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竜を狩る者達  作者: 栗城望
第一章:竜を狩る者達
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弐話 仲間は竜を狩る

面白いと思いましたら、ブックマークや感想をよろしくお願いします!

 少年を村まで送り届けたイゼルは、村から立ち去り、街にある組合へと足を運んだ。


 建物内には、奥に受付があり、その横に依頼が貼ってあるボードが設置してある。依頼を受けるには、ボードから依頼を選び、受付で手続きをすればいいだけだ。依頼完了の場合は、依頼を完了させた証を受付まで持っていき、手続きすれば依頼完了だ。


「お、イゼルじゃねーか! その様子だと無事に討伐出来たみたいだな」


 イゼルが受付に行こうとすると、声を横から掛けられた。その声の先には、金髪ロンゲで、イゼルと同じく大剣を背負ったイケメンの男が立っていた。


「嗚呼、指名依頼と言っても、アスガルのレベルが一つ高い程度だったからな。そっちはどうだったんだ、ロクス」


 この金髪ロンゲの名前は、ロクス・エレミルトと言い、イゼルと同期の男だ。イゼルのことを普段から気にかけてくれている、兄のような存在である。

 イゼルは、基本的に誰かとチームを組むことは無いのだが、ロクスとだけは稀にチームを組む。ロクスは、彼の数少ない仲間の一人なのだ。


「俺のほうは鳥竜だったよ。数は多かったが、強さはレベル壱で危険なことは何も無かったさ」

「そうか、それじゃあ受付で依頼を完了させてくる。終わったらまた、依頼を探してくる」

「おう、行ってこいよ。でも、依頼を探すって……たまには体を休めろよ」

「分かってるさ…………善処はする」


 ロクスと一旦別れ、イゼルは依頼完了の手続きの為に受付へと進んだ。


「イゼルさん、今回もご苦労様です。急な指名依頼に対応してもらって組合のスタッフ一同本当に感謝してます」

「構うな、俺はただ竜を殺したかっただけだからな。それに、俺じゃなかったとしても、

 ここの奴らなら喜んで依頼を受ける筈だからな」

「確かにそうですね。でも、何時もイゼルさんには、無茶な依頼をこなして貰ってますから。日頃の感謝も込めてですよ」


 日頃の感謝と言われてしまっては、イゼルも敵わず「それなら、ここは素直に受け取っておく」と押し負けてしまった。

 イゼルは、組合のスタッフにかなり慕われており、初めて会うスタッフでも大抵の者には顔を覚えられている。理由はと云うと、上記の通り組合長からよく無茶な指名依頼を出され、それを必ず完了させるからだ。

 そのためスタッフは、面倒な仕事が増えないので、イゼルにとても感謝しているのだ。


「今回の報酬ですが、元から表記されていた五千ドラルに加え追加報酬で、千ドラル上乗せしておきました」

 ドラルとは、この世界の通貨で、一ドラル=十円くらいの価値である。ちなみに、通常一回の依頼での報酬が約5五百から千ドラルなので、今回の報酬は結構高い部類に入る。

「いいのか?」

「大丈夫ですよ。今回は、他の方の指名依頼が急にイゼルさんに回ってしまった迷惑料などもあるので。それに上乗せの分の報酬は組合長の給料から引いたものなので」

「うん、それなら問題ないな」


 給料を引かれた組合長は、今頃涙目でいることだろう。しかし、イゼルにいつも迷惑を掛けているので、スタッフ達もこれでも甘い方だと思っている。

 組合長は、普段から仕事をサボって遊びに行くような人なので、竜狩り達もかなり迷惑を掛けられている。なぜ、クビにならないかは簡単な話で、組合長が貴族の息子だからだ。

 それに加えて、期限ギリギリで必ず仕事を終わらせるので、辞めるに辞めさせれないのだ。


「うちの組合長には本当に困ったもんだな。まあ、セクハラとかパワハラしないだけでマシだからな……」

「ですね。世の中にはそういう人が沢山居ますから、そう考えると仕事も最後には終わらせますし、マシですね……」


『緊急! 組合長が森に逃亡! 手の空いてるスタッフは至急追跡をしてください! 急げ急げ急げ!』


 組合長は、言ってる傍から仕事をほっぽり出して森に逃げたらしい……。アナウンスの直後にスタッフが、二十人ほど外へ掛けていった。

 一部は馬まで、持ち出している。


「「…………」」

「スタッフも大変だな……」

「お気遣いありがとうございます……」


 イゼルも長引かせては申し訳ないと云うことで、手早く手続きを終わらせると依頼のボードの前で待っているロクスの元へと戻っていった。


「お、終わったみたいだな。面白そうな依頼見つけたんだが、一緒にどうだ?」

「別に構わないが、どんな内容だ?」


 依頼内容を確認してみると、場所は湖で、レベル伍の「水竜クリプトル」と云う水中に生息する竜を討伐するようだ。

 水中戦はあまり得意ではないが、戦えないことはない。それに、ロクスが居るのなら水中戦でも問題がない。


「これなら……まあ、別にいいか。今すぐに行くのか?」

「嗚呼、イゼルさえ良かったら今すぐ行こうぜ」


 受付で手続きを済ませると、イゼル達は特段準備する物も無かったので、すぐに湖へと向かった。

 

     ◇

 

「片道三時間も掛かるとは思わなかったな……」

「嗚呼、さすがに少し疲れたな。今回は、ロクスがメインで戦うんだから討伐前に体力は回復させとけよ」


 今回は、ロクスの所持している大剣が鍵となるので、万全を期してもらわないといけない。レベル伍は、通常二人から三人でパーティーを組んで戦うような相手なので、油断は禁物だ。

  しかし、討伐と言っても今回の場合は、あまり時間は掛からない筈なので、下手に厄介な竜よりは楽な部類だろう。


「水中に潜ったら周囲を警戒しながら詮索するからな。見つけたらいつも通りに、陸に上げるから準備ヨロシク!」

「嗚呼、了解だ」


 簡単に説明すると、ロクスが水竜を陸に引き上げ討伐するという作戦だ。イゼルは、陸に上がった水竜が水中に逃げないよう迅速に対処する、という役割だ。

 そして、ロクスは湖に飛び込んだ。湖の中は、透き通る綺麗な水の中を魚達が自由に泳いでいた。

 周りを見渡すが、近くに水竜はいないらしい。その後、ロクスは周囲を警戒しながら水中を探索し始めた。


 (全然見当たらないな……早く見つけないと風邪引いちまうじゃねぇか。お、あれは……)


 ロクスが見つめる先には、とぐろを巻き静かに眠る水竜の姿があった。水竜の身体は、蛇のような姿をしており、全長は二十メートルほどで、青い鱗に全身が覆われていた。

 陸に引き上げる為に、ロクスは大剣を構えた。ロクスの大剣は、色はメタリックイエローで、中心には雷を模した模様が刻まれている。

 そして、この竜剣は約一分間電気を放つことが出来る。水中で使用するなど自殺行為だが、ロクスは約三年を掛けて竜剣から発せられる電気を操れるようになった。


 (よし、んじゃ行きますか!)


 竜のほうに大剣を向けると、切っ先から電気の縄のようなものが伸び、竜を縛り上げた。

 ロクスは、そのまま陸に向かって泳ぎ、湖から水竜を引きずり出した。感電させて討伐してしまえば簡単なのだが、生憎そこまでの電力を発せられないのだ。


「遅かったから何かあったのかと思ったぞ」

「誰に言ってんだよ、この俺がこの程度の竜に苦戦する訳ないだろ。元相棒をもう少し信用したらどうだ」

「……それもそうだな。っと、そろそろ動くぞ」


 竜剣の効果が切れ、水竜は動き出した。始めは周囲を見渡していたが、状況を理解したのかイゼル達に襲いかかった。


『キャォォォン!』


 イメージとしては、素早さは変わらず、そのまま身体を大きくした蛇のようだ。

 イゼル達は、襲いかかってきた水竜を紙一重で躱し、体勢を立て直すと武器を構えた。


「ここからは、俺様の時間だぜ!」

「さてと、お前はどんな声で泣き叫ぶかな……」

「なぁ……決めゼリフって正直いらないよな」


 ロクスの発言はスルーされるとして、イゼルの決めゼリフはやはり主人公としてはどうなのだろうか……。

 イゼル達は、時間を掛けるのも勿体ないということで、水竜が振り返るより先に大剣で斬りかかった。鱗は、多少硬いが斬れないことはなく、力業で叩き斬った(割ったとも言う)。

 割れた鱗から大量の血液が噴出し、瞬く間にイゼルとロクスは血塗れになった。


『キャォォゥ!?』


 水竜は、突然の痛みに泣き叫ぶと、尾でイゼル達を凪ぎ払った。しかし、イゼル達もこういった攻撃には慣れていた為、受け身をとり適切な対応をしていた。


「さすがに危なかったな……」

「嗚呼、俺も油断していた……そろそろ、使える頃合いか?」

「いや、あと五分は最低でも必要だぜ」


 ロクスの竜剣の能力は、二分の間放電することが出来るが、一度使えば十五分のクールタイムが必要となる。

 その為、連続して使用するにも多少時間を要するのだ。


「待つのも面倒だし、殺っちまうか」

「そうだな、時間が惜しい」


 二人は、ロクスの竜剣が使うのを待てずに、先ほど叩き斬った場所にそのまま斬りかかった。硬いのは鱗だけなので、肉は簡単に斬れてしまった。

 その後も、水竜の血が無くなるのではないかと疑うほど身体中を斬り続けた。斬り終える頃には、水竜の身体はボロボロで、身体中から血液が垂れ流されていた。


『キャォゥ……』


「んじゃ、止めといこうぜ」

「嗚呼、頭は俺が斬る」


 イゼルは脳天に、ロクスは四肢を止めに切り裂いた。すると、水竜は地面に倒れ、命を絶った。


「お疲れ、さすがに疲れたな」

「こんなに時間を掛けるとは思ってなかった」

「てか、お前は何で竜剣の力使わなかったんだよ」

 イゼルは、この戦いで一度も竜剣の能力を使用しなかった。これだけではなく、イゼルはここ暫くは竜剣の能力を使用していない。

「それは……」

「それは?」

「ギルドに注意されたからだ……」

「は?」


 イゼルの竜剣は、竜剣本体に炎を纏わせることが出来る。しかし、手に入れたばかりの頃、森で使用した結果危うく火事になりかけたのだ。

 その時に、ギルドから注意され、森や住宅街での使用を禁止されたのだ。今回は、森の中にある湖での戦闘だった為、使用することが出来なかった。


「お前……」

「それ以上、何も言うな……」


 イゼルは、たまにこういったミスをしてしまう。所謂、ドジなのだ。


「相変わらずだな……」

「こういうのは、治そうと思って治せたら苦労はしない……」


 イゼル達は、水竜の素材を剥ぎ取ると、昼過ぎなので食事の準備をし始めた。今回は、水竜の肉を使ったシチューだ。

 水竜の肉は、柔らかく、舌の上でとろけるような旨さなので、こういったスープ等に使うことが多い。ただ、臭いが強い為、しっかりと下拵えをしなければならない。


「さっさと作って食べるか、イゼルは野菜とか切っといてくれ。俺は肉のほうを担当するから」

「嗚呼、了解した」


 二人は手分けして、作業をし始めた。イゼルは、料理はそこまで上手くないが、ロクスは料理だけはかなりの腕前だ。それ以外は、あまり好ましくないのだが……。


「にしても……また、大きくなったな」

「そうか? あまり気にしてないのだが……」


 イゼルは、かなりの巨体の持ち主で、全身が筋肉の鎧で覆われているなではないかも思えるほどだ。

 ロクスは、それに対し細身で、そこまで筋肉があるように思えない身体をしている。


「最近は、依頼も増えたからな……人参切り終えた」

「おう、サンキュー。確かに、最近は竜の数も増えてきたな、イゼルも気を付けれよ」


 イゼル達は、他愛ない会話をしながらシチューを作り終えると、昼食をとり始めた。

 今回は、水竜の肉を使ったシチューに、サラダとパンというシンプルなメニューだ。


「んじゃ、いただきます」

「いただきます……相変わらず旨いな」

「料理は、俺の見た目に並んでの取り柄だからな」


 堂々と自分の容姿に自信があると云う宣言は中々出来ない筈なのだが、ロクスはイケメンで身長も高いため、同じイケメンで高身長の男しか文句は言えないのだ。

 一方、イゼルは背は高いが、厳つい顔に厳つい身体をしているので、一部層には好まれそうだが、大概は男女共に恐怖を覚える。

 二人並ぶ姿は、端から見ればかなり異様なのだ。


「勿体ないよな、そんなムキムキにならなきゃイゼルも結構モテそうなのによ」

「俺は別に構わない、竜にしか興味ないからな。もし、女に興味が出るとしても同じ竜狩りくらいだろう」

「お前……それは単に戦力的なあれだろ」


 この通り、イゼルは竜バカなので、暇さえあれば竜を狩りに行くような男だ。もし、落とせたのなら浮気はせず、金遣いも荒くない良い物件になりそうだ。あり得ないが……。


「んじゃ、日が暮れない内にとっとと帰りますかね」

「そうだな、夜行性の竜は通常の竜よりも強い」


 二人は食事も終わったので、後片付けを済ませて撤収することにした。

 帰りも同じような道だったが、心なしか行きよりも竜の数が増えていた。しかし、二人は特に気にすることもなく、無視して街へ帰った。


     ◇


「依頼ご苦労様です。受け付け時間終了までギリギリでしたね」

 二人は、始めはのんびり歩いていたのだが、時間がギリギリそうになってきたので、途中からは全力疾走してきた。その為、組合に着く頃には息を切らし、へとへとになっていた。


「嗚呼、ちょっと急いできた……ハァハァッ」

「ちょっと、ってレベルじゃねぇだろ……イゼルよぅ……」


 受付も少し引いていたが、普段からこういった竜狩りは居るので多少は耐性が付いていた。他の竜狩り達も同じように「何時ものことか」っと、済ませているが、街に観光で来た人などは大抵驚いてパニックになる。


「今回の報酬ですが……あの、話しても?」

「嗚呼……構わない……」

「こっちも同じく……」


 本当に大丈夫かと疑いを持ちたくなるが、気を取り直して受付は報酬について話し始めた。


「今回の報酬ですが、通常の報酬千ドラルに加えて、素材などの換金の分も合わせて……二万一千ドラルですね。御確かめください」

「確かに……でも、素材で二万って結構高くないか」

「最近は、水竜を狩れる竜狩りも減ってきてるんですよ……それで、買い取り額も高くなってきてるんです」

「なるほど……最近は、新人も増えてきたみたいだが、量が増えても質がってことか」


 竜狩りは、数ほど増えてはいるのだが、生憎質はそれほどでもない。なので、組合なども手を妬いているのだ。


「まあ、俺達が頑張るしかないか」

「今後ともよろしくお願いします」


 二人は、手続きを終わらせ宿に戻ろうとすると、依頼用の受付が妙に騒がしくなっていた。


「どうする、見てみるか? 俺はこれから女の子狙わないとだからパスな」

「俺は……少し見てくる」

「了解、んじゃな。気を付けろよ」


 二人は別れると、イゼルは騒がしくなっている方へと足を運んだ……。

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