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最高齢勇者パがゆく!

作者: 白猫丸

 とある時空のとある世界。この世を魔王が支配しようとしていた。だが、人類は諦めていなかった。


『魔王あるところに勇者あり』


 古からの伝承の通り、ここに神のお告げを賜りし勇者、賢者、戦士、武道家が現れたのだ。


 人は彼らをこう呼ぶ。


 勇者御一行様、と。




 ***


 鬱蒼とした森の中、大きな声がこだまする。


「はぁあ?もっと大きい声で喋ってくれんかねぇ?」


「だーかーらー、この辺りは魔物が多いから、婆さん達危ないっつってんのっ!」


「はぁあ?」


 狩人の青年は、偶然森の中を行く男女二人ずつの老人四人を目にし、警戒を促していた。

 この森には、狼の魔物や虫の魔物など様々な魔物が生息している。もし万が一出会ってしまえば、こんな老人四人組など一瞬であの世行きである。そうならない為にも青年は言って聞かせているのだが……。


「駄目だー。全く通じねー」


 何度耳元で大声を出そうと、目の前の老婆は全く理解できていない様子。青年はもうどうしていいのか、完全にお手上げ状態だった。


「トメさんや、今日はこの辺りで野宿かねぇ?」


「そろそろ夕方になりそうじゃし、カンさんの言う通り、この辺にしようかねぇ」


 必死に訴える青年の傍ら、男女の老人が野宿の準備に取りかかり始めた。


「ちょっ、何やってんだよ!?こんな場所で野宿するつもりか!?本当に死んじまうぞっ!」


(この人達……何なんだよ。マジで大丈夫か?)


 青年が顔に疲れを滲ませていると、ポンと肩に手が置かれた。


「まぁ疲れた時は梅干しが一番じゃ。ほれ、食ってみぃ?」


 杖を持つ男の老人がタッパーに入った梅干しを差し出してきた。作り物のような白い歯が輝いている。さっきからたまに口をモゴモゴしていたので、その歯は実際作り物なのだろう。


 誰のせいで疲れてると思ってんだよ!と文句を言いたくなったが、そこはぐっと堪え、青年は溜め息まじりに差し出された梅干しを口に放り込む。

 程よい甘味と酸味、塩味、そして、なんとも言えない不思議な味わい。それらが全身に広がり、一日の疲れを急速に分解していくようだ。


「ありがとう、爺さん。こんな旨い梅干し、初めて食ったよ!一気に疲れが吹き飛んだ気分だ」


「それはよかった。……キクさんは耳が遠くてのぉ。最近は少し認知症も入ってきとるんじゃよ」


「……そうなんだ」


 彼らは彼らなりに大変なんだな。青年が楽しげに見える老人達に少し同情し始めたその時、茂みの方からガサガサと音がした。


「しまった、警戒が薄れてた!まさか、魔物か!?」


 茂みの奥から大きな前足が見えた。鋭い爪に漆黒の毛並み。

 青年の顔がみるみる青ざめていく。


「あわわ、な、何でこんな所にフェ、フェンリルが……」


 現れたのは自分の数倍はあろう体躯をもつ漆黒の魔獣。

 目撃例も極わずかな強大な魔物、フェンリルである。


 青年は背後で談笑する老人達を一瞥し、足を震わせながらもついには決意した。


「じ、爺さん達、急いで逃げるんだ!!オレが時間を稼ぐから!……って、婆さん!危ないっ!!」


 逃がす時間を稼ぐ為に囮になろうとしたのだが、いつの間にか耳の遠いキクさんがうっかりフェンリルに近づいていた。


 フェンリルが対峙するキクさんを見下ろす。

 そして、牙を剥き出しにして口を開き、唸りとともに鋭い爪が振り下ろされた!


「お座りぃーーッ!!」


 キクさんが一喝した。

 思わず青年はビクッとした。フェンリルもビクッとした。


「ほれ、お座りせんか」


 まるで子犬に言い聞かせるように、キクさんがフェンリルへ指を振って指示している。

 フェンリルは何かを感じ取ったのか、渋々ながらお座りのポーズをとっていた。


「お前さん、怪我しとるじゃないか。ほれ、これ食え!」


 よく見ると尻尾は途中から千切れており、腹部からも血が流れている。ひどい重症だ。

 何を思ったのか、キクさんはフェンリルに梅干しを与えていた。


「婆さん!フェンリルに梅干しなんか食べさせて大丈夫なのか!?ていうか、そんなもん与えてる場合じゃ……」


「よかよか。この梅干しは何でも治るんよ」


 フェンリルはこの時思った。

 これを食わなければ殺される!

 この婆さんの眼光がそう言っている。


 体力の限界も近かったせいもあり、なすがままにフェンリルは梅干しを口に入れた。

 瞬間、異変が起きた。

 よく分からないが、みるみる力が湧いてくる。傷が塞がっていく。尻尾が再生していく。


 これならあの婆さん達を……食えるっ!


 フェンリルはニヤリと嗤った。

 相手は少し威圧感があるが、自分はフェンリル。

 人間の、しかも年寄りごときに命令されるなどあってなるものか!ついでに空腹の足しにしてやる!


 お座りの姿勢を解き、フェンリルは突然、自慢の牙でキクさんに襲いかかった。


「婆さんっ!!」


 青年の叫びも虚しく、フェンリルの牙がキクさんの首から肩にかけて突き立てられる。


「ガルッ!?ガルルッ!?」


 だが、フェンリルの様子がおかしい。

 信じられないことに、フェンリルの牙はキクさんの皮膚を傷つける事も出来ずにその表面で止まっていた。


「あー、もー、じゃれるなじゃれるな!」


 キクさんはじゃれつく子犬をどかすように、手に持つ杖代わりにしている剣の鞘でフェンリルの横っ面を叩いた。

 瞬間、フェンリルが青年の視界の彼方へ消えていった。


 フェンリルが飛んでいく。木々を薙ぎ倒しながら真横に飛んでいく。摩訶不思議な光景である。


「え?……はあっ!?ナニコレ?」


「犬っころのヤツ、お礼も言わんともうどっか行ってしまったわい!まーったく恩知らずなヤツじゃ」


 頬を膨らませて文句を垂れるキクさん。

 青年は軽くパニックに陥っていた。


「おーい、キクさん、ショウちゃん!野宿の準備ができたぞ!」


 振り返ると、テントが張られていた。

 騒ぎの中、この二人の老人は構わず野宿の準備に勤しんでいたらしい。


「いやいやいや!いろいろオカシイだろっ!?……あ、あんたら、一体何者なんだよ!?普通じゃねぇよ!それにさっきの梅干し。普通梅干しで尻尾は再生しねぇよっ!」


 震える声で青年は問いかけた。

 すると、ショウちゃんと呼ばれた梅干しの老人が口を開いた。


「ん?あぁ、ありゃエリクサー漬けじゃもん」


「ぶふぉっ!!な、エリクサー!?」


 エリクサー。それは神の秘薬。あらゆる致命傷もたちどころに治るという霊薬。そんな稀少な霊薬にもかかわらず、彼らにとっては単なる梅干しの味を引き立たせる調味料でしかないというのだろうか!?


「そういえば自己紹介がまだだったかのぉ?ワシはショウゾウ。賢者じゃ!」


 ショウゾウさんは長い白髪を後ろに払い、木の枝のような杖をついて言った。


「賢者……賢者っ!?」


「わたしゃ、武道家のトメさんじゃ」


「オレは戦士をしてるカンキチだ!」


 冗談にも聞こえる自己紹介。しかし、彼らの雰囲気から冗談ではないように思える。

 それにしても、賢者、武道家、戦士……本当にそうだとして、こんな高齢者が旅をして大丈夫なのだろうか?

 特に武道家なんて骨折しそうであるし、戦士に至っては剣や盾すら持てるかどうか……。


「じ、じゃあ、最後のキクさんは?」


 キクさんは一見してただの婆さんにしか見えない。だが、彼ら同様、何かしらの職業があるに違いなかった。

 賢者ショウゾウが笑った。


「彼女は勇者。勇者キクじゃよ!」


「ゆ、勇者ーーっ!?」


 青年は腰が抜ける想いだった。

 勇者は魔王が現れた時に選ばれる世界で唯一の英雄。憧れの的であり、希望の象徴なのだ。

 そして、勇者と共に旅する仲間達。それは勇者同様、神に選ばれし者達と言われている。

 すなわち、彼らの正体は──


「我ら、勇者パーティーじゃ!なあ、キクさんや!!」


 意気揚々とした賢者ショウゾウの呼び掛けに、勇者キクが振り返った。


「はぁあ??」


 耳に手を当てて聞き返す勇者。杖代わりの剣の鞘には紛れもない勇者の紋章が存在していた。

 戦士カンさんと武道家トメさんは慣れた手つきで入れ歯の手入れをしている。


 その姿を見た青年は空を見上げた。

 どんよりとした灰色の雲が空を覆っている。


「やべぇ。世界終わったかも……」


 今、世界は史上最高齢の勇者パーティーにその身を委ねていた。




 ……つづく?


試作品ですが、もしよろしければご意見、ご感想等頂けるとありがたいです!

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[良い点]  転生、転移などのなろう系特有の努力せずに得ることが出来たチートではなく、長年の冒険で培った経験値が彼らのチートというのは、とても面白い着眼点だと感じました。    短編でありながら、彼ら…
[良い点] 最高齢で魔王討伐。 書き方、工夫、アイディア次第で化けると思います。 [気になる点] 思いついたアイディアで書いてみた、という雰囲気を感じました。 戦闘の表現、掛け合いなどが少し雑で、もう…
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