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一〇〇話 作戦通りに進むのはお互い様で:三人称視点

「はっ……はっ……はっ……」


 銀杯チームの六人は、走って南東エリアの奥へと向かっていた。


「四人はそのままスラム区画まで進んで、作戦通りに建物の上で待機を。

 その後は魔法を打上げて僕達に場所を知らせてください。真上に打つと敵にも場所がばれるから、北西方向に向かって打上げるように。

 嫌がらせ程度しかできないけど、僕達がこの辺りで時間稼ぎをした後、囮として皆さんの方へ向かいます」


「「了解」」


「フレン。悪いけど、最後まで付き合ってもらうよ」


「何よ今更。子供の頃からの付き合いでしょ」


「あぁ、君が一緒なら心強いよ」


 試合開始直前、黒剣が南東エリアに追いかけてくる可能性を考えて後ろを気にしていたリータだが、結局見えなくなるまで黒剣が動く気配はなかった。


 ルールに明記されてはいないが、一定の距離を保つのが暗黙の了解だからだろう。

 実際、ピッタリくっつかれて試合開始と同時に戦闘開始というのは、試合としての見栄えも、貴族としての優雅さにも欠けるというものだ。


 だが、試合開始が告げられた今、銀杯がいる南東エリアに向かってきているのは間違いない。

 四人を送り出し、自分達は黒剣の足止めをするために安全な距離から攻撃を仕掛けられそうな場所を探す。

 逃げ道の確保も必要なため、そんな場所は中々みつからないのだが……。




 その頃白盾は予定通りに北東エリアの貴族街には、入らなかった。


「ロウェル、総員反転させろ」


「殿下? どうするおつもりで?」


「ジョルジオが思い切った策に出た。俺達が貴族街に陣取ったとしたらしばらく動きはないだろう。であれば、自ら動くのみ」


「黒剣を銀杯と挟み撃ちになさるので?」


「そんなことはしないさ。我々は広場に陣取り、銀杯が逃げて来たらこれを討つ。

 今は試合とはいえ、臣下に手柄を立てさせるのも王族の務めだ。一番槍は黒剣に譲る。が、銀杯を打ち漏らすつもりもない」


「わかりました。それで、黒剣が銀杯を倒し、広場へと戻ってきたらどうなさるので?」


「当然、正面から潰す」


 アルヴァンはヒヤリと笑い、ロウェルはそれに頷き、他の生徒へ指示を出しに向かった。




 試合開始まで広場から動かなかった黒剣は、試合開始と同時に動きだす。


「これより南東エリアに向かう!

 黒剣が銀杯を追うことは両チームとも既に察しているだろう。白盾の動きを正確に読むことはできんが、銀杯は俺達を待ち伏せしているに違いない。

 総員、警戒しながら進むぞ!」


「ジョルジオ~白盾は北東に行ったみたいだし、挟み撃ちになっちゃうんじゃないの~?」


 アニーがチームメンバーの懸念を口に出す。


「いや、殿下はそのようなことをなさる方ではない。白盾と戦うとしたら、正面から正々堂々とになるはずだ。

 どちらにしろ、銀杯の戦力を削った後の話だ」


「ふ~ん。ま、ジョルジオがそう言うなら着いて行くだけだけど~」


 一学期において、ジョルジオはアルヴァンの護衛として行動をすることが多かった。

 二学期になり、部隊が別になったことで共に行動する機会は減ったが、それでも多くの時間を近くで過ごしてきたことに変わりない。

 そのジョルジオの言葉には、一定の説得力があって黒剣チームは彼の言葉を信じた。


 挟み撃ちをされる可能性が低いと共通認識を持てた黒剣は、ゆっくりと南東エリアへ侵入する。

 開始前の五分間だけとはいえ、銀杯が先に南東エリアに入った以上、どこで待ち伏せしているかわからない。

 不意打ちを警戒しなければいけない黒剣メンバーに掛かる心的負担は重い。


 基本的に南東エリアは人が五人は並んで歩けそうな大きさの道を中心に、左右に建物が配置され、所々建物と建物の間に裏路地がある。

 待ち伏せをされるとしたら、建物の中か裏路地になるだろう。


 ただ、建物の中では逃げ道がない可能性が高く、路地裏からの攻撃が主になると予想している。

 万が一建物の中から攻撃があるとしたら、銀杯が決死の覚悟を決めて攻めてくる時だ。


 銀杯の攻撃を警戒しながらも、黒剣は着実に南東エリアを進む。

 待ち伏せされそうな場所に差し掛かる時は、ジョルジオとルビーのバディで確認を行い、安全を確認しながら進んでいた。


 そうして、南東エリアを三分の一程進んだ所で路地裏に姿を出した途端、火魔法による攻撃が仕掛けられた。


「ルビー! 右だっ!」


 火魔法をしっかりと盾で受け、斜め下に振り払うことで放たれた魔法を処理する。

 その間にルビーはクイックキャストとクレアに名付けられた早詠みの詠唱で、下位の水魔法を発動させた。


 魔法を放った敵も、これほど早く反撃に合うとは思っていなかったのか魔法を体に掠めさせてしまうが、そのまま逃げ去ってしまう。


「さすがだな、ルビー」


「ジョルジオ様がぁ、守ってくれるおかげですぅ~」


「だが、何故奴は俺の姿を見つけてすぐに魔法を発動させることができた? ルビーのようなクイックキャストを使える生徒がいるなど聞いたことがないし、詠唱をしている様子はなかったぞ」


「フローレンシアみたいなぁ、無詠唱魔法でしょうかぁ?」


「無詠唱魔法こそ使える生徒がいたら噂になっているだろう……何か仕掛けがあるとしか思えん。

 ……今は考えるのはやめだ。仕掛けもろとも俺達が銀杯を叩き潰すのみだな!」


「はいぃ~」




 銀杯が黒剣に最初の奇襲を掛けた後、リータとフレンはこの後の行動について頭を悩ませていた。

 ゆっくりしている時間はないため、次の奇襲ポイントに小走りで移動しながら会話を行う。


「うまくタイミング合わせて魔法で攻撃できたのに、あんなに反撃が早いなんて予想外だったよ」


「あの子がルビー・カルミアよ。フローレンシアが詠唱がとっても早い子がいるって言ってたじゃない」


 ジョルジオが路地裏を確認したと同時に放った魔法の種は、蓋を開けてみれば大した物ではない。

 リータが攻撃役となり、フレンが黒剣の監視と合図を出す役に分かれていただけだ。

 方法は至ってシンプルで、フレンが建物の上で見つからないよう伏せながら待機し、詠唱開始と発動のタイミングを知らせていただけだ。


 種が割れれば単純だが、緊張を強いられた行軍の中で路地や建物の中だけでなく、上まで警戒しながら進むのは対人を想定した正規軍ならともかく、学生には難しい。


「ともあれ、奇襲を印象付ける必要があるんだ。もう一回やるしかないよ」


「わかってる。けど、護石はどう? 魔法食らったのよね? 次は私が攻撃しようか?」


「いや、下位の魔法でもそれほど威力の高い魔法じゃなかったら平気。次も僕が攻撃するよ」


 その後、リータとフレンは先程同様に奇襲を仕掛けたが、ジョルジオの活躍によって損害は与えることはできなかった。

 一度目と違うのは、リータも攻撃を受けなかったことだ。




 各エリアの直線距離は二キロに及ばない。

 銀杯は奇襲の心配がないから小走りに移動できているが、黒剣は周囲を警戒しながら進んでいて移動速度は普通に歩くより少々遅い。

 そのため、リータとフレンが先にスラム地区へ辿り着いてから一〇分程遅れて、黒剣チームもスラム地区へと足を踏み入れる。


 スラム地区は先程までの居住地区と違って、道も建物も様相を変えていた。

 ここまでの居住区画では建物は二階建てが多く、道は五人が横に並んで歩ける広さだった。

 だが、スラム街の建物は大小こそあるもののほとんどが一階立ての平屋で、中央に走る道も二人が並んで歩ける程度の広さになっている。

 さらに、狭い路地が多く入り組んだ作りになっていた。


「これではどこから攻撃されるかわかったものではないな」


「でももう逃げ場はないじゃん? 追いつめたと思えばいいと思うな~。

 それにあたし、いい加減まともに戦えなくてとストレスたまってきたし~」


「そうだな。ここで決着を付けることになる。作戦通り頼むぞ、アニー」


「りょ~かい~」


 黒剣チームはここが決戦の場になると気を引き締めなおして、ゆっくりと歩を進めていった。

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