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八十九話 罠はいくえにも:三人称視点

「ジョルジオ様以外は攻撃しなくていい。中位の魔法は温存しておいて」


 魔法で作った岩の遮蔽物に隠れている部隊員に、エリックは後方から指示を出していた。

 そこには魔力量が極端に少なく、ほとんど魔法が使えないエリーゼと魔法が全く使えないリズもいる。


「ジョルジオ様だけ狙うなんて、フロストに良い所みせたいきゅるりん?」


「ばばばば、ばか姉貴! フローレンシアちゃんは関係ないだろ!?」


「エリックはわかりやすいきゅるりん」


「そ、そんなんじゃない。フローレンシアちゃんとジョルジオ様には負けるわけには行かないんだ。

 少なくとも、逃げるような真似だけは絶対にしたくない。策は弄すけどね」


「エリックの気持ちは知らないけどさ、実際ジョルジオ以外を倒すのは悪手だしね」


 エリックとエリーゼの会話を聞いていたリズが口を挟む。


「なんできゅるりん?」


「魔物討伐でエリーゼが一人で敵を倒しまくったとしたら、魔物は誰を狙う?」


「あーウチきゅるりん。危険な奴とみなされるきゅるりん」


「そう。だから三チームで戦う試合なのに、銀杯だけが狙われる状況になるから倒し過ぎちゃいけない。

 だけど、倒す相手がジョルジオならおつりがくる」


「僕達はすでに白盾と黒剣のメンバーを一人ずつ撃破しているから、下手に刺激するより防衛に徹したほうがいいんだよ。

 白盾と黒剣はまだ誰も撃破していないから、僕らが守りに徹して崩しきれないと考えれば、二つのチームで潰し合ってくれるからね」


 武闘会のルールでは、一つ以上の護石を破壊しないとチーム全員が失格になる。

 そのため、試合終了の時間が迫れば死にもの狂いでどちらかの護石を破壊しようとしてくるだろう。

 下手に恨みを買って死なばもろともと銀杯が戦いに巻き込まれるよりも、他のチーム同士を争わせる方が安全となる目算が高いのだ。


 だが、最初の試合で一番最初に一人やられた恨みは相当に強いのか、ジョルジオ達の進軍はゆっくりではあるが止まることを知らない。

 放たれる魔法は盾で防がれ、時に剣で切り捨てられる。

 このままだといずれ接敵してしまうかもしれない。

 中位の魔法を使うかエリックが思案していると、黒剣の奥から白盾が姿を現した。


 白盾との挟み撃ちを警戒したのか黒剣はゆっくりとぬかるみ地帯から撤退する。

 エリックはほっと一息ついて、各部隊員に休憩を命じた。




「殿下、黒剣が銀杯を攻めているようですが、どうなさいますか?」


「黒剣を後ろから攻撃するような真似はしたくない。彼らが下がるのを待って、俺が休戦の申し出に行こう。

 その後はサファルの仇討ちだ」


「殿下、それはなりません。御自ら行くのは危険すぎます」


「でしたら自分が行きましょう」


 アルヴァンの言葉にマリアンヌが苦言を呈し、ロウェルが提案する。


「ロウェルはジョルジオと交流があったな。よしわかった。ロウェルが黒剣に行ってくれ」


「休戦などせず、黒剣を挟み撃ちにすることはなさらないのですか? 白盾はまだ一人も撃破できていません」


「マリアンヌ、お前は俺にそんな卑怯なことをしろというのか? 正々堂々と戦い、そして勝利することこそが王族の在り方だとは思わないのか?」


「失礼いたしました、殿下。御心のままに」


 甘い、と思う反面でマリアンヌはそこがアルヴァンの良い所だとも考えている。

 夢や理想を追い求めるアルヴァンの姿に、幼い時の自分は惹かれたのだから。




 ロウェルは一人で黒剣陣営へと赴き、休戦交渉を成功させた。

 この成功はロウェルとジョルジオの親交と信頼の深さゆえである。


 軍務に関わる者として親同士に親交があり、彼らもまた幼き頃から切磋琢磨して育ってきた。

 だからこそ、このような状況でも裏切らないと確信をして休戦を結んだのだ。


 ただし、条件付きである。

 条件は二つ。


 一つは白盾、黒剣が協力して銀杯を攻めること。

 もう一つは残り三〇分となった時、休戦状態を破棄することである。


 どちらの条件も、両チームが護石を一つも破壊していないことを考慮してのものだ。

 休戦破棄は銀杯を攻めている途中に裏切られる心配を極力減らすためになる。

 どちらか、もしくは両方のチームとも銀杯の護石を破壊できていなければ、なりふり構っていられない状況となり、裏切る可能性が否定しきれないからだ。


 その懸念を払うため、残り四〇分の時点で一度撤退をして仕切り直しをすることにした。

 その時は、白盾と黒剣の争いが始まることになるだろう。


 一時的に協力することになったとはいえ、即席で作戦など練っている暇はない。

 試合が開始されてから、既に一時間半近くが立っているのだ。

 白盾は左側から、黒剣は右側から十分に距離を取って攻めていくことだけを決めた。


 試合時間も半分経過したことから、両チームはすぐにぬかるんだ草原を進み始める。

 土魔法を使える部隊員は黒剣がジョルジオを含めた二人、白盾は一人しかいなかったため進行速度は遅い。

 それでも、二チームが攻めて来たからか銀杯の魔法弾幕は薄く、順調に進めていった。


「あ~思ったより順調に進んでるね~。これならかなりの数を銀杯から削れるかもね~」


 暢気な口調でアニーが呟く。


「そうだな。順ちょ……いや待て……。順調すぎないか……?」


 ジョルジオはダンジョンアタック以降、エリックの指揮能力に一目置いている。

 エドに関しても、思う所はあるが全体的にかなり能力が高いと評価しているし、尊敬すらしている。

 そんな二人が率いるチーム相手に、順調に事が進むことなどありえるのか?

 そんな疑念が心をじわじわと思考を蝕んでいく。


 それでも、士気が高いチームの歩みを止めることは難しく進むしかなかった。

 魔法の弾幕は薄く、順調にすすみ、ついには銀杯が隠れているだろう岩陰の目前まで近づいた。

 接近戦を持ち込める距離までもう少しという所まで来ることができた。


「ダークミスト (こう)


 そんなジョルジオの考えをあざ笑うかのように、闇属性の下位魔法が発動した。

 ダークミストは対象の周囲を黒い霧のような物で覆い、視界を奪う魔法である。

 通常、範囲は一人か二人を覆う程度の霧なのだが詠唱変化によって効果を広げ、広範囲を闇で覆っていた。


 白盾と黒剣の部隊員達はほぼ全員が視界を奪われる。

 アルヴァンともう一人の少女のみ、ぬかるんだ前線には向かっていなかったためそれを逃れている。

 だが、彼らも黒い霧が発生して中の様子を伺い知ることはできない。


「なんだこれ!? どうなってんだ!?」

「何もみえねぇ!!」

「きゃーっ! 変な所触らないでよ!」


「両チームとも落ち着きなさい! 護石にダメージ反応はないわ! この規模の魔法が長時間効果が続くとは思えません! 敵の攻撃に備え全員防御態勢!」


 自身も状況がわからない中、冷静にマリアンヌは大きく声を上げた。

 Aクラスの実力者かつ、高位の貴族でもあるマリアンヌの言葉に白盾だけでなく、黒剣もそれに従いってなんとかパニックを抑えることができた。

 そして盾を装備している者は構え、その他の者は姿勢を低くして銀杯の攻撃に備える。


「なっ!? 攻撃だ! 横から攻撃されてるぞ!」

「ぐあぁ!?

「どうなってんだ!?」


 緊張の中敵の攻撃に備えていた白盾だが、銀杯がいるはずの前方ではなく、黒剣がいるはずの右方向から白盾の部隊員達は攻撃を受けた。


「黒剣だっ! 黒剣が裏切ったぞ!?」


「なんだと!? お前らが裏切ったんだろう!!」


 黒剣も白盾がいるはずの左方向から攻撃を受けていた。

 マリアンヌやジョルジオが声を上げるが、今度は二つのチームのパニックを抑えることはできなかった。


 敵が近いと考えて武器を周囲に振り回し、味方に当たると相手チームが直接攻撃を仕掛けてきたと勘違いして、さらにパニックは助長される。

 視界が悪いにも関わらず、敵チームがいるだろう方角へ突撃する者すら現れる。


 次第に黒い霧が薄くなり視界を取り戻すと、そこには白盾と黒剣が入り乱れて戦っている姿があった。

 程なくして結界の色が白に変わった。

 白盾が黒剣の護石を破壊したのだ。


 それを見た黒剣は驚き、そして裏切られたという怒りに染まって攻撃を苛烈にしていく。

 そして、今度は結界の色が黒に変わる。


「フレイムピラーっ!!」


 戦闘がさらに激化すると思われたその時、両チームに当たらない位置で中位の魔法であるフレイムピラーという魔法が、大きな火柱が出現させる。


「両チーム攻撃を止めよ! これは銀杯の罠である!」


 後方にいたはずのアルヴァンが前線まで出て、魔法を発動していたのだ。

 アルヴァンの姿と声は王族としての威厳に満ち、試合中でにも拘わらず全員が膝を突き、戦闘を中断した。

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