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死ねない僕と、妹と、魔法街の何か  作者: 二月のやよい
第一章 またも妹が増えました
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 場所は変わらず、中央広場。


 けれど亜斗さんはここにはいません。

 女性はこう言いました。


「二人きりで話がしたい」と。


 それならば、と有理達はここで待つことにし、亜斗さん達の帰りを待っている状態です。かれこれ一時間ほど。

 馴染間なじま細雪さゆきと名乗った女性は、ぼうぜんとしている有理達にこう言いました。


「あの、あなた方は一体――」


 それこそこちらの台詞なのです、と言いたい所でしたが、そこはほら、有理ってば大人ですから。もしもさっきの台詞が正しいとしたら、彼女は亜斗さんの妹さん。

 部外者は有理たちの方なのです。


 けれど、亜斗さんの肉親とはいえ、有理たちのことをどういったものか、言いあぐねていると、


「まあ、友達みたいなものだよ――あなたこそ何者かな?」


 聞きながらも、亜斗さんは肝心の部分には触れません。

 有理は二人を交互に見ています。

 家族が目の前にいるかもしれない。

 そして、ここにいるのはなゆちゃん。どうあがいても本当の意味での家族にはなれないなゆちゃん。

 そんなもの触れられないでしょう、どう頑張ったって。


 けれど。


「私はあなたの妹です。兄さん」


 やっぱりどうにもならないものもあるのです。


「ねえ、まといさん」


 声をかけた先にいるまといさんは、一時間ずっとズリを触っています。まあ、気に入ったのもあるのでしょうが、これはほとんど逃避です。


「んー」


 これほどまでにわかりやすい生返事というのも珍しいですが、一応は反応してくれます。


「亜斗さん、帰ってきませんね」


 周りを見回すと、既に帰ろうとしているお客さんの姿も見えます。

 日は徐々に傾き始め、有理たちが帰るにもそろそろいい頃合い。


「おにいちゃんまだかなあ」


 なゆちゃんは呟きます。

 肉親の登場に気が気でないのではないかと思っていましたが、そんなことはじんもなく、ただ待ちくたびれてしまったみたいです。

 なゆちゃん、心配じゃないんでしょうか。


 有理は――いえ恐らくまといさんも、今、不安がつのるばかりです。

 有理たちはどうなるのでしょうか。どうにかなってしまうのでしょうか。


「楽しいですか、まといさん」


 なおもズリを撫で続けているまといさんに声をかけます。


「んー、そうね。ひんやりしてていい感じ」


 ほぼ無表情でまといさんは答えました。

 触ってみると確かに、ひんやりとしています。

 なでなで、なでなで。


 山の上にいるみたいに、空気が薄い気がします。


 亜斗さんは今頃どんな話をしているのでしょう。こんな時に、自分の能力がもっと便利なものだったらなあ、なんて思ってしまいます。

 それから少しして、亜斗さん達が帰ってきました。


「ごめん、お待たせ」


 こちらの心配をよそに、ずっこけそうになるほどあっけらかんと言う亜斗さん。

 ううん、どうやら杞憂だったようです。多分。

 少し拍子抜けしてしまいますが、ともあれ、何かの区切りがついたのは事実でしょう。


「今日はすみません、皆さんの大切な時間をお取りしてしまって」


 深々と頭を下げる馴染間さん。短く切り揃えられた黒髪がふわっと下がってきます。

 どうやら亜斗さんがある程度説明をしていてくれたようです。


 そのまま、けれど何があったかはどうにも聞きづらく、なあなあな感じで有理たちは動物園をあとにしました。


 馴染間さんは家の方向が同じなようで、途中まで同じ電車に乗っていましたが、お互い話すこともなく、有理たちも何かを話せるような空気ではなく、夕日が照らす車内にガタガタと線路を踏みしめる音だけが響いてきました。


 亜斗さんと馴染間さんは今夜もう一度話すそうです。

 お互い突然なために、必要な話がどれなのかも把握できていないため、だそうです。


 それでも今夜は早すぎる気がするのですが。


 有理はあまり非論理的なことは好きではありません。科学だろうと魔法だろうと、一定の理論にのっとり働いているのが好きです。


 だからこんなことを言うのは――何というか大変不本意なのです。


 けれど、私はその時、根底からこの生活が変わっていってしまうような――つまり、ゆりと、まといさんと、亜斗さんと、なゆちゃんと、四人で楽しく暮らしていく、そんな生活が崩れていく。そんな嫌な予感がしていたのです。


 そしてそれは、また大変不本意なことに当たってしまうのです。残念ですけど。


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