九十五話 軍師フロストVS知将スイフト(代理ハナビス)
「ボブ様はすぐにここからお逃げ下さい。ここからだけではなく、試合終了まで」
「お、お二人を置いていくわけにはっ!」
「ボブ様の索敵能力は、この先きっと銀杯の役立ちます。
だから、今は次に繋げることを考えて下さい」
「で、でも……」
「これは指揮官としての命令です。行きなさい!」
「っ! 必ず!」
ボブ様が走り出したのを見届けて、クレアが私の横に並ぶ。
「私にまで逃げろなんていいませんよね?」
「えぇ。悪いけど、最後まで付き合って頂戴」
「はい。もちろんです!」
私とクレアはハナビス様と向かい合う。
「もういいかぁ?」
「お待たせしました。その前に一つ、お聞きしてもよろしいですか?」
結界の長針を見上げれば、残り時間は四五分くらいだ。
ハナビス様を相手に、試合終了まで時間稼ぎをするのは現実的じゃない。
予想通りに進んでくれればまだチャンスはあるけど……。
それよりもただ純粋に、ハナビス様がここにいる理由が知りたい、そう思った。
「あぁ。何故俺がここにいるか、だろ?」
「はい。渓流を上り、北に向かったわたくし達が何故、南に来ると思ったのですか?」
「お前、スイフトが試合開始前に言ってたこと、覚えてるか?」
「はて?」
「必ずお前と戦わせてやる、あいつはそう言った。それだけだ」
「いやいやいやいや!? 全然理由になってませんけどぉ!?」
「めんどくせぇ。ま、やり合う時間はたっぷりあるしな、スイフトの考えを教えてやる。
お前らが三人で出場、しかも北に向かったことで奇策に出るのは見え見えだろうがよ。
渓流沿いに上るのはお前らにはきついだろうし、そのさらに奥なんざ森が深くて川もいくつかある。
身動き取りづれぇのはわかりきってるのにも関わらず、そのルートを選ぶ意味は?
さらに、白盾も俺達もお前らが北に行ったのが分かっているから、どっちのチームも人数の少ない銀杯を負って北に向かうのは少し考えりゃわかる。
お前がそんなことに考えが及ばないはずはねぇ。
つまり、普通じゃないことを企んでる可能性が高いってこった。
北に行ったと見せかけて、西や東に行くって可能性もあったけどよ、結界が一度銀色に染まってたからな。北でやりあってきたんだろぉ?」
う~ん、ある意味評価と信頼されていると受け取っておこう。
何より、さすがスイフト様だ。
試合開始からものの数分でそこまでお考えになるとは、まさに知将と呼ぶのに相応しい。
「だとしても、南に一気に移動するというのは非現実的では?」
「今ここにいるお前らがそれを言ってもなぁ?」
「ごもっとも」
「手段についてはスイフトも想像できねぇって言ってたがな。だが、お前らが南に向かう確率は七〇パーセントはあるとも言ってたぜ? んで、北か南、どっちに向かうかは俺にまかせるって言いやがった。
俺はお前らと会えた時によぉ、戦いに邪魔が入らねえこっちを選んで、当たりを引いたってこった。
しかし、まさか空を飛んでくるとはなぁ」
「いい体験をしました。いずれわたくし一人の魔法で空を飛んでみたいです!」
「はっ! そ~かよ。んじゃ、そろそろいいかぁ?」
「嫌だと言っても、聞いてくれないんですよね?」
「クレアはやる気みたいだぜ?」
「ホーリーシールド」
私とハナビス様が話をしている間に詠唱を済ませたクレアが防御の魔法をかけ、光の膜が全身を覆う。
北の森で散開した時は、この光の膜でバレるのを恐れて使用しなかったけど、この状況ではありがたい。
ホーリーシールドは衝撃を極端に吸収してくれる魔法なので、護石に蓄積するダメージも軽減してくれるはず。
護石を守るのにどこまで効果があるかは事前に確認できなかったから不透明ではあるけど。
右手にダガーを逆手に持ち、左手で拳銃の形を作って構えを取る。
ダガーで相手の攻撃を防ぎながら、バレットでダメージを取る作戦だ。
クレアは右手で拳銃の形を作り、左手にはラウンドシールドを構える。
「あぁ? クレア、どういうつもりだ?」
二学期の模擬試合で見せたクレアの光の導によるフェイクバレット、その事を言っているんだろう。
「さぁ、なんのことでしょう?」
「成果は上がったのかぁ?」
「ハナビスさんのご想像にお任せしますよ」
ハナビス様の試すような仕草と声にも全く反応せず、クレアは平然と答える。
「ちっ、相変わらず食えねぇ奴だな」
ハナビス様相手に、後手には回りたくない。
二人が言葉で牽制し合っている内に、私はアクセルの準備を終えていた。
両足に一回ずつ、ヒットアンドアウェイで!
――アクセル!
一気に距離を詰め、逆手に持ったダガーで右から薙ぎ払う。
同時に腕を交差させるように右腕の下から左手をハナビス様に向けてバレットを二発放つ。
アクセルは確かハナビス様には見せたことがなかったはずだ。
にも関わらず、私のダガーはハナビス様のシミターに防がれてしまう。
だけど、さすがにバレットまでは防げないし、避けられない。
「っ! やってくれるじゃねぇか」
さらなるバレットの追撃を嫌がったハナビス様はシミターで私を振り払うように力強く振るう。
それに合わせて、残ったアクセルを利用して元の場所まで一気に戻る。
「またおもしれぇもん使ってんなぁ? お前は本当におもしれぇ」
「女の子に対する褒め言葉ではないですよ? ハナビス様」
「くく。そうだな。お前は本当に、魅力的だぜ」
ゾクリと、背中に悪寒が走った。
「は、はは。セリフと顔が合って、ませんよ?」
ハナビス様の体が薄青く光る。
二学期の模擬試合でアニー様やサラと戦った時に見せた、一気に身体能力が上がる奴だ……。
元々小さかった勝機が、さらに遠のいて行くのを感じる。
速いっ!
そう思うのもつかの間、ハナビス様が動きだして一気にこちらに距離を詰めてくる。
サラが本気を出した時とほとんど変わらないスピードだった。
咄嗟にバレットを放つも、ハナビス様はジグザグに動き、その全てを避けて近づいてくる。
サラとの訓練のおかげで全く反応できないスピードではないけど、すぐに近づかれてしまうだろう。
長時間の接近を許してしまえば、いずれ護石が破壊されるのは目に見えている。
なんとか距離を保ちたいけど、そうはさせてくれそうもない。
ハナビス様と接敵する寸前に、クレアが指先から光の弾を発射した。
が、ハナビス様はそれに何も反応を示さなかった。
結果、クレアの光の弾はハナビス様に命中するがダメージは与えられない。
以前に見せたフェイクバレット、光を操るだけの光の導でしかなかったのだから。
「っ! それなら! お姉様!」
時間を稼げってことね!
ハナビス様はシミターを袈裟斬りに振るおうと目前まで迫っていた。
ダガーで受けるために右手を上げると同時に、先程同じようにバレットを発動させる。
が、ハナビス様は私がダガーで受けようとするのも、バレットで迎撃しようとするのも読み切っていた。
シミターを振り下ろさずに横へ跳び、バレットを避けてからシミターの構えを変え、横なぎに振り払ってきた。
為すすべなく私はその一撃を食らい、せめて後ろへ吹き飛ばされる勢いに乗って自分も跳躍し、距離を空けた。
……強い。
サラやジョルジオ様と訓練する時、攻撃なり防御なりの正解が用意されている。
だからなんとかなることも多いけど、このレベルの強者が本気で戦闘をするとそれがない。
少なくとも、今の私では見つけることができない。
一つだけ朗報があるとすれば、護石へのダメージがなかったこと。
護石にダメージが蓄積すると痛みがフィードバックされると聞いたいたけど、それはなかった。
変わりにあったのは、ホーリーシールドによって軽減された衝撃のみ。
ホーリーシールドはその効果を十分に発揮してくれているのだ。
とは言ってもその効果も風前の灯で、次に一撃を受ければ効果は無くなってしまうだろうけど。
一撃を受けて空いた距離も、今のハナビス様には合ってないようなものだった。
すぐにハナビス様は駆け出し、私との距離を詰めてくる。
そして。
「ぶっ! ぃってぇなぁ?」
その突撃はクレアの光の壁によって阻まれた。
光の壁を私とハナビス様を遮るように、横に大きく設置してくれたのだ。
そんな壁にハナビス様は顔から突っ込んでいった。
まぁ、光の壁や光の縦はホーリーシールドを改良した衝撃を極端に小さくするもので、ダメージは全然与えられていないんだけど、雰囲気で痛いなどとハナビス様はのたまったのだろう
「クレアぁ……。やってくれるじゃねぇか」
「お姉様は私が守ってみせます!」
「くくく。お前も良い女だぜ。二人で俺を楽しませてくれよなぁ!?」
「ハナビス様」
ふと、こんな時にぴったりの言葉が閃いた。
「あぁ?」
「ざまぁ」
ピキッ。
あれ? おかしいな? ピキって音、聞こえなかった?
「ぶっ、ころす!」




