一〇九話 策はめぐらされていた
「僕達も三人を追いかけて援護しよう。黒剣の狙いは白盾なはずだから、僕達に攻撃してくる確率は低いと思う。
けど、念のため黒剣の動向には注視しよう。警戒していない状態で後ろから攻撃されたら防ぎようがないからね。
クレアちゃんはいつでも防御できるように準備をしておいて」
「はい!」
エリック様が次の行動を指示する。
黒剣が白盾を狙っているのだから、私達もその思惑に乗って全力で白盾を攻撃する方針だ。
とはいえ、無防備に突っ込んでら後ろから黒剣に狙い撃ちにされる可能性もあるので、防御の要であるクレアには警戒の指示を出したのだろう。
「黒剣が魔法を発動させたタイミングで走りだすよ。魔法は詠唱の分タイムラグが生まれるから、黒剣が魔法を発動させた後十秒間は全力で走る。
次の魔法が放たれるまでは僕らを狙ってくる可能性も捨てきれないから、後ろを経過しつつ歩く。これを繰り返して姉貴達に追いつこう」
「わかりましたわ。それならわたくしもなんとか走りきれそうな気がします」
自分で言うのもなんだけど、走るの得意じゃないからね!
「ホーリーシールドは要らないですか?」
「うん。姉貴達三人だけじゃいずれ全滅させられてしまうから、時間は掛けられない。三人に合流することが第一優先だ」
「わかりました」
そうこうしている内に、また黒剣から魔法が四つ、順次放たれる。
「よし! 行くよ!」
エリック様の掛け声で、エリック様、クレア、わたしの順で走り出す。
速度を緩める合図はエリック様が行うことになったので、それまでは全力で走る。
私達が走り出すと、白盾も魔法を四つ放ち見事相殺する。
白盾は上手に魔法をフル回転させているなぁ。
黒剣の魔法が来たら迎撃して、そうじゃなければエリーゼ様達を攻撃して、無駄無く次々と魔法を発動することが出来ている。
まるで、お手本のような魔法戦だ。
普通、二正面作戦になってしまったら、混乱や焦りが生まれてうまくいかなくなることも多いと思う。
けど、こんなにもうまく回っているのは、後ろで指示を出しているマリアンヌ様の指揮能力の高さゆえなのだろう。
私が白盾に気を取られていると、エリック様が手を上げて歩く合図を出した。
私達は速度を早歩きくらいまで落として、後ろの黒剣の様子を見る。
やはり私達を狙ってくる様子はない。
このままならエリーゼ様達と無事に合流することができそうだ。
そのエリーゼ様達は、白盾との距離をすでに五〇メートル程まで詰めている。
さすがに近くなりすぎたからか、いくらか被弾しているみたいだ。
けど、黒剣が白盾を攻撃し続けていて、白盾が迎撃をしているおかげで、思ったより被弾は少ないみたい。
体は淡く光っているから、ホーリーシールドの効果はギリギリ残っているみたいなんだよね。
「よし、走るよ」
エリック様が黒剣が魔法を発動させたのを見て、再度私達に指示を出す。
正直もうちょっと休んでたかったんだけど……仕方ない、頑張りますか!
前を向いて、再度全力で走り出す。
前方ではエリーゼ様達が白盾に肉薄する。
タイミング的に、黒剣の魔法とエリーゼ様達がモロック様に攻撃を仕掛けるのはほぼ同時になる。
あと数秒でモロック様に攻撃仕掛けるという所で、エリーゼ様は突然後方に飛びのいた。
モロック様のやや前から、壁側に向かって炎の壁が出現したのだ。
その壁は黒剣の魔法を防ぎ、かつエリーゼ様の進路を妨害していた。
そして。
「ごばっぷ!!」
エリーゼ様が後方に着地したのと同時に、私は頭に衝撃を感じて、顔から地面に突っ伏してしまう。
さらに私のすぐ横に何かが着弾する。
「お姉様!」
「フローレンシアちゃん!?」
「い、いつつつ」
護石の効果のおかげか、実際はそれほど痛いわけではないのだけど、コケたという事実からついそんな言葉が口をつく。
「ど、どうなさったんですか……?
「わたしにもよくわからないんだけど、頭に衝撃があって……たぶん、魔法で攻撃されたと思う」
「黒剣に魔法で攻撃された? でも、魔法を放ったのを確認して行動していたのに?」
「あ。違和感の正体……」
「どういうことですか? お姉様」
「んと、ハナビス様をこの試合から外したってことは、黒剣は魔法主体で戦うことを想定していたはずでしょ?
それなのに、魔法を使える生徒が四人って少ないと思わない?」
「う~ん。この状況を想定して、ずっと二人を温存していたってことですか?」
「うん。そうとしか思えない……」
「僕達は黒剣に行動を誘導されていた? だとしても、僕達は白盾の所に行こう」
「エリック先輩、それじゃスイフトさんの思うつぼじゃないですか!」
「このままじゃ姉貴達三人が無駄死になる。
黒剣の策に嵌まって犠牲が出たとしても、無駄死にじゃなく、せめて一人は道連れにしなくちゃいけない」
思うつぼと分かっていても、最低一つは護石を破壊しなければ全員失格なのだ。
ここまで来たら白盾の生徒を倒すしかない。
一体、スイフト様は何手先まで読んでいるんだろう?
このままスイフト様の手のひらで二チームは踊らされ続け、銀杯と白盾は戦力を消耗し、最後には黒剣に総攻撃を掛けられてしまう。
そんな最悪な展開が頭をよぎる。
何か、何かスイフト様の作戦を乱す方法は……。
……。
いや、そこまでしなくていい。
魔法を発動させるタイミングや作戦はスイフト様が出しているんだ。
せめて、指揮系統を乱すだけでいい。
「わたくしが、アクセルで黒剣に一気に近づいてスイフト様を狙います。そうすればいくらスイフト様でも的確な指示は出せなくなるはずです」
「お姉様! 一人で敵陣に行くなんて危険すぎます! 私も!」
「ダメよ。今この状況でエリーゼ様達を守れるのはクレアだけ。大丈夫。私、走り回るのは得意なのよ?」
「お姉様の、嘘つき……」
はい、嘘です。
普通に走るのは嫌いだし、体力が持ちません。
「ふふ、ごめんごめん。でも、アクセルがあるからね」
他人に掛けるのは時間が掛かってしまうけど、自分にかける分にはかなり時間を短縮できている。
バレットと同じで、特定の行動が無詠唱魔法を発動するために必要なイメージを補ってくれているからだ。
その行動はズバリ、ひたすら走ること。
軍隊サソリを討伐する時、テルト村まで必死に走りながら何度も使ったから、いつの間にかそれが特定の行動として結びついてしまったみたい。
いざとなったらアクセルで走り回って、折を見て逃げることもできるはずだ。
「問答している時間はないよ。姉貴達が危ない。リスクを背負ってでも、僕はその案に賭ける」
既にカーイ様、セッツ様はモロック様と接近戦を繰り広げている。
お二人は見事なコンビネーションでモロック様を翻弄しているものの、白盾の魔法による援護のせいで押し切れていない。
着実にモロック様にダメージを与えているようだけど、同時に魔法を被弾していて、お二人も着実にダメージを蓄積してしまっているのだ。
このまま押し切れない状況が続けば、お二人のどちらかの護石が魔法によって先に破壊されてしまい、そのままもう一人もやられかねない。
一方エリーゼ様は、カーイ様達と分断され、白盾と黒剣の魔法の射線上に出てしまっていた。
前からも後ろからも来る魔法を避けるので精一杯のようで、カーイ様達の援護も、白盾に切り込むこともできずにいる。
エリック様の言う通り、ここで問答している時間はない。
「はい。では、わたくしはすぐに黒剣の方へ行きます。お二人はエリーゼ様達を頼みます」
「わかった。フローレンシアちゃん、くれぐれも護石を破壊されないようにして。
最悪、クレアちゃん以外の僕達がやられててでも白盾の護石を破壊するから、君達だけでも次の試合に残れるようにするんだ」
「いいえ。わたくしはエリック様達を信じています。みんなで、勝ち上がりましょう」
現実的に考えれば、今の状況で誰も護石を破壊されないなんて無理だ。
それでも、それを言葉にしたくない。
みんなで、勝ちたいんだ。
「っ……全く、これで頑張らなきゃ男じゃないね。クレアちゃん、行こう。勝ちに!」
「お姉様、気を付けて下さいね」
クレアは私の左手を両手で握り、祈るようにそう言った。
握られた手は、クレアの手が離れてもぬくもりが消えることはなかった。
「えぇ。行ってくるわね!」
私は駆け出し、すぐにアクセルを発動させる。
黒剣は今まで魔法を発動させていなかった二人を隠す必要がなくなったからか、六人で順次魔法を発動させている。
主な狙いは白盾のままだけど、時折エリーゼ様やエリック様とクレアを散発的に狙っていた。
私には一発も魔法が放たれないまま、スイフト様の元へ辿り着く。
スイフト様は他の生徒達とは少し離れた所にいた。
まるで、私が来ることが分かっていて、待ち構えるように。
「やぁフロスト。思ったより早かったね」
「わたくしが来るのも想定済みですか?
銀杯と白盾を争わせて戦力が削るのが狙いだと思いますけど、わたくし達銀杯を舐めないでください。そうやすやすとやられたりしませんから」
「僕の狙いか。まぁそれもあるけど一番はそんなことじゃないんだ」
「どういうことです? これ以上の狙いなんて……」
「僕が欲しいのは君さ、フロスト」
「えっ?」
えっ!?!?!?!???!??!?!??!?




