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四十一話 急に我に返って赤面する感じ

 みんなに背を向けると、一気に心臓がバクバクと音を鳴らし始めた。


 喉がカラカラになり、膝が震える。はっはっはっと息を小さく早く吸う。顔が熱い。


 とても大それたことを言ってしまって、周囲の反応が気になる。日本人ってこういうの苦手だよね? ね?


 それとなく周りを見ると、ベルガモット家の人間は誇らしそうに、守備隊や傭兵達は士気が上がっているよう見える。


 そして、エド助祭が笑っていた。気になるっ! ちょー気になる! 良くないとは思いつつも、魔法で盗み聞きを始めてしまう。


「くっくっくっ。オレやお前も守る対象ってか? 面白しれぇ奴だな。見た目がデブじゃなけりゃさいこーだったんだがなぁ」


「いいねいいね! あたいは燃えてきたよ! あいつは舞うデブってあだ名があるのは知ってるか? きっと戦いでも面白いぞ! なぁエド、二学期はあいつとバディ組んでいいか?」


「知らねーよ。つぅか元々オレの言うことなんて聞かねーんだから、勝手にしろ」


 ナチュラルに口が悪いなぁ。


 でも、あいつまじねーわ、ウケルとかじゃなくてよかった。



 一息ついて、守備隊がヨーネローネの実を燃やすための準備で立ち去るのが見えた。なんとか心を落ち着かせていると。



「姉様、姉様!」


 前からボフッと衝撃がやってくる。ノルが興奮した様子で私に抱き着いてきたのだ。


「どうしたの、ノル」


「姉様すごいカッコよかった! 僕もベルガモット家の一員なんだから頑張らなくちゃって思ったよ!」


「ノルが強くなったらね。わたくしが認めない限り、魔物討伐には行かせないかもしれないわよ?」


「そんなー! 僕だってもう一杯魔法使えるんだからねっ!」


「ふふふ。そうね。あなたが領民を守ることを楽しみにしてるわ」


 抱き着いてきたノルを抱きしめ返しながら、頭をなでる。ウチの弟はかぁいいねぇ。


「お姉様! 本当にカッコよかったですよ!」


「えぇ、さすがお嬢様でした。やる時はやる方ですからね。ダイエット以外」


「一言多くない!?」


 三人から褒め殺しに合ってなんだかいい気分になってきた所にお父様がやってきた。


「フロスト! さすが我が愛娘!」


 そんな調子の事を言いながら、お父様が手を広げて近づいてきた。


 私はそんなお父様の胸に飛び込んで。


「ぐほえいあ!?」


 腹にグーパンチ。


「うふふ。お父様ったらどうしたのかしら? 娘にあんな大役を押し付けておいて、随分とご機嫌ですね」


「い、うぇお、あ、あぐぅ、ご、ごごめんな?」


「いいのですよ、お父様。わたくしを信頼して下さったのですものね?」


「も、も、も、もちろんだとも。ちょっと見ない間に随分と成長した物だ。それに、あれだね。少し、痩せたね?」


「え? え? え? そ、そうかしら? やだ~、お父様ってお上手なんだからっ!」


「お嬢様、チョロすぎません?」


「姉様……」


 学院に行く前よりは絶対に痩せたもんね! 魔物討伐の時からちょっと、ちょ~っとリバウンドしちゃったけど!


「あなた、フロスト。もう守備隊が準備を始めていることですよ。準備して下さい。あと、フロストは行く前にちょっとこっちへ来て」


「? なんでしょう?」


 私がお母様の前まで行くと、ギューと抱きしめられた。


「さっきのフロスト、すっごくカッコよかったわっ! でもね、私達にとってはあなたが何より大事なの。あなたが他の人の剣と盾になるのなら、私はあなただけの剣になってみせるわ」


 ウィンクをしてお母様がそんなことを言う。いつまでたっても、私を子ども扱いする。けれど、それが嬉しいのも事実だ。


「ふふふ。それならわたくし達は最強ですねっ!」


「そうね、最強ね!」


「と、父さんも一緒に……」


「さ、フロスト。そろそろお行きなさい」


「はい、お母様。それじゃあノル、サラ、行きましょう」


「……」


「はい、お嬢様。それでは旦那様、奥様。行って参ります」


「えぇ。フロストをお願いね」


「この身に代えましても」




 まだ戦いにはならないだろうし、一度は断ったのだけどクレアにホーリーシールドを掛けられて森の近くまでノルとサラの三人で移動する。


 三か所の内、すでに二か所の準備が完了していた。焚火ができるように乾燥した木が集められており、火種となる枯草までしっかりと用意されていた。


 ノルを連れてきたのはもちろん戦わせるためじゃない。演説にあてられてテンションが上がったノルに何か仕事を与えないと暴走するんじゃないかと思って、ヨーネローネの実を燃やすための火を起こして貰うことにしたのだ。


「ノル、それじゃお願いね」


「はいっ! まかせて下さい、姉様!」


 そういってノルは詠唱を開始した。私は風属性以外の詠唱は全然わからないので、ノルがどんな魔法を選んで使うのか楽しみにしていると。


「失礼します。お嬢様」


 サラがそういって、私の体を押して位置をずらし、焚火の準備をしている場所から私を覆い隠すように立った。


「ファイアーボール!!」


「ノ、ノルゥゥゥウウウ!?」


 ノルが魔法を発動した。


 ファイアーボールはノルの胸くらいの位置から、斜めに地面に対して発動した。ファイアーボールは日本人のファンタジー好きならすぐイメージできそうな、火球が飛んで行く魔法である。


 それこそ火を見るより明らかに、焚火の準備がしてあった木々と枯草が吹き飛んだ。


 ……。


「え、あ、ぼ、僕、こんな、こんなつもりじゃ……」


 ノルは罰が悪いのか、顔を下に背けながらも目だけ上目遣いでこちらを見てくる。


 私は膝を折って、ノルを引き寄せる。


「間違ってしまったことは仕方ないわ。間違って、失敗した方がその失敗を忘れないもの。次は上手くやろうって一杯考えればいいのよ。


 でもね、ノル。言い訳よりも先にすることがあるでしょう?」


「あ……。ごめんなさい、姉様。」


「偉いわね。でも、謝るのはわたくしだけじゃないでしょう?」


「サラ、ごめんなさい。怪我はなかった?」


「はい。私は大丈夫ですよ、坊ちゃん」


 私とサラに謝ったノルはもう謝罪は終わったと思って、吹き飛ばしてしまった道具を集めている。けれど、私はここの準備をした守備隊にも謝ってほしかった。


「お嬢様、それは貴族として不要なことと思います」


 そう、平民にわざわざ貴族が謝罪する必要などない。本来はサラにも謝る必要なんてない。


 そんなことばかりしていたら、下手をしたら他の貴族からは侮られてしまうだろう。だから、私からノルに伝えることはできない。これは私の、前世の私の価値観だ。


 普通の貴族のふるまいではなかったとしても、私は男爵だから、女だからと我を通すことは結構あった。でもノルは男で、いずれ家督を継ぐ立場にある人間だ。


 姉として思うところは多々あるけれど、貴族として真っ当に成長していることを喜ぶしかない。




「そういえばサラはなんであんなに早くわたくしを庇ってくれたの?」


「坊ちゃんの詠唱を聞いてましたので。お嬢様や奥様と違って、恐らく教本通りの詠唱だと思ったので途中まで聞いて見当が付きました」


「え!? 詠唱と魔法名覚えてるの!?」


「そうですね、メジャー所であれば一通り。さすがにマイナーな魔法や中位の魔法は覚えていませんが。あ、あと光魔法もですね。レアですし、危険度も高くないと思っていますので」


「まじ……すか……」


 なんか敬語になっちゃった。


「ち、ちなみになんで覚えたの……?」


「もちろんお嬢様の危険をいち早く察知するためです。発動前に何が来るかわかれば、次に何をするべきかはある程度判断できますからね。そこに妥協はありません」


 かっけぇ! サラさんなんかかっけぇよ! いや、違うわ。ありがとう!? いやそれもなんか違う……。


「そう。これからもサラのことを頼りにしているわ」


「お任せください。お嬢様」



 サラはそう言って微笑んだ。

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