九十四話 アニメで怪盗が逃げる時に使う奴
良い案なんてそう簡単に浮かばないから良い案なのよ!
白盾に追いかけられながら、私は半ギレになった。
こうなったら、泥臭くやってやるんだからっ!
「ウィンドブラスト!」
私が放った詠唱魔法によって、白盾のバディ近くで風の爆発が起こり、衝撃で一人がよろめいた。
ウィンドブラストは風の塊を飛ばし、一定距離進むか、何かに当たると炸裂して周囲に衝撃を与える下位の詠唱魔法だ。
私が放ったウィンドブラストは白盾バディの近くにあった木にぶつかり、木の幹を半分程抉っている。
後ちょっと衝撃を与えればあの木は倒れそう?
そう考え、その木に向かってバレットを二発放つとメリメリという音と共に木が傾き、ズズドゥッという音を立てて倒れる。
狙いは、なるべく大きな音を立てて、黒剣と白盾をここに集めることだ。
いやでも、冷静に考えたら人が集まりすぎたらめっちゃ大変なことにならない!?
逃げるのめっちゃしんどくなりそう!!
……でも、やるしかないっ!
逃げるのに際して、一つだけ意識し続けなければならないことは、南下しないこと。
試合開始直後、私達は北、白盾は東、黒剣は西へ向かった。
今は、白盾も黒剣も多くの生徒が北西に向かってきていることだろう。
そんな中、南へ進んでしまったらそれこそ囲まれて逃げ道が無くなってしまう。
木々が生い茂る中で、戦闘をしながら方向感覚を保つことはかなり神経を使う。
リリオ渓流は山の麓にあるから、がっつり斜面を下らなければ囲まれることはないとは思う。
そうならないように斜面を上るのは、それはそれでツライけどね……。
ツライ思いをしないよう、できるだけその場を動かずに遅滞戦術に努めていると、白盾の後ろから先程の黒剣バディが現れた。
「白盾に襲われてるの! 助けて!」
大きな声で叫ぶと、返事が返ってくる。
「お前! さっきの! よくも騙してくれたな!?」
「あ、バレました?」
そりゃ、戦闘状態が終わって冷静なれば気づいちゃうよね?
とはいえ、私と黒剣で白盾を挟んでいる形になるから、二チームに私が狙われることにはならない。
白盾の後ろに回るようにバレットを放ちながら東へ移動する。
白盾のバディを黒剣と挟み撃ちにしながら、白盾を黒剣からの盾にするように。
が、白盾のバディもそうはさせまいと東へ移動する。
三者の距離が縮まらずに移動していると、新たな白盾バディが東側から姿を現す。
うん、さすがにもう潮時だ。
逃げなきゃなんだけど、他にも白盾のバディが集まってきているだろうし、普通に逃げたのではいずれ囲まれてしまう。
アクセルで一気に走り抜けたいけど、森の中を走るように使えば思いっきり木にぶつかって自爆する未来しか見えない。
あまりやりたくなかったけど、ちょっと無茶を押し通すしかない。
白盾と黒剣から遠ざかるように北側へ移動しつつ、詠唱変化したウィンドブラストを上空へ放つと、ドォンと大きな音を鳴らした。
変化させた内容は空気の塊が炸裂する時に、大きな音を出すというもの。
クレアが大きな音を聞いたら光の導を空に打ち上げてもうらうように決めていたのだ。
両足にアクセルを発動し、クレアからの合図を待つ。
白盾の生徒が近づいて来ていて、複数人で魔法の詠唱まで開始しているのが聞こえた。
少し冷や汗が流れた所で、背の高い木に向かってジャンプする。
アクセルの効果で脅威的な跳躍力を得た私は二本の木を交互に蹴りつけ上へ上へと上がり、三回の跳躍で木々の上空へと抜ける。
視界が開けてすぐ、空中で光が打ち上がっている場所を探すと、それほど遠くない場所で見つけることができた。
ジェットコースターで感じる何とも言えない浮遊感のようなものを感じて落下が始まる。
落下する恐怖を噛み殺しながら、木々のてっぺん辺りまで落ちると、木を蹴って光の発生源に向けて横方向にジャンプをする。
いや、さすがにめっちゃ怖いんだけど!!
でもでも、落下しても最悪護石が壊れるだけで命に別状はないはず!
そう言い聞かせて私は木をさらに二度程蹴って目的地へと向かう。
そしてまた落下。
落下地点にはホーリーウィングを発動させたクレアが待っていた。
「ちゃんとうーけーとーめーてーよー!? 絶対だからねー!?」
「お任せください!」
結構な速度で地面が近づいてくる。
めちゃめちゃ怖い! いやマジでっ!!
夏休みに地面を滑った時よりもよっぽど怖いんだけどぉぉぉおおお!?
大きな翼が両サイドから私をキャッチして、落下の勢いによってクレアと一緒にその場でグルグルと回転くらいした後、ポイっと投げ出される。
そこにはクレアが事前に発動しておいた二重の光の壁が地面に平行に発動してあり、そこそこ優しく、顔面から着地することができた。
「ごばっぷ! 痛ぁ!! っていうかぁああ! 死ぬかと思ったーーーー!」
「お姉様、お疲れ様です。このまま行けますか?」
「うぅーあぁーやるしかないでしょーーー!」
「ボブさん、翼に捕まっていて下さいね。
お姉様、お願いします」
「ちょっと集中するから待っててね。クレアの分は時間かかるから、周囲の警戒を怠らないで」
再度、両足にアクセルを掛ける。
アクセルの発動には随分と慣れて発動時間は短くなってきてるんだけど、今回は今までで一番魔力量を込めなくてはならない。
だから、集中して魔力を練り込む。
両足に発動させたのを確認し、さらに時間をかけてクレアの両足にもアクセルを発動させる。
「いくわよ? 捕まって」
「はい!」
私は中腰になり、クレアも私の肩に手をかけて中腰に。
「クレア、せーのでジャンプよ!!」
「わかりましたっ!」
「「せーのっ」」
腰を少しだけ上げてクレアと密着すると、アクセルが掛かった両足に力を入れて一気に飛び上がる。
「ぐぇっ!!」
我ながら情けないが、カエルがつぶれたような声が出た。
二人分の体重を背中に感じながら、私は先程同じように木々の背を追い越すように思いっきりジャンプする。
木々を追い越すと、クレアは光の翼を目一杯に広げる。
私はなんとか気力を振り絞って光の翼に向かって風魔を放ち、クレアが必至に光の翼の角度を変えて揚力だか浮力だかなんだかを与えて姿勢を安定させる。
安定した後はクレアの腕と光の盾に補助されながら、ボブ様とは反対の翼の上に乗っかった。
「すごい! すごいわ! クレア! 空、飛んでるのよ、私達!」
クレアの光の翼では空を自由に飛ぶことはできない。
けれど、クレアの背中にある大きな翼に風を受けて私達は今、滑空しているのだ!
ちょっと語弊がある気がしないでもないけど、空を飛んでると言っていいでしょ!
目指すは渓流を下って一気に南へ!
ふはははは! さらば白盾! さらば黒剣! 私達は戦線を離脱するぞぉ!!
「は、はい。よかったですね、お姉様……」
気分がハイになっていたけど、クレアの様子を見れば余裕があまりなさそうだ。
ホーリーウィングは翼を出している間はずっと魔力を消費し続けるんだっけ。
それに、二人も翼に乗せた状態で滑空を維持するのはきっと、とっても神経を使うんだろう。
私だけはしゃいでちょっと悪いことしちゃったかな……。
「ごめん、クレアはそれどころじゃないよね。風魔でサポートするから何かあったら言って」
「はい。今の所は、大丈夫です。私は余裕ないですけど、お姉様は景色を楽しんで下さい」
えぇ娘や! この娘、ホンマええ娘やでぇ!!
少しだけその言葉に甘えて、空からの景色を楽しむ。
渓流や森、その先まで見渡せる経験は、この世界では早々ないだろう。
もちろん、クレアの滑空姿勢なんかにも気を配る。
態勢が傾いたら私が風魔を翼に当てて、態勢を維持させる。
滑空はできても飛ぶことができない光の翼は、少しずつ高度を下げていく。
そして、ついには木々の背より低い位置まで下がった。
進路は渓流を下っているので、木に当たってしまうようなことはない。
ゆっくりと下がっていく視界の中で、着陸地点を探す。
広めの河原を見つけた所で、クレアに指示を出す。
「クレア、あっちの方向へ行ってくれる? ボブ様、あの辺りでわたくし達は飛び降りましょう。
クレアは羽を縦に近いくらい傾けて。私が風魔で調整するわ」
「「わかりました」」
目的の場所で私とボブ様が飛び降り、すぐにクレアが翼を傾けてスピードを殺して無事に着地に成功した。
「ふぅ~、お疲れさま! 魔力はお互い随分と消耗しちゃったし、ゆっくり休みましょ。
ここまでくれば、北に集まった両チームと戦闘になることももうないと思うし」
実際、魔力は私もクレアも残りは1/3くらいしか残っていない。
私は連戦に加えて、アクセルに風魔を多用した。
クレアはホーリーウィングをずっと維持していたので、魔力消費が大きかった。
すでに試合時間は二時間を経過しようとしている。
北の戦場からは、どんなに早くても三〇分以上はかかる。
白盾はまだ護石を破壊していないし、しばらくの間は北で本格的な戦闘が行われることだろう。
そして、戦闘が終わってからでは時間的にここまで辿り着くことはできない。
私達が戦闘になることはもうないだろう。
両チームに争わせ、無事に逃げ切ることができたのだ!
「ふふふ。そうですね。お姉様の作戦はすごいですね!」
「いやいや、お主の魔法があればこそじゃよ~」
「えへへ。お姉様こそ~」
きゃっきゃっしながらお互いを褒め合う。
「あ、あの……、僕は一応周囲の偵察に行ってきますね」
何やら気まずかったのか、ボブ様が少し顔を赤くして足早にさって行ってしまった。
その後は、何故かやっぱり持っていたクレアのクッキーを食べながらゆっくりと過ごしていたのだが。
「フローレンシア様! クレアさん! 敵です!」
「はえ!?」
「そんな!?」
「よぉ、フロスト、クレア。会いたかったぜぇ?」
誰もいるはずのないこの場所で、ハナビス様が、森の中からゆっくりと姿を現した。




