おねしょ。モルグ
河川と河川とに挟まれた大きな三角州には警察署と留置所があって、警察署の地下には地域一帯のいわくつきのしかばねをうけたまわるモルグ(死体安置所)があった。
そこに勤めるのは、事務員を除くとニコチ博士と検視解剖医のタル氏、ふたりだけだった。
なんせ地域一帯から不自然に死んだものや身元不明の死体が日々やってくるから、ふたりは休まるヒマがなかった。
来る日も来る日もしかばねに刃をいれ、また縫いなおし、防腐処理をする。
そんな仕事に追われる日々に、ふたりはいつからかおもしろさがなくなっていった。
すると、あるときから、どちらともなく、ある遊びを提案して、双方了解した。いつの時代も死体には一定の需要があって、それがあとくされのない身元不明となればなおさらだった。
身元不明の死体は、解剖からしばらく日数が経つと、大学へ引き取られることになっていた。献体というやつだ。
ある遊びを思いついてからすこしのち、ふたりに絶好の機会がおとずれた。そのチャンスを逃さず、このダーティワークの最中についぞかんじたことのない高揚感に満たされながら、ふたりは献体の順番が回ってきたふたつの身元不明死体の首を切り離し、それぞれ違う胴体にくっつけた。ふたつの死体は、よくよく背格好が似かよっていたのだ。
「このふたつはともに首をつりましてな。とはいえ生前まったく関係のなかっただろうふたりですが。なに、よくあることですよ。さいきんはとくに」
両氏はニコリと愛想笑いをして、引き渡しの者に頭と胴体が入れ代わった死体をわたした。
ふたりの秘密の遊びはまったくあやしまれることがなかった。安置期間のおわった身元不明の死体をいぶかしむ趣味のあるやつなんていなかったし、両氏はそれまでずっと淡々とまじめに仕事をしてきた。たまにふたりがそういう遊びをしたとしても、誰も気がつかなかった。また、死体をいじるプロの手際に手ぬかりはなかった。
それはそれで、両氏はまたおもしろくなかった。
いまでは毎日のように遊びにこうじるようになった。遊びもだんだんとその技量があがっていった。ときには10体ぐらいの死体をバラバラにして、それぞれにくっつけたりもした。
「めずらしいでしょ。半陰陽ですよ。両生具有です」
「左右のひとみの色が違いますでしょ。オッドアイです」
「顔がくだけていたのでね。縫いあとはのこってしまいますが、どうです、もとは絶世の美男子でしょう? 美女もおりますがね」
「こちらはね、わたしたちもとっておきたかったんだがしょうがない。決まりだから払い下げしますけどもね。この男の膝には顔がある。人面疽というやつですな」
そうした危険をおかすスリルを味わうよろこびに両氏はとりつかれていった。
それでも両氏の遊びは日の目を見ることがなかった。スリルとは矛盾するが、ちょっと体を切り裂いたぐらいでは判別できないほどふたりの技量は冴えをみせていた。
ある日、やはり遊びに興じていたふたりのもとに、めずらしく刑事がやってきた。
今日献体に出される身元不明死体の身元がわかりそうで、それが確認できればとある迷宮入り事件の真相がわかるという。
両氏は慌てふためくも、なんとかとりつくろって時間を稼ぎ、急いでバラした死体の修復に励んだ。
その手際は完璧だった。いまではふたりの技量は、縫いあとすら残さないほど高まり、そして信じられぬほど迅速で、あざやかだった。バラバラになっていた死体はすぐに一体の、もとの人間にもどった。
「えらく時間がかかりましたね」
「すみませんね。こちらとしても様々な手続きや、処理をほどこさないとならない決まりで」
「ええ、わかりますよ。お役所仕事ってやつはものごとをすみやかに運ばせませんから」
「ははっ。そういってもらえると助かりますな。では、こちらが例の遺体です」
「おお。顔はまさしく探していた奴当人だ」
「それはそれは。よかったですな」
「とはいえ顔だけではなんともいえない。歯型や治療痕などはどうです?」
「それはこちらの書面に」
「なるほど、ふむ、やはりヤクザもの、小指がかけているようですな」
両氏は刑事の言葉を聞いてぎくりとした。
「どれ、たしかめてみましょう」
刑事が死体袋をあけて、手をみると、死体の両手の指はそっくり10本あった。




