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おねしょ。悪魔

からっ風が吹く冬の始まり、男は枯れ木を集めに森にはいった。

この男にはある癖があった。森にはいってちょっとひと仕事したあと、すこし奥にいって、そこで大便をするのだ。

その日も男は大便をするべく、森の奥に、毎回違う場所へ、はいっていった。

森で大便をするためのマナーを、近くで生活している男は心得ている。男は手持ちのスコップで枯葉の積もった地面を掘り返して、簡易トイレをつくる。

あとひと差し、というところで、スコップの先がかちゃんと音を立てた。

石の手ごたえ耳触りとはちがうといぶかしんだ男が、その音の先を掘り返してみると、土のなかからひとの頭ぐらいのおおきさのツボがでてきた。

男は、便意もあいまって、そのツボがなんなのか価値があるのかどうこうよりまっさきに、そのツボのなかに大便をだしてまた埋めてやろうとおもった。

ツボはヒモでくくられ、フタがされていた。男がそれをほどくと、ツボのフタはかってに外れ、ツボのなかからケムリがでた。

おどろいた男がツボからはなれると、ツボのなかから悪魔がでてきた。

「やっと外にでられた。おや、おまえがわたしを解き放ってくれたようだね」

男はあんぐりと口を開けたまま、悪魔のことばをきいていた。

「よろしい。わたしはいまとても気分がいい。なんせこのツボに封印されてどれほどの時が経ったことか。どうだ。いまならおまえの願いを叶えてやるぞ」

男はやっと口をきいた。

「チェンジ」

「え?」

「おまえの悪魔らしいカッコが気にいらない。自信満々だしサービス悪そう。チェンジ」

「そんなこと言われても、このツボにはわたししかおらん」

「ちっ、つかえねえ」

「あ?」

「あ、いえ、なんでもない。おまえは、悪魔なのか?」

「いかにも。どうだ、どんな願いも叶えてやるぞ」

「はあ、ではそうですね。ひとつお願いしします」

「ああ」

「その前に、わたしさっきから大便をしたくてですね。漏れそうなんですが」

「それがどうした」

「ちょっとそのツボに用を足していいですか?」

「それはかまわん」

「では………あの」

「なんだ」

「見ないでくださいよ。そんな趣味はありません。あなたが美人の女なら話は別ですけど」

「なんだ? 美女が欲しいのか? ならば」

「そういうことじゃねえよ。邪魔だっつってんだよ。わかれよ」

「すまん。といっても、わたしはまだそのツボからはなれられん。誰かの願いをひとつ叶えないと自由になれない、そういう封印なのだ。先に願いを言えばよい」

「あ? そんなこと言われても便意が差し迫ってる状況でいったいどんな願いを考えられるというのか」

「不自由なものだな人間は」

「おまえどっか隠れられないの?」

「無理だ。ツボからははなれられん」

「そうか。じゃあせめてツボのなかにはいっていてくれないか? それでまた封印される道理はあるまい」

「いいだろう。はやくすませるのだぞ」

しゅるりと悪魔がツボに戻ると、男は急いでズボンをぬぎ、飛び上がるようにしてパンツを脱ぎ、その余勢をかっていっきに脱糞した。男の大便は、即座にツボを満たすにはじゅうぶんな量と質だった。

ことが終われば、そこはしずかな森のなか、ツボのなかにいるはずの悪魔はうんともすんともいわない。

男は肛門にあてがった枯葉に残存物のかけらもつかない稀に見る快便に満足した。

そのまま男は悪魔のことなど忘れ、ツボにフタをし、ヒモを締め直し、ていねいに埋めなおし、残りの仕事に取りかかった。

ひとたび男が玄関を出れば、そこには7人の敵がいると世にいう。

迫りくる便意、不条理に出現する悪魔、差し迫っている状況を顧みない無慈悲な問答、思考が麻痺するなかでせまられる選択、はじめから美女の姿で登場しないサービスのわるい悪魔、何事をも圧倒する便意、快便への底知れぬ希求、それらを万事うまくこなせて、はじめて男は大人になるのだ。



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