九十七話 軍師改め、交渉人フロスト
「ハナビス様、わたくし達とこのまま戦い続けてもよろしいのですか?」
「あぁ? お前らと戦うことより大事なことが今あんのか?」
「ハナビス様もスイフト様もわたくし達に一目置いて下さっているのは嬉しいのですが、ロラン様を甘く見過ぎではありませんか?」
「どういうことだぁ?」
「あの方とわたくしは、元ではありますが婚約者でした。その方に、わたくしは色々なことをお伝えし、そして実践して下さいました。つまり、この学院で詠唱変化の経験がわたくしの次にあるということです」
「……」
「結界の色が変わったということは、北は厳しい状況になっているはずです。
スイフト様が、倒されてしまいますよ?」
再度、結界が白に染まる。
黒剣の生徒層は、それほど厚くない印象だ。
もちろん、私の知らない方達の実力はわからないけど、メインはやはり一年生のAクラス。
二試合目という序盤で、中心人物の一人であろうスイフト様が失格になれば黒剣にとって大きな損失になる。
下手をしたら、致命傷にもなりかねない程に。
「……もう、遅ぇだろ」
「わたくしが先程見せたアクセルという無詠唱魔法。それをハナビス様にお掛けします。ハナビス様であれば、木の上まで飛び上がって、そのまま飛ぶように移動できるかもしれませんよ?」
「……。ちっ、お前の口車に乗せられてやる。そのアクセルって奴一回試させろ」
「わかりましたわ。ただ、人に対して発動させるのはあまり経験がないので、少しお時間を下さい」
「気が変わらねぇうちに頼むぜ」
ちょっと焦らせるようなことを言わないでほしい……。
言葉の通り、他の人に試したことがあるのはサラとクレア、あとはリズ先輩くらいなのだ。
試してみた結果は、地力が違えば効果も違うってこと……。
サラとリズ先輩は私やクレアとは比較にならないくらい早く、移動距離も長かった。
とはいえ、掛けた効果の回数分しかは使えないので、汎用性はそりゃ何度も掛けなおせる自分に発動した方が高いけどね。
「おっけーです。右足に一回分だけ発動しました」
「おう」
短く答えた後、グッと沈み込んで力を込めたハナビス様は、一足飛びに木の上まで飛び上がってしまった。
え!? あれ着地どうするの!?
っと思ったのもつかの間、普通にスタっと着地された。
これだから天才って奴はよぉ!!
「これなら……いけるか? フロスト、頼む」
「はい、お任せください。できるだけ発動回数を多くしますから、さっきより時間がかかります」
ハナビス様という脅威がなくなれば、本当にもう戦闘はしなくて済む、と思いたい。
ってか、したくない。
いや、もうしない!!
そんな気持ちも込めて、魔力は使いきってしまってもいいだろう。
両足に四回発動分を込めてアクセルを掛ける。
「両足にそれぞれ四回分の効果を込めました。ご武運を」
「礼は言わねぇ。この借りは必ず返す。試合でな」
「いえ、結構です」
お互いメリットのある話だからお礼はなし。
ハナビス様はスイフト様を始め、チームを助けるために。
私達は、この場で負ける可能性の高い戦いを避けるために。
借りに関しては、とりあえずお断りだ。
戦闘狂のハナビス様のことだから、試合をもっと楽しませてやるとそんな物に違いない。
ハナビス様が先程と同じように身を屈めた後、飛び去っていく。
一足で木のてっぺんに辿り着き、木を足場にしてグングンと移動していく。
う~ん、化け物かな。
もうあの人と戦いたくないよ……。
ハナビス様が完全に見えなくなった所で、クレアと苦笑いをして、川辺にどさりと倒れこむ。
「終わった~。もう無理、動けない~!」
「ふふふ。お疲れさまでした」
魔力がすっからかんで体がどうしようもなくダルいのだ。
二人してしばらくの間、空をぼんやりと見上げていた。
ハナビス様がこの場所を出発してから、一〇分以上が経過しただろうか。
あれから結界は色を変えずに、シャボン玉みたいなぼんやりとした透明を保っている。
一気に黒剣が攻められて、戦況が崩壊するかも? と思ったけど、スイフト様がなんとか踏ん張っているようだ。
そんな結界の色が、ついに変化した。
今度は黒に染まったのだ。
黒に染まった結界は、黒剣が完全に持ち直したことを知らせてくれる。
きっと、ハナビス様が間に合って戦況を変えたのだろう。
その後、結界の色は変わることなく試合は終了し、第二試合の結果が教師から告げられた。
銀杯チームは失格者無しで、破壊数は一つ。
白盾チームは最初に遭遇したバディで二年生のBクラスとCクラス、黒剣との戦闘で一年生のBクラスの方が失格となり、破壊数は二つ。
黒剣チームはこちらも私が遭遇したバディの二年生のCクラスの方が二名失格となり、破壊数は二つ。
私とクレアは魔力がほとんど残ってなくて、疲れた体に鞭を打って銀杯のみんなの所へ三人で戻る。
私達三人は、笑顔と歓声によって迎えられた。
「よくやった」
「フローレンシアちゃん! クレアちゃん! さすがだよ! 疲れてないかい? 飲み物を用意しておいたよ」
「さすがあたいが見込んだ女だね!」
「きゅーるりん☆」
リズ先輩が私とクレアの頭を撫でてくれる。
あの、皆さま? ボブ様もですね……。
そんなボブ様はラグ様の所に行って、肩を組んで喜び合っていたので良しとしよう。
「えへへ。わたくし達の活躍、見てくれましたか!?」
「え? いや、え~っと、森の中は見えなくてさ……。
だけど、河原でのハナビスとの戦いはしっかり見てたよ!」
私達の頭を撫でてくれていた手がとまり、頬を掻きながらリズ先輩がそう言う。
森の中では攪乱作戦をちょ~頑張ってたのに……。
一日目の試合が終了し、行きと同じように馬車に詰め込まれて帰路へ着く。
学院についてから、銀杯の全員で今日の反省会である。
ここが良かった、あれが良くなかったなど意見を出し合って盛り上がる。
一番優勝から遠いと思われていた銀杯が、一番の戦果を上げたことでみんなが少し浮かれていた。
最後に、エド先輩が今日の戦果を褒めたたえ、明日の第三試合、第四試合に向けて激を飛ばして締める。
解散した後も指揮官組は居残りである。
「今日はよくやってくれた。だが、明日は厳しい戦いになる」
「そうだね。今日は少し派手に戦果を上げ過ぎたかもね。だけど、戦力差を覆したのは大きいよ。チームにとってモチベーションが上がる切っ掛けになっているし」
銀杯は第一試合、第二試合を通して失格者ゼロ。
対して白盾は五人、黒剣は四人の失格者を出している。
人数差は逆転して、銀杯が一八人、白盾が一五人、黒剣が一六人になった。
エド先輩とエリック様が言いたいこと、それは覆した人数差を今度は覆される立場に変わったということだ。
明日はおそらく、二チームから銀杯が狙われる状況になるだろう。
それに、今日の試合は二つとも奇策によって戦果を上げた部分も大きい。
特に二試合め……。
今後は奇策を警戒されるだろうし、それこそ妙な動きをすれば二チームから集中攻撃を受けるのは間違いない。
問題は……。
「それで、明日は真っ向から戦うのですか? それとも最低限の犠牲で済ませるのですか……?」
銀杯の少ないAクラスメンバーを中心に戦うか、あえてAクラスを試合に出さずに温存するか。
序盤でエド先輩やリズ先輩が失格になったら、ほぼ優勝の目はなくなる。
サラが言っていたように、厳しい判断を早くも迫られている局面だ。
「……フィールド次第としか言えねぇが、オレとリズが出て被害を最小限にするしかねぇだろうな。
明日のフィールドがどうなるか……」
事前に過去の武闘会を調べた結果と私のゲーム知識を合わせて出したフィールドの候補地は四つ。
王都を中心に東西南北で一か所ずつ予想している場所がある。
二年連続同じ地形は選ばれてないことから、大分候補を絞れていた。
もちろん、予想した場所以外も選ばれるだろうけど、第五試合まではゲームと同じフィールドになる確率が高いと私自身は思っている。
みんなには言えないけど。
「今日は北のリリオ高地とリリオ渓流でしたから、リリオ渓流と似たフィールドになってしまう東のルード湖畔周辺はないと思います。西のコルリアの丘付近か、南の河川跡地のどちらかでしょうか。
南の河川跡地の近くにはダンジョンがあるようなので、わたくしとしてはフィールドとして幅が出る南の可能性が高いように思います」
第三試合、ゲームでは市街地のフィールドだった。
けれど、王都周辺に試合が行えるような市街地など存在しない。
以前の武闘会を調べていた時に、過去に上位魔法で市街地が作られていたことは確認済みだ。
もちろん作られた市街地は精緻なものではなく、窓や家具、扉どころか間取りも仕切られてなくて、石で作られたハリポテのような家がいくつも用意されたようなフィールドだったらしいけど。
「河川跡地ね。周囲に何もないあそこならそのままフィールドにしてもいいし、土属性の上位魔法で地形を変えることもできる。
過去にあった市街地とか高低差のあるフィールドになる可能性もあるね。市街地戦なら作戦によっては防衛もある程度やりやすいけど、高低差のあるフィールドだと高所を取られた一気にきつくなるね。部隊編成を今から決めるのは難しそうだよ」
「あの……明日の第三試合、僕にまかせて貰えないでしょうか?」
リータ様が、おずおずと言った形で提案をする。
このメンバーの中ではあまり積極的に意見を出す方でもなかったので、少し驚きだ。
「人数と作戦は?」
「正直、勝つための作戦はないです。でも被害を最小限に抑えるなら最悪、指揮官の中で僕が一番最初に失格になるのがチームとして一番ダメージが少ないです。
人数は全滅覚悟の三人を考えています」
集中狙いが予想される今の状況なら、全滅覚悟というのも悪い選択肢ではないように思える。
エド先輩、リズ先輩、エリック様を一戦休ませることで、次の試合の選択肢も広がるし。
でも、その消極的とも言える作戦を実行することで、チーム全体の士気が下がることは明白だ。
リータ様はご自身で提案しているから例外として、それ以外のメンバーは捨て石となるのだから。
一度でもそんな前例を作れば、それ以降も同様に捨て石にされると考えてしまう人も出てくるだろう。
だから、三人という選択肢は正直ないと思う。
「リータ様の覚悟はいいと思うよ。だけど、全滅覚悟はやっぱりやめよう。
できる限りのことをやるのが結果的にチームのためになると思う」
私と同じことを考えたのか、エリック様がフォローする。
「……リータがここまでの覚悟を見せたんだ。明日の第三試合はリータに任せる。試合開始前までに作戦と人数を考えてこい」
「……わかりました。市街地戦なら、僕でも作戦次第で被害を抑えることができるんじゃないかと思います。
ただ、それ以外のフィールドだった場合はエドさんに出場してほしいです」
「わかった」
一日目は大勝利の半面、明日に不安を残す結果となった。
フ)第三試合が書き上がりません!
ク)書き上がってから投稿しますので、少々お待ち下さい!
サ)9/11投稿予定となります
フ)え? それ実際厳しくない?




