四十話 出陣
「耳を覆うことで、誰がどの魔物を狙うべきか迷ってしまうこともあると思います。そこで、もう一つの無詠唱魔法でこれを解決します。クレア、お願い」
「はい、お姉様」
少し間をおいて、私の目線の辺りでキラキラと光が舞う。そして、それはスーッと動きだし、サラの元へと向かう。
「この光で皆さまが狙うべき魔物を示します。すぐに消えてしまうので、見逃さないようにして下さい。
複数人で魔物と戦って頂きたい時などは味方同士を光で結ぶこともあるかもしれません。二人は運命の人かもしれませんから、大切な恋人と思ってお互いを守り合って下さいね」
少しだけ、くすりと空気が弛緩する。いい雰囲気なので、少しデモンストレーションを。クレアに目で合図する。
すると、クレアが光の導を次々に作り出し、みんなの視線を奪うように、私達全員の周りを円を描くように動かす。この魔法は一度に三つのまでしか光を生み出せないが、発動スピードと移動スピードは速い。
次々と光が煌めきだし、いくつもの光の軌跡が私達全員を包むように円を描いていた。そして、私が風魔で風を吹き上げさせ、光は上空へとキラキラと舞い上げられて消える。
みんなから「おぉ」と感嘆の声が上がる。ふふふ、私達が二人で決めポーズを日々研鑽してきた成果である。
「さて、戦闘についての詳細な説明は以上になりますわ。次に、ワオーンドッグの殲滅についてです」
初期にベルモの街に現れて以降、ワオーンドッグは少数による威嚇攻撃を徹底している。それは習性であるかもしれないが、私にはまるで知恵があるかのようにしか思えなかった。
その知恵を、ヨーネローネの実が大好物であるという本能で上書きする。今回はそんな作戦だ。
森は広く、私の風魔では全範囲をカバーするなんて到底無理だ。だから、現在地を中心に扇形になるよう要所でヨーネローネの実を燃やして匂いを拡散させることで範囲をカバーする。後は犬としての嗅覚を信じるのみだ。
具体的には森の近くに三か所。現在地との中間に二か所。現在地の計五か所で火を起こす。前者は少量、後者になるほどヨーネローネの実の量を増やす。
ワオーンドッグが寄ってくる頃には実が燃え尽きて、次の場所に移動するように。
私が風魔を実演し、森に近い三か所を順に周り、現在地へと戻ることを説明した。ベルガモット家の人間とクレア以外は正直みんな半信半疑である。
まぁ私自身これが絶対うまく行くとは言い切れないけど、やってみる価値はあると思う。失敗したら後はお父様に任せてしまおう。
ヨーネローネの実を燃やす準備はベルモの守備隊に任せて、他のみんなは戦闘に備えてもらうことを告げる。
「最後に、僭越ながらわたくしから皆様にお話しさせて頂きたいことがございます」
みんなの心に響くように、届くように。
「わたくし達はこれから、ワオーンドッグの討伐に向かいます。
ワオーンドッグはベルモにとって倒さねばらない脅威です。
ですが、皆さまにはその根底にある本来の目的を忘れず、心に刻んで頂きたいことがございます。
それは。
ベルモに住む六百余りの人々を守ること!
ベルガモット領に住む二千を越える人々を守ること!
彼らの未来を、安寧を守ること!
わたくし達がワオーンドッグを討伐できなければ、いずれベルモは徐々に活気が失われて行き、人々は去ってしまうか、襲われて命を落としましょう。
そして、その後はベルガモット領に住む二千を越す人々が犠牲になることでしょう。
思い出して下さい。ベルモで見た光景を。
人々の声援、それは必ずやわたくし達が魔物の脅威を退けると信じてのものっ!
明日の営みを、幸せを期待してのもの!
あの笑顔を曇らせていいものでしょうか!?
幸せな未来を魔物に奪われていいものでしょうか!?
否です! わたくし達が彼らの笑顔を、未来を必ず守らねばなりません!
わたくし達がベルガモット領に住む人々の剣であり盾だからです!!
他にも、わたくしには守りたい物がございます。
皆さまです。
魔物の襲撃は今後もずっと続くでしょう。
何度も何度も魔物の脅威がベルモを、ベルガモット領を襲うことでしょう。
此度のワオーンドッグより強い魔物が現れるやもしれません。
そして、わたくし達はその全てに打ち勝たなければなりません。
そのために、戦える者同士が手を取り合って立ち向かわなければならないのです。
ですから、今ここにいる誰もが欠けてほしくはないと、そう思うのです。
あなたが魔物に殺されそうになったら、わたくしが必ずやその魔物を打ち払いましょう。
あなたが魔物に追われ、絶望したとしても、必ずやわたくしが駆けつけましょう。
あなた方が人々の剣であり盾であるのなら、わたくしが、ベルガモットの一族が、あなた方の剣となり盾となりましょう!
さぁ行きましょう、人々を守るために。
誇りと勝利を胸に、英雄となってベルモへ凱旋を飾るために!」
私は腰に吊るしてあるダガーを抜く。
「総員、抜剣!!」
私以外のみんなが、各々の武器を抜く。
勇ましく、みんなに勇気を与えられるように精一杯の気持ちを込めて私は叫ぶ。
「討伐作戦、開始!!」
「「「オオォー!!」」」
その場にいる全員が、それぞれの武器を空へと掲げた。




