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一〇七話 勝ち筋は?

 魔物討伐と違って対人戦で魔法を中心に戦う場合、開けた場所では一定の距離を保ちながら魔法をより多く撃つのがセオリー。


 大まかな勝ち筋は二つ。

 一つ、弾幕を張って相手を圧倒し、着実にダメージを与えて削り切る。

 二つ、弾幕を張って逃げ道を塞ぐか魔力切れを狙い、中位魔法で止めを刺す。


 どれも弾幕を張ることが基本となるから、数が多いほうが有利となる。

 もちろん魔法を撃ち合っている最中に接近戦を仕掛ける選択肢もあるから、そうそう単純ではないのだけど、有利になるのは間違いない。


 他にもメリットというか展開を有利に運ぶ要素は多い。


、詠唱魔法は詠唱する必要があるから発動までのラグが必ず発生するけど、人数が多ければ発動タイミングをズラすことで間断ない攻撃が可能になる。


 魔力量は個人差こそあれ有限なのだから、人数が多い方が魔力総量が多くなりやすいことなどだ。


 とまぁ他にも細かいファクターはあるものの、魔法が使える人数が少なければじりじりと追いつめられていってしまうのだ。


 ちなみに下位魔法と中位魔法の威力について。

 護石は攻撃用の中位魔法が直撃すれば破壊されてしまうわけだけど、下位魔法であれば属性や魔法の種類によって大きく変動するみたいだけど、おおよそ八発~十二発程度で同じ威力になる。

 これは護石に対する蓄積ダメージ量の話であって、実戦では下位の魔法でも一発で動けなくなることも多々あるんだけどね。


 後、武器によるダメージの蓄積量は思ったよりも低いみたい。

 試合では木製の武器を使用しているからだと思うけど、下位魔法よりダメージ蓄積量は低い。

 第三試合のロウェル様の戦斧、ハナビス様の青い光で強化された攻撃、リズ先輩の大剣なんかは例外でかなりの威力がありそうだけど。




 さて、ここで我が銀杯の魔法戦力を確認しよう。


 私とクレアの魔力量は平均よりもかなり多く、無詠唱魔法も使えるのでなかなかに高い戦力だ、と思いたい。

 エリック様、エリーゼ様の姉弟は、魔力量が少なく、特にエリーゼ様は極端に魔力が少ないため、ほとんど魔法が使えない。

 カーイ様、セッツ様に至ってはそもそも魔法が使えない。


 つまり……私とクレアだけでなんとかしろって状況!!

 じりじりと追いつめられる所じゃない! いきなりクライマックス!!




「えっと、お姉様? 何を考えてらっしゃるんですか?」


 エリック様の言葉に同意して考え込んでしまった私を見て、クレアが問いかけてくる。

 今考えていた内容をクレアを始め、シャード兄弟にも伝える。


「きゅ~るりん」


 エリーゼ様は理解を諦めたようだ。


「えっと……それって、私達に勝ち筋はあるんでしょうか?」


 クレアがおずおずと言う。

 ……勝ち筋?


「あ……ごめんクレア。ちょっと待って」


 そういえば黒剣の、エースであるハナビス様を抜いた勝ち筋ってなんだろう?

 黒剣の出場する生徒を確認する。


「……カーイ様、セッツ様。黒剣にわたくしが見たことのない方が二名いらっしゃるので、二年生だと思うのですがどんな方なのでしょうか?」


 黒剣の七人の生徒の中、見覚えのない方が二人。

 おそらく二年生だろうと当たり付けて、事情通(?)のシャード兄弟に聞いてみる。


 他の一年生の方達は良くは知らないけれど、一学期に部隊を組む時に模擬戦をしたような……。

 印象が薄いということは、きっと飛びぬけた戦力ではないはず。


「あいつらか……Cクラスの俺達が言うのもなんだけど、あいつらはBクラスの中でも普通としか言いようがないんだ。背の高い方は中位魔法を使えるけど、接近戦は普通」


「魔力量も平均的で、使う魔法もオーソドックスな物しかないし、基本指示待ち型の生徒だな。ちなみに背の高い方は土属性、低い方は火属性だ」


 この状況、魔法が使えないお二人が言うのは確かに微妙だね……。

 まぁお二人は接近戦でバディとして戦うことで真価を発揮するから、その時に期待しよう。

 その時が来るかはわからないけど。


 と、思考がそれた。


 ハナビス様は居ない。

 Aクラスの生徒はスイフト様しかいないし、個々の戦力が飛びぬけて高い人もいない。


 では、何を狙っている?

 スイフト様は商売人で、商売人は利益の確保、及び最大化を考えて動くはず。

 先を考えて損切りすることもあるだろうけど、それなら七人で試合に出てくる必要はない。


 そのスイフト様が、予想外の動きをしてきたということは何か勝ち筋、もしくはリスクを払ってでも得たい明確な狙いがあるんじゃないだろうか。


 その答えが、私にはわからない。




 試合開始五分前、教師から移動をするよう告げられる。


「わかってはいたけどこの位置は、まずいね……」


 エリック様の呟きに、私は頷く。


 当初の作戦で銀杯は二チームの間に位置し、魔法を防ぎながら白盾に近づいて乱戦にすることを予定していた。

 白盾、黒剣から同時に魔法で攻撃されてしまうけど、黒剣はハナビス様中心の接近戦を主軸にしてくると思っていたので、一時的な二正面作戦になっても私とクレアの魔法を中心に十分対応できると踏み、砂浜側に移動していたのだ。


 それが今、私達の首を絞めている。


 現状、白盾と黒剣は崖を背にしているため、この移動時間にわざわざ崖側を捨てるようなことはしない。

 銀杯を中心に白盾と黒剣は一定の距離を保ち、各チームを線で結んだ形は二等辺三角形になるように布陣することが予想できる。


 作戦は崩壊、位置関係は最悪。

 起死回生の一手など、そう簡単には思いつかない。


「最序盤の動きは予定通りに行こう。

 クレアちゃんは光の壁を展開後、前衛にホーリーシールドを掛けて、その間はフローレンシアちゃんが防御。

 ホーリーシールドが掛け終わるまでの時間で、黒剣の動向を見て僕が指示する。

 姉貴、シャード兄弟は待機。多分、接近戦を仕掛けてくることはないと思う。魔法が防げそうなら、フローレンシアちゃんを手伝ってあげて」


 ホーリーシールドは単純に護石の耐久力を上げてくれるから、これだけは他のチームにはない明確なアドバンテージとなる。

 実際、護石の耐久力が四〇パーセントくらい上がるのだからチートだチート。


「「「了解」」」


 私達はできるだけ二チームから距離を離すために砂浜の奥へと移動する。

 白盾と黒剣は距離による魔法の威力減衰を嫌ってか、私達の動きを見て少し中央へ移動する。

 最終的な三チームの位置関係は正三角形のような形になり、距離は四〇〇から五〇〇メートルくらい離れて試合開始となった。




 白盾は一年生のAクラスであるモロック様が部隊の前に立ち、その他の生徒達は詠唱を開始する。

 モロック様は一年生のAクラスではあるが魔法が使えないので、近づく敵を食い止める役目なのだろう。

 実際、その腕前は確かだ。


 黒剣は少し距離を取って一列に並び、詠唱を開始する。

 スイフト様も魔法が使えないけど、指示役としてか他の生徒達の後ろに位置して指示を出しているようだ。


 銀杯はエリック様、エリーゼ様が黒剣側を、カーイ様、セッツ様が白盾側を向いて、私とクレアがその少し後ろとなる。


 クレアは予定通りに光の壁を展開した後、ホーリーシールドの詠唱を開始した。


 私は銀杯が魔法で狙われること想定して、他のチームより少し遅らせて詠唱を開始する。

 発動する魔法はウィンドブラスト。

 第二試合で森の中で使った、風の塊を飛ばして周囲に衝撃を与える下位の詠唱魔法だ。


 この距離なら山なりに放たれるであろう魔法に向かって放ち、相殺と周囲の魔法の軌道を変えることを狙う。

 衝撃の範囲外で軌道が変わらなかった魔法に対しては風魔で対処するしかない。


 二チームから同時に狙われた場合はかなり厳しいけど、やれることをやるしかない。

 魔力をたっぷりと込めた風魔であれば、強引に軌道を変えさせることはできるだろう。


 無詠唱魔法は消費魔力は多いけど、何度も使っていれば効率化されて魔力消費減るし、発動も早くなる。

 とはいえ、使い慣れた風魔であっても効果を高めれば魔力消費は多い。

 後半になって魔力切れになってはマズいので、数発程度はクレアが最初に展開してくれた光の壁が壊れてでもそちらにまかせるしかないか。



 詠唱魔法を発動できるギリギリのテンポまで遅くして、攻撃に備える。


 最初に魔法が放たれたのは白盾から。

 狙いは私達銀杯だ。


 少しずつタイミングをズラして山なりに放たれた魔法の数は全部で六。

 火属性と土属性が半々だった。


 ちらりと黒剣を見ると、まだ魔法は発動していない。


 ひとまず白盾の対処に集中できる。

 火属性魔法は風魔で対処できると思うけど、土属性はその重さから風魔で対処できない可能性がある。

 ウィンドブラストの衝撃波で相殺を狙うのは土属性の方!


「ウィンドブラスト!」


 狙い通り、白盾の魔法で先頭に迫っていた土属性魔法に命中し、軌道を逸らす。

 運良く次に迫っていた火属性魔法にも衝撃波が当たり、こちらも軌道を逸らすことに成功していた。


 まだ四発残っている。

 下位の詠唱魔法で私がもっとも早く詠唱できるウィンドカッターで次の土属性を狙う。

 最短五秒で詠唱可能だけど、二つ目の魔法には間に合わない。

 それは光の壁で防ぐことにして、三つ目に狙いを合わせる。


 その間に、並行して無詠唱魔法である風魔を火属性魔法にぶつけて軌道を変え、三つ目の土属性が迫った所でウィンドカッターを発動してこれを弾き返すことに成功した。


 ふぅ……。

 いきなりしんどいなぁ……。


 詠唱魔法はセンスと使い慣れている魔法かによって詠唱時間は変わるけど、一般的には一〇秒~一五秒程度と言われている。

 白盾の次の攻撃まで少し猶予ができたので、このタイミングで再び黒剣を確認する。


 すると、すでに魔法が放たれたようでちょっと焦る私。

 でも、よくよく見れば魔法は白盾側に放たれていた。


 それに対する白盾の反応は早かった。

 銀杯への第二波攻撃に備えていただろう魔法を、黒剣の魔法に向かって放って迎撃を行った。


 黒剣の魔法は四発で、対して迎撃する白盾も四発。

 白盾は確実に一人一つの魔法を迎撃することに成功していた。



 正直黒剣の行動には助かったのだけど、ますます狙いがわからない。

 今の状況なら銀杯を狙った方が戦果は確実だったはずなのだ。


「……武闘会の後半戦を見据えて、白盾の戦力弱体化が狙い……?」


 エリック様が黒剣の動きを見てそう呟いた。

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