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九十八話 隠しイベントではないんだけど

お知らせ

大変心苦しく、また申し訳ないのですが、本作は一ヶ月間投稿を休止致します。

詳細は活動報告に記載しましたが、次回更新は10/23(日)を予定しています。

 裏武闘会。

 武闘会と対をなすイベントが、武闘会終了後に控えている。


 私は、それがとてもとても億劫なのだ。


「お姉様、舞踏会の準備は大丈夫ですか?」


 そう裏武闘会のまたの名を、舞踏会という。

 武闘会の優勝チームを中心に行われるダンスパーティーである。


 ダンスの最初のパートナーはバディが異性であれば、そのままバディで踊るのが一般的らしい。

 同性である場合には、ケースバイケース。

 女生徒同士であればそのまま踊ることもあるみたいだけど、男子生徒同士はほとんどない。

 いや、ゼロではないらし、私はそれはそれで好ましい所ではあるのだけど。


 私とクレアみたいに同性同士のバディは何組もあるので、普通は同じ境遇の異性を見つけてダンスパートナーを申し込むことになる。


 クレアも同じように誰かを見つけてくれればいい。

 だから。


「私は……」



 貴族は十歳になると貴族の一員として認められ、儀式を受ける。

 この世界では前世と比べると子供が無事に成長する確率は低い。

 医療や栄養、衛生観念などが前世に比べて低いからなんだろう。

 十歳まで無事に成長できたことでようやく貴族の一員として認められ、公式にお披露目されるわけだ。


 自分の家が主催するパーティーには十歳になる前から出ることはあるのだけど、お披露目以降は他の貴族のパーティーなんかにも参加するようになる。

 パーティーではダンスを踊ることももちろんあるわけなのだが……。


 私はロラン様と数回踊ったことがある程度で、他の貴族の方達に比べると圧倒的に経験が無く、何より苦手なのだ。

 ロラン様がいらっしゃらなかったパーティー、婚約破棄後は文字通りにずっと壁の花だった。

 だれも私と踊ってくれない所か、話しかけても貰えない、それが私にとってのパーティー。


 ロラン様とのダンスも正直良い思い出はない。

 最初の一年は、それほど太ってもいなかったし、ダンスもお遊戯みたいなものだったから何も問題なかった。

 十二歳になった頃から明らかに太ってしまった私は、ロラン様とのダンスを踊る度に足を引っ張ってしまった。

 足を踏んでしまったり、息をゼーゼーさせながら汗びっしょりになることも……。


 そんなことを三度も四度も繰り返して、ダンスを踊ることが恥ずかしくなってしまったし、何よりロラン様の評判を下げたくないと思った。

 それ以降、私はダンスを踊ることはなくなった。


 ロラン様は私の失敗を笑って許してくれたし、それなら痩せて踊れるようになって見返してやろうと色々と励ましてくれたのだけど、私はそれを実行しなかった。

 魔法の訓練をしている方が楽しかったし、パーティーの間だけ我慢すればいいと思っていたから。


 だから、今回の舞踏会も踊らないで壁の花となっていようと考えてクレアの言葉に返す。


「私は……いいのよ。ダンス、苦手だし。クレアはどうなの?」


「村でお祭りの時に踊ったことしかないので、貴族様が踊るようなダンスができないんです。

 お姉様、良かったら私と一緒に練習してくれませんか?」


 クレアのダンス。

 ゲームでの記憶が呼び起こされる。


 ゲームでは、めちゃむず難易度の武闘会を優勝したことへのご褒美がちゃんと用意されていた。

 優勝した際のバディとのダンス風景が一枚一枚、ちゃんと書き起こされ、専用のイベントが用意されていた。


 アルヴァン殿下であれば二人で優雅に踊り、キラキラと輝く一枚絵。

 ジョルジオ様であれば、躍動感あふれる踊りで、迫力ある一枚絵。

 エド先輩であれば神秘的な雰囲気の元、なんだか優しい雰囲気の一枚絵。

 スイフト様であればぎこちない踊りなんだけど、なんだかホッとする一枚絵。


 あぁ、クレアにはそんな素敵な思いをしてもらいたい。

 きっとエド先輩を憎からず思っているはずだから、二人で素敵な思い出を作ってほしい。


 私が断れば、クレアはダンスを諦めてしまうのでは?

 そんな疑念が私の頭をよぎった。


「そう、ね。久しぶりにダンスを踊るのも悪くないかもしれないわね。

 私と一緒に、練習しましょうか」


「はい! ありがとうございます! 優勝してメインホールで踊れるように早速練習しましょう!」


「え? え? え!? 今から!?」


「武闘会はすぐに終わっちゃうかもしれないんですよ? 善は急げ、です!」


「ちょちょ!? そ、そういえば衣装は? 私はサラに頼めばなんとかなると思うけど……。メインホールで踊るならちゃんとした衣装を用意しなくちゃいけないんじゃない?」


 少ないとはいえ、平民もいる学院である。

 舞踏会には制服での参加も認められている。

 ダンスを踊るのは強制ではないし、壁際でひっそりと踊るくらいなら制服でも十分だ。


 だけど、メインホールでしっかりと踊りたいのなら話は別になる。

 学院の生徒は大多数が貴族が占めている以上、貴族のダンスパーティーのようなフォーマルな場所と変わらなくなるのだ。

 女生徒であれば専用のドレスを用意してくるのが常識。


 そんな中、制服で踊るのは少々罰が悪い。

 というか、確実に浮いてしまう。

 最悪、何あの平民! ってクレアがいじめられてしまう!


「その件なら大丈夫です! スイフトさんに相談済みで、明後日には衣装が間に合うと思いますから!」


 私の返事関係なく準備良すぎない!?

 ならもっと早くからダンスも練習していれば良かったんじゃ……。


「それじゃ、早速練習を始めましょう!」


 そう言って、私の手を取って体を動かし始めるクレア。


「ちょ、クレア!? 二人がペアになって踊ったら練習にならないんじゃない?」


 ダンスは二人一組、リード役の男性とフォロー役の女性で踊るのがベーシックだと記憶している。

 それなのに、私とクレアでペアになってしまったらフォロー役の練習が一人しかできない。

 って、クレアの動きがリード役のそれなんだけど!


「自分が綺麗に踊るために、リード役がどんな感じか知っておきたいんです。お付き合い頂けますか?」


「う、う~ん。クレアがそう言うのなら……」


 村でしか踊ったことがない。

 その言葉の真偽を疑いたくなるほど、クレアのリードは踊りやすかった。

 ゆっくりとだけど、しっかりと私の体がどう動けがいいかなんとなくわかるリード。

 ダンスが苦手でステップもうる覚えな私が、なんとか様になっているかと錯覚するくらいに踊れた。

 いや甘々に見て、だけどね?


 この娘もやはり、天才か……。

 魔法以外の才能に愕然とする他ない私だった。


 それからしばらく、そのままの役割で踊り続け、夜は更けていった。

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