五十二話 おや!? ハナビスさまの ようすが……!
早速試合が始まる。
ハナビス様とアニー様が訓練場の中央へ。
アニー様の後ろには槍を持ったアプリコット家の騎士と思われる人が待機していた。
三人にクレアがホーリーシールドを掛け終わる。
試合開始直前の二人の間に、何故か私がいる。
最初は場外から観戦させてもらうつもりでいた。
が、いつの間にか私が審判役になっていたのだ。
い、一番近くで観戦できるんだからいいもん!
「よぉアニー。ちったぁやるようになったかぁ?」
「そうね~、色んな人に稽古をつけてもらったよ。いつまでも前のあたしと思わないでよね~」
「くくく。そうか、フロストん家にも行ったんだろぉ? 女剣はすごかったよなぁ?」
「ん~? なんのこと~?」
「惚けてんのかぁ? 岩穿つ女剣、フロストの母ちゃんだよ」
「? 本当に知らないけど~}
ジト目で私を睨むアニー様。
いや、違うの、アニー様のためを思ってですね……。
えぇい、知ったことかっ!
「試合、開始!」
「ちょ、フロスト!? 後で覚えておいてよね~!!」
私の声と同時にアニー様が恨みがましい声を出しながらも、すばやく騎士さんと位置を入れ替える。
リーダーがやられてしまったら負けだから当然の作戦だ。
騎士さんは槍の長いリーチを活かして中距離を保とうと、牽制のために槍を構える。
が、ハナビス様は位置を入れ替えることを読んでいたのか、開始の合図と同時に飛び出していた。
騎士さんもすぐに反応して近づけまいと突きではなく、払いを狙う。
突きは点の攻撃だけど、払いは線の攻撃だから、回避することは簡単じゃない。
それでも、ハナビス様は私の、騎士さんの想像を超えてきた。
左からくる槍の払いを右手で持ったシミターの刃の部分を下に向けて受け、勢いを殺すと、なんとシミターと槍の接地点を中心にクルリと回転して槍を飛び越えたのだ。
騎士さんの槍はそのまま右方向へ流れていき、隙を晒す。
その隙をハナビス様が見逃すはずもなく、斬りかかる。
が、さらにその上をアニー様が行く。
「ファイアーボール!!」
開始後位置を変えた時から詠唱を開始していたのだろう、火魔法のファイアボールを発動した!
「ちっ! 剣だけじゃなく魔法も使うようになってんだなぁ!」
「ふふ。あたしは剣だけじゃハナビスに勝てないからね~。なんだって使うって、決めたのよ~!」
寸での所でハナビス様はファイアーボールを躱すが、態勢はわずかに崩れてしまう。
それを見たアニー様は一気に前へ出る。
同時に、態勢を立て直した騎士さんもハナビス様に向けて突きを放つ。
ハナビス様は突きを脅威と感じたのか、崩した態勢を強引に戻し、突きを躱し、槍の攻撃に注意を払って防いでいく。
その隙をつき、アニー様がハナビス様へ一撃を入れる。
騎士さんの攻撃を中心にアニー様が剣で魔法でサポートし、それをハナビス様が防ぐ攻防が続く。
が、全力の攻防は長くは続かない。
お互い、息を入れるために一度距離を離した。
「行ける! 二対一だけど、これならハナビスにも勝てる!」
「くくく。おもしれぇ。おもしれぇなぁ? 戦いはやっぱ、こうでなくっちゃなぁ。ギア、上げていくぜぇ!?」
ハナビス様は背筋を伸ばし、何度か大きく息を吸う。
呼吸を整える間も、アニー様達からは決して視線を外さない。
私が注視しているとハナビス様の体が一気に沈み、態勢を低くしたまま駆け出した。
ほんのりとその体から薄青い光を放ったように見えた。
距離を詰めるハナビス様の速度は、各段に上昇していた。
先程まで押されていた騎士さんの槍とアニー様の剣と魔法をを危なげなく捌いて行く。
そして着実に騎士さんに攻撃を当て、ホーリーシールドの効果を削り切ってしまった。
一対一となったアニー様もそのまま押し切り、序盤の攻防からは想像できない展開であっけなく、ハナビス様の勝利で決着した。
「あ~! やられた~!! 悔しいなぁ、最後のあれ何よ~!!」
「あぁ? よくわかんねーけど、女剣と試合してから楽しくなって集中してっと、体が軽くなりやがんだよ。前からたまにそんなことはあったけどよ、女剣と戦ってからは別格になったなぁ」
何にも確証はないけど、身体強化系の無詠唱魔法なんじゃ?
詠唱魔法にはバフ系の魔法は存在するけど、無詠唱魔法で身体強化なんて聞いたことがないけど。
まぁそもそも無詠唱魔法の使い手が少ないし、学者さんでもない限り公開なんてしないか。
それでも、この世界では異質な魔法な気がした。
それにしてもすごかったなぁ。
無詠唱魔法だと仮定した時、単純な速度だけで言えばアクセルより遅い。
けど、安定性と効果時間でいったら圧倒的に上だ。
何よりハナビス様の単純なスピードだけじゃなくて、反応速度が全体的に上がっているように見えたし。
くっ! せっかく生み出したアクセルが負けてるだなんて認めない! 認めないったら認めない!
冗談は置いといて、私のプライドなどどうでもいいのだけど、いやよくない? でも、うん、やっぱり無詠唱魔法なのではないだろうか。
今までハナビス様が魔法を使っている所は見たこと無いけど。
「ハナビス様、先程のそれは、無詠唱魔法ではありませんか?」
「なんのことだぁ? 俺ぁ、精霊と相性が悪くて魔法が発動できねーんだ。祝福は貰ったんだがよぉ、どうにも魔法が発動しやがらねぇ。他の奴が言うには俺の声は精霊に届いてねーらしい」
「そうですか……」
う~ん、私の勘違いかな?
スポーツ選手で言うところのゾーン的なものかもしれないし。
本人がよくわかってない以上どうしようもないか。
ハナビス様とアニー様の試合が終わった余韻冷めやらぬ中、すぐに第二試合の準備が行われる。
スイフト様対クレア達だ。
クレアがホーリーシールドをかけるため、一度全員が中央へと集まる。
クレアがホーリーシールドを掛け終わると、スイフト様と二、三言言葉を交わしていた。
その間に、護衛さんが鎧を装備している。
ホーリーシールドを掛けてもらった後に鎧を着るってことは、鎧に攻撃をしてもホーリーシールドの効果を削ることができないってわけか、嫌らしいなぁ……。
準備が完了し、第二試合が始まる。
私が開始の合図を告げると、護衛さんとサラが前へと飛び出す。
クレアは開始と同時に詠唱を開始しており、この展開はアニー様の時と同じだ。
クレアは恐らく素早さを上げるバフ系の魔法を使うだろう。
それまで、サラは一対二の状況になる。
しかも、護衛さんはしっかりとした鎧を装備しているため、ホーリーシールドを削ろうと思ったら鎧を着ていない部分を攻撃しないといけない。
対してサラはメイド服。
う~ん、この絵面よ。
先手は軽装であるサラ。
サラの持ち味は速さと手数だ。
もちろん、一撃必殺の突きもあるが、ジョルジオ様との試合と違って今は二体一の状況だ。
そんな状況では外した時の隙をカバーしきれない可能性があるから、そう簡単には使わないはず。
左手のレイピアは攻撃のみを、右手のダガーは攻防自在に振るっていく。
先手こそサラが取ったものの、バフの無い状態での二体一はすぐにサラが押され気味の状況になっていく。
護衛さんがサラの攻撃を全て受け、スイフト様がサラに攻撃を仕掛ける。
役割を完全に分担することで、それぞれのやるべきことに集中して攻めていた。
何よりハナビス様とアニー様の試合もそうだったけど、単純に一人で複数を相手することはとても難しいのだ。
が、その状況はクレアのバフがかかるとことで一変する。
バフの効果によって攻撃速度が上がったサラ。
サラの攻撃の隙をクレアは光の盾で的確にカバーする。
勢いは完全にひっくり返り、クレアとサラが一気に押し返した。
サラの攻撃を鎧で上手くカバーしていた護衛さんだが、結局サラに有効打を与えることはできずにホーリーシールドの効果を削られ切ってしまう。
その後はワンサイドゲームになるかと思ったんだけど、スイフト様はロングソード一本でサラと渡り合った。
正直、私が思っていたよりも長い時間、スイフト様はサラとの攻防を演じていた。
たぶん、純粋な技量が上がったというよりも、サラの攻撃を読んでいるんだろう。
それでも技量の差は大きく、程なくしてスイフト様のホーリーシールドは削られ切ってしまうのだった。




