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二十九話 私の大事な……:クレア視点

 私は一人、ジョルジオさんの所へ走っていた。

 色んな思いが頭の中を支離滅裂に駆け巡る。

 

 ジョルジオさんは無事だろうか。

 間に合うだろうか。

 貴族は怖い。

 でも、クラスメイトであるジョルジオさんを助けたい。

 お姉様と別々に行動するのは初めてで怖い。


 私は一人でうまく、やれるんだろうか。




 私は昔から、貴族が怖くて大嫌いだった。

 村は子爵様の領地にあったけれど、子爵様が村に来るのは一年に一度きり。

 別の貴族に会いに行く途中で私の住む村を通る時だけだった。


 お父さんもお母さんも、子爵様が来るときは私を決して家から出してくれなかった。

 もし目を付けられたら召し抱えられてしまうかもしれないから、と。


 私が行ってお金を貰えるならそれはお父さんとお母さんにとっても、村にとってもいいことなんじゃないの? って聞いたらすごく怒られたっけ。


 好奇心旺盛だった子供の頃の私は、言いつけを破って子爵様を家の窓からこっそり見たことがある。

 その時の光景を私は忘れられない。

 ただ目に留まっただけの村の住人を呼びつけ、鞭で強かに打ち付けていた光景を。


 遠目からだったけど、その目が確かに見えた気がした。

 人のことを人と思っていない目だった。

 家畜に向ける目と一緒なんだと思う。

 だって普通、人が人に暴力を振るったら感情が生まれる。

 愉悦なのか恐れなのか、はたまた別の何かか。

 それなのに、その人の目には何も映っていなかった。


 そんな仕打ちを受けても、村の誰もがただ顔を伏せているだけ。

 村の子供たちが暴力を振るえば怒るのに、貴族だから何も言えないんだ。

 なんて恐ろしい存在なのだろうと、そう思った。


 だから、貴族が私達を人と見ていないように、私も貴族を同じ人とは思えなかった。

 それは人の形をした何かだった。




 学院の入学式で初めてお姉様に声を掛けられた時、最初は貴族だなんて思わなかった。

 貴族が平民に声をかけることなどないと思っていたし、その声は純粋に私を心配してくれていたから。

 そんな人が貴族なわけないと思っていた。


 お姉様はとても感情が豊かな人だった。

 優しくて、たまに厳しくて、沢山笑って、ご飯を一杯食べると嬉しそうで。

 でもちょっとだけ怒りっぽくて。

 私の中の貴族像は、たちまちお姉様に書き換えられてしまった。


 学院には他の貴族である生徒に普通の人が沢山いた。

 たまに私や他の平民のことをいないかのように扱う人もいるけれど。


 最初はちょっと行きたくなかった学院も、たった三ヶ月とちょっとで私にとって大事な場所になった。




 大事な場所の、大事なクラスメイトが危険なんだ。

 お姉様なら必ず助けたいと思うに違いない。

 でも、アルヴァン殿下がいるからきっとお姉様は簡単に動けない。


 だから、私が変わりに行くんだ。

 私なんかがお姉様の代わりになることはないけど、それでもお姉様とは違った形でジョルジオさんを助ければいい。

 私だけのやり方で。




 どれくらい走ったのか、前の方から何かを叩きつける音が聞こえくる。

 よかった、ジョルジオさんはまだ生きている。


 さらに木々を抜けるように走っていると、少しだけ視界が開ける。

 そこには、右足を引きずりながらも大きな盾を必死に構えているジョルジオさんと、普通のロックホーンの倍はありそうなロックホーンがいた。

 あれがきっとキングロックホーンだろう。


 キングは体躯と同じく大きな角をジョルジオさんへ何度も叩きつけていた。

 ジョルジオさんの盾はへこみ、身に着けている鎧はすでにボロボロだ。

 何度も角を叩きつけられ、ギリギリ耐えていたジョルジオさんは仰け反ってしまう。


 次は、きっとない。


 私はとっさに光の盾を三つ、発動する。

 キングが振り上げた顔のすぐ下に。

 ゼロ距離で作った光の盾のおかげで、キングは頭を動かせなくなる。

 その隙に私はジョルジオさんに駆け寄る。


「助けが来た、ということは殿下は無事、なのだな……。私は、役目を果たせたか……。お前を巻き込んでしまったことはすまないと思うが……」


「まだ諦めないで下さい。私はお姉様と無事に帰ると約束していますから」


 キングは顔の下にある光の盾が壊せないことを悟ったのか、後ろに下がろうとする動きを見せる。

 私はすかさずキングの真後ろにも光の盾を発動させ、前後の動きをゼロ距離で阻害する。


 どれくらい時間が稼げるかわからないけど、今はジョルジオさんの傷を治して立て直すしかない。

 だけど、明らかに右足は折れていて、内臓にも傷を負っていそうだった。

 下位の回復魔法であるヒールでは焼け石に水になりかねない。


「中位の回復魔法を使います。それまで、キングが動いてもなんとかしのいでください」


「無茶を言うっ! だが、女一人守れぬのなら騎士など名乗れぬなっ!」


「その意気で、時間稼ぎをお願いします。……瞬き 煌めく 光の精 全てを照らし育む暖かさ」


 下位の魔法と違って、詠唱からぐんぐん魔力が吸われるっ!

 光属性は最適化が行われていないとは知ってたけど、中位の魔法がこんなに燃費が悪いなんてっ!

 力が抜けていくのを感じながらも私は手を祈るように組み、集中力を高める。


 詠唱の途中で、キングが力まかせに光の盾を壊してしまうのがわかった。

 思うように動けなかった苛立ちからか、先程より激しく角を叩きつけようとしている。


 間に合えっ!


「清らかな光を恵みとし 我が友を癒したまへ」


 魔法を発動する直前、キングはその大きな角を私達に向かって叩きつけてくるっ!


「ぐっ、うぉぉおおお!!」


 片膝立ちの状態で大きな盾を頭上にかかげ、気合いと共にジョルジオさんが攻撃を受けきる。

 その時、ゴキッという聞きなれない嫌な音がすると同時に、私は魔法を発動する。


「プリズムヒール!!」






 どれくらい時間が立ったのだろう。

 私はホーリーシールドと下位のヒールを何度もジョルジオさんに使い、ただひたすら耐えていた。


 プリズムヒールを実際に使ったのは初めてだったけど、想像以上にジョルジオさんの怪我を癒していた。

 発動直前に折れた腕を含めて、上半身の怪我の大部分をだ。


 そのおかげで、今まで耐えることができている。

 が、怪我をしている箇所が多すぎたからなのか、右足は折れたまま癒すことはできなかった。

 これでは逃げることは叶わない。

 もとより逃げられるような相手でもないだろうけど。


 ただ、プリズムヒールの魔力消費は想像以上に多く、私は大部分の魔力を使ってしまった。

 光の盾もホーリーシールドやヒールも何回も使っているので、プリズムヒールをもう一度を使ってしまうと他の魔法も使えなくなってしまいそうだ。


 だから、今はホーリーシールドでジョルジオさんの体と盾をキングの攻撃から守るのを優先して、怪我をした時にヒールを使って時間稼ぎをしている。


 けれど、それもいつまで持つかわからない。

 私の魔力が尽きるのが先か、盾が壊れてしまうのが先か、お姉様達が駆けつけてくれるのが先か。


 私達はただ、耐えることしかできない。






 どうやら、神様は私達には微笑んでくれなかったみたいだ。

 ジョルジオさんの盾が砕けてしまった。


 魔物の表情なんてわかるわけないのに、キングの顔がニヤリと歪んだ気がした。


 ここまで、なのかな。


 学院がすっごく楽しくて、幸せだったのに。


 私の知らない事、一杯あったのに。


 まだまだ、お姉様に色んなことを教えてほしかったのに。


 もっともっと、お姉様のこと知りたかったのに。


 ずっとずっと、お姉様と一緒にいたかったのに。




「お前だけでも逃げろ」


 ジョルジオさんが傷ついた体で、折れた足でキングの前に立ちふさがる。

 壊れた盾を捨て、片手で剣を握りしめて。


 そんな私達の様子を、キングは悠然と見ているだけだ。

 もう、キングにとっては私達はどうとでもなるってことなんだろうか。


 そっか。

 逃げて、いいんだ。


 何をしてもいいって、お姉様が言ってたっけ。


 私が立ち上がると、ジョルジオさんは剣を両手で握り直し、裂帛の気合いを持ってキングへと斬りかかる。


 そして、いともたやすく角によって剣を弾かれる。


 キングはジョルジオさんの気合いに答えるよう、一際高く鳴き、その角を天高く振り上げて……。


 お姉様……。

 私は……。



 最後までお姉様に恥じない私でありたいっ!!


 お姉様の隣に立っていたいっ!!


「ダメェェエエエエエ!!」

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