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一〇三話 一騎打ち二つ:三人称視点

「あたしはアニー・アプリコットと申します。殿下、どうぞ手合わせ願います。そして、お見知りおきを!」


 そう言ってバックラーの位置を確かめて、アニーは剣を構えた。


「アプリコット家……確か……次女が学院に居たか……? いいだろう、受けて立つ」


 アルヴァンはロングソードをスラリと抜く。




「ジョルジオ! 今日こそ決着を着けてやる!」


「望むところ! 今までの俺と思うな!」


 アルヴァンの前では冷静だったロウェルは、ジョルジオを前に闘志を燃え上がらせていた。


 それぞれ父親が別々の騎士団の長を務めている二人は、幼少期から切磋琢磨し強くなってきた。

 堅牢な守りで戦うジョルジオと、豪快な攻めを得意としたロウェル。


 ロウェルが一つ年上のため、小さい頃は試合をすればロウェルがいつも勝利していた。

 だが、大きくなるにつれ勝率は拮抗していき、一昨年くらいからは、引き分けばかりとなっている。


 最後に試合をしたのはジョルジオが学院に入学する前。

 今日こそ決着を着けんと、お互いに構えて睨み合う。




「わたくしのお相手はスージー様ですか。土魔法で守りを固められてしまうと、わたくしの風魔法では分が悪いのですが……」


 黒剣で二年生唯一のAクラスであり、ミント子爵家の長女であるミーナ・ミントはそう溢す。


「お二人には負担を掛けてしまいますが、相手を引きずり出せれば十分に勝機はありますわ。どうぞよろしくお願いしますね」


「了解だ」


 三人はスージーを中心とした白盾の三人へと向き合った。





「全員準備はいいようだな。それでは始めるとしよう。クララ、コインを空に向かって投げてくれ」


 それぞれが戦うべき相手の正面に立っている。

 それを確認して、戦闘に参加しないだろうクララと呼ばれた少女がコインを投げる。


 コインが落ちた瞬間に。


「「「うぉぉおおお!!」」」


 ジョルジオ、アニー、アルヴァン、ロウェルが走り出し、

 ミーナとスージー達は静かに詠唱を開始した。



 最初に激突したのはジョルジオとロウェルだ。

 ジョルジオがロングソードに大楯という比較的オーソドックスな装備に対し、ロウェルは戦斧を持っている。


 ロウェルが持つ戦斧は短槍程度の長さの棒に、半月を模した刃を先端に付けた物だ。

 今は試合のために木製ではあるが、本来であれば鉄の重さで叩き切るようにして使う武器である。

 本来の用途を意識してか、木製の刃部分を太く大きくすることで重さを補強してあり、威力は十分に高い。


 その強烈な一撃をジョルジオは大楯で戦斧を斜め下に受け流し、ロウェルの態勢を崩すと回転しながら剣でカウンターを放つ。

 ロウェルはそれを予期しており、剣が届くより早く距離を詰め、体当たりをしてこれを防いだ。


 密着した距離ではお互い武器を振るっても効果的な攻撃はできない。

 が、態勢を崩させることができれば次の攻撃に繋がる。


 ロウェルは密着した状態から屈み、足払いを仕掛けるが、ジョルジオは咄嗟に大楯を下げてこれを防ぐ。

 そのまま大楯で押し返して崩そうとするも、ロウェルは地面を転がってそれを避ける。


 仕切り直しだ。


 ロウェルの武器や戦い方は激しいが、彼はとてもクレバーな生徒だった。

 アルヴァンの元、白盾の部隊に指示を出す際はアルヴァンの意図を汲み取って指示を出しているし、今現在の戦いでは力で一方的に攻めるのではなく、距離の詰め方や攻撃する際の位置取りなど、立ち回りが非常に巧い。


 戦斧という重い武器に振り回されるのではなく、その重さを利用して蹴りを交えるなど体術も駆使する。


 対してジョルジオも負けてはいない。

 堅実にロウェルの攻撃を防ぎ、隙を付いて攻撃を仕掛ける。


 両者、戦い方のスタイルは違うものの、実力は拮抗していた。

 最初の衝突時に起こったような攻防が何度も行われるが、どちらも致命打を与えることができない。


 息つく暇ない攻防は長くは続かず、一度距離をとる両者。


「ははは! やはりお前との試合は楽しいな、ジョルジオ!」


「あぁ、その通りだ! だが、俺が今までと同じだと思うなよ!!」


 そう言うと、ジョルジオは詠唱を開始した。


「なっ!? ジョルジオが、魔法を使うだと!?」


 過去、一度も見たことがない光景に戸惑うロウェル。

 その隙に、ジョルジオは何度もフロストやクレアと共に訓練してきたリズムを刻み、詠唱魔法を発動する。


「アーススキン」


 アーススキンは、ゲームでは防御力を高めるバフ魔法の一つで、序盤から終盤までお世話になる魔法だ。

 この世界では薄い砂の膜を頭部以外の全身を覆い、様々な攻撃を妨げ、威力を減少させる効果がある。

 単純な武器による攻撃だけでなく、先程の体当たりのような攻撃も威力を減少させることで、安定して戦うことができるようになるメリットがある。


 結果的に、この防御力を高めるバフ魔法一つで戦況は大きく傾いた。


 ロウェルも精霊から祝福を受けており、魔法は使える。

 むしろ、ロウェルは中位の精霊から祝福を受けており、ジョルジオは下位で魔法の格はロウェルの方が高い。


 だが、この二人の激しい攻防の中で詠唱を行うことは不可能に近い。

 攻防のために多くの酸素を消費し、詠唱に回す余裕などないのだから。


 アーススキンによって安定感がましたジョルジオは態勢を崩されることがなくなり、ロウェルを追い詰めていった。




「やぁああ!!」


 アニーは地を這うように態勢を低くしてアルヴァンへと走り出す。

 さらにバックラーを前面に押し出すことでアルヴァンの死角を作り、武器の出所をわからなくした上で、直前でショートソードを突き出す。


 対してアルヴァンはロングソードを片手で中段に構え、アニーの出方を注意深く観察していた。

 低い態勢から隠れるようにして突きだされたショートソードにも遅れず反応し、突き上げるような攻撃に対し、手首を返しながらさらにその下から救い上げるようにしてアニーの剣を跳ね上げる。


 ショートソードを持った右腕を跳ね上げられ、隙をさらしたアニーだが、バックラーを素早く構えてアルヴァンの剣を受けると、一度距離を取った。


「悪くない。だが、その程度では俺には届かない」


 さすがに強い、そう思ったアニーだが、反撃はさほ脅威を感じなかった。

 単純には比べられないが、武器の扱いだけならハナビスの方が上だと感じる。

 ならば、やりようはいくらでもある。


 先程と同じように体制を低くし、バックラーを前面に押し出してアルヴァンへと襲い掛かる。


「同じ手など……」


 アルヴァンは先程と同様に、アニーの剣を救い上げて、逃げられないように連続攻撃をしかけようとした。


「ファイヤーボール!!」


 剣を救い上げられ、アルヴァンからの攻撃を受ける寸前に、アニーは詠唱魔法を発動する。

 バックラーは、剣の出所を悟らせないためだけではなく、詠唱している口までも隠していたのだ。

 そして、思惑通りに魔法はアルヴァンに命中する。


 よろめくアルヴァンを見たアニーはチャンスとばかりに責め立てる。

 初手はバックラーを叩きつけることで崩れた態勢をさらに崩し、そこにショートソードによる連続攻撃を叩きこむ。


 だが、アルヴァンもただやられるばかりではない。

 ショートソードによる二撃目を受けた後になんとか態勢を持ち直し、アニーの攻撃を捌く所か、四手、五手と剣を交える間に、いつの間にか攻守を逆転させてしまう。


 攻勢だったはずがいつの間にか守勢に……たまらず一旦引くアニー。


「名を再度聞かせてくれないか」


「アニー・アプリコット! 来年、Aクラスに昇格予定です!!」


「ははは。面白い! その名は憶えたぞ」


 アニーの攻撃を受けるばかりだったアルヴァンが、牙を剥く。

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