1頁
耳からは鈴の音色、目からはカラフルな光…やはり、今年もか…。
世の中がクリスマスを祝い、子供達が待ち焦がれるその日は、 俺、白村伊吹の誕生日であり、忘れ去りたい陰鬱な記念日でもある。
それは、この日になると必ず悲惨な事件を思い出してしまう日だからだ。
伊吹は、ポケットから煙草を取り出すと、マンションの3階部屋からガラス戸を開けてベランダに出た。
それは、冷静さを保つ為の努力であり、無駄な抵抗でもある。
今年の冬は寒くなるとテレビで言っていたが、ホワイトクリスマスになる予報ともあって窓ガラスはキンキンに冷えていた。
外に出た途端、凍てつく風が体全体を通り過ぎていく。その冷気は自分の想像を超えた冷たさで、あの時の記憶を回想させる。
カメラのフラッシュの様に、脳裏に映写される記憶を伊吹は額を抑えながら拒む。
よろめく体をたもちながら、サンダルを履いて手摺に体をあずけると、伊吹は、タバコに火をつけて白い息と共に煙を吐き出す。
煙は、部屋の明かりでライトアップされ、目立った白さのまま形を崩さず、暗い夜空に飲み込まれていく。
徐々に消え逝く煙を最後まで見つめていると、空から白い物が舞い返って来た…。部屋の明かりに照らされたキラキラ光る物。
『雪…』
伊吹は反射的に手を伸ばし雪の感触、匂いを嗅ぎながら呟いた。
『あの日の事を嫌でも思い出せと言うのか…夕花さん…』
伊吹は、寒さで少し顔を強張らせながら眉間に皺を寄せ口元に力が入る。そして沈黙を破る様に角張った強い声で発した。
『白色花村での惨劇を…』
その吐き出す言葉は、頭蓋骨に共振しながら脳内の記憶を呼び覚ましていった。