一〇四話 隣に見える憧れ:三人称視点
「速攻で決められなかったのわ、まずかったですわね」
ミーナは戦況を見てそう呟く。
試合開始直後、ミーナはミーナのバディとコマールを前衛として押し出し、自分は後ろから魔法で援護を行っていた。
時折、風魔法でスージーをけん制しながらも白盾の前衛生徒に数度下位魔法を当てたのだが、護石を破壊するには至らなかった。
ミーナ達が主導権を握れていたのは、スージーからの魔法による援護があまりなかったからだ。
その間に、一人だけでも護石を破壊しなければならなかったとミーナは悔やむ。
先程愚痴をこぼす直前に、スージーの中位魔法が発動してしまったのだ。
スージーは最初こそ魔法で牽制をしてきたものの、しばらくすると中位魔法の詠唱に集中していた。
中位魔法を警戒して下がったのがまずかった。
スージーが発動した魔法はクレセントウォール。
第一試合でもサファルを助けるために発動した、三日月状の形をした壁を隆起させる魔法である。
これによって白盾側にある種の拠点を作らせることなってしまった。
壁に隠れられればミーナの魔法は届かず、前衛が攻めようにも援護はできない。
前衛が単騎で壁の内側に入ろうものなら白盾の前衛二人に加え、スージーの魔法の餌食となる。
「スージー様は膠着状態を望んでらっしゃるのでしょうか……さて、どういたしましょう……」
攻めあぐねてしまった黒剣に対し、白盾はスージーだけでなく前衛をしていた二人も加わって魔法による牽制を仕掛けてくる。
スージー以外は下位魔法しか使えないため、一撃で護石が破壊されるような魔法はスージーしか使えないことが救いか。
ミーナ達はクレセントウォールの発動と同時に不利を悟って、十分に距離を取っているため避けることは然程難しくない。
それでも、万が一にでもスージーの中位魔法が直撃してしまえば、護石が破壊されてしまうのだ。
警戒して緊張に長時間晒されれば、徐々に精神を削られていってしまう。
「ミーナ様、どうしますか?」
ミーナのバディであり、将来ミーナの世話係が内定している男爵家の末娘が問いかける。
「そうですわね……あの壁が絶対に安心ではないと教えて差し上げましょうか。わたくしが詠唱している最中、お手数ですが守って下さいね」
そういうや否や、ミーナは詠唱を開始する。
発動させる魔法は、ストームアロー。
フロストが一学期にキングロックホーンを討伐する際に使用した魔法である。
ストームアローは三本の暴風の矢を放つもので、その貫通力は高い。
三本の矢が同じ場所に当たれば、あの壁も貫通してくれることだろう。
散発的な牽制の魔法を避け、時に前衛二人が防いで時間を稼ぎ、ミーナはストームアローを発動する。
ミーナの考え通り、発動したストームアローは一本目の矢が壁を抉り、二本目の矢が深く傷を付け、三本目の矢が見事壁を貫通して隠れていた白盾生徒に命中する。
ただ、壁によって威力が大きく減衰した矢を一本しか当てることができず、護石を破壊するには至らない。
それでも、安全だと思っていた場所で攻撃を受けたのだ。
白盾側の動揺は大きく、壁からも一定の距離を保って下がったようだった。
ストームアローを受けた生徒の護石は破壊寸前になっているだろうから、もう前に出てくることはない。
「さて、次はどういたしましょう。スージー様はこのまま膠着状態をお望みなのでしょうか」
最初に決着が着いたのは、激突の時と同じくジョルジオとロウェルだった。
結果はジョルジオの勝利。
ジョルジオは、戦いが開始された時の場所へと戻り、剣と盾を地面に突き立ててアニー達を見る。
本来であればどちらかに加勢をするべきなのかもしれない。
それでも仲間を信じているし、アルヴァンが対等に差配した戦いを乱したくはなかった。
加勢したい気持ちを抑え、拳を握りしめてジョルジオは二つの戦いを見守る。
「もう、結果は見えただろう? なぜそこまで食い下がる」
序盤こそ攻勢を仕掛けていたアニーだが、今は防戦が主体となってしまっている。
それでも致命的な一撃は食らわずに、なんとか凌いでいた。
剣技では圧倒されてしまっているアニーだが、接近戦をしながらも詠唱魔法を発動するという常人では難しい芸当をこなし、ギリギリの均衡を保っているのだ。
剣技と魔法合わせ技のおかげで、今も護石を破壊されずに済んでいる。
「っふぅ~。そうですね~、あたしじゃ殿下に勝てないことはよくわかりました。でも、だからって負けるって決まったことにはなりませんよね? あたし、負けたくない子達がいるんです。その子達と戦うまでは、負けられないんです」
一学期で部隊を組んだ面々を思い浮かべるアニー。
みんながみんな才能に溢れていて、それでいて努力を怠らない友人達だ。
自分には無い才能を、みんな持っていた。
フロストとクレアは魔法の才能と情熱。
スイフトの深い知略。
ハナビスの圧倒的な技量。
どれも、自分にはないものだ。
だけど、総合力ならきっと負けない。
技量も魔法も知恵も、どれか一つなら負けない。
その強みを活かすために、接近戦でも詠唱魔法を発動できるよう独特な呼吸と技術を習得した。
技量を補うために小さな戦術を混ぜる戦い方を学んできた。
いつか、みんなに追いつくために。
その証として、Aクラスに昇格するために。
「貴様の思いは伝わった。だからこそ、こちらも全力で相手をしよう!」
今、自分がするべきことは勝つことではなく負けないこと。
確かにアルヴァンの剣技は自分より上だが、そう考えを切り替えれば、凌げないことはない。
そのはずだった。
さっきまでは。
お互いの剣を交錯させ、アニーは詠唱を開始する。
全力の戦いの中ではゆっくりとしか詠唱することはできないが、手数が増えるのはそれだけで武器になる。
そのアニーに合わせて、アルヴァンも同じ詠唱を開始していた。
ゾワりと、アニーの背筋が凍る。
(嘘でしょ!? あたしが必死で訓練してできるようになったのに! 殿下も訓練をしていた!? 違う! だったらもっと早く使っていたはず! この戦いで、覚えた……!?)
現実に、アニーよりさらにゆっくりとではあるがアルヴァンは詠唱を継続する。
それを見たアニーは先手必勝とばかりに詠唱を完了させてファイヤーボールを放つ。
しかし、この短期間で何度も見せてしまった攻撃では、アルヴァンの詠唱は止まらなかった。
「ファイヤーボール」
ついにはアルヴァンの詠唱が完了し、至近で魔法が発動する。
その魔法を直撃させてしまい、態勢を崩したアニーにアルヴァンの剣が襲い掛かる。
(負けたく……ない!)
体が自然と動いていた。
捨て身で放った横なぎの剣は、今まで一番綺麗な線を描いた。
その一撃は確実にアルヴァンの腹部に当たったが、自身も同様に強烈な一撃を食らってしまう。
パキリと、一つ分の護石が砕ける音を、二人は聞いた。
「アニー・アプリコット。来年、貴様と同じクラスで研鑽できることを楽しみにしている」
「アニー様は負けてしまいましたか……。さて、わたくしはどうするべきでしょうか」
クレセントムーンによって守りを固めているスージー達に対し、攻めるべきか、それとも守るべきか、ミーアは思案する。
選手層がそれほど厚くない黒剣にとって、この状況で一番の痛手はミーア自身が失格になることだ。
アニーが失格となった以上、これ以上の損害は許容できない。
ミーアは結界を見上げ、残り時間を確認する。
残り時間は十五分程。
スージー達がクレセントウォールの壁から抜け出して攻勢に出る気配は見られない。
中位魔法は消費魔力が多く、下位魔法も何度も発動しているため、ストームアローは発動できて後一回。
スージーの魔力量はどうだろうか。
クレセントウォールは中位魔法の中でも魔力消費は多い方だが、ミーア程下位魔法を使ってはいない。
(仕方ありませんわね。今回は痛み分けと致しましょう、スージー様)
散発的に繰り出される魔法の中、相手の魔力残量もわからずに壁の内側に入って撃破を狙うのは、リスクが高すぎるとミーアは判断した。
ミーア達とスージー達の戦いは膠着状態が打ち破られることはなく、試合終了まで睨み合いが続く結果となった。
第三試合結果
銀杯 五名失格 一年生:リータ、ウィル、Cクラス生徒 二年生:フレン、Bクラス生徒
残り:十三名
白盾 一名失格 二年生:ロウェル
残り:十四名
黒剣 二名失格 一年生:アニー、Cクラス生徒
残り:十四名
フ)第四試合はまだ書き終わってません!
ク)次回更新は11/13(日)を予定です!
サ)導入は変更予定がないので、少なくとも一話分は投稿しますが、その後また少しお時間を頂くかもしれません。ご了承ください。




