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三十一話 全力全開

 キングが距離を取ってからすぐ、私はストームアローの詠唱を開始する。

 雷を纏った勢いで突進してくるキングに対し、ストームアローを真っ向からぶつけるのだ。

 さっき見た通り、突進の速度はすさまじく、目で追うのが常人には難しいほどだ。


 そんなスピードで突進してくるキングに、同じく常人では目で追うのが難しい暴風の矢、ストームアローをぶつけたらすさまじい威力になるのではないか、そう考えてのことだ。

 突進に反応したジョルジオ様やたぶん見えてたハナビス様はもうちょっと普通じゃない。

 彼ら基準で物事を考えるのはよくない。

 

 問題は私の詠唱が突進に合わせられるかどうか。突進が来るまでに詠唱が終わるかどうかだ。




 雷を纏ったのを見てから詠唱したのでは遅い。

 なので、私はすぐに詠唱を開始する。

 しかし、キングはすぐに先程と同じく大きく嘶き、地面を数度蹴ると突進してきた。


「ぬぉぉおおおおおお!!」


 ジョルジオ様が叫び、盾を両手で持ち横へと振りぬく。

 すると、私達の斜め後方へとキングが駆け抜けていった。


 恐るべし、ジョルジオ様。

 

 あの速度に反応してキングを横殴りにして強引に進路を変えたのだ……。

 でも、これで時間は稼げた。

 次の突進に合わせて魔法を発動するっ!


 三度、キングが嘶く。

 そして、地面を蹴り出したのを見て、私は魔法を解き放つっ!!


「ストームアローォォオオ!!!」


 集中力が極限まで高まったのか、私の視覚は世界をスローモーションに捉えていた。

 三本の暴風の矢がキングに向かって放たれる。


 縦一直線に並び、ほんの少しずつずれて放たれた矢の一本目がまず、キングの角に対して斜めに命中してしまう。

 角に当たった衝撃でキングの頭が跳ね上がる。


 二本目の矢が飛んでいくが、キングは跳ね上げられた勢いそのままに斜め後ろに体が流れていき、二本目の矢を顔をかすらせるだけだった。


 そして三本目の矢は斜めに傾いたキングの首を抉るが、致命傷には至らない。


 私の魔法を辛くも避けたキングは私達の斜め後方へとそのまま走り去っていった。



 失敗した理由は二つ。

 キングの体躯が大きく、角を突き出すようにした態勢でも私の身長と変わらない高さだったこと。

 一番の理由は、キングを一直線に捉えられていなかったこと。


 どちらも不運と言ってしまえばそれまでだけど、その運が生死を分けることがあるのがきっと、戦場という場所なんだろう。

 運はキングに味方したのかもしれない。

 それでも、実力と戦術でねじ伏せるしかない……。


「ジョルジオ様、申し訳ありません。仕留めきれませんでした」


「はっはっはっ! 奴にあれだけの傷を負わせたのだ! 俺も守った甲斐があったというもの! 仕留めるきるまで、俺が何度でもお前を守ってやる!」


「ありがとうございます。ですが、警戒してもう一度素直に来てくれるとは限りませんね……。それにわたくしもストームアローは後三回、いえ二回しか使えないと思います。後、ジョルジオ様以外ではキングの突進を止められないでしょう。なんとかわたくし達を狙うように引きつけ、移動しておきたいです」


 ハナビス様はもしかしたらと思うけど、スイフト様達ではさすがにあの雷をまとった突進を防ぎきれないと思う。

 私とジョルジオ様はキングが他の人達に向かわないよう、キングが突進しやすいような少しでも広い場所へ位置を変えながら話しをする。


 私がストームアローの詠唱を開始するのと、四度、キングが嘶くタイミングは同時だった。

 雷を纏ったキングは先程までと違って、地面を蹴り出すことをせず、そのまま走り出した。

 先程と違って、スピードは目で追える程度だけど、ジグザグに、飛び跳ねるように。


 ジョルジオ様が私の目の前まで下がってきて、なんなく防ぐ。が。


「きゃぁああ!」


 私達を通り過ぎ、二度三度跳ねるとすぐに反転して私に向かって体当たりを仕掛けてきたのだっ!

 反転に気づいた私とジョルジオ様はすぐさま位置を変えようとした。

 けれど、先程までの突進のような勢いは無いものの、反転が早く、私が詠唱を開始していたこととキングの大きな体躯に圧倒されてしまったことで、反応が遅れてしまった。


 私はキングの体当たりを右腕に食らっていた。

 なんとか体を捩じって直撃は避け、かすった程度だったにも関わらず、吹き飛ばされて倒れてしまう程の衝撃だった。


 痛いっ!

 ちょっと当たっただけで腕が焼けるよう熱い!

 当たった衝撃で胸まで苦しいっ! 力が、入らないっ!


「フロストっ!」


 誰かが私の名前を呼んでいる。

 痛みと恐怖で誰の声かもわからない。

 もしかしたら誰も呼んでいないかもしれないし、みんなが呼んでくれているかもしれない。


「くかっ、はっ……。ふっ、ふぅふぅ……。まだ……まだまだよ! そんな攻撃でわたくしとクレアを倒せると思わないことね! キングっ!!」


 怖いけど、痛いけど、誰かが私を心配してくれる。


 クレアが私に任せてくれたっ!


 倒れるわけにはっ、負けるわけには、行かないのよっ!!


 私とキングは睨み合う。

 私の右腕は力が入らずダラリと垂れる。

 胸はずっと苦しい。

 

 対してキングもストームアローで抉られた首からは絶えず血が流れていた。

 ハナビス様が付けた後ろ足も今は血に染まっている。


 ストームアローで詠唱していた分の魔力は既に霧散し、私の魔力は底が見えてきている。

 キングも出血によって体力は低下しているはず。




 次で、決める。




 キングは今までより一際大きく嘶く。

 その身に宿す雷は今まで一番大きい。

 今度は突進をしてくるのか、ジグザグに体当たりを仕掛けてくるのか……。


 詠唱が間に合わないのが最悪かと思い、詠唱を開始しようとすると。


「エアーズガーデンを真上からじゃなく、横に向かって放てっ! 後詰は全員だっ! いいなっ!!」


「「「おうっ!!」」」


「何があっても俺がお前を必ず守る! お前は俺の目の前で、特大のをかましてやれっ!」


 スイフト様から指示が飛ぶ。

 みんなが応えて、ジョルジオ様からは頼もしいお言葉を頂く。

 無詠唱魔法なら詠唱魔法に比べて発動までの時間を随分と短縮できる。

 さらにキングの動きを止めて貰えるなら必中を疑うべくもない。


 よしっ! 気合いを入れなおして魔法をイメージする。

 みんなを信じて目を瞑り、暴風のイメージと鋭い風の刃を作り出す。

 目を開き、発動する場所を捉え、敵を捉える。


 キングは地面を蹴っていた。

 そう認識するとその姿はあっと言う間にジョルジオ様の目の前だ。

 キングも自身の最高の攻撃である角での突進を選んだんだろう。


「ぐうぅぅ! うおおぉぉおおお!!」


 ジョルジオ様が正面から受け止めるが、その勢いは止められない。

 ズズズッとその体ごと押し出され、やがてジョルジオ様とキングが私の目の前まで来てしまう。

 さらにキングの角を受け止めていた盾がヒビ割れていく。


 エアーズガーデンの発動まであと少しっ!

 でもジョルジオ様と盾が持たないっ!


 そう思った矢先、キングの勢いがようやく止まった。

 私がキングを見ると、角の先にはぼんやりと光る何かが三枚、遮っていた。


 クレアの光の盾だっ!

 バッと木にもたれかかるクレアを見ると、手のひらをキングに向かって突きだしていた。

 クレアは私を見ると微笑んで、またガックリと気を失ってしまう。


 ありがと、クレア。

 これに応えなきゃお姉様なんて呼ばれる資格ないよね。

 最後まで手間かけちゃったけど、今度こそまかせてっ!


 クレアと同じように私は左の手のひらをキングに向け、ありったけの魔力を込めて魔法を解き放つ。


「くらえぇぇええ!! これが私の全力だぁあああ!!」



――エアーズガーデン(風の箱庭)!!



 キングを倒すまでは意識を手放さない! 

 下唇を噛んで痛みで気を失うのを防ぐ。

 血の味が気持ちわるい。

 倒れないようにお腹に力を込めて立つ。

 膝が震えて崩れ落ちそうになる。

 

 それでも、最後まで見届けるんだっ!


 暴風はキングを逃がすことを許さず、風の檻へと閉じ込めていた。

 そこにいくつもの風の刃がキングを斬りつける。

 分厚い毛皮が削がれていき、やがてその身に裂傷がつけられる。

 首の元々抉れていた傷はどんどんと深くなっていく。


 それだけの傷を受けてもなお、キングは倒れなかった。


 立派な王だった。




 でも、体中傷だらけになったキングはもはや抵抗することも動くこともできなかったのか、ハナビス様を先頭に駆けつけたみんなの総攻撃に合い、やがて倒れて動かなくなった。

 私はそれを見届けて、意識を手放した。


 私達が、勝ったんだ。

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