九十二話 森に駆ける
「お姉様、私達見つかってないですよね?」
渓流を上ってこちらに向かってくる二人組の姿を発見した私とクレアは、すぐに滝裏にあるスペースに隠れた。
「急いでこっちに向かってくる様子もないし、多分大丈夫だと思う。もうちょっと距離が近づいたら、ソナーで向こうの状況を確認してみるわ」
有効距離が約二〇〇メートルくらいなので、視認できてから少し待ってソナーを発動する。
音は発生源からもしばらく振動はし続けるので、少し遠くても叫び声なら拾えるだろう。
「…………うん、焦った感じはないかな」
私達は二人組を視認できたにも関わらず、逆になぜ視認されていないのか。
その理由は、私が最初にソナーを使う前にクレアが発動していた無詠唱魔法で細工をしていたからだ。
何をしたかと言うと、滝つぼを照らす日の光を不自然にならないような角度で水に反射させたのだ。
アレよアレ、光が反射して眩しい! よく見えない! 的な奴。
森側から狙われる可能性が一番高いと考えていたんだけど、念のため渓流沿いから向かってくる可能性も考えて対策しておいて良かった。
完全に私達の姿が見えなかったとは言い切れないけど、その間に隠れて相手が勘違いだったかなと思ってくれていれば上々だ。
とはいえ、安心しきるわけには行かないので、私は数度ソナーを発動して相手の様子を探る。
「クレア、作戦第二段階よ! 光の調整をお願い! 私は引き続きソナーで向こうの様子を探るわ」
「わかりました!」
私はソナーを発動し、クレアは光を放つ魔法を発動する。
「ん~やっぱり、クレアの魔法のおかげで私達には気づいてなさそうね。『だりぃ』って言葉が聞こえたし」
「そうですか。私の魔法がお役に立って良かったです!
でも、このままここにいても本当に大丈夫なんでしょうか?」
遠目なら滝裏のスペースに隠れていても気づかれることはないはず。
だけど、近づかれたらあっさりとバレてしまう。
普通なら。
「大丈夫よ。何度も練習したでしょう?」
「そう、ですね! 魔法も再発動したのであと一〇分は持つでしょうし!」
「おっけー。それじゃ作戦通りに行くわね。私は左側の生徒を狙うから、クレアは右側の生徒の足止めをよろしく。合図は必要?」
「いいえ! お姉様のタイミングに合わせられます!」
ん~頼もしい。
さっき発動したクレアの無詠唱魔法がこの作戦の鍵だ。
再発動させた光の魔法は、滝に対して全反射するように光源を作ってもらったのだ。
全反射は昔中学くらいで勉強した記憶だけはあるのだけど、正直原理はよく覚えていない。
光が入ってくる角度と反射する角度がどうのこうのだった気がする。
よく覚えてない時はどうするかというと、ひたすら実験である。
この二週間で、暇を見つけては反射の実験を行って、角度によってはまだ甘い所はあるけど大体できるようになっていたのだ。
ここに着いてからも何度か試して確認した時は、滝裏に隠れているクレアは見えなくなっていたので、たぶん全反射になっているんだろう、知らんけど。
しかも水面もその影響を受けて、水鏡のように滝の景色を崩しながらも映していた。
ここに来た人はそちらに気をとられて、滝裏にいる私達には注視しないんじゃないかな、楽観的かもだけど。
さてこんな小細工をしてまで私がやりたいことは近づいた人達をやり過ごすのではなく、倒すこと。
滝裏に隠れている都合上、こちらも相手を正確に視認することは難しい。
なので、ソナーを発動して距離を測って不意打ちを行う作戦なのだ。
ソナーを使い、足音の再現時間から距離を測り、十分に近づいた所でソナーではない無詠唱魔法の準備を始める。
使う魔法はバレット・マグナムだ。
夏休みの魔物討伐で、進化したワオーンドッグの体を貫通させた魔法である。
進化した魔物を貫通させる程の威力なので、中位魔法と同等の威力がある。
命中させれば間違いなく護石を破壊できるはずだ。
普通のバレットならすぐに発動できるけど、今回は一撃必殺でなければならない。
バレット・マグナムは長い銃身と風の弾丸を風で作るイメージが必要なので、少し時間がかかる。
指先に風の銃身を発生させ、風の弾丸も装填する。
準備が完了した私は目でクレアに合図し、滝裏から飛び出してバレット・マグナムを発動した。
不意を突かれた生徒は防御することも、避けることもできずにマグナムで撃ち抜かれる。
普通なら体を貫通するような怪我を負うはずだけど、バキッという音がしただけでその生徒は無傷だった。
しかし、体が光ると宙へ浮いてどこかへ飛ばされてしまい、結界が銀色に染まる。
生徒が結界外に出される間に、私はマグナムを発動させた衝撃で後ろによろめくが、クレアが光の盾を背後に発動して支えてくれたので、転んで水浸しになることは防げた。
おぉ、女神よ。あなたの慈悲に感謝します、なんっつってぇ!
無傷な方の生徒は突然の出来事に茫然としている。
クレアはその生徒に向かって光の壁を展開し、こちらへの移動を妨害した後、私の手を引っ張って滝裏から抜け出させ、森へと向かって走りだす。
それからは脱兎の如く逃走である。
「ボブ様に合図を!」
「はい!」
クレアは無詠唱魔法で光を空に打ち上げ、私達の進行方向へと光を進ませる。
白盾や黒剣に私達の存在がバレてしまうリスクはあるものの、森の中で上ばかり気にしてらんないだろうし派手にやらなければ大丈夫でしょ。
「フローレンシア様、クレアさん! こちらです!」
無事、ボブ様が合流してくれ、次の目的地まで案内をして下さる。
随分痩せたとはいえ、やっぱり森の中を走るのってキツイ!
「スピードは落としますけど、ちょっと遠いのでお二人とも頑張って下さい!」
「ぜっ、ぜぇはぁ……ふっ、ふひゅー。わ、わかり、ましたわっ」
ぜぇはぁ言っている私を見かねたのか、ボブ様がスピードを落として下さった。
少し余裕ができたので、横を見ればクレアも息を切らしていたので、私の体重が問題ではなくボブ様が早すぎたのだろうと納得することにした。
いや、これはさすがに納得していいよね!?
しばらく走っていると、ようやく目的地が見えてきた。
結界には時間を確認する長針があり、確認すると試合開始からそろそろ一時間が経とうとしている。
「ふ、ふー。ここから、はぁはぁしばらく、すぅ、攪乱と、ふー、時間稼ぎ、を、しましょう」
「は、はい!」
「やっぱり、僕もですか……?」
「え、えぇ……。ひぃひぃ投石器であれば、ふぅ、距離を保てますから、はぁ、大丈夫なはずですわ」
ボブ様は斥候としては優れていらっしゃるけど、戦闘は苦手のようだ。
ボブ様には距離をとって戦える投石器を使うことを以前に勧めていた。
訓練は事前にされていたし、相手に警戒させるには十分すぎる威力を持っている武器だ。
ちなみに私はダガーを二本持ってきていて、クレアはラウンドシールドという丸盾だけ持っている。
「わ、わかりました……。それにしても、フローレンシア様は大丈夫ですか? 随分と……」
「誰がデブじゃい!」
「い、いえ! そんなこと言っていませんけど!?」
「大丈夫です、お姉様。今は随分とお痩せになってますよ! まずは落ち着いて、その後は散開して時間を稼ぎましょう」
マグナムで一人倒したけど、もう一人の生徒が魔法を空に打上げていたので、両チームとも森の中で私達のことを探しているに違いない。
何人ここに集まってくるか未知数だけど、できるだけ時間を稼いでから次の作戦を実行したい。
ソナーを発動すると、足音らしき物音を捉えた。
「敵があちらの方から来ているわ。ソナーで音を拾ったからそう遠くないはずよ」
私は右手にダガーを構え、左手は拳銃の形にしていつでもバレットを発動できるようにして駆け出す。
「クレアとボブ様は二人で行動して時間稼ぎを。こちらからは仕掛けなくていいからね。
私は一人で攪乱してくるわ」
「お姉様、お気をつけて!」
「フローレンシア様、ご武運を」
木に隠れながら、私は足音がした方へ近づいていく。
試合開始直前に白盾がいた方角なので、さっき倒した生徒も今近づいている生徒もきっと白盾だろう。
もう一度ソナーを発動して、距離と方角を確認する。
相手が射程圏内であることを確信して、バレットではなくあえて詠唱魔法であるウィンドカッターを詠唱し、先制攻撃を仕掛けた。
ク)申し訳ないですが、日曜日は投稿をお休みさせて頂きます。
フ)ビバ! 夏休み!
サ)次回更新は水曜日になります。




