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四十六話 ベルモへの凱旋、夏休みの終わり

 痛く、ない?


 ゆっくりと目を開けると、目の前は赤で染まっている。


 あぁ、やっぱりダメじゃん。感覚が麻痺しているのかな?




「強く、なったわね。フロスト」


 あれ? 声が、聞こえる?


 顔を上げると、お母様がいて、私を抱きしめてくれた。


「お母……様?」


「もう大丈夫よ。お母さんがもう悪い魔物はやっつけたから」


 気づくと私の前に中央から真っ二つにされたワオーンドッグが転がっていた。


 さっきの生暖かい感触はお母様がワオーンドッグを真っ二つにした時に顔に掛かっちゃったのか。


 なんか、クイーンロックホーンを倒した時のアニー様の気持ちが少しだけわかった気がする……。


 お母様には血が一滴も付いていないことにはなんか納得がいかないけど……。




「フロスト―! アリシア―!」


 お父様が走って私とお母様を抱きしめる。


「無事で、よかった……。ノルも無事か!?」


「大丈夫、クレアの魔法のおかけで無傷ですよ」


 二人はクレアの結界のことなど知らないだろうし、不安だったのかもしれない。そうだ、クレアはどうなった!?


 ノルとクレアの方をみると、クレアが魔力切れのためか意識を失っており、ノルがその体を必死に支えていた。


「さぁフロスト、あなたが勝鬨を上げなさい?」


 お母様はそう言って、私を立たせる。


「でも、最後の進化したワオーンドッグを倒したのはお母様じゃ……」


「最初から最後までこの討伐作戦のリーダーはあなただったわ。みんなにこの討伐成功を誇ってほしいのでしょう? なら、あなたが一番誇りに思って、みんなに手本を見せなきゃダメよ?」


「ん。わかりました」


 思うことは多少あるけど、確かにお母様の言う通りだ。


 私が堂々とこの成果を誇れないで、他の誰が誇れるというのだ。




 既にみんな光の耳栓は外している。


 大きく一つ深呼吸。




「ワオーンドッグは全て討伐した!! わたくし達の勝利です!!」


 ダガーを空に掲げて、私は思いっきり叫ぶ。


「「「ウオォー!!」


 討伐に参加したみんなが同じように武器を空に掲げ、精一杯叫んでくれた。








 守備隊の内、戦いに参加していなかった二人が先にベルモへ報告へと戻っていった。


 他のメンバーは休憩しつつ武具の手入れなどをしている。武器って思った以上にメンテナンスが大変なのだ。私はほとんど使わないけど。


「お疲れさん、フロスト。今回の討伐、あたいはなかなか楽しめたぜ!」


「あ、リーザリアさん。今回はご助力頂き助かりましたわ。ベルガモット家を代表してお礼を申し上げます」


「ははは。そんな堅苦しいのはよしてよ。同じ学院生だろ? あたしのことはリズって呼んでくれ」


「そうです、ね。はい、わかりましたわ。リズ先輩」


「先輩か~。ちょっとこそばゆいな~。まぁ悪くないか。んでさ、二学期になったらあたいとバディ組もう! フロストとなら楽しくやれそうだ!」


「えっと、わたくしは……」


「もしかして一学期と同じでクレアと組む? それとも別に約束ある?」


「いえ、そういうわけではないのですが……」



 私は、ジョルジオ様と、バディを、組みたいのっ!!



 バディ効果は一学期でスイフト様とアニー様で実証された!


 ならば二学期にジョルジオ様とバディを組むという手段を取らないのは愚策!


 なんとか話しを逸らして行かなければ……。


「エド助祭はリズ先輩とバディを組まなくてよろしいのですか?」


 盗み聞きの魔法使ってたからエド助祭は私とリズ先輩が組むのは気にしてないのはわかってるけど、なんとか彼に押し付けなければっ!


「オレが何言っても言うこと聞かない脳筋だぜ? 好きにすればいい。お前と組んで頭使うことを覚えてくれればいいとすら思ってるぜ。あぁ、それとオレのこともエドでいい。学院では教国の階級なんて関係ないしな。まったくクソ食らえだぜ」



 エド助祭は苛立ちを振り払うかのように、ローブを勢い良く脱ぎ払った。ずっと被っていたフードと一緒に。そして、ずっと隠していたその顔を晒した。


 その容貌は、攻略対象であるエルドレウスの特徴と一致していた。


 水色の髪を少し長めに伸ばしていて、とても中性的な、というよりもう女の子にしか見えないような整った顔立ちだ。


 ですよ、ね……。うん、途中からそうなんだろうなとは思ってました……。


 そして、好きにしろって回答も予想通り……。なんとか押し付ける方法は……。


「はい。それではエド先輩とお呼びさせて頂きますわ。それにしてもリズ先輩は護衛なんですよね? 他の方を探すことを考えるとそれはそれで面倒な気がしますけど……」


「確かにな……。こんなんでもいるといないとじゃ周りのうるささが違うからな……。はぁ、まったく面倒なことばかりだぜ……」


 よし! これはなんとかなりそうだ! だけど藪蛇にならないようこれ以上は止めておこう!


「何はともあれ、エド先輩も今回はお力添え頂きありがとうございました。近々民のために炊き出しを行いますから、その際はお二人とも足を運んで下さると嬉しく思います」


「野暮用までに間に合ったら参加させてもらおう。それじゃぁな」


「野暮用、ですか? お急ぎなのでしょうか?」


「あぁ、ダンジョ」


「おい、リズ。いやなんでもな、気にするな」


「そうですか……。炊き出しはなるべく早く準備しますので、その時にお会いしましょう」


 お二人とは手を振って別れる。


 って、ダンジョンだよね。たぶん。


 ゲーム的には習熟度アップ兼アイテム収集用のマップだ。時期や好感度によってはイベントも発生する。


 プリンセスソードはレベル制じゃなくて、一日二回選べるイベントスポットによってパラメータが上がるシステムだ。


 図書館とか訓練場といった選択した場所によって対応したパラメータが上がって、時には攻略対象とのイベントが発生する。


 それに対して習熟度は特定の武器を装備して戦えば戦う程の攻撃力が上がる仕組みで、戦闘でしか上がらない。なので、その救済用ステージだ。


 装備や装備作成用の素材アイテムもドロップするので、極めるなら必須のステージでもある。


 他にも特定ダンジョンのクリアがグランドルートにも関係するとか。グランドルートは諦めてたのでちゃんと覚えてないけど、最深部クリアが条件だった気がする。ちなみにダンジョンは複数ある。


 まぁ、私には関係がないかな。






 みんな武器の手入れが終わり、休憩も十分とれたのでベルモに向かって出発する。


 隊列は大雑把に守備隊、ベルガモット家の関係者、教会関係者といった並びになっている。


 ベルガモット家の関係者の中ではお父様とお母様が馬で先頭を行き、私、ノル、クレアが真ん中辺り。サラとブライアンが後ろになっている。


 先を行っていたお母様が馬から降り、私達の所までやってくる。


「クレア、今回の魔物討伐に協力してくれてありがとう。あなたがいなければこうもスムーズに行かなかったわ。

何より、ノルのことを守ってくれてありがとう。一人の母親としてあなたに最大限の感謝を」


 お母様はそういって、クレアの手を取り頭を下げる。


「あ、いや、えっと、その……。お姉様の弟を、ご家族のことをお守りするのは私にとって当然のことで、そんなことを改まって……、えっと、その……」


「そういえばあなたはフロストの事を姉と慕ってくれているのよね。どうせならウチの子になっちゃえばいいんじゃないかしら?」


 !?!?


「母様それはいい考えですね! 姉様が二人かぁ。姉様は姉様だし、クレアさんは……クレア姉ちゃん! かな?」


 ははは。家族が増えるんですねぇ。さすが主人公補正。って、そんな補正あるかぁ!?


「あわ、あわわ、あわわわ……。そ、そんな……。私みたいな平民がお姉様とか、か、家族だなんて、お、恐れ多い……。はわわわ」


「うふふ。冗談よ。でも、家族と思っていつでもウチに帰ってきていいのよ。少なくとも私は、いつでもあなたを歓迎するわ。それくらい感謝しているもの」


「あ……、はい。嬉しい、です……」


「えー? なんだぁ、残念。でも、クレア姉ちゃんって呼んでもいいよね?」


「はい、ノルさん」


 私のことなど置いてけぼりで和気あいあいとした空気のままベルモへ到着するのであった。






 ベルモの街では喝采を持って討伐隊が迎えられる。


 先行していた守備隊の報告によって住民たちが集められ、私達の凱旋を祝ってくれているのだ。


 その光景を目にした守備隊や傭兵さんの面々は、最初こそ面を食らったような表情をしたけれど、出発の時とは違って堂々と顔を上げてみんなの声援に応えていた。


 私が作戦開始前にした演説のおかげと己惚れたい。だって、ものすごく恥ずかしかったし。


 効果がなかったって言われたら二日は食っちゃ寝生活をしてしまうくらいには落ち込む自信がある。




 そして、終着点であるベルガモットの領館前で、今回の討伐についての詳細を住民にお披露目する。


 討伐の内容は、娯楽の少ないこの世界にとって大変楽しみにされる娯楽の一つである。


 討伐隊の活躍を勇ましく語り、ヒヤっとした場面を危機感一杯に語り、最後に勝利の瞬間を語る。


 語りに合わせて剣でその場面を再現したり、魔法を使ったり。時には倒した魔物の素材を披露したり。


 料理や酒をみんなで持ち寄って夜通し騒ぐのだ。




 自分達の街が平和になったことを実感するために。




 その宴の最中、クレアの魔法がいかに有用だったかをこれでもかとお母様が語り、クレアがいなければこれほど早く討伐はできなかったと締めた。


 こうしてクレアは街の人気者になったのだ。






 この魔物討伐以降はこれと言った事件はなく、のんびりと過ごすことができた。


 サラと稽古してダイエットしたり、クレアと無詠唱魔法の改良をしたり。


 変わったことと言えば、部隊のメンバーが訪ねて来てくれたこと。


 最初に来たのはハナビス様。魔物討伐の翌日に来た。


「なんで今更来るんですかー!」


「何わけわかんねーこと言ってんだっ」


 と言われ、ポカポカ胸を叩こうとしたら頭を押さえられて手は空を切るばかりだった。


 そんな彼はリズ先輩と鉢合わせ、すごく意気投合していた。


 そして無謀にも二人はお母様に模擬試合を申し込むという暴挙に出て、ボッコボコにされていた。ざまぁ。



 次に来たのはスイフト様。以前魔物討伐の予行演習に行った時の護衛だけを連れ、各街に行商をしているとのことだ。


 ベルモにはこれと言った特産品はないので、それほど儲けもないだろうにわざわざベルモに私を訪ねてきてくれたと聞いて、とても嬉しくなった。でも、勘違いしてはいけない。スイフト様にはアニー様がいるのだ。


 スイフト様は酒類を多く運んで来てくれたようで、父や街の商人達がこぞって買いに来ていた。さすがスイフト様。ベルモに酒類が少ないことを事前にリサーチされていたのだろう。


 私の部隊メンバーということでハナビス様共々館にご招待した結果、お父様にとても気に入られていた。しかし私は知っている。お母様に内緒でワインを貰っていたことを……。



 最後はアニー様だ。アニー様が来たのは夏休みももう終わる頃で、ご実家の伯爵家にはもう戻らないらしく、ベルガモット領で過ごされた後、私達と一緒に早めに学院へ戻ることになった。


 アニー様にはハナビス様と同じ轍を踏ませないよう、お母様のことは黙っておいた。


 その代わりと言うと変だけど、同じ火属性魔法が使えるお父様とノルと魔法の特訓をしたり、お父様と手合わせを行うなどしていたようだ。


 アニー様もお父様も下位の火魔法しか使えないが、火魔法の使い方を学ぶという点では二人から教わることができたのは、ノルにとっていい刺激になったのではないだろうか。




 そんな感じで私は友達と初めて夏休みを過ごした。この世界で過ごしてきて一番楽しい夏だったと、私は断言できる。


 素敵な思いでが沢山できた長い休みが終わるのが憂鬱、という気持ちは私には一切ない。


 素敵な二学期が、ジョルジオ様との素敵な学院ライフが待っているからっ!!

フ・ク・サ)ここまでお読み頂きありがと~ございます!夏休み編、完結です!

フ)そしてそして~二学期編やるぞ~!

サ)元々分割二クール決まってたアニメみたいな発表ですね、お嬢様

ク)そんなことないですよ!この一週間で一気にブクマが一・五倍以上に増えたから昨日決まったらしいですよ!

フ)ブクマ・評価ありがたや~。そうそうそこのボタンをポチっと押すだけで活力が湧くんです!


サ)ただ…、昨日決まったばかりですし、ある程度書きためてからじゃないと投稿できない性分のようで、今しばらくお時間を頂ければと思います。具体的には三月から毎日更新を

フ)できたらいいなぁ。


フ・ク・サ)ということで、また二学期でお会いしましょ~! またね!

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