二十七話 隠しイベント発生!!
体がだるい。
それでも何かしなくちゃいけないという使命感が重たい瞼を開けさせる。
知らない天井だ。
「お姉様っ!大丈夫ですか?」
頭上からクレアの声がかかる。
あ、これ天井じゃなくてクレアさんの豊かな胸部なんですね、チッ。
「ううん……。ここ、は?」
「サーマ山脈でクイーンを倒した場所ですよ」
重たい体に気合いを入れて起こす。
どうやら私はクレアに膝枕をしてもらっていたみたいだ。
クイーン、クイーン……。
ハッと直前の光景を思い出す。
「ス、スイフト様!? アニー様は!?」
クレアが指をさしてアニー様の居場所を知らせてくれる。
「あ……、あ……、そ、そん……な……」
アニー様は木にもたれかかり、その衣服を血で濡らしていた。
「アニー……様……」
私はよろよろとアニー様の元へと歩く。
「私……私は……」
アニー様の胸に、崩れ落ちる私。
「アニー様ぁあああ!!!」
「は~いっ! アニーちゃんだよ~っ!」
「!?!??」
「あ、この血ね~。クイーンの返り血だよ~。いや、返り血はちょっと違うか。フロストの魔法でズッタズタになったクイーンの血が私にぶっ掛かったのさっ!」
「う、うえぇぇええん!! あぁぁあああ! アニーざまぁああ!!」
アニー様の胸に崩れ落ちていた私はそのまま抱き着く。
そこにいることを確かめるように。
「ちょ、フロスト、泣かないで!」
「あぁぁぁあああ! よがっだよぉぉお!!!!」
「ちょっと休んでただけだし、この血はちょっとしたいたずらのつもりだったのっ! 悪ふざけがすぎたから、ね? 泣き止んで? ね? ね?」
「うあぁぁあん!!ズイ、ズ、ズ、ズビブド、ズビブドざまわぁあああ!!」
「ぼ、僕もこの通り、平気だよ? ほら、フロスト、泣き止んで」
木の後ろ側から現れるスイフト様。
私は思わずスイフト様に抱き着いてしまう。
「よが、よが、良かったよぉぉお。うっ、ひっく。ひっく」
私の感情はめちゃくちゃだけど、これだけは心の底から思う。
本当によかった。
二人が無事で。
私が落ち着くまで優に三十分はかかっただろう。
その間のハナビス様の目がなんだかかわいそうな奴を見る目だったことは忘れない。
ちくしょう、バカにしてっ!
アニー様とスイフト様はその間、私をただただ慰めるマッシーンと化していた。
それを近くから暖かく見るクレアの視線も何気に私にとっては痛い。
姉と慕ってくれる子にこんな姿を見せてしまうなんて……。
「よ~し、落ち着いたね~? で、クイーンの素材がパーになっちゃったんだけど、あの魔法、一体なに?」
『エアーズガーデン』。
この魔法はスイフト様に相談した後、しばらくして貰ったアドバイスを元に考えた物だ。
森限定の局地的に使う魔法よりも汎用性のある魔法にした方がいいと。
汎用性といっても、弱い魔物に使うものではなく、今回のクイーンのような対ボス戦用に。
いや、それは汎用性あるか? というツッコミはスルーしておく。
森の中でのみ使えるような魔法よりはね?
訓練期間の一ヶ月という短い時間で全く新しい無詠唱魔法を使えるようになるのはかなり厳しい。
そこで私は使える魔法を組み合わせることを考えたのだ。
風魔とどこでもウインドカッター。
この二つを合わせたら、想像以上に相乗効果が高かった。
まず風魔の最大出力で四方から対象に向かって上空から風を打ち付ける。
この風は非常に強力で並みの人や魔物では身動きがとれない程だ。
ジョルジオ様やハナビス様レベルなら動ける気がしてならないけれど。
で、四方上空から打ち付けられた風は結界のようになって内側に向かって荒れ狂う風が舞うことになる。
そこに、どこでもウインドカッターを発動する。
風魔によって強力な追い風をうけたどこでもウインドカッターが縦横無尽に結界内を飛び回ることで敵をズタズタにする、というわけだ。
で、クイーンの角だけは頑丈さから無事だったけど、体はズッタズタのボッロボロになっていた。
毛皮が様々なことに使えたり、お肉も食べれたりする。
どころかクイーンの肉は通常のロックホーンよりもやわらかく、全く臭みがなくてとってもおいしいらしい。
が、一目で台無しなことがわかる。
「あの……、ごめんなさい……」
角が一番貴重ではあるけど、他の素材もクイーンとなればそれなりの値段がつく。
それを台無しにしてしまったから私は素直に謝った。
「フロスト、謝らないでくれ。僕とアニーを助けてくれた。こっちが感謝こそすれ、謝罪を受ける謂われはない。クレアのおかげで傷一つないしね。改めて、僕達を助けてくれてありがとう」
膝をついたスイフト様は、謝る私の顔を上げさせるように私の両肩に手をかけ、まっすぐに目をみてそんなことを言う。
優し気な顔立ちに見惚れそうになる。
あ、さっき抱き着いちゃったな。
思ったよりガッシリしていたし、温かかったなぁ。
「ありがと~! フロスト」
アニー様が私の腕を取って抱く。
ちょっと血に濡れている部分が冷たい。
でも、その笑顔は最高に可愛い。
うん、二人はきっとお似合いだ。
二人が無事で本当によかった。
また、さっきとは別の涙が出そうになって。
二人の真っすぐな好意に少しテレてしまって。
私はそっぽを向いて、こう言うのだ。
「大事な友達だから、当たり前のことを、しただけです」
アニー様にもみくちゃにされた。
解せぬ。
魔力がすっからかんになってしまった私を気遣ってか、随分と長い休憩をとってもらった。
気を失っていた時間が三十分程で、色々あってさらに三十分。
さらにさらに休憩で一時間程を使った。
その間、クレアが持っていたクッキーをモグモグしたり、ハナビス様がくれた干し肉をモグモグした。
結局、クイーンと十体近いロックホーンを討伐したけど、村まで持ち帰るのはクイーンの二本の角とウィル様の部隊が討伐していたロックホーン二体となった。
私が気を失っている間に血抜きをしていたらしい。
我らが料理番、クレアが夕食を鹿鍋にしてくれるって! ひゃっほーい!
昼はとうに過ぎて、私の魔力もある程度回復したとスイフト様が判断して、村へ移動を開始する。
血抜きしたロックホーンはウィル様の部隊で運んでくれることになった。
クイーンの角だけは私達の部隊の成果だといってくれたのでこちらで運ぶ。
角はその丈夫さ、突進の時の脅威度に比べて角はとても軽かった。
私でも片手で持てるくらいだ。
なので、二つの角をそれぞれ片手で持って頭につけ、突進ごっこをハナビス様にしたらしこたま頭をグリグリされた。
痛い。
それを見たクレアが、アニー様が笑ってくれる。
それが、今はすごく嬉しい。
警戒しながら進んでいた行きとは違い、この辺りのロックホーンは討伐済みのため帰りは随分とスムーズに帰ることができた。
村に戻ると、戻ってきている部隊はまだおらず私達が一番乗りだった。
私が気を失って休憩していた時間を考慮すると、他の部隊が戻るのが随分と遅いように思うんだけど……。
ひとまず教師に報告を行い、休もうとしたその時。
救援要請の魔法が打ちあがった。
クイーンがまだ複数いる?
この時間ならどちらの部隊もクイーンを一体ずつ討伐していてもおかしくない時間なはずだけど……。
ゲームの時ももちろんこんなイベントはなかった。
けど、何か見落としてる?
攻略サイトは何回も見てきたんだ。
何か、何かなかった?
……え!? ちょ、あ、もしかして!?
グランドルートの条件かつ、ランダム発生のロックホーンの王様、キングロックホーンを倒すイベントなんじゃ!?
グランドルートは諦めてたし、そもそもキングロックホーンと戦ったことないから忘れてたっ!
まずいまずいまずいっ!
ロックホーンは基本クイーンを群れの統率者とするけど、極稀にそのクイーン達を統率するキングロックホーンが生まれることがあるっ!
「スイフト様、キングです。おそらくキングロックホーンが現れたんだと思います。それなら一つの山に複数のクイーンが率いる群れがいることにも説明がつきます。教師たちにキングロックホーンの可能性を伝えてきますっ!」
私が教師達がいるテントまで移動する最中、別の方角からも救援要請の魔法が打ちあがった。
先程の救援要請よりは麓に近かった。
二方向に分かれていた部隊両方からの救援信号だ。
少なく見積もってクイーンが四体か、もしくはキングがいると考えたほうがいい。
なにより、アルヴァン殿下が戻ってきていないのだ。
殿下にもしものことがあったら大変なことになる。
私は急いで教師の所へ向かった。
「可能性は、あるな……。よし、教師全員で山へ向かう。戻ってきた所すまない。キングロックホーンがいるとしたら、奥の方だろう。君達には麓側に上がった救援要請の場所に向かってもらいたい。部隊を見つけたらクイーンを討伐し、安全を確認して村へ帰還するように。万が一キングロックホーンに遭遇してしまったら無理をせず、教師が向かうまで耐えてくれ」
当初とは違った緊張感を持って、私達は再度サーマ山脈を登る。




