九十九話 狙われる銀杯:三人称視点
ひとまず第三試合終了まで、日・水・金で更新を再開します。
どんな話だかわすれちゃった。そんな方のために、二学期前編までのあらすじを94部に入れました。
初見の方もそれを見れば武闘会編から楽しめる!
興味があればご一読ください。
武闘会二日目。
学院から南に向かい、複数の馬車が出発していた。
馬車は高位の貴族が乗る物と、それ以外に分かれる。
それ以外に属する馬車は、多くの生徒でごった返している。
生徒同士の足が触れ合う程に。
生徒がごった返す馬車の中で、銀杯チームのリータ・フェンネルは浅い呼吸を繰り返していた。
四男とはいえ伯爵家の出である彼であれば、いくばくかのお金さえ支払えば専用の馬車も用意できたはずだが、それをしていない。
人当たりが良く、友達も多い彼はみんなで一緒に行くことを武闘会開催前に選んでいたのだ。
だが今は、次の試合のことで頭が一杯になって後悔をしていた。
一人になれる専用の馬車を用意すればよかった。
昨日、自分が第三試合に出場するなどと言わねば良かった。
銀杯の指揮官枠などに入らなければ良かった。
そんな考えが、彼の中で渦巻いている。
銀杯は前日に多大な成果を上げた。
その成果が彼にプレッシャーに与え、押し潰されそうになっているのだ。
進路が南でさえなければ安心できたのだが、それは適わなかった。
だけどまだ自分が試合に出ると決まったわけではない。
が、人数や作戦を考えて来いと言ったエドのセリフがリータに重くのしかかる。
一日考えた結果、何も思い浮かばなかった。
何せ、最初は自分が犠牲になって全滅すればいいとしか考えていなかったのだから。
全滅を否定された時、なぜ引かなかったのかと後悔するばかりだ。
フィールドが市街地ではないよう祈ることしかできない。
「リータ、どうしたの?」
バディである二年生のフレン・サルビアが様子のおかしいリータに話かける。
サルビア子爵家はフェンネル伯爵家と昔から交流があり、次女である彼女は幼い頃からの付き合いだ。
「次の、試合のことでね……」
次の試合が市街地であった場合、フレンには自分と一緒に試合に出てもらうことはリータの中では確定している。
自分に巻き込まれてしまう彼女の目を直視できずにそう言った。
「ふ~ん。ま、私はリータに付いていくだけよ。指揮官で大変だろうけど、少しは悩みを共有してよね。言えないならそれでもいいけど、信用くらいしてくれたっていいでしょ?」
「フレン……。ありがとう」
少し心が軽くなったリータは、彼女にポツポツと胸の内を語るのだった。
第三試合のフィールドが、土魔法で作る市街地であることが教師から発表される。
やっぱりか、リータはそう思わずには居られない。
ただ、フレンに話をすることで考えをまとめることができたのが救いだった。
教師達がフィールドを作っている間、リータはエド、エリック、フロストに人数と作戦を伝える。
「……正直に言って、考えが甘ぇ。だが、お前なりに考えてきたことはよくわかった。
第三試合はお前に任せる。結果は気にするな。後輩の面倒を見るのも先輩の役目だ。どんな結果であれ、第四試合で帳尻は合わせてやる。
お前のやりたいようにやってこい」
リータの話を聞いたエドがそう答え、エリックはコクコクと頷く。
対照的にフローレンシアがびっくりしていたのが、リータには印象的だった。
何より、その言葉を聞いて胸が熱くなった自分自身に一番驚いていた。
四男ということもあり、家ではあまり期待されていなかった自分に任せてくれたことが、嬉しかったのだ。
試合フィールドとなる更地だった一帯は、教師達によって大きく姿を変えていく。
中央には広場のように大きく開けた場所があり、広場下を中心に東西南北に向かって高い壁が立っている。
その壁によって、フィールドは大きく四つのエリアに分けられていた。
建物の中身はハリポテのような作りではあるが、それぞれのエリアには実際の街のような特色が存在している。
北東エリアは建物、敷地ともに大きい貴族街。
北西エリアは建物は中規模で、通りに面したは場所は建物の一部が開かれている職人街。
南東エリアはバラつきが多いが、建物はやや狭く、低い物が多い居住区画。
居住区画は南に行けば行くほどみすぼらしくなっており、スラムのように入り組んでいる。
南西エリアは建物の数が少なく、出店のような物が模されて存在する市場。
銀杯チーム、いやリータにとっては想像の通りのフィールドだった。
フローレンシアが調べてくれた情報通り、過去に行われた市街地戦と同じ配置のフィールドなのだ。
詠唱魔法は誰が使っても同じ効果を発揮するのだから、市街地と告げられた時点で予想するのは容易なのだから。
リータは自分の考えた作戦を反芻し、第三試合に出場する生徒へと目を向ける。
出場メンバーは、リータとフレン、水属性の中位魔法が使えるルーリーとバディのウィル、そして同じく水の中位魔法が使える生徒とそのバディの六人である。
Aクラスのメンバーはおらず、中位魔法を使える生徒が二人いるが、相手の顔ぶれを考えると戦力はやや心許ない。
その中で勝ちを拾うためにリータが考えた作戦は。
「銀杯は、昨日の試合で勝ちすぎました。今日の試合は必ず僕達が狙われることになります。
だから、僕達が取るべき作戦は待ち伏せと逃げ。
待ち伏せで敵を一人倒したら、中位魔法が使える二人を全員で守りながら逃げます。
役割は大きく二つ。
敵を惹きつけて時間を稼いだ後、攻撃地点へとおびき寄せる囮役と、おびき寄せた敵を攻撃する役です。
囮役は僕とフレン。攻撃役は中位の魔法が使えるお二人。
バディの方は攻撃役の護衛と、中位魔法を発動した後の止めをお願いします。
待ち伏せするために僕達が試合開始後に目指すべきエリアは、南東の居住区画です」
白盾と黒剣は、第一試合に出場していたメンバーが失格者を除いてほぼそのまま出場する。
それぞれの主だった両チームのメンバーとその様子だが。
白盾はアルヴァン、スージー、ロウェルの三人のAクラスメンバーが中心となる。
第一試合に出場していたマリアンヌのみ出場者から外れ、七名が出場する。
黒剣はジョルジオ、ルビー、黒剣で唯一の二年生Aクラス生徒の三人と、Bクラスのアニーが主力となるメンバーで、八名が出場する。
白盾を率いるはこの国の第二王子であるアルヴァン。
「今回は最初から俺が指揮を取る。最初に目指すべきエリアは北東の貴族街だ。
攻めるにしろ守るにしろ、柔軟に対応しやすい貴族街の中でも一番広い館に居を構える。
第一目標は小賢しい策を弄する銀杯だ。
だが、前回のように黒剣と協力関係など結ぶ気はない。
黒剣が向かってくるなら叩き潰すのみ。
我らは王道を進み、必ずや白盾に勝利をもたらすぞ!」
「「「おぉーー!!」」」
白盾はアルヴァンの激によって士気を高めていた。
一方、黒剣も士気は高い。
「第一試合、俺達は銀杯に好きなようにやられてしまった。
第二試合、不利な状況に陥ったにも拘わらず、ハナビスは状況をひっくり返した。
俺達は足を引っ張るだけの存在かっ!? このまま負けっぱなしなのかっ!? 俺達の実力はこんなものなのか!?」
「違う!」
「こんなもんじゃねぇぞ!」
「わたくしはまだ本気を出しておりませんの」
「そうだ! 俺達の力はこんなもんじゃない。
俺達は強い! 俺達黒剣が目指すものはなんだ!?」
「「優勝!!」」
「そうだっ! 俺達黒剣が優勝するっ! 銀杯にも、アルヴァン殿下率いる白盾にも負けるわけには行かん!
そのためにも、この試合は黒剣の力を誇示する必要がある。まずは前回好き勝手してくれた銀杯を狙う!
黒剣は広場から銀杯を追い、攻撃を仕掛ける!
恐れることはない。アデザールの黒剣に斬れないものはないのだから! 必ず勝利をもぎ取るぞっ!!」
「おぉーー!!」
アデザールに伝わるお伽噺、斬れない物はないと謡われた黒剣にちなみ、彼らは気勢を上げた。
三チームがフィールドの中央である広場に集合する。
教師達が結界の準備する間、緊迫した空気が流れたまま試合開始五分前となる。
移動開始の指示を受け、白盾と銀杯が移動を開始する。
(え? 黒剣は移動しない!?)
想定外の事態に、リータは困惑を隠せなかった。
他のチームが南東エリアへ向かう可能性は危惧していたが、まさか移動しないとは考えていなかった。
移動を開始してから接敵するまでの時間で、奥のスラム区画で万全の態勢で待ち伏せを考えていたのだが、その目論見は外れてしまう。
彼らは試合開始と共に、銀杯が移動している南東エリアに間違いなく向かってくるだろう。
(接敵は想定より早くなるはず。僕とフレンの二人だけで遅滞戦術が務まる? いや、二人じゃ無理だ……。
なら、南東エリアの入り口付近で待ち伏せをする? そのタイミングこそ一番警戒してくるのか?
あぁ、もう! チームとしての被害を最小限に抑えるにはどうすれば……)
リータは必至に頭を回転させながらも、南東に向かって急いで移動するのだった。




