四十四話 仕事もバトルもコミュ力が大事
岩穿つ女剣。それがお母様の若い頃の二つ名である。
お父様に聞いたんだけど、土属性の魔法を巧みに使い、土や岩ごと魔物を貫くという荒業で傭兵稼業をしていたんだって。若くして位階も二位まで頂いていた猛者だとか。
普段の振る舞いや見た目からは到底信じられないけれど、その実力は過去の魔物討伐で目に焼き付いている。サラの実質的な師匠はお母様であったりもする。
そんなお母様が後方からこちらに向かって歩いてくる。その姿からはなんだか圧迫感のような物を感じる。集中力を高めているのか、ゆっくりとした歩みだ。
と、それらしいことを言ったけど、ゆっくりと歩いているのは多分スカートだからだ。魔物討伐だって言うのにいつも通りの服なんだから……。
後方からクレアに指示を出す役割だったのでワオーンドッグの吠え声をギリギリ耐えられるようかなり距離が離れている。こちらに着くまでは数分はかかるんじゃないだろうか。
最前線では場の緊張が高まる中、お父様とリーザリアさんがワオーンドッグの前に立ちはだかる。ワオーンドッグの姿形が変わり、どれほど脅威度が増したかわからないためか、二人ともこ様子見をしているようだ。
お母様が動きだしたのは分かっているのだろう。お父様は時間稼ぎに徹するように見えた。一方リーザリアさんは攻撃を仕掛けたいのか、隙を伺っているようだ。
ワオーンドッグは自身に起きた変化に戸惑っているのか、動きを確かめるように口や腕をしきりに動かしている。
ひとしきり動かして自分の身体の変化を把握したのか一声吠え、リーザリアさんに飛び掛かっていった。
耳栓をしているので吠え声による影響は皆無だったはずだ。それでもリーザリアさんはワオーンドッグの攻撃を防ぎきることはできなかった。
大剣でワオーンドッグの爪と口の攻撃を防ぐも、あまりの威力に数センチ押し込まれてしまう。それを見たお父様がフォローに入り、ハルバートで突きを狙うもあっさりと飛び退かれて空を切る。
的はデカイけど、速さが相当上がっている。あの速さ、身のこなしじゃ魔法を当てるのは一苦労かな……。
広範囲の魔法であれば当てられるだろうけど、味方を巻き込みかねないし、私の手持ちではこの状況に適した詠唱魔法はない。動きを止められればやりようはいくらでもあるけど……。
ワオーンドッグのスピードに対抗するにはこっちも早い魔法か数打ちゃ当たるの精神で行くしかない。
バレットの改良、土壇場で試してみるか。
拳銃の詳しい構造なんてわからないけど、ドラマとかで線状痕というのが弾丸に刻まれるというのは聞いたことがある。拳銃の銃身に溝があって、それの跡が刻まれるとかなんとか。
ドラマではどの銃から発射されたかわかる! とかで犯人を絞り込んだりする時に使われていたけど、そもそもの目的は発射される弾丸に回転を与えて、威力と速度を上げることだったはず。
なら、バレットにも回転を与えて威力とスピードを上げられればっ!
今まで通りに手を拳銃に見立てて、その先に風の銃身を作る。そこに線状痕を刻むための溝を螺旋状にイメージして……ってできるかぁ!? そう簡単に二つもアレンジ加えて新しい無詠唱魔法を作れると思うな!?
もういっそ風の銃身自体を螺旋状にして、一気に撃ちだす!!
「あったれぇぇええええ!!」
両手からバンバンバンと三発ずつ計六発のバレットを発動させる。今までとは明らかにスピードが上がっていた。そして、半分の三発がワオーンドッグにヒットする。
結果はワオーンドッグの体毛を突き破り、出血させることに成功していた! 貫通はしてないけど威力も上がってる!
けど、魔力の消費が思った以上に多い。気軽に連発してたらすぐに魔力が切れちゃいそうだ。使い慣れてない無詠唱魔法はやっぱり費用対効果が悪い……。
とはいえ、ワオーンドッグはそれなりにダメージを負ったらしい。先程より明らかに警戒度を高めている。後はお母様が到着するまで守りきれば、そう考えているとリーザリアさんが大剣で斬りこんでいった!
待ってよぉ~! とは思うもののお母様の実力など知らないだろうし、自分達で倒さなければと思うのは当然のことかもしれない。
う~む。
お母様が来る前に倒してはいけないということもないし、絶対に倒せないとわかったわけでもない。いつまでもお母様に甘えてもいられないんだから、全力でサポートして倒せるものなら倒しちゃうぞ!
と、意気込んだはいいものの。お父様以外は初めて一緒に戦う人達だ。しかも吠え声対策で光の耳栓をしていてコミュニケーションを取ることができないので、連携を取ることがほぼ不可能なんじゃ……。
どう動きべきか一瞬思考の海に溺れそうになる。そんな私を救うように、光の導が三つ煌めく。
お父様とリーザリアさんの後ろにいた傭兵さんそれぞれに光は飛び、お父様達の手前から奥に、ワオーンドッグを中心に四角形に取り囲むように指示が出ていた。最後の光は私とエド助祭に。お父様とリーザリアさんの後ろに行くようにと。
まさか私がお母様を待たずに討伐することを考えてるってクレアにはわかっちゃった!? いや、冷静に考えればクレアもお母様の実力は知らないから、私達へのサポートはある意味普通?
だとしてもクレアがサポートしてくれるなら心強い。他の人達とは連携が取れなくても、クレアとなら大丈夫。
私のやりたいことをきっとわかってくれる。そしてそれを光の導で他の人に伝えてくれるって信じれる。
俄然、やる気出てきた!
後方を見るとクレアがこっちに向かって走ってきていて、お母様のことはとっくに抜かしていた。ノルの護衛をお願いしていたんだけど、クレアに合わせてノルも一緒に来てしまっているのが少しだけ不安だ。
とはいえ、さっきの位置じゃ私の動きを見て合わせるのは無理だったろうし、光の導にも時間差が出てきちゃうから仕方がないか。
さてさて、どうやって攻めるかな? お父様もリーザリアさんも武器は大きく威力重視の物だ。動きを止めて貰って私の魔法という流れはちょっと難しいかも。
なら、やっぱり私がサポートして二人に攻撃をしてもらうのが無難? でも、二人が作った隙を私が狙い撃つのもありだ。
ふと横を見るとエド助祭が詠唱を唱えていた。耳栓のせいでどんな魔法を詠唱しているかは全然わからないけど、さっきはワオーンドッグをすぐに討伐していたみたいだし、威力のある魔法なのかな? ちょっと参考にさせて頂こう。
そんな私の予想はすぐに裏切られる。エド助祭が使った魔法は闇属性のデバフ系魔法だった。
闇属性の魔法は光属性とならんで祝福を得るのが稀な魔法だ。私が今まで闇属性の魔法を使う人に出会ったことがないくらいには。
私が知っている闇属性の魔法を使える人は、上級生の攻略対象のみ。そう、エルドレウス。愛称がエドという司祭だ。
いや、ねぇ? まさか、そんな、ねぇ? そんなことないよ、ねぇ? ねぇ!?
まてまてまてまて。落ち着け。今はそれ所じゃないでしょうが。
効果を見た感じ、エド助祭が使ったのは相手の視界を一定時間闇で覆う魔法 ダークブラインドだと思う。
ゲームでは魔物の命中率が極端に下がるのでかなり使い勝手がよかったけど、この世界での効果の程は分からない。
ただ、闇魔法が掛かったと見るやすぐにリーザリアさんが斬りこむ。う~ん、リーザリアさんが行動を起こすくらいには信頼できる魔法ってことか。
とはいえ、まだ私には打開策が見えてこない。確かに視界を著しく制限できたのかもしれないけど、ワオーンドッグは耳をヒクヒクと動かしており、かすり傷は負っているもののリーザリアさんの大剣を致命傷を負わないように回避している。
リーザリアさんの攻勢を見たお父様もチャンスと判断したのかハルバートで突いたり、刃が付いている方で斬撃を繰り出しているけれど、致命傷を与えることはできていない。
普段であれば詠唱魔法を使っているとお父様はタイミングを合わせて射線を開けてくれるから援護ができるんだけど、耳栓をした状態ではそれができない。
タイミングを計って詠唱魔法を使うか、発動が早い無詠唱魔法を使うか……。
無詠唱魔法なら使い慣れていて応用が効く風魔か、先程ダメージを与えられた改良型バレットかのどちらかだろう。どこでもウィンドカッターじゃ威力的に心もとない気がする。
う~ん……。
私が悩んでいると光の導が私、お父様、リーザリアさんにそれぞれ近づいてきた。




