三十話 バスケット(籠)
クイーンと全てのロックホーンを倒した私達は、すぐにクレアとジョルジオ様の所へと走り出していた。
そのメンバーはハナビス様、アニー様、スイフト様、ウィル様、ルーリー様、私だ。
アルヴァン殿下もついてこようとしたけど、私がついジョルジオ様の覚悟を無駄にするおつもりですかと一喝してしまい、なんとか留まってくれた。
せっかく救出しに来たのにまた命の危険にさらすわけにはいかないし、何よりクレアの行動を無駄にするのは許せない。
ってゆーか帰ったら死刑とかないですよね?
「まだ生きてるみたいだぜ!」
先頭を走るハナビス様がそう叫ぶと、やがてガンガンと鈍い音が聞こえてきた。
私は最後尾でゼハゼハと息を切らしていたが、その音を聞いて一気に加速する。
そして木々を抜ける。少しだけ開けた場所に出て目についたのは、神に祈るような姿勢をしているクレアと茫然としているジョルジオ様。
そして、二人を守る光の結界だった。
その光の結界は、バスケットの形をしていた。
いつもクレアがお菓子やお弁当を入れてもってきてくれるバスケット、つまり籠だ。
籠の形をした光がそこあった。
キングは苛立ったように大きな角を何度も叩きつけているが結界はビクともしない。
えー?
なんか、オモテタントチーガーウー。
ふと思いついた。
アレ、ゲームで言うところの特定のキャラだけが使える奥義じゃない?
クレアの場合はプリンセスフィールド。
心象風景を具現化して全ての攻撃を一定時間無効にし、味方を完全に回復するっていう奴。
心象風景がバスケットって、何?
しかも、攻略対象との好感度が高くないと使えないはずなんだけど……。
まぁそれはゲームの話しだから現実は好感度なんて関係ないのかもしれないけどさ……。
なんだか気が抜けてしまいそうになるけど、危険なのには違いない。
気を入れなおしてスイフト様を見やる。
「ハナビス、行けるか?」
「ありゃーさすがの俺も一人じゃキツイな。全員でサポート頼む。攻撃はフロストとルーに任せる」
「よしっ! さっき言った通りに展開! 行くぞっ!」
スイフト様の掛け声で、全員が跳び出す。
私が風魔でキングの注意をこちらに向かせ、正面にハナビス様が、両サイドにはアニー様とウィル様が。
スイフト様はやや後ろで遊撃として移動しながら攻撃するタイミングを見計らっていた。
「クレア! よく頑張ったわ! 後は私達にまかせてっ!」
「おねえ……さま……」
目を瞑り、祈るような姿勢をしていたクレアが目を開き、私を見つけるとゆっくりと倒れていく。
駆け出していた私はクレアをなんとか受け止める。
クレアが倒れたことによって、結界は音もなく消えていった。
「ジョルジオ様、動けますか」
「キングに足を折られている……」
「クレアの結界の中にいたんです。治っているはずです。すぐにハナビス様達の援護を」
「そんなバカな……。何っ!? 足どころか全身かすり傷一つないぞ!? くはは! これなら俺も戦える!」
「クレアは私が後ろに運びます。クレアの盾を持って早くみんなの援護をっ!」
「了解だっ!」
まぁぶっちゃけ私の力だけじゃ普通はクレアを運ぶなんてできないんですけど。
とはいえ、私は無詠唱魔法の使い手を気取っているので、クレアをおぶる時に下からクレアの全身に向かって風魔を使う。
思ったように上手くいかなかったけど、なんとかおんぶすることに成功した。
結構魔力使ったけど。
少し時間はかかってしまったものの、キングから十分離れた木にクレアをもたれかけさせる。
すると弱々しくクレアが目を開いた。
「私、お姉様のお役に、立てましたか?」
「えぇ。あなたは私の自慢の妹よ」
「よか……った……」
「後は、私に任せておきなさい」
クレアは少しだけ笑って、気を失ってしまった。
カッコ悪いことはできない。
クレアが慕ってくれる私であるために、絶対にキングを倒すっ!!
キングは規格外だった。
ジョルジオ様が戦線に入ったことで、もしかしたらもう決着が着いているんじゃないかと淡い期待をしたけれど、予想に反して戦局は膠着状態に陥っていた。
キングの突進と角のコンビネーション攻撃が苛烈で、ジョルジオ様が突進の勢いを止め、ハナビス様が角の攻撃を封じることでなんとか凌いでいる。
こちらの攻撃はキングの分厚い毛が阻んでいた。
アニー様、ウィル様、スイフト様が斬りつけても大した傷を与えられず、ルーリー様の水魔法は相性が悪いのかほとんど効果がない。
クレアが気を失ってしまったので回復が期待できず、思い切った攻撃ができないのも原因の一つだろう。
今はルーリー様が攻撃ではなく、ジョルジオ様とハナビス様を癒すことに集中し、戦況を保っている状況だった。
私はアニー様の後ろに付き、ウィンドスピアの貫通力を高めた魔法で牽制する。
が、貫くことはできずに軽い傷を作った後に霧散してしまう。
「フロストっ! エアーズガーデンでキングを倒しきれるかっ!?」
スイフト様が状況打開を考えたのか、私に問う。
「わかりません……。もし倒せなかった場合、今の魔力量ではわたくしは気を失ってしまうかもしれません!」
「わかったっ! 僕が合図をするまでは他の魔法で攻撃してくれっ! ジョルジオ様、なんとかキングの攻撃を受けきって下さい! ハナビスは後ろから足を狙って攻撃だ! 機動力を奪え! アニーとウィルでジョルジオ様をカバーだっ!」
「まかせておけっ!」
「おう!」
「しょーちー!」
「了解っ!」
キングは変わらず角を押し出した突進を起点にし、隙あらば角を振り回してこちらを攻撃してくる。
こちらが角を警戒して距離を離すと、また突進の繰り返しだ。
「ぐっ!おおぉぉおお!!」
ジョルジオ様は使い慣れた盾ではない、クレアの盾を使っている。
けれど、使い慣れない盾とは思えない程巧みに扱ってキングの攻撃を防いでいた。
角を全面に押し出した突進に対し、盾を斜めにして受け流したり、横から盾をキングの顔に叩きつけるようにして角の直撃をさけたりと、突進の勢いを殺しているのだ。
その反応速度、攻撃に対する恐怖心に打ち勝つ心、どちらも人間離れしているとしか思えない。
角の振り回しがきそうな時はアニー様が剣で刺突を、ウィル様が槍で突きを目や鼻に狙いを定めることで、相手の自由にさせずにこちらの致命傷は防げている。
アニー様の正確で素早い刺突、ウィル様の突き以外にも叩きつけを絡めるなどどちらも素晴らしいフォローをしている。
キングの足が止まると、今度はハナビス様だ。
キングの死角である後ろから足を斬りつけ、そのまま通り抜けるようにして攻撃されることを避ける。
私はその斬りつけた傷に向かってウィンドカッターを放ち、少しでも裂傷を広げるようにする。
そんな攻防が三度続いた所で、キングの様子が変わった。
こちらの隙をついて一気に距離を取り、キングは大きく嘶いた。
その声はキィイイッ! と甲高く響く。
そして、キングはその身に雷を纏った。
俄かに緊張が高まる中、キングは突進をする予備動作か足で二度、三度地面を蹴り付ける。
そして、突進を開始すると思った矢先には、ジョルジオ様の直前まで迫っていた。
それでも、ジョルジオ様はその攻撃に反応した。
盾を前面に構え、衝突する瞬間に後ろに飛びのいたのだ。
結果、なんとか衝撃を逃がすことができたが、ジョルジオ様はキングと一緒に後方へと連れ去られていってしまった。
キングが身にまとっていた雷の影響か、ジョルジオ様が苦し気にうめいて膝をつく。
一方でキングは身にまとっていた雷が消え去り、キング自身にも多大な負荷がかかっていたのか、少しだけその場から動かなかった。
真っ先に反応したのはハナビス様だった。
行動できないでいるジョルジオ様とキングの間に入り、キングを斬りつけるが、頭だけ動かして角で防がれる。
そしてまた、キングは距離をとるために駆け出す。
それを見た私はジョルジオ様の元に駆け寄る。
ジョルジオ様もルーリー様から癒しの魔法を受けて、なんとか態勢を立て直す。
「試して見たいことがあります。ジョルジオ様の後ろで魔法を使いますから、わたくしのこと、必ず守って下さいね」
「はーはっはっはっ! このような時にそのようなことを令嬢から言われるとはなっ。騎士の冥利、いや男の冥利に尽きるというものだっ! いいだろう、この俺が必ずお前を守って見せるっ!」
さぁ、キング。
第二ラウンドを始めましょうっ!




