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死ねない僕と、妹と、魔法街の何か  作者: 二月のやよい
第二章 死にたがりとサーカス
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探偵の仕事といえば人捜しでしょう 2

「不安ですか?」


 そんな気持ちを察してか、細雪はそう尋ねてきた。


「まあそうだね。けど、なんでも僕がやってたらなゆたが成長出来ないから」


 仕事を任せるようにしてから、なゆたにも出来ることがどんどん増えてきているので、今までが過保護すぎたのかもしれないと思い始めている。


「そうかもしれないですね。なゆたちゃん、最初に動物園で私が見かけたときよりも楽しそうに見えます」


 建物の方をじっと見据えながら、細雪は少し明るい口調で言った。

 その後、静かになゆたの帰りを待っているとあまり聞こえて欲しくなかった声が建物内から響く。


「おにいちゃああん!!」


 今の感じは……二階からか!


「細雪、後はよろしく!」


「はい!」


 そう言い残し、僕は外に積んである箱を踏み台にして駆け上がり、窓から侵入する。

 なおも聞こえるなゆたの声を頼りに、そちらへ向かう。

 たどり着いたなゆたの元には、写真の男がしゃがみ込んでいた。


「頑張ったね、なゆた」


 そう言って、少し震えているなゆたの頭を撫でる。

 男には、どうやらまだ意識はあるみたいだ。


「こんにちは、あなたのお母さんの言いつけで迎えに来ました。起きてください」


 ぐんにゃりと力の抜けた体を起き上がらせ、なゆたの隣に立たせる。


「それじゃあ、なゆた。もう少ししたら行くから、先に出てて」


 そう言って、近くにあった人が通れそうな窓をたたき割る。下を見ると、その音を聞きつけた細雪がもう駆けつけていた。


「じゃあ、二人落とすから!」


 それを聞いて細雪は頭の上に大きく手で丸を描く。

 まず男を落とし、次になゆたが飛び降りる。二人の体は地面に激突する瞬間、見えないクッションのようなものに受け止められる。


「後で追いつくからー」


 そう言って手を振ると、細雪は小さく頷き、二人を連れて事務所までの道を戻っていった。

 背後から聞こえる物々しい足音と怒声に、僕は振り返る。

 このまま逃げても良かったのだけれど、彼らは諦めたりしないだろうし。

死んでもらうことも考えたけれど、今はいないとは言え、なゆたが絡んだ仕事に死人を出したくはないし。

 試しに誰も殺さないようにこの場をくぐり抜けても良いかもしれない。


 ――違う。もう、僕は仕事で人の命を奪わないと決めたんだ。

 それじゃあ、今後のために頑張ってみようか。

 そう決めたのと同じくして、ドアは蹴破られる。

 いや、この人数で出来るかな?



 その後、僕は細雪達と落ち合い、依頼者の元へ男を届け、こうして事務所までの道を歩いているのである。


「兄さんがお腹に穴を開けてやってきたときは、本当倒れるかと思いましたよ」


 少し語気を強めながら細雪は言った。


「ごめんごめん、そういえば見慣れていないんだっけ」


 なゆた達はあれにこれっぽっちも驚かないので、感覚が鈍ってしまっていた。

 一切誰も殺さないことを決めた僕は、逆に延々殺され続けることにした。

 自分が被害を受けることよりも、全く被害を与えられないことを知った方が諦めさせるには良いと思ったからだ。


「なゆたも頑張ったね」


「うん、なーは泣かなかったよ」


「えらいえらい」


 そう言って僕は彼女の頭を撫でる。

 なゆたの声が聞こえたとき、僕はなゆたが追っ手に周りを囲まれている状況を想像してしまっていたけれど、実際は男を助け出し、ちゃんと自分の安全も確保しているところだった。

 僕にも信じられないくらいの速さで、なゆたは成長している。

 そんなことを考えていると、細雪がぬっと視界に入ってきた。


「兄さん、私も結構な活躍をしたと思います」


 そう言いながら、ずい、と距離を詰めてくる。

 細雪の頭がちょうど僕の視線の高さなので、圧迫感がすごい。


「そ、そうだね。細雪のお陰で見つけられたし、脱出できたのも細雪がいたからだよ」


 いつもなら考えなくてはいけない脱出手段や、情報を集めるための時間が大幅に短縮されたのは全て細雪の働きだ。


「なら、なら兄さん。それだけじゃなく、こう、ご褒美的なものがね」


 そのままぐいぐいと近づいてくる。


「うんと――そうだね、もう少しお給料を上げることも考えないといけない」


 うんうん、と僕が頷くと、細雪の眉が目に見えて下がる。


「そう、いや、じゃなくて……」


 などと言いつつ。


「細雪も頑張ったね。えらいえらい」


 僕は細雪の頭を撫でた。こんな感じで良いのだろうか。


「…………」


 ん、無反応だ。

 間違えたか、そう思いやめようとすると、


「違います、やめちゃ駄目です」


 僕の腕をつかんでそれを阻止してきた。


「うん、なるほど。なるほど」


 細雪はしばらく僕の腕を――少し強引に堪能した。

 好き勝手されている自分の手を見ながらふと思う。

 細雪も立派に僕の妹だった。なのにそれらしいことを何もしてこなかったような気がする。

 そうだなあ。


「今度みんなで何処かへ行こうか」


 細雪と、有理と、僕と、なゆたと、出来るならまといも一緒に。


「何処か、行きたいところある?」


 細雪は僕の手を止め、思案顔をする。


「行きたいところ……そうですね。うーん」


「何でも良いよ。ご飯を食べに行くでも良いし、遊びに行くでも良い。なんなら日帰りで旅行に行くとかでも」


 さすがに旅行はちょっと言い過ぎたかもしれないけれど。


「そりゃあ、兄さんに連れて行って欲しいところはたくさんありますけど……」


 細雪は幾つか列挙する。

 食べに行きたいスイーツショップがある。ウィンドウショッピングも行ってみたい。気になっている博物館がある。テーマパークがある。


「あとは、動物園とか」


 少し悪戯っぽく細雪は言った。

 それには少し複雑な顔をせざるを得ない。


「なゆたは行きたいところある?」


「なーはねー、なーはぁ、今はない」


「そうかそうか」


「うーん、何処か……何処?」


 細雪は未だに悩んでいる。

 選択肢が多すぎるのは、いかに楽しみなものでも良い事とは言えないんだなあ。と思った。


 過ぎたるは及ばざるが如し。


 まあ、今すぐに決める必要もないだろう。さっき言った候補もいつだって行けるところだ。

 事務所に帰ってから有理にも同じ話をした。

 幸いまといの休日とも合わせられる日があったので、ちょうど一週間後に僕たちは出掛けることになった。

 と言っても、何処に行くかも、何をするかも全く決まっていないのだけれど。

 その辺りはおいおいと言うことで

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