四十二話 安全対策は万全です(漫画知識)
着火のための枯草は燃え尽きてしまったけど、なんとかノルの無詠唱魔法で火をつけることに成功した私達は、ヨーネローネの実を三つくべる。
少しすると、火から煙が発生した。確か燃やす時に熱が不十分だと煙が出るだったかな?
乾燥されてないヨーネローネの実だったから実の中にある水分のせいで煙が出たんだろう。まぁ目に見えた方が風で送り出しやすくてこの方が都合がいい。
私は風魔で風の道を作り、煙を森へと流す。煙が森の中へ流れ込むのを確認して、次の場所へと移動し、同じことを他の二か所でも行った。
中継地点へと戻りしばらくすると、森からワオーンドッグが現れたのを確認できた。
おお、素晴らしきは犬の嗅覚。現れる場所はまばらだったけど、全部で十三匹の姿を確認することができた。
最初にヨーネローネの実をくべた場所では火がちょうど消えて、周囲をワオーンドッグが漁っている。他の場所ではまだ火がくすぶっているのか遠巻きにしてウロウロするだけだ。
聞いた通り、ヨーネローネの実に夢中になっているんだろう。
森に戻ってしまう前に、中継地点の二か所でまた同じことを繰り返す。森の入り口から中継地点までは歩いて十五分くらいはある。少し多めにヨーネローネの実を五つくべる。
私の作戦は今の所順調に進んでいる。ワオーンドッグは中継地点付近に十三匹しっかりと確認できている。またしても火が消えるまで周囲をうろついている。
そして、最後の一か所から少し離れた場所に全員が集まる。今度はヨーネローネの実を火にくべるだけでなく、逃げないように焼かずにヨーネローネの実そのものを周囲にいくつかを転がしておく。
エド助祭達や守備隊の人達が位置についたことを確認して、私はヨーネローネの実をくべる。そして煙が出るとそれを風魔で中継地点へと送り、私自身も下がる。
ワオーンドッグが来るまでの間に、クレアが光の耳栓をクレア自身とお母様以外のみんなに掛けていく。クレアとお母様に魔法を掛けないのは、お母様からの指示でクレアが光の導を発動させるためだ。
光の耳栓を掛け終わった後、お母様、クレア、ノルはさらに後方へと下がっていく。
さて、これで準備は万端だ。
さぁ、こい! ワオーンドッグ!!
十分くらいたっただろうか。二か所の中継地点から二つの群れが少し時間差を持って私達と接敵しようとしていた。
敵の一陣は五匹。先陣はベルガモットの人間が切ると通達しているため、私はお父様に視線を合わせる。するとお父様が頷いた。準備は良いようだ。
私はワオーンドッグの吠え声を耐えれるようにとかなり後方にいるクレアとお母様に手で合図を送る。
お母様がクレアに何事か伝えると、クレアから光が三つ現れてこちらに向かってくる。その光は私とお父様の真横を通りすぎ、走り込んでくるワオーンドッグの先頭三匹の周りをクルクルとしていた。
いきなり三匹同時? お母様も人使いが荒い……。お父様と視線を合わせ、手で走り出す合図をする。
私とお父様は走りだす。
あれ、私ってこんなに足遅かったっけ? しかも、少し走るだけで結構しんどいんだけど……。
お父様も戸惑っている。初手は私の魔法と決めてあったので、軽く走って私に合わせている……。
ワオーンドッグもヨーネローネの実目掛けて全力走ってきているので、接敵はすぐに訪れた。
私は風魔を最大出力で地面から空に向かって発動させる。
すると、先頭の三匹は地面から二メートル無いくらいの高さまで打ち上げられる。
お父様はすかさず宙に浮いたワオーンドッグをハルバートと呼ばれる槍に片刃の斧がついたようなもので一匹を貫く。右側のワオーンドッグに火魔法を撃ちこみ怯ませている隙に、左側のワオーンドッグへ斬りかかる。
私の風魔をお腹から受けていたワオーンドッグは碌に動くこともできずにお父様に斬り伏せられた。
右側は私とお父様の魔法を食らって虫の息だったのを私が止めを刺した。
相手を浮かした魔法は風魔のアレンジの一つになる。この夏休みに私とクレアがとある実験をした結果の産物だ。
ファンタジー好きなら誰もが思うであろう、風の魔法で空を飛べるんじゃないか!? の実験をしたのだ。結果から言えば大失敗。
人を浮かすために風を使おうとすると、ものすごい風量と勢いが必要となる。その風圧は尋常じゃなく、めちゃくちゃ痛い。風が痛い。飛ぶとかじゃない。
うつ伏せの状態から浮こうとして、お腹にその出力の風を食らったら胃の中のもの全部出ちゃう。足でもかなり痛いし、少し浮くことはできたけどコントロールなんてできないから、すぐにバランスを崩して地面ぶつかった時は本当に死ぬかと思った。クレアがいなかったら大変なことになっていたかもしれない。
そんなわけでものすごい痛くて、バランスを崩す対魔物専用の魔法となった。ワオーンドッグは体が浮いて挙句に息もできない状態だったんじゃないだろうか。
あれ? ちょっと待って。風を受けて飛ぶんじゃなくて、風を内側から外側に出して飛ぶのが正解? どうやって? ま、いっか!
残りの二匹は三匹がやられたのにも関わらず、ヨーネローネの実を目掛けて走っていた。そっちは教会の方達に任せる。彼らの取り分は確保しないといけない。
きちんと報酬を支払って、ベルガモット家は気前がいいと宣伝してくれると嬉しいんだけど。
その辺りは私よりお母様の方がしっかりと考えていたのだろう。クレアから傭兵さん二人に光が飛んでいき、それぞれ一匹ずつ戦うように示していた。彼らの位階は四位と聞いている。四位であれば実践経験はそれなりにあるはずだ。
さてさて、傭兵さん以外のみんなは第二陣に備える。今度は八匹いるので、今戦っている傭兵さんを覗いた前線のメンバーが一対一で足止めか討伐を行えばいい。
けど、守備隊の三人じゃ多分討伐することはできないし、一対一だと無傷で時間を稼ぐことも厳しいだろう。彼らの強みは連携を重視した守勢だから。
何より万が一にでも誰かの命を失うようなことはさせない。
今回、クレアやお母様、ノルも含めて全員にしてもらっている対策がある。それは利き腕とは逆の腕に厚さが半径五センチになるように布をぐるぐる巻きにしてもらっていることだ。
前世の漫画で読んだ記憶を引っ張ってきた。犬の最大の武器は口、具体的には牙と噛む力である。漫画ではその恐ろしさ力説していた気がするけど、そんなもの詳細は覚えているはずもない。
ともかく、大型犬であればその口で人間を殺せるだけの力を持っている。魔物は異常発達した部位以外はあまり変わらないけれど、全体的な身体能力は高い傾向があるのでなおさら容易だろう。
そしてその漫画では対策として実行していていたのが、牙が届かないくらい布をぐるぐる巻きにした腕にわざと噛ませることだった。
さらに噛ませた上で舌を掴んで動けなくさせて、川の水で溺れさせるんだったかな? いやさすがそれはムリだろと思うし、そもそもここ川じゃなかった……。大丈夫かな……。
まぁ布で厚くなった腕に噛ませることで、本来の噛む力を発揮できなくさせることはできるんじゃないだろうか。想像してみてほしい。口いっぱいに何かに塞がれてしまったら、うまく口動かせなくなるよね?
実際には腕に噛ませるのもそう簡単なことではないかもしれないけど、腕を盾にすれば命を失う危険は下がると思う。時間さえ稼いでくれれば単独で倒せた人と協力して複数人で一匹一匹確実に仕留めることができる。
最悪、ほんの少量だけどヨーネローネの実を粉末にしたものをみんなに渡しているので、それで時間を稼いでくれればいい。
ワオーンドッグを殲滅することが目的だけど、誰の命も失ってはならないのだ。
さて、お母様はどんな風に采配するんだろう?




