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竜を狩る者達  作者: 栗城望
第一章:竜を狩る者達
3/4

参話 少女は竜を狩る

 騒がしくなっている中心に向かうと、そこには一人の少年が組合の職員達によって引きずられていた。両者ともにボロボロになっている。


「あ、イゼルさん。お戻りになられたのですね」

「嗚呼、つい先ほどな。組合長もどうやら捕まったみたいだな」


 職員達に引きずられているこの少年が、ここの組合長である。見た目は十歳ほどに見えるが、実年齢は三十歳を過ぎた立派な成人。

 しかし、見た目に合わせて精神面も十歳ほどの為、組合の職員達もかなり苦労している。


「こんな時間まで仕事をサボられて、こっちは堪ったものじゃありませんよ……」


 普段麗らかな受付さんも、組合長のことになるとかなり怒る。なので、この受付さんが怒っている時には誰も近寄ってはならない、という暗黙の了解すら存在する。

 ただ逃げるだけなら職員達も捕まえるのに苦労しない筈なのだが、無法者の集まりである組合を仕切り、纏めれるような男だ。竜狩りとして、その実力は紛うことなく本物である。


「本当に胃が痛くなりますよ。あ、イゼルさんは明日以降何か予定などはありますか?」

「明日から……特に目立った用事はないな」

「でしたら丁度良かった。実は、竜狩りになったばかりの新人の子がいるのですが……その子に、竜狩りについて色々と教えて欲しいんですよ」


 イゼルは、納得すると二つ返事で了解した。

 いくら竜狩りになったとはいえ、新人に変わりない。なので、予定の空いている竜狩りに、組合から新人への教育が依頼されることがある。

 イゼルも、これまでに二、三人ほど新人教育をしたことがあった。内容は毎回一緒なので、今回も依頼を受けた。


「では、宜しくお願いしますね。場所と時間は、今までと同じですので」

「分かった。それで、今回の新人はどんな奴なんだ」

「実はですね。色々と問題のある子でして……」


 イゼルも薄々勘づいてた通り、何か問題があるようだった。しかし、竜狩りになる者は皆等しく一癖も二癖もあるような者だ。イゼルの教えた者も、一人目は熱血過ぎる男、二人目は何処か頭のネジの可笑しな子、三人目は反抗的な者と毎度苦労している。

 新人教育の期間は、約一ヶ月ある。気長にやるしかないのだ。


「えっと、実は既に二人ほど依頼したのですが……」

「二人ともダメだったと」

「はい……それにその二人は、何故か自信までも失ってしまって」


 イゼルは、今回も大変だとは思いながらも自分の新人だった頃を思いだし、仕方ないと納得した。


「とりあえず、やるだけやってみる。ダメだったら、ロクス辺りにまた頼めばいいだろう」

「はい、お願いします。では、私は組合長の方に行ってきます……」


 こうして、イゼルは新人教育をすることになった。そして、これがイゼルとある少女の出会いとなるのだった。


     ◇


 翌日、イゼルは組合の中で新人の竜狩りを待っていた。今日、受ける依頼は既に手続きを終えたので、新人が来れば直ぐにでも出発が出来る。


「……暇だな。予定の時間まで十分ほどあるが、そろそろ来るか」

「…………」


 イゼルは、気付いていない。かれこれ三十分前から、後ろに一人の少女が立っていることに。やはり、周囲からは不思議がられている。

 職員達も何と言ったらいいのか分からず、ずっと見守る形になっている。


「お、イゼルじゃねーか。その後ろの子は誰だ?」


 ロクスがやって来たらしく、イゼルに声を掛けた。職員や周りの竜狩り達は、「良く言った!」と内心ロクスを誉め称えている。


「……後ろにだと?」


 イゼルは、ようやく後ろを振り返ると、そこには緑髪の小さな女の子が立っていた。無表情で、明らかに人と仲良くするのが嫌いなタイプに見える。


「やっと、こっち見た……」

「君が新人の子か。声を掛けてくれればよかったが」

「……怖かった」


 それはそうだ。無表情で、自分より一メートル近く高い身長の、筋肉だらけの巨体の男に話しかけようなどという勇気を持った人は中々いないだろう。恐怖を感じるのも当然と言える。


「しかし……ムスッとしたお前らが話してる様子はかなりシュールだな。で、この子はどうしたんよ?」

「組合から新人教育の依頼が回ってきた」

「なるほどな。んじゃ、頑張れよ」


 そう言うと、ロクスは立ち去っていった。新人教育は、依頼を受けた者以外は基本的に何も関わらないようにするからだ。


「それじゃあ、軽く自己紹介をするか」

「うん」

「俺は、イゼルと言う」

「わたしはカエデ」

「「…………」」


 二人とも名前を言うだけで、他に何も言うことがないので会話が止まってしまった。この少女もだが、イゼルも無口なほうなので、同じような二人が会話をしてしまうと話すことが特になくなってしまうのだ。

 なので、イゼルは依頼について話すことにした。共通の話題というのは、やはり重要らしい。


「今回受ける依頼だが。君の強さを見るために、地竜ライノルの討伐を行う」


 地竜ライノルとは、レベル壱の草食竜で、草木も生えないような荒野に生息し、基本的に群れで行動をする。見た目は、全身が岩で、角の大きなサイだ。そして、群れで行動する竜には、討伐した数によって報酬が払われる。


「わかった。持ち物とかはある?」

「いや、武器と飲み物ぐらいで充分だ。他は俺が用意している」

「うん。わかった」


 そして、二人は竜を狩りに荒野へと向かった。

 街からはそこまで遠いというわけでも、近いという訳でもない。

 今回、地竜ライノルのいる場所は、街から歩いて二時間ほどのサラム荒野という場所だ。サラム荒野は、草木などは全く生えず、灼熱のような暑さである。水などが、地面に落ちれば、一瞬にして蒸発してしまう。


      ◇


「暑い……」

「我慢だ……もうすぐ地竜も見つかるだろう」

「うん……わかった……でも、暑い」


 二人は、乾燥した荒野をひたすら歩いていた。地竜ライノルを探し始め、一時間ほどになる。

 カエデは、もう既に暑さと歩き疲れたことによって、普段から口数が少ないのが更に静かになっている。たまに話す言葉も「暑い」もしくは「まだ」だ。


「イゼルさんは、どうして竜狩りになったの……」

「唐突だな、そうだな……色々あったからだな」

「そっか」


 色々あった、で片付けてしまうイゼルもイゼルだが、納得してしまったカエデにも問題あるだろう。そのせいで、再び会話が無くなってしまった。

 普段口数が少ない人がペアを組めば、二つのパターンに別れるだろう。一つは、口数が少ない者同士で軽い会話を。二つ目は、ほとんど会話が無くなるか……どちらにせよ、あまり会話しないのだが。


「あ、あれが今回の対象……?」

「そうだな、やっと見つかったか。数は……三頭か」


 二人から一キロほど離れた所に、今回の討伐対象である地竜が三頭いた。地竜は、こちらに気付いておらず、食事している。

 イゼルとしては、さっさと狩ってしまいたいのだが、新人教育ということもあり、そうはいかない。


「一頭誘き寄せるから狩ってみてくれ」

「うん。わかった」


 イゼルは、地竜な気付かれないよう近付くと、三頭の中から一頭の尻尾を引っ張り、連れてきた。誘き寄せるとは一体……。

 地竜ライノルも、自分に何が起きたのか混乱していた。それはそうだろう、食事をしていたら何者かに尻尾を掴まれ引っ張られ、一キロ離れた場所に連れてこられたのだから。


「これを倒してみてくれ。倒し方は自分の判断に任せる」

「うん。わかった。やってみる」


 カエデは、腰から二つの短剣を抜き出すと、地竜に向けて走り出した。地竜も負けじとカエデに突進を仕掛けたが、上手く躱されると同時に脚を斬られてしまった。


『クルルゥ!?』


 それにより、地竜はバランスを崩し、地面に倒れた。脚からは、血が流れるように出ている。


「これでいい?」

「ふむ。実力は申し分ないが、技術的なものか……それと、詰めが甘い」


 そう言うと、イゼルは地竜の首にナイフを突き立て絶命させてしまった。


「詰めが甘い……?」

「嗚呼、倒したからといって油断はするな。絶命させるまで、終わった訳ではない」


 竜の回復力を舐めてはいけない。今回のように斬られた程度ならば、血がいくら出ていようとも三十秒もあれば傷が塞がり、攻撃を仕掛けてくる。それだけ、竜の生命力、治癒力は高いのだ。

 なので、竜は動かなくなり、絶命するまでは警戒を解いてはならない。倒したと勘違いをし、油断したところで殺された竜狩りは数えきれない。


「それと……君の力を否定するわけではないが、君は竜剣に頼りすぎている」

「これに頼りすぎてる……?」

「そうだ。君の竜剣はおそらく風を扱う類いの物だろう、その風で竜を斬った」


 竜剣には、風を巻き起こすものがある。しかし、いくら強い風を起こそうとも、地竜の肌を切り裂くことは困難である。


「それは、君の腕と、竜剣の切れ味のお陰だな。もし、その竜剣を使わなかったらここまで綺麗に切り裂くことは不可能だった筈だ」

「それは……うん。これで私の体を限界まで補助して、攻撃した」


 つまりカエデは、竜に衝突しないように風を起こして回避した。悪いことではないが、それは竜狩りとして正しいこととは言えない。

 竜狩りは、竜を狩る者達だ。その竜狩りが竜の力に頼りすぎることはいいことではない。竜狩りは、己の為に竜狩りとして生きている。竜剣に頼り過ぎれば、自身の成長を妨げ、竜剣が手元に無いときに万全の状態で竜と対峙することが出来ないからである。

 つまり、竜剣があることを自然としてまうのだ。これは誰にでも言えることである、人が何かに頼り依存し過ぎてしまうことは、その人の成長を妨げることもある。


「俺の場合は使うと後々面倒なことになるから使わないが……他の竜狩り達はどうだ。竜剣を乱用しているか?」

「ううん。あんまり使ってない……」

「竜狩り達で、竜に良い感情を持っている者はほぼ居ない。その竜狩りが竜剣を乱用するのは、道理に反するってことだ」


 理不尽な話しのように思えるが、仕方ないことと言える。例えるならば、教師が生徒に自力で答えを求めるように指示するようなものだ。


「今回のように、一対一で戦うときは、基本的に肆以上の竜や厄介な能力を持ったもの以外に竜剣の能力を使うことはない」

「そうなんだ……勉強になった。今まで教えてくれは人の説明は、なんか分からなかった」


 それは……まあ、竜狩りは基本的に脳筋の者ばかりである。頭を使う竜狩りなど、最近の若い竜狩りくらいだろう。

 イゼルの場合は、師匠が物凄い脳筋だった。なので、反面教師的な感じで、イゼルは多少頭を使うようになったのだ。


「それじゃあ、次は俺が手本を見せる」


 イゼルはそう言うと、更にもう一頭の地竜をこの場へと連れてきた。もはや、竜を引き摺る様はとてもシュールな光景だ。


「まずは、竜と対峙する。次に、相手の出方を伺う。最後に、相手に一気に近づき……脚の間接部を的確に斬る!」


 イゼルは、言葉通りに一瞬で近づくと、地竜の間接を大剣によって切りつけた。骨を断つような鈍い音が響き、赤黒い血が噴き出した。そして、イゼルは倒れた地竜の首を叩き切った。


「近くに水場もない、残りの一頭を狩ったら急いで街へ戻って解体してもらうぞ。それと、ただ斬るのではなく、相手の弱点を狙え」

「うん。やるのは私でいい?」

「嗚呼、大体はいま見せた手順でやってみろ。細かいことは徐々に覚えていけばいい、時間はまだ沢山あるからな」

「おー」


 二人は残りの一頭を狩ると、街へと帰路を辿った。言うまでもなく、カエデは残り一頭も教えられた以上に完璧に討伐してみせた。


(いくらなんでも、この時間で三頭しか見つからないのは異常だ……一応組合にも伝えておくか)


     ◇


 二人は、組合に戻り手続きを済まし、報酬を受け取った。三頭討伐したことにより、報酬は900ドラルだった。一頭300ドラルというのは、少々多かったので、受付に理由を聞くと。


「最近、竜の数が安定してないんですよ。種類によっては異常に多かったり、普段多く生息するものが少なかったりと……」

「そういえば、この前のロクスの依頼なんていい例だな。弱い竜なのが、幸いだったが」


 イゼルやロクス以外にも、このようなことが最近頻発している。竜狩りを引退していく者もちらほら見え始めているので、組合も報酬を上げるなどして対応しているのだ。


「とりあえず、こちらのほうでも調査を進めておきますので、どうかイゼルさんは引退しないでください……!」

「心配するな、俺は金目的で竜狩りになった訳じゃない。それに、俺と同じような奴等もそう簡単に辞めたりしないだろ」

「なんか大変だね……」


 カエデが心配するような視線を向けるが、イゼルはそっと頭を撫で安心させた。照れて顔が赤くなることはなく、どちらかというとホッと安心するような表情をしている。

 しかし、その穏やかな空気も束の間、嵐のような男がやって来てしまった。


「あー! イゼルが女の子にセクハラしてるー!」

「な!? そんなつもりは断じてない!」


 声の主は、やはり組合長であった。お調子者である組合長にとって、イゼルは格好の的で、よくからかわれている。しかし、少年のような見た目をしているからか、誰も憎むに憎めないので尚更たちが悪い。


「だれ……」


 若干、カエデは不機嫌になると、この少年が何者か分からないこともあり、疑問を問い掛けた。誰しも至福の時を邪魔されれば不機嫌になるだろう。


「ん? 君は新人の子かな。僕はね~、なんとここの組合長なのだよ!」

「うそ。わたしより小さくて弱そうなお子ちゃまが組合長のわけない」


 カエデも充分お子ちゃまのような体で、か弱い少女に見えるのだが、誰もツッコんだら負けだと、スルーをした。


「嘘じゃないよー。僕はここの組合のリーダーなんだよ。それに、お子ちゃまじゃありません! 歴とした大人です!」

「ん? 歴とした大人ならこんなとこで油を売ってるのは可笑しいですね。組合員集合! 組合長を捕らえますよ! 組合長はまだ仕事が片付いてない筈です!」

「あ、しまった! 君、それじゃあまたね! イゼルもこんないたいけな少女に手を出しちゃ駄目だからね。衛兵に通報しちゃうからね!」


 最後に余計なことを言うと、組合長は何処かへ走り去っていった。受付さんや大勢の組合員は、その後を追っていった。

 イゼルとカエデは、まるで嵐が過ぎ去ったようだと思うのだった……。


「打ち上げでもするか……」

「うん……可愛いお店がいい」

「可愛いお店……そうだな。俺の行き付けのかふぇがあるんだが、どうた?」

「うん、それでいい」


 二人は、とあるカフェへと向かうのたが、その後ろを尾行する二つの影があった。一人は、大剣を背負った金髪の男で、もう一人は細剣を腰に付けた金髪ポニーテールで鎧を着た美女だった。


「落ち着けって……! 気付かれちまうだろ」

「兄さまはそれだから甘いのですわ。見失ったらどうするのです……! やっと、イゼルさまに春がくるかもしれないというのに」

「だからだよ。気付かれて二人の雰囲気ぶち壊したら台無しだろ……!」


 謎の二人が喧嘩をしているうちに、イゼルとカエデはカフェへと向かっているのだが、喧嘩が白熱し見失ってしまうのだった。


     ◇


 イゼルが案内したのは、少しボロッして、年期を感じさせるイゼルには似合わないようなカフェだった。店内にあまり人はおらず、落ち着いた雰囲気をしている。


「ご注文は?」

「わたしは……オレンジジュース」

「俺は、カフェオレで」


 二人は、店の端にあるテーブルに向かい合い座っていた。注文を済ませると、二人は会話をし始めた。


「今日はお疲れ様だった」

「うん、でも勉強になった。ありがとう」

「「……あの、あ」」


 会話がなくなり、いざ話そうとすると被るといった経験は誰しもある筈だ。そして、そうなると益々話しずらくなるという。

 となると、どちらかが話し始めて空気を変えなければならないのだが、普段あまり喋らない二人が話せるわけがなかった。


「もう、焦れったいですわね。とっとと、キスしてしまいなさい、キス……」

「んなこと許されるのは一部の爽やかイケメンだけだろ……イゼルならあれだ、頭ポンポンだろ」


 二人を見失った筈の謎の二人組は、いつの間にか店の中でイゼルたちを観察していた。一人、頭のネジが外れたのがいるが……。

 しかし、さすがにイゼルも視線に気付いたらしく、謎の二人組の元へと歩み寄った。ちなみに、カエデもその後ろをちょこちょこと付いてきている。


「なにしてるんだ……ロクス、リーナ」

「「ええっと……イゼル(さま)の春をみに?」」


 ここまで、馬鹿正直な回答にはイゼルも呆れて何も言えなかった。しかし、少しは隠す気を見せてもいいとおもうのだが。

 この二人だが、ロクスは説明したので省略するが、リーナという女性について説明しよう。この美女リーナは、ロクスの妹で、容姿は金髪ポニーテールで鎧を身に纏い細剣を腰に着けている。見た目の女騎士とは反対にお嬢様口調で、好奇心旺盛で小さなことにも嗅ぎ付けてくるのだ。

 尚、組合長と気が合いそうに見えるのだが、実際はあまり仲良くはない。同族嫌悪というものらしい。


「それで、やっとイゼル様にも春がやって来たようですが、どちらから告ったんですの?」

「俺とこの少女は、そういう関係では断じてない。というか、さすがにこんなに小さな少女に手を出したら牢屋に一直線だ……」

「むう、わたしはこれでも今年で十八になった。立派な成人」


 この国では、十八歳から成人として認められており、煙草を吸うことが出来るようになる。


「俺とロクスの一つ下だったのか。だがしかし……」

「私より一つ年上でしたのね。てっきり、十歳くらいだと思いましたのに……成長ってのは悲しいですわね」


 三人は、思っても深く踏み込もうとはしなかった。デリカシー以前に、顔は真顔のままだが、目が据わっていたからた。


「それに、カエデについてはロクスに説明した筈だが」

「俺だって、こいつにも説明したよ。だけど、偶々組合内でお前等を見掛けてからはこの調子だった訳だよ」

「なッ!? 兄さまだって結構ノリノリでしたわ! デートだか何だと言って!」


 二人は、自分は言い逃れようと、互いに蹴落とそうとしている。兄妹の醜い争いが勃発した。

 しかし、二人を許すほどイゼルとカエデは甘くはなかった。


「いい加減にしろ。他の客たちに迷惑だろう」

「うん。ちょっとうるさかった」

「「はい、ごめんなさい……もうこんなことしないので御勘弁を」」


 さすがに他の客たちの、迷惑だと訴える視線には二人も耐えれなかったようだ。潔く謝ると、二人はイゼルたちの跡をつけていた本当の理由について勝手に話し始めた。


「実はですね。イゼルさまに依頼の協力をと思いまして」

「なぜだ。依頼の協力なんて俺じゃなくてもいい筈だが」

「それについては俺が説明するよ」


 ロクスによると、今回の依頼は地下水路にいる鼠のような見た目をした竜を巣ごと討伐。報酬は、全体で五千ドラルらしい。

 竜の名は、鼠竜ミウスラという。夜行性、体長は十センチほどで、二本の大きな前歯が特徴である。その前歯で、相手に噛みつき毒を流し込む。毒が体内に一滴でも入れば、全身が麻痺し始め、次に意識が朦朧とし、寒気を生じる。最終的には、三十分もしないうちに死に至り、ミウスラはその死体を喰らう。


「依頼は今夜、ミウスラが活動し始めたら。場所は北の地下水路だ」

「了解した。俺は大丈夫だが、カエデは来るのか」

「ううん。わたしは夜はダメ」


 カエデは、夜はおねむらしい。


「それじゃあ、現地集合ってことで。あ、ちゃんと鎧は忘れないようにな」

「当たり前だ。噛まれたりしたら洒落にならんからな」


 ミウスラは、肉に噛みつき毒を体内に流し込むだけの顎の力はあるが、さすがに金属や鉱物を噛み砕くほどではない。なので、ミウスラを狩るときは基本的に鎧などを身に纏う。


「それじゃあ、用件も済んだし俺らは一足先に戻るな。イゼルとカエデちゃんは、ごゆっくり」

「嗚呼、俺はカエデに聞きたいことが一つあったからな」


 ロクスとリーナが店から出ると、イゼルとカエデは席に戻った。そして、イゼルは一つの質問をカエデに問いかけた。

 それは、イゼルが担当する新人に必ず聞いていることだった。一人目は、自分よりも強い存在と戦いたいという闘争心。二人目は、どんなに多くの種類の竜が存在するのかという好奇心。三人目は、家族を竜に奪われた復讐の心。


「君は、なぜ竜狩りになった」

「わたしが竜狩りになった理由。それは……」

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