九十話 素敵な友達
私は序盤のエリーゼ様とサファル様の戦いからずっと試合に釘づけ。
エリーゼ様の動きに逐一ハラハラしたし、リズ先輩が入ってからも手に力が入りっぱなしだった。
ジョルジオ様が乱入してきた時はもう色々な意味でドキドキした。
でも、もう勝負の趨勢は決まったと言っていい。
白盾と黒剣が一緒に銀杯を攻めて来た時は少し焦ったけど、エド先輩の魔法と戦術で切り抜けた。
黒い霧の中で発生した二チームの戦闘は、アルヴァン殿下がどうやってか中断したみたいだけど、立て直しに時間がかかったみたい。
三チームとも護石の破壊は達成したし、銀杯の守りは地形を味方に付けているから固い。
余程銀杯に恨みを持っていない限り、残りの三〇分で無茶な攻め方はしないはずだ。
「ちょっえぇ!?」
また二つのチームが銀杯に向かって攻めようとしてますけど……?
エド先輩もあれだけ効果範囲を広げた詠唱変化は普通の中位魔法以上の魔力使っただろうし、もう同じことはできないのでは?
つまり、これってピンチって奴なのでは?
いやいや、残り三〇分くらいだし大丈夫でしょ。
銀杯の後ろにはまだまだ逃げれるスペースもあるし。
大丈夫だよ、ね?
アルヴァン殿下が二チームを指揮しだした。
二チームの士気は高く、人数差を活かした着実な歩みはまさに王道。
銀杯も必死に魔法の弾幕を張って応戦するけど、その距離は徐々に縮まっていく。
銀杯の弾幕の中には中位の魔法も入っていたけど、守りが固く下位や中位の魔法で相殺されてしまい、一撃で護石を破壊することはできていないようだった。
ダメージを受けた生徒達は二チームの後方へと回り、無傷な生徒が前線を維持することでさらに距離を詰めていく。
ついにはエド先輩、リズ先輩、エリーゼ様を中心とした接近戦が始まってしまう。
いくばくかの衝突の後、エド先輩がデバフ魔法で相手を攪乱し、撤退する。
そんな攻防が幾度か続いた後、結界が解除されると光の粒子がキラキラと舞い降りて、試合終了を告げた。
「やりましたね! お姉様!」
「そうね! みんなすごかったわ! それに緊迫したとってもいい試合だった!」
最後までハラハラさせてくれたけど、銀杯は遅滞戦術に徹して誰も護石を破壊されずに済んだ。
教師から最終的な結果が告げられ、失格者は四名となった。
銀杯チームは失格者無しで、破壊数は二つ。
白盾チームは二年生Aクラスのサファル様と二年生Cクラスの方が失格となり、破壊数は一つ。
黒剣チームは二年生Bクラスの助祭志望シーサ様と一年生Cクラスの方が失格となり、破壊数は一つ。
以上のような結果だ。
元々人数の少なかった我らが銀杯は無傷で、二つのチームが二人失格となったので人数をイーブンにすることができたのは大きな戦果だと思う。
教師は最後に、次の第二試合が近くにあるリリオ渓流がフィールドになることを告げて去っていった。
そんな戦果を出したチームメイトを迎えにいくために、試合に出場しなかったメンバー全員でフィールドから出てくる出場者達の所へ向かった。
「みなさんお疲れさまでした!」
クレアが満面の笑みで出場者達を出迎える。
天使かな? っと、おいおい小僧、何ニヤけてやがるんだ。
自分にだけその笑顔が向けられていると思ったら大間違いだからな? 勘違いするなよ!?
シャー! と軽くチームメンバーに牽制だけして、私は固まっている二年生の所へ行く。
「お疲れさまでした。皆さま素晴らしいご活躍でしたわ」
そこにはエド先輩、リズ先輩、エリック様、エリーゼ様がいらっしゃったが、大勝利のはずなのになんだか浮かない表情をしていた。
「フローレンシアちゃん、ごめん。次の試合、銀杯が集中的に狙われることになるかもしれない」
エリック様が苦い顔で私にそう告げた。
あーあんまり考えてなかったけど、最後まで二チームで銀杯を攻めてきたってことはよっぽどヘイト買っちゃったのかな?
「いえ、わたくしのことはお気になさらず結構です。それに、次の試合が渓流なら作戦があります。
そんなことより、今は大きな戦果を喜んでお昼を食べに行きましょう!」
いつもの登校より早い時間の集合と移動、そして三時間の試合でとっくに13時を過ぎているから私のお腹はペコペコなのである。
せっかくの大戦果に水を差すのも嫌だし、楽しくお昼は食べたいよね!
武闘会ではありがたいことに学院が毎日お昼を用意してくれることになっている。
各チームに指定された場所に行くと、第一試合が行われている間に準備されたであろう料理が運ばれていた。
メニューはパンとスープ、サラダにメインのお肉料理である。
スープは鍋毎運ばれているので、その場でよそう形式で暖かい物を食べられる。
パンやお肉料理はさすがに出来立てとはいかず冷めているけど、魔物討伐とかで外で食べる時はもっと質素なので、随分と豪勢な食事だ。
肝心のお味の方は学食を担当している料理人が来ているみたいなので、大変美味しかった。
うむ、ごちそうさまでした。
「それでフローレンシアちゃん、作戦ってどんなものなんだい?」
食事を終え、満腹になった私がお腹をさすさすしているとエリック様が質問をしてきた。
今は試合中に指揮をするエド先輩、エリック様、リータ様、私で第二試合まで作戦会議をしている所だ。
「次の試合なんですけど、最低編成条件である三名で試合に出ようと思います」
「フローレンシアさん!? 聞いてないですよ!? 無理です無理です! 僕絶対無理です!!」
私と一緒に第二試合に出場する予定だったリータ様が慌てふためいた。
昨日の段階ではまだどのフィールドで試合をするかはわからなかったので、残りの八人で出場するのを基本に打ち合わせをしていたんだけど、今の状況とフィールドが渓流なら話は別だ。
「リータ様は出場されないで問題ありませんわ。作戦をご説明します」
私は渓流での作戦を説明する。
エリック様が随分と心配して下さって、否定的な意見もあったけど、最終的に三人の了承を得ることができた。
場所をリリオ渓流へと移し、第二試合が始まろうとしている。
教師に付いて行き、試合フィールドとなる中央へ三チームの部隊が集まった。
白盾と黒剣はフルメンバーの一〇人で出場のようだ。
銀杯の出場メンバーは事前の決めた通り三人。
私、クレア、ボブ様だ。
白盾で注視すべき方はロラン様とモロック様。
ロラン様は婚約していた時に色んなお話しをした。
その中に無詠唱魔法のことや詠唱変化もあって、実際に詠唱変化を使う数少ない学院生になる。
モロック様とは一学期にちょっとしたいざこざがあったけど、無詠唱魔法がなかったら私達が負けていたかもしれない。
ジョルジオ様やハナビス様には及ばない印象なものの、接近戦ではとても強い方だ。
黒剣はハナビス様とスイフト様に要注意。
ハナビス様は言うまでもなく強敵だ。
バレットを使えるようになってから行った模擬試合では勝てたけど、二学期はほとんど試合をしてない。
バディを決める時に見せた体が光る奴を使われたらかなり厳しくなるだろう。
スイフト様は他のAクラスの方々に比べて、魔法は使えないし純粋な戦闘能力は劣る。
けれど、こういった集団での戦いは得意分野で、細かな指示から思い切りのいい判断する頭脳派だ。
チームの力をいつも以上に発揮させてくることだろう。
教師が結界を張る間に、ハナビス様とスイフト様がこちらに歩いてきた。
「よぉフロスト、クレア。お前らが俺と同じ第二試合で嬉しいぜ。
三人で出場ってことぁまたなんか企んでるんだろ? 最後まで俺を楽しませてくれよなぁ?」
「ハナビス様、セリフが三下っぽいですよ?」
「あぁ? 試合前に死にてぇみてぇだなぁ!?」
「ちょ、あぶな、あっ! いだだだだ!?」
つい売り言葉に買い言葉になってしまった私はハナビス様に捕まって頭を捕まれてしまう。
本当に痛いんだってば!
「ハナビスさん! お姉様になんてことするんですかっ! めっですよ! めっ!」
すぐにクレアが止めてくれて、さらにヒールまでかけてくれた。
「うぅ……ハナビス様のいじわるぅ」
「はは。でもさすがに今のはフロストが悪いんじゃない? ハナビスも試合までそのやる気は取っておいてくれ。銀杯が何を企んでるか知らないけど、僕が必ずフロストと戦わせてあげるからさ」
「ちっ、わーったよ。せいぜい白盾にやられねーようにしろよ」
そんなやりとりをしている私達を、ロラン様が冷めた目で見ていることに気付いてしまった。
その目が、なぜだか婚約破棄された時の感情を呼び起こした。
「あっ……あぁ……」
「お姉様! お姉様!?」
「フロスト!?」
「おい、フロスト!」
いつの間にか震えていた体をクレアが抱きしめ、スイフト様とハナビス様が私をのぞき込む。
それに気づいて、私はなんとか平常心に戻ることができた。
「ご、ごめんなさい。何でもないですから……」
「おい、フロスト。あいつを見ておかしくなったな? 何があった?」
ハナビス様が目敏く見ていたらしく、私に詰めるよる。
「えぇっと……元、婚約者、なのです……」
「あぁ!? 元、だぁ? お前があいつを振ったのか?」
「そんなわけないじゃないですか! わたくしが、婚約破棄をされたのです……」
「はっ! 見る目がねーやつだな。こんなおもしれー奴は他にいねーってのによぉ?」
「本当だね。こんなに楽しく商売の話ができる女性なんていないよ」
「そうですよ! お姉様以上に素敵な女性なんて、この世に存在するわけありません!」
「あ、ふふ。あはははは。……ありがとう、三人とも」
視界を滲ませようとしていた目尻を拭う。
もう終わったことを心のどこかで気にしていた自分が馬鹿らしくなる。
今の私には、こんなにも素敵な友達がいるのだから。
フ)主役、久々に登場!
サ)次話からお嬢様とクレアがたっぷり活躍しますのでお楽しみ下さい。




