九十三話 大丈夫大丈夫! バレないって!
「銀杯がここにいるぞー!」
先制攻撃で仕掛けたウィンドカッターは見事命中し、私の存在に気付いた生徒は大声を上げていた。
私はそれを聞いて、木々の死角を使って逃げ出す。
追撃がないとわかった生徒は魔法を詠唱して空に打ち上げ、自分達のチームに敵の、わたしの居場所を知らせていた。
ふふふ。
良いのかな? そんなことをしたら黒剣にも気づかれちゃうよ?
私は相手を振り切らないようにチラチラと姿を見せながら、東側から西側へと逃げる。
白盾の他の生徒の姿はまだ見えない。
あまり離し過ぎるのもダメだし、近づかせすぎてもダメ。
なかなか塩梅が難しいし、神経を使うね。
ここで私が姿を見せながらちまちまと逃げている理由は、白盾と黒剣を戦わせるためだ。
試合開始時、白盾は東に、黒剣は西の森へとそれぞれ移動をしていた。
白盾が渓流沿いに向かってくるとは思わなかったけど、結果的には悪くない。
白盾をおびき出すために、東側から西側へ移動させればいいという指針ができたのだから。
追ってきている敵から走って逃げつつ、新たな敵を警戒するためにソナーを使いたい……けど使えない。
無詠唱魔法はイメージが大事なので、前後に気を取られているこの状況下では、使い慣れていないソナーの魔法に集中して発動する余裕がない。
風魔は使い慣れているし、バレットは手でイメージを補助しているから反射的に使えるんだけどね。
そんなわけで、後ろの敵ももちろん、新たな敵が現れないか死角の多い森で私は意識を尖らせる。
そんな追いかけっこを続けて息が切れ、泣き言を言いたくなった所で、ようやく西側から敵の気配を感じた。
「白盾がいたわっ! 敵は一人よっ! もう一人は私のバディが押さえ込んでるから、周りこんで!」
黒剣の二人組が見えた途端、私は叫びを上げた。
なんとなく意識して口調も変える。
武闘会は一年生と二年生の混合でチームが作られている。
訓練期間が二週間設けられていたとはいえ、全員と密な訓練ができる程の時間ではない。
だから、しっかりと顔を見られなければすぐにはバレない、と思う……。
戦闘になればそんな余裕もないだろうし、有無を言わせず指示を出すことで思考力を奪えばなんとなる、かも。
「わかった! そっちは奥から逃がさないように牽制してくれ!」
「了解っ!」
私が黒剣と会話を交わしていると、それに白盾も気付いたのだろう。
「おい! バカっ! そいつは銀杯だぞ!? 騙されるな!」
勢いで黒剣を騙しきる! 状況を加速させてゆっくりと思考なんてさせて上げない!
黒剣の目の前に、絶好の餌をちらつかせる!
「ウィンドカッターで牽制しながら裏へ回るわ! 正面はまかせるわ!」
「まかせとけ!」
「お前ら! だからそいつは銀杯だって!」
「ウィンドカッター!」
息が苦しいけどここはなんとか攻撃して、一気に戦闘状態を作り上げてから裏に回らないと!
実際詠唱する余裕なんてないから、詠唱魔法に見せかけたどこでもウィンドカッターを放つ。
「くそがっ!」
見えない風の刃を、私のいる方向から軌道を読んだのか白盾の生徒はうまく避けた。
そのまま逃げられてはたまらないので、立て続けにどこでもウィンドカッターを放って退路を塞ぐように動く。
「くっ!」
白盾の生徒は軌道を読んで避け、時に持っていた盾で防御していた。
そこに、矢が空気を切り裂いて白盾の生徒に命中する。
黒剣バディの一人が、矢を放った姿勢でいるのが視界に入った。
矢の鏃は外されて、先端の木が丸められた物になっているはずだけど、威力はそれなりにある。
護石によってダメージは肩代わりされているものの、フィードバックによる軽い痛みで白盾の生徒は顔を顰める。
「くらえぇ!」
その隙をついてもう一人の黒剣バディが接近し、短じかめの槍を突きだしてそのまま接近戦へともつれ込む。
私は、白盾の護石を破壊しないように護石へのダメージ蓄積量を考えて魔法の発動準備を行う。
護石の破壊を私が奪うためではない。
確実に、黒剣に白盾の護石を破壊させるためだ。
武闘会のルール上、護石を多く破壊することにメリットはない。
ただ、一つ以上破壊しないと参加選手が全員失格になってしまうからどのチームも一つは破壊する必要がある。
ここで私が白盾の護石を破壊してしまうと、第一試合の二の舞になっちゃうのだ。
白盾と黒剣、二試合続けて二つのチームから狙われるなんてことは最悪も最悪だ。
しかも、第二試合は三人しか出場していないので、一人でもやられてしまえば全滅もありうる状況。
だから、ここで黒剣に白盾の護石を破壊してもらって、少しでもリスクを下げておきたい。
このまま逃げるという手もあるけど、確実に護石を破壊してもらいたから援護に徹することにした。
逃げるためのルートは白盾の裏に回ったから一応は安心だしね。
白盾の追ってが来る可能性も十分に高いけれど……。
弓矢の射手は、百発百中とはいかないけれど腕が良かった。
射線の通りにくく、味方が接近戦をしている誤射を警戒しないといけない中でも、命中率は六割くらいだった。
弓矢の威力も申し分なく、護石の破壊は任せて大丈夫だろう。
私がウィンドカッターを一発だけ命中させ、矢が三発当たったのを確認してここを離れることにした。
「わたくしはバディと合流して、追ってが来ないか確認してくるわ! 後は頼むわね!」
黒剣バディの返事も聞かずに私は東へ向かって移動を開始する。
程なくして、先程とは別のバディを発見した。
今回は余裕があったから、ソナーを発動した際に見つけられたのだ。
「黒剣と遭遇しました! あちらでわたくしのバディが足止めをしてくれているんです! 助けて下さい!」
まだ距離がある場所から白盾と思われるバディに声をかけ、来た道を指し示す。
「何!? わかった! 君は大丈夫か!?」
「わたくしは既に魔法と矢を数発受けてしまって、護石が危ないのです……」
「そうか……。なら俺達が助けに向かう! 君は後ろから指示してその場所まで案内してくれ!」
やばばばばっ!? さすがに会話を続けたら絶対バレる!
顔をゆっくり見られてもバレる!
その時、結界が黒に染まって光る。
「ちっ、どうやらやられちまったみたいだな。仕方ない。他のバディと合流しよう。
君もこっちへ来てくれ」
どどどどうしよう……。
「えっとぉ……」
「そういえば君はあまり見覚えがないな。一年生かい?」
「あ、はい!」
「ちょっと待って!! そいつ、銀杯の一年生よ!?」
「なんだと!? 貴様騙したのかっ!!」
「いやいや、ホントに、ホントにあっちに黒剣のバディがいますから!
さっき結界が黒に染まったでしょ? ね? ね?
ちょちょちょ!? 詠唱しないで!?
も~! ごめんなさぁぁあああい!!」
もう聞く耳を持ってくれないようなので、私は急いで逃げ出す。
でも、ただただ逃げるわけにはいかないのよね……。
だって、白盾と黒剣の継続的な戦闘状態をちゃんと作り出せていないもん。
このまま黒剣バディがいた方に誘導したら、黒剣バディにまでバレちゃうだろうしなぁ。
白盾がやっていたように、魔法を空に打上げて人を集めることも考えたけど……。
風属性って合図を出すような魔法って実はないんだよね……。
火、水、土属性なら火の玉だったり、水飛沫だったり、砂を打上げたりできるんだけど、風は打上げた所で風だしさ……。
んんん~、どうしたらいいの!
追ってくる白盾のバディをバレットで牽制しながら、木々に隠れて逃げる。
「なんか食らったぞ!?」
「ロランが言っていたでしょ? きっと無詠唱魔法よ!」
「やっかいな奴だなっ!」
よかった、警戒して一気に距離を詰められずに済みそう。
バレットで近寄らせないようして、早く次の一手を考えなくっちゃ……。




