三十四話 夏休みはクレア色
フ・ク・サ)新年明けましておめでとうございます!本年も皆様が素晴らしきなろうライフをお送りできますように。
「新年、明けまして~……おめでとう~……むにゃむにゃ」
「お嬢様、また訳の分からないことを……。もう朝ですよ、起きて下さい。クレアはもう準備して待っていますよ」
「ん~? あ、夢かぁ。おはよう、サラ」
「おはようございます、お嬢様。ご準備をお手伝い致します」
今は夏休み。私はベルガモット領へと帰り、日々を街へ出たり、魔法の練習をしたりして過ごしている。今日は、クレアと街に出ることになっている。ご飯をたっぷりと食べ、しばらくしてから街へと出掛ける。
「クレアちゃーん! 採れたての梨だよ! 持っていきなっ! あっと、お嬢様もどうぞっ!」
「ありがとーございまーす!」
私はついでかい。いや、梨は好きだから嬉しいけど。
「クレア姉ちゃーん! あそぼーよー!」
「よーし! お姉ちゃんとおいかけっこだー!」
子供に追いつくか追い付かないかのスピードを維持するのすごいな。私ならすぐ捕まえちゃう。いや、無理か? デブじゃねーよ!!
「おぉ、クレアぁ。また腰が痛くてのぅ。こないだのあれ、また今度やっておくれよ」
「いいですよ。でも、お婆ちゃんは重いものとかは持っちゃダメですからね」
クレアは今、私の故郷であるベルガモット領の中心であるベルモの街で老若男女問わずに大人気。空前のクレアブームである。
「おぉ、フロスト、クレア。帰ったか」
「おかえりなさい。もう少ししたら夕食よ。着替えてらっしゃいな」
「クレア姉ちゃん! 学院の話し聞かせて!」
それは我が家も例外ではない。お父様もお母様も、弟のノルもである。
なぜかといえば、少し前にベルモの街はワオーンドッグという魔物に襲われてしまい、そこでクレアが活躍したからだ。
こうなった経緯を話そう。時間は少し戻って、夏休みに入ったばかりの日の事だ。
終業式の日、私はジョルジオ様とお食事に行った。それはそれは楽しい時間だった。ジョルジオ様は訓練について、筋肉について、騎士団について熱く語ってくれた。騎士団の面白エピソードは鉄板だった。
私も魔法について熱く語り、ジョルジオ様は熱心に聞いて下さった。特にジョルジオ様の属性である土属性を接近戦でも使える話は、特に熱心に聞いて下さった。
なんていうか熱いけど、可愛い所もある方だった。それに、ちょっと、あの、スキンシップ? がね、多めだったの。ガッハッハッと笑って肩とか背中とか叩いたり……。うん、ジョルジオ様は私に気があるに違いないわねっ!
あ、本題はこれじゃなかった。
終業式の次の日、私は部隊のみんなに誘われてお疲れさま会をしたのだ。スイフト様のお店でみんなで色んな話をした。スイフト様は後から合流したり、アニー様は早めに帰られたけど、とても楽しい時間を過ごした。やっぱりスイフト様は素敵で、ちょっと目で追ってしまったけれど。
でまぁ、夏休みの予定の話したわけです。私やアニー様は自領に帰ることは決まっていたけれど、ハナビス様は帰らないとのことだった。確かに国を越えて移動しているとそれだけで時間立っちゃうしね。で、何をするかと聞けば紹介状を書いてもらってこの国を色々回りながら修行するのだとか。
しょうがないのでベルガモット領にもお呼びしておいた。
スイフト様はお父さんについて色々と修行をされるらしい。お店の管理をしたり、現場を知ってこいとのことで、行商にも行かされるのだとか。でも、スイフト様ならきっとうまくやるだろうなって変に安心してしまうから不思議だ。
そして、クレア。クレアは実家に帰ると思っていたんだけど、どうやら諦めたらしい。確かに実家は遠い場所ではある。ゆっくりできない距離でもないと思ったのだけど、サラに聞いたらそれは貴族基準らしい。
というのも、貴族であれば自分の馬車で一直線に領地へと向かう。でも、平民はそうも行かない。
乗り合い馬車を使うことになるんだけど、乗合馬車は色んな街や村によりながら進み、馬を休ませる時間も多いそうなのだ。だから、一直線で進む貴族の馬車と比べると、二倍も三倍も時間が掛かってしまう。
実際に学院に入学する時は、十日くらいかかったとか。もちろんもっと早い馬車もある。けど、早ければ早い程その分だけ高くなる。当然トレードオフだ。で、それほど裕福ではないクレアは諦めたというわけだ。
そんなわけで。
「クレア、ベルガモット領へいらっしゃい。夏休みを一緒に過ごしましょ」
「!? い、いいんですか!? お姉様! 私も一緒に行きたいです! 嬉しいです!」
「客間が空いてなかったら私の部屋にきたらいいわ。メイド部屋はそれほど大きくないけど」
「サラさん!」
「あ、サラずるーい」
「さすがにお嬢様のお部屋に泊まらせることは旦那様がお許しにならないと思いますからね」
と、とんとん拍子でクレアがベルガモット領に来ることが決まったのだ。
馬車の手配は既にしていたので、終業式から三日後に私達は王都からベルモに向けて出発した。終始クレアのテンションが高かったのが印象的だった。
領館に着くとみんなが総出で出迎えてくれた。私を見た時、お父様とお母様が少しびっくりしていた。サラに手紙で言っていたことと全然違うじゃないかっ!? と言っていたみたいだけど、なんだったんだろうか。ともかく二人が私の帰りを喜んでくれるのは、やっぱり嬉しい。
一緒に来たクレアには少しびっくりしていたみたいだけど、みんな快く歓迎してくれた。
中にはお嬢様にお友達が……と言いながら目元にハンカチを当てる人もいた。ごめんね、心配かけて。社交界とかで私全然友達できなかったもんね……。学院では他にも友達できたから心配しないでね。
まぁそんなわけで一客人としてクレアは扱われた。
私はクレアにベルガモット領を色々と案内した。それほど多くない観光地や近くの村。お弁当の材料を育ててくれている穀倉地帯なども見に行った。
ご飯も一杯食べた。
他には新しい詠唱魔法を覚えて使ってみたり、新しい無詠唱魔法についてアイデアを出して特訓したり、平和な日を過ごしていた。そんなある日、夜中に急に飛び起きる事態が起こった。ワオーンドッグが現れたのだ。
ワオーンドッグという魔物は大型犬くらいの大きさで群れて行動する。一見、大型犬と変わらない外見、見た目なのだけど声帯が異常発達している。単純な脅威度で言ったらロックホーンよりも低く、弱い。
魔物は習性として必ず人間を殺そうとしてくる。けれどその方法は直接襲ってくるばかりではなく、魔物によって違うらしい。
ワオーンドッグのの声帯から発せられる吠え声はとても大きく、近くで聞けば頭がくらくらしてしまう程だ。遠くで聞いても寝ている所を起こされるくらいにうるさい。
奴らはそれを繰り返し、人間が弱った所を襲ってくる魔物だったのだ。
ちなみにこれは後で調べて分かったことである。なぜならこのワオーンドッグ、ベルガモット領ではお父様が知る限りでは報告例がなかったから。魔物はあまり生息地を変えることはないけれど、変わることもないではない。
そんな初めて相手する魔物の討伐を私とクレアを含む領館の人間、それにベルモの街の守備隊で討伐に向かった。そして、その吠え声の前にあっけなく敗走することになった。
翌々日、私達は対策に耳栓をして向かった。もちろん前世のような黄色や橙色で、ムニュと形を変えられて耳にフィットするような物はない。
木を削ってやすりをこれでもかと掛けた物を装着した。耳に入ったらどうしようと躊躇する人が多かったので、先は細く、根本は少し大きめの物だ。
これは結構音を遮断してくれた。金属より繊維質の方が遮断率? 伝導率? が良いからだろうか? 知らんけど。
結果、思ったより音を遮れただけで、私達はまたまた敗走した。音の攻撃による影響は依然としてあったし、耳がバカになって館の人間や守備隊と連携が全然取れなくなったからだ。
そうして文字通り三日三晩、昼夜を問わずにワオーンドッグはベルモの街の外から吠え続けた。
やがてベルモの街の住人はしっかりとした睡眠がとれなくなって、次第に殺気だっていったのだった。




