三十七話 理想でご飯は食べれないのです
「しかし、これでは情報の価値が釣り合いませんな」
「さっきエドが良いっていったんだから見苦しいこと言うなよ、おっさん」
「何にしろこちらは情報を開示したのです。そちらも情報を開示して頂かないと価値の釣り合いなど判断しかねます。それとも教会は男爵家の、それも令嬢程度との口約束はお守りにならないので?」
「そういうわけではありませんが……」
「ヨーネローネの実だ。乾燥させてすり潰した物を粉上にしてワオーンドッグに投げつければ、あいつらは吠えなくなる。ま、しばらくすると逃げちまうこともあるけどな。ったく、がめつい神父だぜ……」
ヨーネローネの実。一部の山に自生している木になる小さな赤い実だ。特別珍しいというわけではないけど、どこにでもあるわけでもない。取り寄せることは難しくない。というか、ありがたいけど、さっきからちょっとだけ口が悪い助祭さんだなぁ。
「エド助祭、ありがとうございます。ですが、たしかにクレアの無詠唱魔法では再現性は低く、ヨーネローネの実ならば汎用的に使用可能ですわ。神父様の言う通り、単純な情報の価値は釣り合わないかもしれませんね」
「そうでしょう。ですから、銀貨四枚で如何でしょうか?」
本当にがめつかった……。ネットがなく、本だって高価なこの世界において情報がとても価値を持つことは事実である。けど、いくらなんでもふっかけすぎでしょ……。
「さすがにそれは高すぎるのでは? わたくしはヨーネローネの実以外の解決策があるということを提示しました。それだけでも新しい発見のはずです。それにベルモでは初めて現れた魔物です。今後も現れるかわからない魔物にその金額は高すぎるのではないでしょうか」
「オレが情報は交換で良いと言った。それに何の文句がある?」
「エド助祭。お言葉はありがたいのですが、神父の言うことも一理あります。ですので、銀貨一枚で如何でしょうか」
「いらねーっつってんだろ」
「そういうわけには参りません。エド助祭の民を優先に考えていらっしゃる気持ちは大変素晴らしく思います。けれど、わたくしも領主の娘。民を思えばこそ対価を払わねばなりません」
「どーいうことだ?」
「わたくしが、というよりベルガモット男爵家が対価を払わなかったとすると、金払いの悪い領主と思われるかもしれません。そうなれば、傭兵がベルガモット領に来ることは少なくなるでしょう。
今はそれなりに魔法が使えるわたくしやクレアがいます。それに、教会にも民を思うエド助祭、リーザリアさんがいらっしゃいます。
ですが、わたくし達がいない時にまた魔物が現れたら? 守備隊や当家の者で対処ができなかったら? 当然教会の僧兵に、傭兵に頼ることになります。しかし、その僧兵や傭兵がいない、もしくは依頼を受けて下さらなかったら?
結果的に一番被害を被るのは我が領民なのです。
なればこそ、わたくし達は情報に対して正当な対価を教会に、お二人や傭兵の力添えに対して報酬を支払わなければなりません」
「……わかった。オレもリズも金は貰おう。だけど、金額はオレが納得するまで交渉だ。いいな、神父」
「わかりました」
大まかな話しはまとまったので、エド助祭が神父を部屋から追い出して、交渉を続けることに。
「ワオーンドッグ一匹毎に大銅貨二十枚で如何でしょうか」
「たけぇ。大銅貨五枚でいい」
「いえ、教会の取り分もありましょう。五枚ではまた神父が小言を言ってくるのでは? 十五枚では如何でしょう?」
「あぁ、確かにあのおっさんなら言ってきそうだな……。十枚だ。これ以上は受け取れねぇ」
「承知致しましたわ。お二人とは別に傭兵の分も決めたく存じます。そちらは二十枚でよろしいでしょうか?」
「そうだな。そこは正当に払ってやってほしい。つーかお前、何も考えてなさそうな顔してんのに、色々考えてんだな」
一言多いっ!
「承知しましたわ。それではお二人がご活躍された分は、ベルガモット家が今回の魔物によって民が疲弊したことを考えて、炊き出しに当てることをお約束しますわ」
「お! そりゃいいねぇ。あたいも行ってもいいか?」
「もちろんですわ。エド助祭も是非いらして下さい」
途中で偉そうなこと言っちゃったけど、安くすみそうでよかったー!
そうそう、お金のこと。アデザール王国の通貨はアニメや漫画で良く見るタイプで銅貨、銀貨、金貨である。銅貨のみ二種類存在していて銅貨と大銅貨になる。
硬貨は百枚で一つ上の硬貨一枚と同じ価値になる。銅貨が百枚で大銅貨に、大銅貨が百枚で銀貨一枚に、銀貨百枚で金貨一枚といった感じ。
銅貨が二種類もあるのは平民向けなんだろう。銀の方が価値高いんだろうし。知らんけど。ともかく市場で買い物をするなら大銅貨があれば十分だ。
というわけで銀貨以上の通貨を平民が使うことはほとんどない。銀貨の主な使用者は貴族や商人になる。金貨に至っては国か上位貴族、大商人くらいのものだろう。ベルガモット家ではほとんど金貨を使う機会はない。金貨を使う程の大口取引なんて男爵領には滅多にないもの。
で、銅貨一枚がすごーく大雑把に考えて、前世で言う三十円くらい。
大雑把にっていうのは物価とか感覚が全然違うんだよね。
例えば土地が絡むもの、宿はすごく安い。素泊まりで少しショボめの所なら大銅貨一枚かからない。銅貨五、六十枚くらいかな? 前世でいうビジネスホテルのグレードが高いような部屋でも大銅貨一枚くらいで泊まれる。もちろん王都はもうちょっと高いんだけど、普通の領地ではどこもこれくらいだと思う。
ベルモは食材や料理なんかも割りと安い。銅貨十五枚あればお腹いっぱいになれる。これといった特産品がないベルガモット領だけど、平野があり、山があり、川も近くにあって、自分達が食べる分にはあまり困らない。海は遠いから海魚なんかは滅多に食べらないし、高いんだけどね。
ただ、ベルモではお酒は高い。ベルガモット領ではあまり作られていないから、大部分は他領から仕入れてる。ベルガモット領でも何か作れないかと一時期考えていたんだけど、うまく行かなった。前世の知識チートなんて普通のOLができるわけない。
まぁでも付加価値をつけて商品を売るというのは現代ではたまに聞く話だったので、何かしら産業を興したいとは考えている。
何にせよ、思ったより安くなったのはラッキーだった! 最初のペースに飲まれてたらこうはならなかっただろうから、気づかせてくれたサラに感謝だ。
はてさて、今回のお見積りはっ!?
教会への情報量が銀貨一枚。
ワオーンドッグの討伐がざっくり見積もって銀貨一枚と大銅貨十枚。
内訳を細かくすると、ワオーンドックが現在確認されているのが十五匹。内、二匹は討伐しているので、残り十三匹。それを私達領地の人間が半分の六匹、エド助祭とリーザリアさん、傭兵が七匹を討伐すると仮定。
この七匹をさらに半分ずつ討伐したとして、金額が高いケースを考える。
お二人が三匹、傭兵が四匹を倒すケースだ。
すると、お二人の分が大銅貨三十枚となり、傭兵の分が八十枚となる。合計は銀貨一枚と大銅貨十枚だ
もちろん、お二人や傭兵が大活躍されればもっと金額は上がるし、私たちが多く討伐すれば減る。
なので、あくまで概算だ。まぁこれより下回った場合は領民に炊き出しや何か被害にあった人がいたらそちらの補填に使うので、あまり使うお金は変わらないだろう。
はい、ということで二つの合計は銀貨二枚と大銅貨十枚! 前世でいうと六十三万円!
予算の銀貨四枚から大幅にディスカウント!!
いや、さすがにあり得ないわっ! エド助祭がいたおかげでこんなことになろうとは!?
ただ、当初の目的だった光属性の魔法について情報を得ることはできなかった。エド助祭に聞くと「教国に行けば何かしら残ってるはずだ、しんきくせえ場所だけどな」とのことだった。
何にせよラッキー!
「「イエーイッ!」」
サラと私がハイタッチをする。サラは昔から一緒にいるだけあって、こういう時はノリを合わせてくれる。一方クレアがノれなかったの悔しいのか、苦い表情をしている。仕方ないなぁ。
「クレア! イエーイッ!」
「イ、イエーイッ!」
あとは三人でルンルン気分で帰宅だ。
ここまで上手いこといったのだ。お父様とお小遣い交渉をせねばなるまい! 今宵のフロストは手強いですからね、お父様っ!




