよ、これ」
リズ先輩は振り切った大剣を地面へと突き刺し、服に隠されていた物を引きずり出す。
え!? 木製の武器ってそんな簡単に、しかも深く地面に突き刺さるものなの!?
あ、いやいやそうじゃない。
リズ先輩が取り出した手には闇属性の魔法耐性を高めるペンダントがキラリと光っていた。
「くっ、リズ……。てめぇ、どこでそれを……」
苦々しい表情でゆっくりと立ち上がるエド先輩。
いくらホーリーシールドが掛かっているとはいえ、あの攻撃を食らって吹き飛んでいたのだからそれなりにダメージを食らってしまっているみたいだ。
「スイフトに借りたのさ」
「ふざけっ! そんなんありかよっ!」
「装備は自由だったはずだ。もちろんタダじゃないし、交換条件を持ちかけられたんだけどさ」
「クソがっ! あいつの入れ知恵かっ! リズがそんな頭使えるわけねーんだよっ!」
「はは。悪いね、エド。あたいの勝ちだ」
リズ先輩は大剣を地面から引き抜いて、後ろ手に背負い振り返りながらエド先輩に言い残して去っていく。
か、かっこいい……!
リズ先輩が男の人だったら好きになってしまっていたかもしれない!
なんてゆーか、私の周りには本当に素敵な人ばっかりだ。
これもクレアの主人公補正ゆえ、傍にいる私にも出会いがあるってことなのかな。
「スイフト様、リズ先輩がおっしゃっていた交換条件ってどんな物だったのですか?」
「あぁ、エド先輩がよく使う魔法の情報提供と、僕とリズ先輩が試合をすることになった時に大剣を使わないでいてもらうことさ」
「へぇ~。リズ先輩はよくその条件を飲みましたね」
「ちょっと悔しいけど、僕よりエド先輩を脅威と捉えていたんだろうね。それに交渉、というより僕も譲歩はしたしね」
「ほうほう、詳しく!」
「ははは。それは秘密さ。次にフロストと交渉する時のカードが無くなってしまうだろう?」
少し悪戯な笑みを残してスイフト様は爽やかに去っていく。
はぅ……!
危うくまた好きになってしまうところだったっ!
いや、ホントみんな素敵すぎないか。
あ、そもそもスイフト様はゲームの攻略対象なので当然と言えば当然でした。
さてさて次はハナビス様対クレア達である。
正直サラは私が知っているよりずっと強くなっていて、実力の程がわからない。
学院に来た頃のサラなら兎も角、今はハナビス様とどちらが強いかと問われると判断できないのが正直な所かな。
となるとクレアのサポートがある分有利に思えるけど、アニー様との戦いで見せた動きをハナビス様がまたすれば勝負は分からないか……。
うーん、こんな面白い試合を審判役として間近で見られるのはいい体験ね!
試合が始まる。
最初の流れは今までの三試合と同じで、前衛が前へ、後衛は後ろへ。
一つ違うのは、今までの試合より打ち合う攻撃の数が今までの比ではないこと。
カカン、カン、カカカカン、と木剣同士がぶつかり合う小気味良い音が訓練場に広がる。
……いやなんだよカカカカンって連続音、おかしくない?
木製だから普通の剣よりは軽いんだろうけどさ、人間ってそんなに早く剣を振れるものなの?
目で追うのがやっとの攻防は互角で、私に息をすることを忘れさせる程だ。
無限に続くかと思われた攻防だが、よく見ればハナビス様が押している。
速さはサラが勝っているようだけど、純粋な腕力の差が攻防に出始めてきたのだ。
何故だかわからないけど、サラは利き手ではない左手でメインの攻撃をするレイピアを持っているのだから、当然の結果だと思う。
利き手で持てば腕力の差を埋められるし、技術的にも抑えることもできると思うのに。
ホントに何故そんなことをしているんだろう?
このままではサラが押し負ける状況を、クレアのサポートが覆す。
詠唱魔法によるバフがサラに掛かると、サラはその場で斬り合いを避け、常に飛び回るように動きながらハナビス様へと攻撃を繰り出す。
すごい! すごい! あんなに速く飛び回っているのに全然スカートの中が見えない! サラもメイド服もすごい!
それまで押していたハナビス様だけど、段々とサラの動きに翻弄され、ついには一撃を受けてしまう。
「っつ! くははは。コイツもつえぇ! いいぜいいぜ! お前らは本当に俺を飽きさせねぇ! でもなぁ? 最後に勝つのは俺だぜぇ!!」
ハナビス様の体から、アニー様との試合同様ほんのりと薄青い光が放たれ、サラの攻撃速度に追いつく。
「奥様に魔法を使わせた時に見せた動きですね。なればこそ、負けるわけには参りません!」
試合開始の時と同じくスピードはサラが、力はハナビス様が上回る攻防を繰り返し、サラの気合いも空しく、サラが段々と押されていく状況へと追い込まれていく。
「ライトバレット!!」
その状況で、クレアの無詠唱魔法である光の弾丸がハナビス様に襲い掛かった。




