四十三話 安全対策が崩壊しました
お母様の指示を聞いたであろうクレアが光の導を三つ生み出し、こちらに光がやってくる。それと同時にワオーンドッグの後方が岩の壁で塞がれる。お母様のロックウォールの魔法が発動させた。
お母様は土属性の魔法を中位まで使える。ロックウォールは岩の壁を作り出して攻撃を防ぐために使われる魔法だけど、今回はワオーンドッグの退路を塞ぐために使っているみたいだ。
詠唱を基本の物から変えて遠くで発動させているけど、一回では退路を全て防げていないので、あと何回か同じ魔法を使って退路を塞ぐつもりだろう。
クレアが発動した光の導の内、二つの光がエド助祭、リーザリアさんに向かい、相対するワオーンドッグを繋ぐ。私達から見て右側にいる二匹だ。
もう一つは守備隊の三人をぐるり二回転程し、一匹のワオーンドッグとを繋ぐ。私達から見て一番左側にいる一匹だ。
クレアの光の導は一度に三つしか生み出せない。私達は指示をまたずに行動するべきか……。私はお父様と視線を合わせる。
こういう時にやはりコミュニケーションを取れないのはかなりやりづらい。けれど、そこは家族の絆でカバー! お母様はきっと私とお父様にはそれぞれ一匹ずつ倒せと考えているに違いない!
お父様が頷いたので、私とお父様は真ん中にいる二匹に狙いを定めて走り出す。
この短期間で改良したバレットで牽制だ!
無詠唱魔法については一学期から今までクレアと共に練習してきてわかったことが二つある。
一つ、一度思い描いた魔法を初めて発動するまではとても時間がかかるけど、一度発動できた魔法をアレンジすることは比較的容易なこと。
二つ、特定の動作と紐づけることで発動が極端に短くすることができること。
たとえば、クレアの光の盾を耳栓に応用することも短時間でできたし、エアーズガーデンは二つの魔法を合わせることで割と短時間で使えるようになった。
バレットも発動ができるようになってから、改良は簡単にできた。
手を拳銃の形にすることで発動を早くすることができているし、両手でも使えるようになった。バンバンバンって感じで反動があるように上下する動きにするとスムーズに連射もできるようになった。
威力面はまだ改良の余地があるけどね。この調子ならそれほど難しくはないかもしれない。
そんなわけで連射力を高めたバレットでバンバンバンと連射して牽制し、詠唱で強化したウィンドカッターで仕留める準備を進めながら走り続ける。お父様は私を守るためかスピードを合わせてくれていた。
後数秒で接敵というタイミングで私は正面にいるワオーンドッグに対し、両手を銃の形にしてバレットを連続で発動する。直撃したワオーンドッグがひるみ、蛇行し始める。そこにウィンドカッターを発動!
って、お父様が射線上に入ってきた!?
慌ててウィンドカッターを上空目掛けて発動させてなんとか同士討ちを回避。その間にお父様がひるんでいたワオーンドッグを斬り伏せていた。
うーん、私が信じていた家族の絆など存在しなかった。出発前のことといいお父様とは分かり合えない運命なのか……。
私達が戦っているのをよそに、四匹のワオーンドッグが前線を抜けてヨーネローネの実に一目散に向かおうとしていた。それを見るお母様の表情は厳しい。
怒っているようだけど、しっかり自分の役割をお母様は果たしている。ロックウォールを続けて発動して、今度は私達から見て左側に岩の壁を作っている。ヨーネローネの実を火にくべた場所を中心として半円形に退路を塞ぐつもりだろう。
そんなことを考えていると一番先頭を走って先行していた一匹のワオーンドッグがヨーネローネの実へとたどり着き、その実を口に入れる。今までの勢いが嘘のように口に実を入れた瞬間から動かない。まるで味わって食べているかのように。
その間に再度クレアの光の導が戦場を駆ける。
一つは第一陣で戦っていた傭兵さん二人の方へ。すでに最初に戦っていたワオーンドッグは討伐したようで、二人を合流させて第二陣の一匹を光の導は指していた。
一つはエド助祭とリーザリアさんの周りを飛び回り、さっきまで戦っていたのとは別の一匹を指し示している。さっきまで戦っていたワオーンドッグは既に討伐済みのようだ。
最後の一つはお父様に。守備隊が三人掛かりで抑えている一匹を指し示している。
またしても私には光の導が飛んでこない。信頼の証と思って頑張らないとねっ! 私はヨーネローネの実に向かって走っている一匹に向かって走り出す。
私がターゲットにしたワオーンドッグがヨーネローネの実にたどり着く直前にバレットでちょっかいをかける。驚いたことに、こちらに向かってくる様子はない。あくまでヨーネローネの実を食べようとすることを優先しているみたいだった。
それに気づいた私はヨーネローネの実を守るように牽制しながら位置を変える。バレットの連射で動きを止めて止めを刺そうと詠唱強化したウィンドカッターを発動させようとすると、ワオーンドッグは反転して逃げ出した。
止めを刺し損ねたけど、反転した先にはお母様ロックウォールで作った岩の壁がある。逃げることはできないだろうと私は安心する。
岩の壁に気づいたのか、ワオーンドッグは大きく弧を描きながら壁の切れ目へと向かう。
しかし、そこにはサラが待ち構えていた。サラは逃げ出そうとするワオーンドッグにいつの間にか接近しており、スッと移動したとしか表現できないほど自然にワオーンドッグに近づき、そしてあっけなく上下を真っ二つにして仕留めていた。
ウチのメイド、パネっすわ~。
周りを見渡すと、みんなそれぞれ相対していたワオーンドッグは討伐したようだ。残るはヨーネローネの実を食べていた一匹のみ。それぞれが最後の一匹を囲むように移動する。
そのワオーンドッグの様子がおかしい。赤い目をさらにギラつかせ、歯を剥き出しにして、今まさに自分を包囲しようとしている私達を威嚇しているのだ。
戦意を失っていない。そう考えて警戒していると、私達の警戒とは裏腹に反転し、包囲が完了していない隙をついて岩の壁の方に走り出したのだ。
どうせ逃げられないのに、と拍子抜けした私だが、なんとワオーンドッグは既に討伐されて死んでいるワオーンドッグの心臓辺りを食べ始めた。
私達があっけにとられている間に、あっと言う間に三匹の心臓を食べてしまうワオーンドッグ。そして、異変が起こる。
ワオーンドッグが目に見えて震えだし、吠えたのだ。
その音は光の耳栓によって私達にダメージを与えることはなかったけど、ワオーンドッグの身体が光ると同時に一回り大きくなり、その体毛の色を灰色から銀色へと変えていた。
進化、だ……。
ゲームではそんなものはなかった。ただ、色やサイズ違いの強い魔物が出てくるだけだった。
この世界でも報告例などほとんどない。が、稀に魔物に見られる現象として知られている。進化すると、元の数倍以上の脅威になるとも。
正直、焦っている。その迫力もそうだけど、身体が大きくなるのに比例して口も大きくなっている。今巻いている布程度じゃ、口を塞ぎきれなくて食いちぎられてしまう可能性が高くなったのだ。
安全対策が意味を為さなくなった。
先ほどとは打って変わって堂々とこちらに向かって歩いてくる進化したワオーンドッグ。こちらには緊張が走っていた。
それでも、お母様は冷静だった。クレアに光の導を飛ばすよう指示をしたのだろう。光の導の一つが守備隊三人の周りをグルグルと周り、下がるように指示していた。
続く二つ目の光の導は、お父様とリーザリアさんの所へと飛び、ワオーンドッグに相対するように指示をしていた。二人で前線を支える役目にしてもらうのだろう。
三つ目の光の導は傭兵二人に飛んで行った。お父様とリーザリアさんの少し後方で待機させるように。お父様達のサポートかな? サポートって息が合わないと逆に邪魔しかねないから、難しいと思うんだけど。
光はワオーンドッグに向かってないから、一先ずは待機みたいだ。
私とエド助祭には光の導は飛んできていない。二人とも魔法主体の後衛だからとりあえず下がっていれば問題はないかなと思って、エド助祭にジェスチャーで下がるように伝える。
エド助祭もこちらの意図はわかってくれたのだろう。頷いて下がってくれた。
さて、これからどうするか……。少し考えを巡らすも、結局お母様の指示を待つことにした。
何せお母様がベルガモット領が誇る最高戦力なのだから。




