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二十八話 本気で行くわよ!

 救援要請が出ているからには両部隊ともピンチだろう。

 私達はすぐに村を出発した。


 全員が駆け足で少しばかり無理をしたスピードで進軍する。

 すると、一時間程で救難信号を打上げたと思われる部隊を発見することができた。


 彼らは十体を優に越えるロックホーンに囲まれており、その後ろには二体のクイーンが控えていた。

 その中に、アルヴァン殿下のお姿があった。


「殿下っ! 救援に来ました! 状況を教えて下さい!」


 アルヴァン殿下と部隊を見るなり、スイフト様が叫ぶ。


「キングだっ! キングロックホーンが現れたっ! 向こうでジョルジオが一人で抑えているっ! 俺を逃がすために……。あいつを……、あいつを助けに行ってやってくれっ!」


 アルヴァン様が切羽詰まった表情でロックホーンの群れがいるさらに奥を指さした。


「なんですって……。くそっ!」


 スイフト様はすぐに判断できないでいた。

 このまま私達が行ってしまえばアルヴァン殿下に危険が及んでしまう。

 王子であるアルヴァン殿下の無事が最優先だ。


 だけど、それではジョルジオ様が犠牲となってしまうだろう。

 スイフト様の頭で天秤は揺れ続ける。




 このイベント、攻略サイトで読んでいた内容を必死で思い出す。

 たしか、ここでジョルジオ様を助けられないと今後のイベントに登場しないと書いてあった。


 それが、死んでしまうのか、大怪我を負ってしまうだけなのか、それはネタバレ防止のためか書いてなかったけど。


 でも、今の状況を考えればジョルジオ様はキングロックホーンに殺されてしまうだろう。

 かといってウィル様の部隊をアルヴァン様の護衛においてもクイーン二体と十体を越えるロックホーンを全て討伐できるとは限らない……。

 というか、返り討ちにあってしまう可能性も十分にある。




「お姉様。私は入学から今まで、お姉様にずっと守ってきてもらいました。何の伝手もない、何のとりえもないただの平民であるこの私を。そんなお姉様を見て、いつか私も誰かを守れる自分でありたいと、そう思うようになったんです。だから、ごめんなさい」


 クレアが急に場違いなことを言いだす。

 私は何の事かさっぱり理解ができなかった。


「スイフトさんっ! 私がジョルジオさんの所へ行きます! 私の魔法なら、耐えるだけだったら一時間は持たせて見せますっ!」


 そう叫ぶなり、クレアが一気に駆け出す。


 私は呆気にとられて止めることができなかった。

 すでにクレアは走り出していて、私の足では追いつけそうもない。


 ならせめて、あなたの行く道は私が切り開く。


 クレアが走る方向に私は全力で風魔を発動し、ロックホーンを寄せ付けないように風の道を作り出す。


「私が必ず助けに行くわっ! 耐えて! 何をしたっていい! あなたは絶対に無事でいて! 帰って、サラとおいしいご飯を食べるのよっ!」


「はいっ! お姉様!!」


 クレアの姿はすぐに木々の間へ消えていってしまう。


 絶対に、あなたを助けに行くわ、クレア。




 ハナビス様とアイコンタクトで一体のクイーンへとつっこむ私達。

 ハナビス様が先陣を切る、私がそれに続く。

 幸いにクイーン同士の距離は離れていた。


 挟撃が怖いので、アルヴァン殿下達を囲む雑魚達から距離を取るようにして、若干迂回気味に走る。


「アニー! 二人の援護だっ! ウィルの部隊はもう一体のクイーンを全員で包囲っ! アルヴァン殿下! 申し訳ありませんが、周囲の雑魚をお願い致しますっ!」


 私達の動きを見たスイフト様がすぐに状況を把握して、全体に指示を出す。

 さすがスイフト様だ。


「あぁ! それくらいならまかせろっ! マリアンヌ!」


「心得ていますっ!」


 戦場は、大混戦へと突入していった。




 早くクレアの所に行かなくちゃ。

 焦りながらも、冷静になれと周囲を見渡す。

 クイーンから襲われる心配がなくなった今、雑魚はアルヴァン様とマリアンヌ様を中心に確実に倒せそうだ。


 ウィル様の部隊も後衛がクイーンをうまく牽制していて、しばらくすれば前衛で取り囲むこともできるだろう。


 なら、私とハナビス様がクイーンを早く倒せれば、状況は十分に打開できる。

 魔力の消費は激しくなるけど、一気に決めてしまうしかない。


 昼間に魔力を使いすぎたけど、十分時間は立っているし軽く食事もした。


 クレアのために、やるしかない。




 ハナビス様がクイーンと対峙するまで、私が魔法で雑魚を寄せ付けないように援護する。

 アニー様が援護に来たら雑魚はお任せして、ハナビス様がクイーンを釘付けにした所に私が威力の高い魔法を叩きこんで決着を着けてやる。


 ハナビス様もなんとなく私の考えをわかってくれているのか、周囲の雑魚には目もくれずにクイーンへと駆けていく。


「世界を巡る風よ 駆ける力を刃へと変え 疾く重ねて 敵を切り裂けっ ウインドカッター!」


 以前使った詠唱とは一部、『速く』を『重ねて』に変えて詠唱魔法を唱える。

 スピードは落ちるけど、風の刃を二重にして威力を高める詠唱内容だ。


 クイーンに少しでも裂傷を与え、血が流れれば動きを鈍らせられるだろう。

 そうすればハナビス様も楽になるはず。




「世界を巡る風よ 駆ける力を双刃へと変え 疾く鋭く 敵を切り裂けっ クロスカッター!」


 ハナビス様に近づく二体の雑魚には威力を高めた風の刃を左右に発生させるようにして魔法を放ち、首を切断する。


 詠唱魔法は詠唱の内容をかえると威力・効果が変わる。

 けど、その分魔力の消費が大きくなる。

 この二連発はどちらも通常の倍以上の魔力使っている。


 ハナビス様がクイーンの所に辿り着き、援護に来てくれたアニー様が私の前へ出る。

 ハナビス様がクイーンに剣を叩きつけ、一対一の状況となった。


 最初の叩きつけ後、ハナビス様はクイーンに角を振らせないよう先手先手をとってクイーンの顔を目掛けて剣を振るっていた。

 クイーンは鬱陶しがって下がろうとするが、ハナビス様はそれを許さない。


 クイーンが釘付けにされていることを確認して、私は中位の魔法を詠唱する。


 中位以上の魔法は下位の魔法と違って、精霊に声を届けるには詠唱にも魔力を乗せなければならない。一語一語をゆっくりと魔力を乗せて詠唱する。


「舞え 唄え 風の精」


 クイーンを守ろうと、周囲のロックホーン二体がハナビス様へと突進を開始した。


 私はアニー様を見やり、目で行ってください、と力を籠める。

 一瞬アニー様が躊躇らうもののハナビス様の所へと走り出す。


 アニー様はハナビス様とロックホーンの間に体を入れてバックラーを顔面に叩きつけて防ぐ。

 もう一体には剣で牽制をするが、その勢いを止めることはできなかった。


「自由に狂いて吹き荒べ 暴風踊りて我が矢なれ」


 ハナビス様はクイーンの角を自由に振るわせないよう牽制しつつも、何度か体に剣を斬りつけているが全て浅い。

 そしてその隙をついた一体のロックホーンの突進がついにハナビス様の体を捉える。


「全て貫く力なれ」


 ハナビス様はロックホーンの角に当たらないよう体をうまくずらす。

 が、角には直撃しなかったものの、体当たりは食らってしまう。

 そしてその衝撃に真っ向から耐えていたっ!

 やべぇ、あの人本当に人間かっ!?


 それを見て心が乱れそうになるけど、私に向かって突進してくる別のロックホーンが見えて、一気に心が冷えていく。


 でも、大丈夫。

 信じているから。


「僕の仲間に手を出させるかっ! 行けぇえ! フロストォォ!!」


 スイフト様を。

 仲間を。


「ストームアロォォー!!」


 直径十センチ、長さが七、八十センチはありそうな矢が三本私の前に現れる。

 その矢は目に見えるほどの風が渦巻き、しっかりと形をなしていた。


 ゴウゴウと音がするほど渦巻く風は、目にもとまらぬ速さでクイーンへ向かって解き放たれる。


 ハナビス様は私が魔法を叫ぶと同時に横へと転がって射線を開ける。


 クイーンは避ける暇もなく、頭、首、胴を貫かれて倒れていった。

 同時に、雑魚もアニー様が首を撥ねた。


 ふふふ。

 ゲームだったら下位の魔法を二つくらいしか使えない序盤で中位の魔法はなかなかにチートじゃないかっ!

 ビバっ! 私っ!


 浮かれていると、ハナビス様に肩を捕まれる。

 この人、いつの間に戻ってきてるの?

 っていうか、乙女に気軽触るとは何すっとかーーっ!!


「お前、ちょっとフラついてるぞ。クレアの所にいきてーんだろ? 後は俺達に任せてしばらく休んでおけ。スイフト、こいつを頼む」


「あぁ、まかせてくれ」


「アニー、行くぞっ!」


「しょーちー!」


 スイフト様が私のすぐ横まで来ると、ハナビス様は矢のようにもう一体のクイーンへ向かって飛び出していった。


 そこから先は、あっけない程簡単に決着が着いた。

 ハナビス様、アニー様がウィル様の部隊と合流し、クイーンを足止めしている間にアルヴァン様の部隊が雑魚を殲滅。

 そして、全員でクイーンを包囲することで危なげなく勝利したのだった。

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